ビリャダンゴスのアルゼンチンのギター音楽集
2008.10.25 Saturday
以前、アルゼンチンのギタリスト、ビクトル・ビリャダンゴスの弾く「アルゼンチンのギター音楽集第1集」というディスクを、珠玉の小品というカテゴリーの中で取り上げました。そのディスクに収められたプホールの「ミロンガ」という曲がとても気に入ったからです。
・アルゼンチンのギター音楽第1集
ビクトル・ビリャダンゴス(G) (Naxos)
→詳細はコチラ(HMV/Tower/Amazon)
<<曲目>>
・M.D.プホール:ラプラタの3つの小品/銀の組曲 第1番
・サウル:サン・ジョルジュの遊歩道
・アヤラ:南米組曲 (セリエ・アメリカーナ)
・グァスタビーノ:ギター・ソナタ 第1番
・ファルー:3つの小品
・エインセ:呼応
---
その時のエントリーでも書きましたが、このディスク、全編本当にきれいな曲ばかりで私のとびきりのお気に入りになっています。今年の「夏の思い出」と、ビリャダンゴスの弾くプホールやアラヤの曲の響きが分かちがたく結びついています。
ビリャダンゴスには、Naxosから他に数点CDが出ていますが、私はそのうち2枚を聴くことができました。
・アルゼンチンのギター音楽第2集
ビクトル・ビリャダンゴス(G) (Naxos)
→詳細はコチラ(HMV/Tower/Amazon)
<<曲目>>
・シネシ:あの頃の音/反対の潮流/開かれた空
・モスカルディーニ:ドニャ・カルメン(南米のワルツ)
・プホール:あるタンゴ弾きへの哀歌
・ナタリ:甘いマテ茶/熱いマテ茶
・ビリャダンゴス:自由な時/トゥクトゥーター
・フェレール:エル・フェリーペ(ガト)
・コロネル:アルゼンチンの有名な伝説
・サンティリャ−ン:練習曲 第4番 「悪い暮らし向き」
・グァスタビーノ:ギター・ソナタ 第3番
---
まず最初は、前述の「アルゼンチンのギター音楽集」に続く第2集。ここでも、第1集に引き続き、プホールの「あるタンゴ弾きへの哀歌」、そして目下の私のお気に入りの作曲家グァスタビーノのギター・ソナタ第3番が収められているのが嬉しい。ただ、ビリャダンゴス自身の曲を含め、あとはまったく知らない作曲家の知らない作品ばかり。
私は、このアルバム、第1集に収められた曲のような哀愁を帯びた美しい調子の曲を期待して聴いたのですが、こちらはもっとカラッとして明るい調子の曲が多いです。
例えば、Ottavaでも時々オンエアされているシネシの「あの頃の音」など、ポップ・ミュージックのような軽快なリズムと爽やかなコード進行が耳に心地よく、晴れ渡った空を想起させるような音楽で好感が持てます。
プホールの「あるタンゴ弾きへの哀歌」は、ピアソラ追悼のために書かれた曲で(村治香織のデビューアルバムで知ってました)、ビリャダンゴスは持てる技巧を鮮やかに発揮しながら、少し苦み走ったピアソラへのオマージュを見事に弾き切っています。「憂鬱な気分で」と名づけられた第2曲の美しさは絶品です。
グァスタビーノのソナタも、端整なフォルムと適度に湿り気を帯びた美しい旋律がとても印象的でした。
しかし、その他の曲は、どれもなかなかに好印象の曲ばかりのですが、第1集で聴けた珠玉の作品たちのように心に迫ってくるものはあまりなく、ちょっと拍子抜け。「2匹目のドジョウ」はいないのかなあなどと思ってしまいました。
そんな時、行きつけの音盤屋さんで、ずっと探していたビリャダンゴスのアルバムが売られているのを見つけ、即購入しました。そのアルバム名は、「アルゼンチンのタンゴ」。
・アルゼンチンのタンゴ
ビクトル・ビリャダンゴス(G) (Naxos)
→詳細はコチラ(HMV/Tower/Amazon)
<<曲目>>
・ブラスケス:凧が飛ぶ夢
・モスカルディーニ:決闘のミロンガ/ティリンゴたちのために
・ピアソラ:
最後のグレーラ/リベルタンゴ/アディオス・ノニーノ/ブエノスアイレス午前零時
ハシント・チクラーナ/勝利
・ガルデル:想いのとどく日/帰還
・モレス:ミリタリー・タップ
・フリアン・プラサ:メランコリコ/ノスタルヒコ
・トロイロ:南(スール)
・コセンティーノ:ラ・レコレータ
・ラウレンス:わが愛のミロンガ
・ビターレ:ミロンガ・デル71
---
ピアソラの「リベルタンゴ」「アディオス・ノニーノ」「ブエノス・アイレス午前零時」など、私でも知っているような有名な曲の他、様々な作曲家のタンゴが18曲収められています。これは、どの曲もおしなべて「アルゼンチンのギター音楽第1集」と同じように胸に迫る曲のオンパレード。演奏も、彼の変幻自在の多彩な音色を存分に楽しめるもので、既に私のお気に入りのディスクの仲間入りをしています。
その中で特に気に入っているのは、カルロス・ガルデルの「いつか想いが届く日」。これは本当にため息が出るほど美しい。元は歌詞のついた「歌」なのですが、ビリャダンゴスは、ギターという楽器から何と豊かな「歌」を聴かせてくれることか!憧れの異性を思ってはるか遠くの空を眺めながら恋焦がれている、そんな胸がキュンとするような風景を、そう、もう長いこと忘れてしまった「恋」の感情を思い出させてくれます。この曲のタイトルの英訳は"The day you love me"ですが、なかなかいい和訳だなあと思います。
あとは、トロイロの「南(スール)」、コセンティーノの「ラ・レコレータ」という曲が、甘党の私にはたまらない魅力を持った音楽で特に気に入っています。
また、ピアソラの音楽は、やはり独自の高みに達した音楽であることを痛感します。「最後のグレーラ」、「アディオス・ノニーノ」なんて、ほんとに心に沁みる曲です。
個人的には「名盤!」と呼びたくなるいいアルバムだと思います。
Naxosのギターコレクション、沢山聴いたわけではありませんが、この他に聴いたもののレベルの高さを考えると、HMVのレビューでどなたか書かれていたようにまさに「宝の山」なのだろうと思います。これから、バリオスやラウロなどの作品にも手を伸ばしてみたいと思っていますし、新人ギタリストのシリーズも聴きたいです。
私は、ギターに関しては本当に最近聴き始めた初心者で、セゴビアもイェペスもブリームもセルシェルも聴いたことがないのですが、でも、今まで聴いたデヴァインやクラフト、ガルシアといった人と比べると、このビリャダンゴスという人は、Naxosのギター奏者陣の中でも技術も音楽性も一頭地抜けたものを持った人なのではないかと思います。
できることなら、ビリャダンゴスのナマを、小さいホールでPAなしで聴いてみたいと思います。私はこれまで、ギターのリサイタルというものに出かけたことがありませんので、尚更、彼のようないい演奏家を最初に聴きたいと思います。
・アルゼンチンのギター音楽第1集
ビクトル・ビリャダンゴス(G) (Naxos)
→詳細はコチラ(HMV/Tower/Amazon)
<<曲目>>
・M.D.プホール:ラプラタの3つの小品/銀の組曲 第1番
・サウル:サン・ジョルジュの遊歩道
・アヤラ:南米組曲 (セリエ・アメリカーナ)
・グァスタビーノ:ギター・ソナタ 第1番
・ファルー:3つの小品
・エインセ:呼応
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その時のエントリーでも書きましたが、このディスク、全編本当にきれいな曲ばかりで私のとびきりのお気に入りになっています。今年の「夏の思い出」と、ビリャダンゴスの弾くプホールやアラヤの曲の響きが分かちがたく結びついています。
ビリャダンゴスには、Naxosから他に数点CDが出ていますが、私はそのうち2枚を聴くことができました。
・アルゼンチンのギター音楽第2集
ビクトル・ビリャダンゴス(G) (Naxos)
→詳細はコチラ(HMV/Tower/Amazon)
<<曲目>>
・シネシ:あの頃の音/反対の潮流/開かれた空
・モスカルディーニ:ドニャ・カルメン(南米のワルツ)
・プホール:あるタンゴ弾きへの哀歌
・ナタリ:甘いマテ茶/熱いマテ茶
・ビリャダンゴス:自由な時/トゥクトゥーター
・フェレール:エル・フェリーペ(ガト)
・コロネル:アルゼンチンの有名な伝説
・サンティリャ−ン:練習曲 第4番 「悪い暮らし向き」
・グァスタビーノ:ギター・ソナタ 第3番
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まず最初は、前述の「アルゼンチンのギター音楽集」に続く第2集。ここでも、第1集に引き続き、プホールの「あるタンゴ弾きへの哀歌」、そして目下の私のお気に入りの作曲家グァスタビーノのギター・ソナタ第3番が収められているのが嬉しい。ただ、ビリャダンゴス自身の曲を含め、あとはまったく知らない作曲家の知らない作品ばかり。
私は、このアルバム、第1集に収められた曲のような哀愁を帯びた美しい調子の曲を期待して聴いたのですが、こちらはもっとカラッとして明るい調子の曲が多いです。
例えば、Ottavaでも時々オンエアされているシネシの「あの頃の音」など、ポップ・ミュージックのような軽快なリズムと爽やかなコード進行が耳に心地よく、晴れ渡った空を想起させるような音楽で好感が持てます。
プホールの「あるタンゴ弾きへの哀歌」は、ピアソラ追悼のために書かれた曲で(村治香織のデビューアルバムで知ってました)、ビリャダンゴスは持てる技巧を鮮やかに発揮しながら、少し苦み走ったピアソラへのオマージュを見事に弾き切っています。「憂鬱な気分で」と名づけられた第2曲の美しさは絶品です。
グァスタビーノのソナタも、端整なフォルムと適度に湿り気を帯びた美しい旋律がとても印象的でした。
しかし、その他の曲は、どれもなかなかに好印象の曲ばかりのですが、第1集で聴けた珠玉の作品たちのように心に迫ってくるものはあまりなく、ちょっと拍子抜け。「2匹目のドジョウ」はいないのかなあなどと思ってしまいました。
そんな時、行きつけの音盤屋さんで、ずっと探していたビリャダンゴスのアルバムが売られているのを見つけ、即購入しました。そのアルバム名は、「アルゼンチンのタンゴ」。
・アルゼンチンのタンゴ
ビクトル・ビリャダンゴス(G) (Naxos)
→詳細はコチラ(HMV/Tower/Amazon)
<<曲目>>
・ブラスケス:凧が飛ぶ夢
・モスカルディーニ:決闘のミロンガ/ティリンゴたちのために
・ピアソラ:
最後のグレーラ/リベルタンゴ/アディオス・ノニーノ/ブエノスアイレス午前零時
ハシント・チクラーナ/勝利
・ガルデル:想いのとどく日/帰還
・モレス:ミリタリー・タップ
・フリアン・プラサ:メランコリコ/ノスタルヒコ
・トロイロ:南(スール)
・コセンティーノ:ラ・レコレータ
・ラウレンス:わが愛のミロンガ
・ビターレ:ミロンガ・デル71
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ピアソラの「リベルタンゴ」「アディオス・ノニーノ」「ブエノス・アイレス午前零時」など、私でも知っているような有名な曲の他、様々な作曲家のタンゴが18曲収められています。これは、どの曲もおしなべて「アルゼンチンのギター音楽第1集」と同じように胸に迫る曲のオンパレード。演奏も、彼の変幻自在の多彩な音色を存分に楽しめるもので、既に私のお気に入りのディスクの仲間入りをしています。
その中で特に気に入っているのは、カルロス・ガルデルの「いつか想いが届く日」。これは本当にため息が出るほど美しい。元は歌詞のついた「歌」なのですが、ビリャダンゴスは、ギターという楽器から何と豊かな「歌」を聴かせてくれることか!憧れの異性を思ってはるか遠くの空を眺めながら恋焦がれている、そんな胸がキュンとするような風景を、そう、もう長いこと忘れてしまった「恋」の感情を思い出させてくれます。この曲のタイトルの英訳は"The day you love me"ですが、なかなかいい和訳だなあと思います。
あとは、トロイロの「南(スール)」、コセンティーノの「ラ・レコレータ」という曲が、甘党の私にはたまらない魅力を持った音楽で特に気に入っています。
また、ピアソラの音楽は、やはり独自の高みに達した音楽であることを痛感します。「最後のグレーラ」、「アディオス・ノニーノ」なんて、ほんとに心に沁みる曲です。
個人的には「名盤!」と呼びたくなるいいアルバムだと思います。
Naxosのギターコレクション、沢山聴いたわけではありませんが、この他に聴いたもののレベルの高さを考えると、HMVのレビューでどなたか書かれていたようにまさに「宝の山」なのだろうと思います。これから、バリオスやラウロなどの作品にも手を伸ばしてみたいと思っていますし、新人ギタリストのシリーズも聴きたいです。
私は、ギターに関しては本当に最近聴き始めた初心者で、セゴビアもイェペスもブリームもセルシェルも聴いたことがないのですが、でも、今まで聴いたデヴァインやクラフト、ガルシアといった人と比べると、このビリャダンゴスという人は、Naxosのギター奏者陣の中でも技術も音楽性も一頭地抜けたものを持った人なのではないかと思います。
できることなら、ビリャダンゴスのナマを、小さいホールでPAなしで聴いてみたいと思います。私はこれまで、ギターのリサイタルというものに出かけたことがありませんので、尚更、彼のようないい演奏家を最初に聴きたいと思います。
アルゼンチンの歌曲集 2つ
2008.09.28 Sunday
アルゼンチンの歌曲を集めたCDを2枚聴きました。
最初は、メゾ歌手のベルナルダ・フィンクが兄のマルコスのバリトンと、アルゼンチン出身の名女流ピアニスト、カルメン・ピアッツィーニと組んで録音した仏Harmonia Mundi盤。
・アルゼンチン歌曲集
ベルナーダ・フィンク(Ms)/マルコス・フィンク(Br)
カルメン・ピアッツィーニ(P) (仏Harmonia Mundi)
私の大好きなグァスタヴィーノの歌曲が9曲、ブチャルドが6曲、ピアソラとカリッロが3曲など、計26曲が収録されています。
B.フィンクは、ルネ・ヤーコブスに重用され、最近はアーノンクールとの共演も多い人で、主に古楽やドイツ・リートのディスクが多かったので、彼女がこんなアルバムを出しているとは意外でしたが、両親はスロヴェニア人ながら生まれはブエノスアイレスだそうで、アルゼンチンで音楽を学んだ人なのだそうです。
B.フィンクはヴィブラートを抑えた透明な歌声で、音楽の様式感をきっちりと出すまじめな歌手なので、こうしたラテンのテイストに溢れた音楽と合うのか興味深いところでしたが、まったくミスマッチを感じさせず、みずみずしい歌を聴かせてくれて素晴らしいです。まるで爽やかな風が心に吹き込んでくるかのような心地よさです。
一方、兄(弟?)のマルコス・フィンクも、軽めのつややかなバリトンで、こちらものびやかで美しい歌を聴かせてくれます。
そして、ピアッツィーニの伴奏も、すっかり音楽を手中に収めた自由闊達な伴奏で、生真面目な2人の歌唱にちょっとしたスパイスを加えていて素敵です。
グァスタヴィーノの歌も素晴らしい(特にマルコスの歌う「渇きの底から」は名唱です)ですし、ピアソラの辛口の歌も味があっていいです。またブチャルドの哀感にみちた歌もなかなかのもので、トータルとして聴き応えがあって、しかも聴き飽きない魅力のある名アルバムだと思います。
さて、もう一枚は、数々のディスクで知られるアルゼンチン出身の名歌手アリシア・ナフェが歌ったOehms盤。最近、タワーレコードでは490円で安売りされているものです。ピアノ伴奏は、前掲のフィンク盤と同じくピアッツィーニ、。これにアルフレード・マルクッチのバンドネオンが加わったアンサンブルになっています。
・アルゼンチン歌曲集
アリシア・ナフェ(Ms)/アルフレート・マルクッチ(バンドネオン)
カルメン・ピアッツィーニ(P) (Oehms)
曲目は23曲収められていますが、作曲家の顔ぶれは多彩で、グァスタヴィーノ4曲、ピアソラが5曲、その他ブチャルドやカーロに混じって、クルト・ワイルの曲が2曲、サティの「あんたがほしいの」も収録されています。
こちらは清純派のフィンクたちの歌に比べると、より深く重みのある声でオペラティックに歌い上げたスケールの大きな表現が特徴で、曲にこめられた感情がかなり大きく表現されています。ちょっと歳上のオバサン風の歌唱ですが、その艶かしい歌い口や多彩な声を駆使した変化球の多い練れた表現にはまた別の魅力があります。ピアソラの「天使のミロンガ」などまるでオペラアリアのように聴こえますが、それはそれで面白いです。
ワイルやサティの異種の音楽も、アルゼンチンの音楽の中で違和感なく溶け込んでいて楽しめます。グァスタヴィーノは「ミロンガ」が特に印象的、そしてピアソラは「オブリヴィオン」がとても美しいです。またブラーガのブラジル民謡による歌曲も楽しいです。
ピアッツィーニのピアノはここでも、艶消ししたような抑えた音色が素敵で、ちょっと哀しげな楽想での沈んだ表情は美しいです。また、バンドネオンの入るピアソラの曲では、ああこれはタンゴの曲なんだと痛感し、タンゴとバンドネオンがいかに結びつきの強いものなのか思い知らされた気がします。こちらもとても楽しいアルバムでした。
私は、こういう構成のアルゼンチン歌曲のコンサートが開かれれば是非聴きに行きたいと思います。今度、カツァリスが東京でラテン・アメリカのピアノ曲ばかりをとりあげて演奏するそうですが(しかもマラ5のアダージェットも演奏)、ピアノ曲だけでなく歌曲のコンサートを聴きたいです。
さて、グァスタヴィーノの音楽ですが、あのアンナ・ネトレプコの新盤「思い出」の中で、「バラと柳」が取り上げられているのだそうです。ついにイエロー・レーベルにまで進出したグァスタヴィーノの音楽、もっともっと注目を浴びるようになるのでしょうね。
・思い出
グァスタヴィーノ「バラと柳」所収
アンナ・ネトレプコ(S)
→詳細はコチラ
最初は、メゾ歌手のベルナルダ・フィンクが兄のマルコスのバリトンと、アルゼンチン出身の名女流ピアニスト、カルメン・ピアッツィーニと組んで録音した仏Harmonia Mundi盤。
・アルゼンチン歌曲集
ベルナーダ・フィンク(Ms)/マルコス・フィンク(Br)
カルメン・ピアッツィーニ(P) (仏Harmonia Mundi)
私の大好きなグァスタヴィーノの歌曲が9曲、ブチャルドが6曲、ピアソラとカリッロが3曲など、計26曲が収録されています。
B.フィンクは、ルネ・ヤーコブスに重用され、最近はアーノンクールとの共演も多い人で、主に古楽やドイツ・リートのディスクが多かったので、彼女がこんなアルバムを出しているとは意外でしたが、両親はスロヴェニア人ながら生まれはブエノスアイレスだそうで、アルゼンチンで音楽を学んだ人なのだそうです。
B.フィンクはヴィブラートを抑えた透明な歌声で、音楽の様式感をきっちりと出すまじめな歌手なので、こうしたラテンのテイストに溢れた音楽と合うのか興味深いところでしたが、まったくミスマッチを感じさせず、みずみずしい歌を聴かせてくれて素晴らしいです。まるで爽やかな風が心に吹き込んでくるかのような心地よさです。
一方、兄(弟?)のマルコス・フィンクも、軽めのつややかなバリトンで、こちらものびやかで美しい歌を聴かせてくれます。
そして、ピアッツィーニの伴奏も、すっかり音楽を手中に収めた自由闊達な伴奏で、生真面目な2人の歌唱にちょっとしたスパイスを加えていて素敵です。
グァスタヴィーノの歌も素晴らしい(特にマルコスの歌う「渇きの底から」は名唱です)ですし、ピアソラの辛口の歌も味があっていいです。またブチャルドの哀感にみちた歌もなかなかのもので、トータルとして聴き応えがあって、しかも聴き飽きない魅力のある名アルバムだと思います。
さて、もう一枚は、数々のディスクで知られるアルゼンチン出身の名歌手アリシア・ナフェが歌ったOehms盤。最近、タワーレコードでは490円で安売りされているものです。ピアノ伴奏は、前掲のフィンク盤と同じくピアッツィーニ、。これにアルフレード・マルクッチのバンドネオンが加わったアンサンブルになっています。
・アルゼンチン歌曲集
アリシア・ナフェ(Ms)/アルフレート・マルクッチ(バンドネオン)
カルメン・ピアッツィーニ(P) (Oehms)
曲目は23曲収められていますが、作曲家の顔ぶれは多彩で、グァスタヴィーノ4曲、ピアソラが5曲、その他ブチャルドやカーロに混じって、クルト・ワイルの曲が2曲、サティの「あんたがほしいの」も収録されています。
こちらは清純派のフィンクたちの歌に比べると、より深く重みのある声でオペラティックに歌い上げたスケールの大きな表現が特徴で、曲にこめられた感情がかなり大きく表現されています。ちょっと歳上のオバサン風の歌唱ですが、その艶かしい歌い口や多彩な声を駆使した変化球の多い練れた表現にはまた別の魅力があります。ピアソラの「天使のミロンガ」などまるでオペラアリアのように聴こえますが、それはそれで面白いです。
ワイルやサティの異種の音楽も、アルゼンチンの音楽の中で違和感なく溶け込んでいて楽しめます。グァスタヴィーノは「ミロンガ」が特に印象的、そしてピアソラは「オブリヴィオン」がとても美しいです。またブラーガのブラジル民謡による歌曲も楽しいです。
ピアッツィーニのピアノはここでも、艶消ししたような抑えた音色が素敵で、ちょっと哀しげな楽想での沈んだ表情は美しいです。また、バンドネオンの入るピアソラの曲では、ああこれはタンゴの曲なんだと痛感し、タンゴとバンドネオンがいかに結びつきの強いものなのか思い知らされた気がします。こちらもとても楽しいアルバムでした。
私は、こういう構成のアルゼンチン歌曲のコンサートが開かれれば是非聴きに行きたいと思います。今度、カツァリスが東京でラテン・アメリカのピアノ曲ばかりをとりあげて演奏するそうですが(しかもマラ5のアダージェットも演奏)、ピアノ曲だけでなく歌曲のコンサートを聴きたいです。
さて、グァスタヴィーノの音楽ですが、あのアンナ・ネトレプコの新盤「思い出」の中で、「バラと柳」が取り上げられているのだそうです。ついにイエロー・レーベルにまで進出したグァスタヴィーノの音楽、もっともっと注目を浴びるようになるのでしょうね。
・思い出
グァスタヴィーノ「バラと柳」所収
アンナ・ネトレプコ(S)
→詳細はコチラ
グァスタヴィーノ/歌曲集 〜 ハラク(Ms)/ボールドウィン(P)
2008.09.23 Tuesday
・アルゼンチンの花たち 〜 グァスタヴィーノ/歌曲集
デシレー・ハラク(Ms)/ダルトン・ボールドウィン(P) (Albany)
→詳細はコチラ(HMV/Tower/Amazon)
最近の私のお気に入りのアルゼンチンの作曲家、カルロス・グァスタヴィーノの歌曲集の最新CDがアメリカから届きました。ニューヨーク出身のメゾ歌手デシレー・ハラクが、有名な伴奏者ダルトン・ボールドウイン(!)の伴奏で3つの歌曲集を含む計31トラックを歌っています。今まで私が聴いた、HarmoniaMundiのフィンク盤、Oehmsのナフェ盤の2種のアルゼンチン歌曲集に収められていた曲もほぼカバーしていて、今のところ最も曲数の多い歌曲集なのかもしれません。
75分間、ちょっとメランコリックで、ほのかな湿り気と情熱を秘めた美しい旋律の花束の香りに酔いながら、幸せな時間を過ごしました。まず何よりグァスタヴィーノの「歌」の魅力にため息が出ます。
この「花束」たちを歌うハラクの声は、少し暗い音色で、低音にドスが効きすぎることもなく、心地よいアルゼンチンの風を(行ったことはないですけれど)運んで来てくれます。ちょっと生真面目に過ぎるかも、という抑制の効いた歌い口ですが、曲の魅力を何度も味わうにはこれくらいの薄味の方が良いかもしれません。
有名な「鳩のあやまち」は、先日聴いたピアノ連弾版では、弾けるような速いテンポで弾かれていましたが、ハラクは結構ゆっくりしたテンポで淡々と歌っていてまるで別の曲を聴いているよう。でも、こちらの方が本当かもなと思うのは、彼女の歌が、哀愁を帯びた民話風の歌詞の内容に沿ったものだからかもしれません。その他、カシュカシアンのディスクにも収められた「バラと柳」「渇きの底から」の美しさは印象的ですし、「小さな村、私の村」「あなたのハンカチを貸して」「バラーダ」の哀感に満ちた曲調は胸に響きます。また、「兄弟のミロンガ」のような体が動き出しそうなおどけたユーモラスな曲もありますし、アルバムのタイトルになっている「アルゼンチンの花たち」という歌曲集もカーネーションなどの花への賛歌が愛らしい佳曲です。ああ、本当に愛おしい歌たちです!!まさに「アルゼンチンのシューベルト!」と呼びたくなります。
そして、名歌手たちとの共演で名高いボールドウィンの伴奏の素晴らしいこと!実はグァスタヴィーノとは個人的に友人関係だったということで、「バラーダ」というとても美しい未出版曲(世界初録音)は、彼も作曲に関わったとのことです。ボールドウィンというと、アメリングやスゼーと組んだフォーレの歌曲や、スゼーとのシューベルトの「冬の旅」「白鳥の歌」での名サポートの印象が強いですが、水平方向に広がりがちな歌に、しっかりとラテンのリズムを刻んだり、味わいのある「合いの手」を入れたりと、歌い手の生理にぴったりと寄り添った柔軟な伴奏ぶりがまさに名匠の手によるもの。とても楽しみました。
このAlbanyのハラク盤、タワーレコードでは入荷済みになっている割に店頭では見たことがまだなく、HMVでは9/30に発売とのことです。また、アマゾンでは既に入手可能になっています。(私は米アマゾンから入手)
さて、グァスタヴィーノの作品を含む新譜がこれから2つほど出るようです。どちらも若い演奏家のディスクのようなので、西欧中心の価値観から解き放たれた新しい感性を持った人達がどのような演奏を聴かせてくれるか楽しみです。
・ウィレム・ラチュウミア〜ブラジリアン・ピアノ・リサイタル
「バイレシート」所収(ブラジリアン・リサイタルですが・・・)
→詳細はコチラ
・ステラ・グリゴリアン 〜スパニッシュ歌曲集
「バラと柳」所収
→詳細はコチラ
デシレー・ハラク(Ms)/ダルトン・ボールドウィン(P) (Albany)
→詳細はコチラ(HMV/Tower/Amazon)
最近の私のお気に入りのアルゼンチンの作曲家、カルロス・グァスタヴィーノの歌曲集の最新CDがアメリカから届きました。ニューヨーク出身のメゾ歌手デシレー・ハラクが、有名な伴奏者ダルトン・ボールドウイン(!)の伴奏で3つの歌曲集を含む計31トラックを歌っています。今まで私が聴いた、HarmoniaMundiのフィンク盤、Oehmsのナフェ盤の2種のアルゼンチン歌曲集に収められていた曲もほぼカバーしていて、今のところ最も曲数の多い歌曲集なのかもしれません。
75分間、ちょっとメランコリックで、ほのかな湿り気と情熱を秘めた美しい旋律の花束の香りに酔いながら、幸せな時間を過ごしました。まず何よりグァスタヴィーノの「歌」の魅力にため息が出ます。
この「花束」たちを歌うハラクの声は、少し暗い音色で、低音にドスが効きすぎることもなく、心地よいアルゼンチンの風を(行ったことはないですけれど)運んで来てくれます。ちょっと生真面目に過ぎるかも、という抑制の効いた歌い口ですが、曲の魅力を何度も味わうにはこれくらいの薄味の方が良いかもしれません。
有名な「鳩のあやまち」は、先日聴いたピアノ連弾版では、弾けるような速いテンポで弾かれていましたが、ハラクは結構ゆっくりしたテンポで淡々と歌っていてまるで別の曲を聴いているよう。でも、こちらの方が本当かもなと思うのは、彼女の歌が、哀愁を帯びた民話風の歌詞の内容に沿ったものだからかもしれません。その他、カシュカシアンのディスクにも収められた「バラと柳」「渇きの底から」の美しさは印象的ですし、「小さな村、私の村」「あなたのハンカチを貸して」「バラーダ」の哀感に満ちた曲調は胸に響きます。また、「兄弟のミロンガ」のような体が動き出しそうなおどけたユーモラスな曲もありますし、アルバムのタイトルになっている「アルゼンチンの花たち」という歌曲集もカーネーションなどの花への賛歌が愛らしい佳曲です。ああ、本当に愛おしい歌たちです!!まさに「アルゼンチンのシューベルト!」と呼びたくなります。
そして、名歌手たちとの共演で名高いボールドウィンの伴奏の素晴らしいこと!実はグァスタヴィーノとは個人的に友人関係だったということで、「バラーダ」というとても美しい未出版曲(世界初録音)は、彼も作曲に関わったとのことです。ボールドウィンというと、アメリングやスゼーと組んだフォーレの歌曲や、スゼーとのシューベルトの「冬の旅」「白鳥の歌」での名サポートの印象が強いですが、水平方向に広がりがちな歌に、しっかりとラテンのリズムを刻んだり、味わいのある「合いの手」を入れたりと、歌い手の生理にぴったりと寄り添った柔軟な伴奏ぶりがまさに名匠の手によるもの。とても楽しみました。
このAlbanyのハラク盤、タワーレコードでは入荷済みになっている割に店頭では見たことがまだなく、HMVでは9/30に発売とのことです。また、アマゾンでは既に入手可能になっています。(私は米アマゾンから入手)
さて、グァスタヴィーノの作品を含む新譜がこれから2つほど出るようです。どちらも若い演奏家のディスクのようなので、西欧中心の価値観から解き放たれた新しい感性を持った人達がどのような演奏を聴かせてくれるか楽しみです。
・ウィレム・ラチュウミア〜ブラジリアン・ピアノ・リサイタル
「バイレシート」所収(ブラジリアン・リサイタルですが・・・)
→詳細はコチラ
・ステラ・グリゴリアン 〜スパニッシュ歌曲集
「バラと柳」所収
→詳細はコチラ
グァスタヴィーノ/ピアノ曲集 デュオ・モレノ=カペリ
2008.09.13 Saturday
・グァスタヴィーノ/ピアノ曲集
デュオ・モレノ=カペリ(P)(ヘクトル・モレノ&ノルベルト・カペリ) (Marco Polo)
<<曲目リスト>>
・ロマンス・デル・プラタ(連弾のためのソナチネ)
・3つのアルゼンチンのロマンス(連弾)
・バイレシート(連弾)
・ガト(連弾)
・平原(連弾)
・鳩のあやまち(連弾)
・シエスタ 3つの前奏曲(独奏)
・ラ・プレセンシアスから2曲(独奏)
(曲名はコチラのHPを参考にさせていただきました)
以前のエントリーで、ジョーンズ独奏によるグァスタヴィーノのピアノ曲全集を取り上げましたが、そこで「廃盤」と書いたデュオ・モレノ=カペリによるMarcoPolo盤が海外のアウトレットショップで簡単に入手できました。このディスクの中の「ルドヴィーナ」が、ネットラジオOttavaでしばしばオンエアされていて、私もこれを聴いてグァスタヴィーノの音楽に強い関心を持つようになったのです。
このアルバムには、ピアノ2台の連弾曲が6曲(10トラック)、独奏曲が2曲(5トラック)が収録されています。連弾曲のうち、「バイレシート」「ガト」は作曲者自身による独奏曲からの編曲、「平原」はヴァイオリン曲、「鳩のあやまち」は歌曲からの編曲です。
さて、このアルバム、余り知られていない(と思われる)のが本当に本当にもったいない、というか、信じられないくらい素敵なものです。曲もどれも素晴らしいし、演奏もグァスタヴィーノの親しげでやわらかな笑顔に満ちた音楽の魅力を存分に引き出したものです。独奏曲をジョーンズの全集盤と比べてみると、こちらのデュオ・モレノ=カペリの方が、より情熱的で湿り気を帯びた濃厚な表情を持っていて、より「南米」を強く意識させてくれます。もしかしたら、アルゼンチン出身の彼ら自身の持つDNAがこうした演奏を可能にしているのかもしれません。
しつこいようですが、本当に愛おしくなるような歌心にあふれた佳品ばかりです。
例えば、「平原」の、夕日を見ながら過ぎた一日を思い起こし、満ち足りた気分で太陽に別れを告げるような優しい歌。
例えば、「鳩のあやまち」の楽しげでやがて哀しくなるようなお洒落なおしゃべり。
グァスタヴィーノが最後に書いたピアノ曲となった「ロマンス・デル・プラタ」の宝石のような輝きはいかばかりでしょうか!!冒頭からして、静かで胸の痛くなるような切なさを帯びた旋律はただただ美しいとしか言いようがありません。そして、あふれ出る思いが時には涙へと、時には微笑みへと変容していくさまは、繊細な心の襞をそのまま鏡に写し出したかのようです。あたたかな孤独に包まれて、幸せな気分に浸ることができます。一転、第3楽章ロンドの「踊り」は聴いていて体が動き出しそうなくらいの愉しさ。と言っても、歌に満ちた「横ノリ」音楽であるあたり、まさにシューベルトの音楽みたいです。
そして、私がグァスタヴィーノと出会うきっかけとなった「ルドヴィーナ」。モレノとカペッリのどちらが弾いているのかクレジットにはありませんが、一時期ottavaで聴き慣れた演奏ということもあって、親しい友人に再会したかのような気分です。ジョーンズの演奏も品格のあるもので素晴らしかったですが、私はこのMarco Polo盤の方がより糖度と湿度が高く濃厚な味わいがあって好きです。
このディスク、間違いなく私の愛聴盤になると思います。
ココのページで当ディスクの試聴ができますが、海外のネットショップからしか入手不可能なのが残念です。Marco Poloレーベルのディスクは、最近はNaxosが移行発売しているので、このグァスタヴィーノのCDも発売すればいいのにと思います。私が「予言」しますが、きっとこれからグァスタヴィーノの音楽への注目度がアップするでしょうから!(というより、既に演奏家の間で注目度が上がっているのは明らかなのです)
ところで、グァスタヴィーノつながりで、最近、アルゼンチンの音楽を多く聴くようになりました。ファリャやグラナドスも聴いているので、「スペイン語圏」「ラテン系」音楽とくくった方が良いかもしれません。これから、いくつか聴いたディスクの感想をメモっておこうと思っています。
デュオ・モレノ=カペリ(P)(ヘクトル・モレノ&ノルベルト・カペリ) (Marco Polo)
<<曲目リスト>>
・ロマンス・デル・プラタ(連弾のためのソナチネ)
・3つのアルゼンチンのロマンス(連弾)
・バイレシート(連弾)
・ガト(連弾)
・平原(連弾)
・鳩のあやまち(連弾)
・シエスタ 3つの前奏曲(独奏)
・ラ・プレセンシアスから2曲(独奏)
(曲名はコチラのHPを参考にさせていただきました)
以前のエントリーで、ジョーンズ独奏によるグァスタヴィーノのピアノ曲全集を取り上げましたが、そこで「廃盤」と書いたデュオ・モレノ=カペリによるMarcoPolo盤が海外のアウトレットショップで簡単に入手できました。このディスクの中の「ルドヴィーナ」が、ネットラジオOttavaでしばしばオンエアされていて、私もこれを聴いてグァスタヴィーノの音楽に強い関心を持つようになったのです。
このアルバムには、ピアノ2台の連弾曲が6曲(10トラック)、独奏曲が2曲(5トラック)が収録されています。連弾曲のうち、「バイレシート」「ガト」は作曲者自身による独奏曲からの編曲、「平原」はヴァイオリン曲、「鳩のあやまち」は歌曲からの編曲です。
さて、このアルバム、余り知られていない(と思われる)のが本当に本当にもったいない、というか、信じられないくらい素敵なものです。曲もどれも素晴らしいし、演奏もグァスタヴィーノの親しげでやわらかな笑顔に満ちた音楽の魅力を存分に引き出したものです。独奏曲をジョーンズの全集盤と比べてみると、こちらのデュオ・モレノ=カペリの方が、より情熱的で湿り気を帯びた濃厚な表情を持っていて、より「南米」を強く意識させてくれます。もしかしたら、アルゼンチン出身の彼ら自身の持つDNAがこうした演奏を可能にしているのかもしれません。
しつこいようですが、本当に愛おしくなるような歌心にあふれた佳品ばかりです。
例えば、「平原」の、夕日を見ながら過ぎた一日を思い起こし、満ち足りた気分で太陽に別れを告げるような優しい歌。
例えば、「鳩のあやまち」の楽しげでやがて哀しくなるようなお洒落なおしゃべり。
グァスタヴィーノが最後に書いたピアノ曲となった「ロマンス・デル・プラタ」の宝石のような輝きはいかばかりでしょうか!!冒頭からして、静かで胸の痛くなるような切なさを帯びた旋律はただただ美しいとしか言いようがありません。そして、あふれ出る思いが時には涙へと、時には微笑みへと変容していくさまは、繊細な心の襞をそのまま鏡に写し出したかのようです。あたたかな孤独に包まれて、幸せな気分に浸ることができます。一転、第3楽章ロンドの「踊り」は聴いていて体が動き出しそうなくらいの愉しさ。と言っても、歌に満ちた「横ノリ」音楽であるあたり、まさにシューベルトの音楽みたいです。
そして、私がグァスタヴィーノと出会うきっかけとなった「ルドヴィーナ」。モレノとカペッリのどちらが弾いているのかクレジットにはありませんが、一時期ottavaで聴き慣れた演奏ということもあって、親しい友人に再会したかのような気分です。ジョーンズの演奏も品格のあるもので素晴らしかったですが、私はこのMarco Polo盤の方がより糖度と湿度が高く濃厚な味わいがあって好きです。
このディスク、間違いなく私の愛聴盤になると思います。
ココのページで当ディスクの試聴ができますが、海外のネットショップからしか入手不可能なのが残念です。Marco Poloレーベルのディスクは、最近はNaxosが移行発売しているので、このグァスタヴィーノのCDも発売すればいいのにと思います。私が「予言」しますが、きっとこれからグァスタヴィーノの音楽への注目度がアップするでしょうから!(というより、既に演奏家の間で注目度が上がっているのは明らかなのです)
ところで、グァスタヴィーノつながりで、最近、アルゼンチンの音楽を多く聴くようになりました。ファリャやグラナドスも聴いているので、「スペイン語圏」「ラテン系」音楽とくくった方が良いかもしれません。これから、いくつか聴いたディスクの感想をメモっておこうと思っています。