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【ディスク 感想】ショスタコーヴィチ/交響曲第7番「レニングラード」 〜 ヴァシリー・ペトレンコ指揮ロイヤル・リヴァプール・フィル

 ・ショスタコーヴィチ/交響曲第7番「レニングラード」
 ヴァシリー・ペトレンコ指揮ロイヤル・リヴァプール・フィル
 (Naxos)

 →詳細はコチラ(Tower/HMV)



  少し前、坂口安吾原作の「戦争と一人の女」という映画が公開されていました。何だったかの映画を見たときに予告編を見たのですが、そこで、江口のりこ演じる主人公の女が、空襲で焼ける街を見ながら恍惚の表情を浮かべ「戦争が好き、みんな燃えてしまえば、平等になるから」と言う場面があって衝撃を受けました。後で青空文庫で読んだ原作にはそんなセリフはないことを確認したのですが、この女の言葉としては十分にリアリティのありそうな言葉で、とても強烈な印象を与えられたのです。しかも、その前後には、あられもない格好で男と女が交わるシーンがスクリーンに映し出されてもいて、戦争という大きな現実の下には、もっと生々しい現実があったのだということを思い知らされました。残念ながら時間がなくて映画館で見ることはできなかったのですが。

 「戦争が好き」などという言葉は、反戦こそ自分が生涯追い続ける主題だと思っている私にとっては、まことにあるまじき言葉です。みんな燃えて平等になるなんて乱暴なことは言ってはいけない。世界から殺戮がなくなる日まで私たちは不断の努力を続けなければならない。そう思っています。

 しかし、実際に自分が戦火の中にいたとしたら、そんな理想をどこまで持っていられるか?もうダメだ、もう何をやっても自分はこの戦争で死ぬ、と分かっていてもなお、「反戦」を掲げられるか?人を殺めるくらいなら自分で死ぬなどと言えるだろうか?あるいは、祖国を守るのだと言い聞かせて、勝ち目のない絶望的な闘いに身を投じるでしょうか?

 多分、私はそのどちらでもないと思います。いや、この「戦争と一人の女」の女のように、火に包まれる街を見ながら「ああ、みんな燃えてしまえ」と思うかもしれない。自国民を戦争に駆り立てて、簡単に人を戦地に送るような、人命を軽んずるような国家なんてむしろ消えてしまえと。あるいは、明日はもうどうなるか分からないと悟ったら、それこそ肉欲に溺れて燃え尽きてしまうかもしれない。戦争でも、飢饉でも、絶望的な危機に直面した時に人間は種の保存を優先する、という話もよく聞きます。とにかく、意志が弱く、国家への忠誠心が欠如している私が戦争に直面した時は、ヤケクソ状態になるに違いありません。

 このヤケクソ感というのは、ショスタコーヴィチの交響曲第7番の根底にあるものと似ている、というのは暴論でしょうか。あの第1楽章で、レハールの「メリー・ウィドウ」の引用と思しき旋律が、ボレロのリズムに乗ってクレッシェンドしながら演奏される時、マスの音はどんどん凶暴に荒れ狂っているのに、どうにもこうにもバカバカしい旋律がずっと繰り返されているのを聴いて、どんどんアホらしくなる気持ちとどこか似ているのではないだろうかと思うのです。迫り来るファシズムによる暴力に抵抗し、勝利を目指して前進!というような御用音楽として聴くことは確かに可能かもしれませんが、ならばどうしてもっと勇猛果敢な音楽を作らなかったのでしょう?革命歌を引用しても良かったかもしれないのに、こともあろうに「それでも俺はマキシムに行くぞ。あすこは神聖な祖国を忘れさせてくれる」などという歌詞が割り振られた旋律を使っている。

 いや、あるいは、この交響曲全体にも言えるのですが、特に第1楽章の大騒ぎを聴いて、「爆演!」とか「大音響!」などと肌に粟粒を立てながら狂喜乱舞している自分の感覚って、それこそ空襲で焼ける街を見ながら快感を得てしまう女性と心根は同じなんじゃないかというきさえしてきます。アホらしさと同時に、自分の心にある野蛮なもの、残虐なものにハッと気づいたりもする・・・。

 まあ、そういったショスタコーヴィチの「二重言語」的な音楽づくりについてあれこれ考えてモノを言うのもいい加減飽きてきたので、これ以上は深堀りはしませんが、とにかく、この曲の第1楽章のアホらしさから垣間見える心のありようというのは、「みんな燃えてしまえばいい」と言った女の心とどこか通じるところがあるのかもしれない。ナチのファシズムに対抗って言ったって、そもそも自国(ソ連)こそファシズムの国、こんなクソ国家のために戦うなんてちゃんちゃらおかしいというような哄笑が聴こえてくる。第2楽章なんて特にそうです。

 そんな観点からこの曲を見ると、あの透明な哀しさを孕んだ第3楽章の音楽からは、「全部燃えてしまえ」と念じた結果、本当に街が「全部燃えてしまった」時のどうしようもない脱力感を聴き取ってしまいます。もう涙も出てこないほどに何にもなくなってしまった瓦礫の街を目の前にして、「終わってしまった」というような、ものすごく残念でがっかりするような気持ち。もしかしたら、「夏草や 兵どもが 夢の跡」と詠んだ時の芭蕉の心持ちもこんなものだっただろうか。あるいは、「戦争と一人の女」の原作の最後、終戦の日、「どうでもいいや」と女の肢体を貪り始めた男と女の心持ちもこうだっただろうか。ああ、とにかく、虚しい。

 とすると、第4楽章の「勝利」だなんていうのも、まことにバカバカしい。ヤケクソ音楽の真骨頂。盛り上げるだけ盛り上げて高らかに奏でれば奏でるほど、ますます第3楽章で感じた脱力するような哀しさは際立つ・・・。

 これが、ヴァシリー・ペトレンコ指揮ロイヤル・リヴァプール・フィルの演奏するショスタコーヴィチの交響曲第7番を聴いた時の感想です。これまで私がこの曲に対して抱いていたイメージを、より明確に、より強烈に、そしてより具体的にしてくれたように感じています。つまり、この曲の虚の部分と、実の部分をはっきりと描き分けてくれているということ。虚の部分は、室内楽的とも言えるような精密さと、広大なダイナミックレンジをもった表現でアホらしさを強調し、実の部分は、本当に心の底からの哀しみを、一切の不純物を取り除いて明らかにしてくれる。これまでこんな風に私の心の中の暗部や下部構造にさえも訴えかけてくるような演奏にはお目にかかったことがありません。とても強烈な演奏でした。

 ペトレンコはただただ凄い指揮者だと思います。オケの統率力も凄いし、いつもショスタコーヴィチの交響曲に対する、いまを生きる私たちにとってアクティブな聴き方を提示してくれるところが何よりも素晴らしい。オケのパワーアップぶりにも目を瞠るものがあって圧巻。こんなレベルのオケが地方にいるなんて、ロンドンのメジャーオケもうかうかしていられません。

 このシリーズも、あと第4、13、14番の3曲を残すのみとなりました。楽しみに聴き続けているので、リリースが終わってしまうのも何だか淋しい。でも、ショスタコの交響曲の中でも最も重要な位置を占める3曲ですから、聴くのがとても楽しみです。

 そして、どこでもいいから、この人たち、日本に招聘してください。知名度が一般には低い分、きっとチケット代も抑えられるでしょうし、この天才指揮者が手兵と暴れまくるのを是非聴きたいです!!!



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  • 2017.08.16 Wednesday
  • -
  • 03:13
  • -
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コメント
こんばんは。V・ペトレンコは来年3月、もうひとつの手兵オスロ・フィルと来日予定。ショスタコーヴィチ5番とマーラー1番がメインの2プロのようです。以上ご参考まで。
  • 第九のI
  • 2013/06/26 7:59 PM
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