僕たちの宝物 ー 薬師丸ひろ子 35周年記念コンサート(2013.10.11 オーチャードホール)

2013.10.12 Saturday

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    ・薬師丸ひろ子 35周年記念コンサート
     (2013.10.11 オーチャードホール)









     

    <<曲目>>
    1.ALWAYS 3丁目の夕日
    2.あなたを・もっと・知りたくて
    3.風に乗って
    4.探偵物語
    5.ステキな恋の忘れ方
    6.語りつぐ愛に
    7.天に星.地に花
    08.バンブー・ボート
    09.故郷
    10.冬の星座
    11.夢で逢えたら
    12.元気を出して
    13.A LOVER'S CONCERTO
    14.すこしだけ やさしく
    15.メイン・テーマ
    16.紳士同盟
    17.セーラー服と機関銃
    18.僕の宝物
    (アンコール)
    19.私の世界
    20.時代
    21.Woman "Wの悲劇"より
     

    −−−

     薬師丸ひろ子のデビュー35周年記念コンサートツアー(東京、大阪で2回ずつ)の最終公演をオーチャードホールで聴いて来ました。彼女の単独コンサートとしては90年以来23年ぶりですが、私が彼女の歌をナマで聴くのは87年の「星紀行」ツアーの大阪公演以来26年ぶり。NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」での鈴鹿ひろ美役が大当たりという状況を受け、チケットは早々にソールド・アウト。ホールの客席は私と同世代かそれ以上の男女で埋め尽くされていました。そう、思ったより女性ファンが多いようで何だか嬉しくなりました。

     今回は、これまで彼女の楽曲のアレンジを多く手がけてきた武部聡志がピアノと音楽監督を務め、他にギター、ベース、ドラム、シンセという非常にシンプルなバンド構成。水分補給(鈴鹿スペシャルではなくてただの水とのこと)のために小休止してMCを挿んだのと、衣装替え(2回)以外は、冒頭の「Always三丁目の夕日」の主題曲の歌バージョンから、アンコールの「Wの悲劇」まで2時間ほとんどノンストップ。愉しくて、あたたかくて、懐かしくて、そして愛おしい、あっという間のひとときを過ごしました。

     今日、改めて薬師丸ひろ子の歌を聴いて痛感したのは、彼女が「言霊の人」であるということ。彼女の歌から聴こえてくる日本語は美しくて力があります。歌詞の意味を聴き手に説明して分からせようというのではなく、その言葉の持つ語感や響きの美しさ、いわば言葉のシンタックスをそのまま自然なかたちで伝えることに専心した歌と言えるでしょうか。その背景にあるセマンティクスをどう捉えるかは聴き手のイマジネーションに委ねるような歌なのです。その結果、私たち聴き手はそれぞれが思い思いの気持ちを抱きながら彼女の歌に能動的に接することができる。

     勿論、彼女は何と言っても女優さんであってナレーションの名手です。彼女が言葉を大切にするのは当たり前と言えば当たり前です。でも、言葉そのものの美しさをそのまま聴き手に伝えるというのは実はとても難しいことでもある。しかも音楽がくっついているのですから、美しさを損なわずに歌うのは尚のこと至難の業のはずです。

     

     でも、彼女の歌は、歳を重ねて母親役をやるような大女優になった今も、そのピュアな歌を失うどころかますます磨きがかかっている。もともとが透き通ったとてもきれいな声の持ち主なのですから、その歌の純度の高い美しさはとても眩しい。私は80年代から彼女の歌に心酔してことあるごとに彼女の歌を聴いてきましたが、今の彼女が一番いいんじゃないかと思えるくらいで、感動を覚えずにはいられませんでした。

     それともう一つ感じたのは、彼女が最良の意味で「プロフェッショナル」であるということ。プロ根性、プロ魂をもった女優さん、歌手ということ。歌手活動も長い人ですがあくまで本業は女優さん。本業ではない「歌」でここまでの高いレベルにまで仕上げて舞台に上っているなんて信じられない。彼女自身はそう悟られないように各曲を相当に練習して歌いこんで来たはずですが、でも、声の出し方や歌い方に注意して聴いていると、本業の歌手たちでもハードルの高そうなことをやっていました。このレベルの歌にまで持っていくにはどれほどの労力が必要だったろうかと思います。しかもペース配分は完璧で、最後の最後までヴォルテージを上げたままコンサートの幕を閉じることができている。「あまちゃん」終盤で、「潮騒のメモリー」を歌う鈴鹿ひろ美に対して「プロだ・・・」と天野春子に感嘆させていましたが、まさにその通り。彼女のそういうプロ根性がまた宮藤官九郎の創意を掻き立てたのだろうと思います。感嘆しっぱなしでした。

     このような根っからのプロ女優・歌手が生まれた背景には、本人の血の滲むような努力や運があるのかもしれませんが、それ以上に「良い大人に囲まれて育つ」ことが大事なのだろうと思います。彼女は、高倉健、相米慎二、そして角川春樹といったプロ中のプロ、「良い大人」に囲まれ、時には厳しく指導を受けながら成長してきたのでしょう。「あまちゃん」で鈴鹿ひろ美が「続けるのも才能」と言うセリフがあって薬師丸ひろ子自身もMCで35年間女優を続けてきたことに関連して言及していましたが、「育ててもらうのも才能」「育ててくれる大人に出会うことも才能」なのかもしれません。また、彼女のこれまでのキャリアの中で、ちゃんと「原石」を育てる力のある大人が周囲にいたということなのでしょう。

     本当に心にしみこむような歌ばかりでした。会場の我々おじさんおばさんたちも私と同じように彼女の歌う言葉に魅了されていたようで最初から最後までじっくりと聴きつつも歌い終わると盛大な拍手でした。彼女の目下の最新曲である「僕の宝物」のタイトルをもじって言えば、薬師丸ひろ子という女優さん、歌手は「僕たちの宝物」であると言えるのかもしれません。でも、それは彼女の歌自身が宝物であるという以上に、彼女の歌と共にあった(ある)時間と、その時間を過ごした時の思い出が宝物なのかもしれませんけれども。

     今日一番心に残った曲として無理やり選ぶなら「元気を出して」でしょうか。「人生はあなたが思うほど悪くない 早く元気出して あの笑顔を見せて」という言葉が、この1週間、つまらないことで落ち込み、ズタズタになってしまった私の心に響いてきました。そう、こんなに素晴らしい歌に出会えるのなら、人生はそんなに悪くないぞと思いました。また、これだけは絶対聴きたいと思っていた「風に乗って」も素晴らしかった。いい曲だし、いい歌です、ほんとに。

     それから、以前「あまちゃん」の最終日直前に書いたエントリーで、私は彼女の歌う「ふるさと」を聴きたいと書きました。すると私と同じようなことを考える人がいるようで、12月に発売予定のニューアルバムで収録されるとのこと、今日も歌ってくれました。もしかするとCDの制作サイドは由紀さおりみたいな位置づけで彼女の活動を進めていこうという魂胆なのでしょうか。実際は分かりませんが、とにかくそこでは古今東西の名歌が集められています。「椰子の実」「仰げば尊し」「浜辺の歌」「我が母の教え給いし歌」など。そして今日はその中から「ふるさと」「冬の星座」「夢で会えたら」の3曲が披露されました。特に「ふるさと」では、しみじみとああ日本人でよかったなと思える時間を過ごしました。

     これまでの映画の名セリフ(「おとーさーん」「ドジな探偵さん」「か・い・か・ん」「顔はぶたないで私女優なんだから」「ちゃんちゃらおかしい」「ファーーー」)も飛び出し、MCも楽しかった。、まったく幸せな二時間をありがとうと言う他ありません、。

     彼女の口からはコンサートの最後に「近いうちにまたお会いしましょう」という言葉が出ていました。本当に心の底からそうであることを希望します。

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    2019.08.15 Thursday

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      コメント
      いま、B/Sでそのコンサートの集約を見終わったところです。
      私も子供のころから彼女の綺麗な歌声に魅了されていました。
      しかし、こうして年月を経て大人になってから聴くと本当に素晴らしい声の持ち主だなあーと感激して泣いてしまいました。
      いつまでもこの歌声が聴けることを願います。
      • by ひで
      • 2013/11/29 10:59 PM
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