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【ディスク 感想】ショスタコーヴィチ/交響曲第1,15番 〜 マーク・ウィッグルスワース指揮オランダ放送フィル
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    ・ショスタコーヴィチ/交響曲第1,15番
     マーク・ウィッグルスワース指揮オランダ放送フィル(BIS)

     →詳細はコチラ(HMV/Tower)




     マーク・ウィッグルスワース指揮オランダ放送フィルの演奏するショスタコーヴィチの交響曲第1番と第15番を聴きました。1997年から始まったウィッグルスワースのBISレーベルへのショスタコーヴィチ・チクルスが17年の年月を経てようやく完成しましたことになります。今回発売された2曲のうち、第1番は既に発売されているのと同じ音源、第15番は第1番と同時期、つまり2006年10月に既に録音が完了していたものなのですが、途中でオーケストラが変わった(BBCウェールズ響からオランダ放送フィル)という事情はあるにせよ、録音済みのディスクがどうして8年近くも眠っていたのでしょうか。

     まあそんなことはともかく、何よりもチクルスが完成したことをとにかく喜びたいです。第1弾となった第7番から毎回楽しみに聴いてきた私にとっては、とても長い道のりでした。

     17年と言えば、赤ん坊が生まれて高校2年生になるくらいの年月。思えばいろいろあったなあ、あの頃とは何も変わってしまったなあなどと思い返しているのですが、いや、実はこの交響曲第15番は彼自身の「振り返り」の音楽だったのだなあとぼんやり思いながらウィッグルスワース指揮の演奏を聴きながら思いました。

     どうして「振り返り」なのかというと、第15番の前に交響曲第1番が収録されていて、この2曲の間には実はとても共通するものがあるのだなあということを実感したからです。いや、勿論、この2曲が書かれた50年ほどの間には、私自身の変化なんか及びもつかないような大きな社会の変動がありました。第2次世界大戦、スターリンによる粛清やショスタコを襲った2度にわたる公式の批判、冷戦、第三次世界大戦への危機。ショスタコーヴィチ自身も波乱万丈の人生を送り、社会から厳しい制約を受けつつも自身の音楽を確実に深めていった。だから2曲の趣は全然違うのですが、しかし、やっぱり何か共通ものがあるように思えたのです。

     もっとも、その2曲に共通するものが何かは私にはまだ分からない。音楽の作り、雰囲気、そういったものでくくれるのかもしれないし、できないかもしれない。ただ言えるのは、「作家は一生をかけて処女作へと戻っていく」という格言(?)がある通り、この第15番という交響曲が第1番の中にある何かに向かうベクトルをもった音楽だということ。それがロシア・アバンギャルドの騎士として才気あふれる音楽を屈託もなく書いていた自分へのノスタルジーなのでしょうか。

     ショスタコーヴィチは第15番では誰が聴いても明らかな既存曲の引用(「ウィリアム・テル」序曲、ワーグナーの「指環」「トリスタン」、グリンカの歌曲)だけでなく、自分の曲の引用もやっています。有名なのは交響曲第4、7番などですが、今回ウィッグルスワース指揮の演奏で気づいたのは、「ムツェンスク郡のマクベス夫人」や交響曲第11,13番などの引用。第4楽章で聴かれるトロンボーンのグリッサンドは「マクベス夫人」のレイプシーンの音楽だし、同じ楽章のティンパニの叩く7つの音符は、第11番の第3楽章(革命歌「同志は斃れぬ」が引用)の頂点のティンパニの模倣。第13番の第3楽章の低弦のテーマがそのまま出てくるところもある。そのほか、第5,8,10番あたりも引用されているような気がします。

     してみると、この交響曲第15番というのは、どんどん時間が逆行していく音楽なのかもしれない。どんどん旧作をたどっていくことで、最終的には誕生前の「無」へと収斂していく。第4楽章コーダの謎めいた打楽器のリズムは、もしかすると、時計のゼンマイを巻き戻す音だったのかもしれない。(同じように自作を引用したR.シュトラウスの「英雄の生涯」とは随分趣が異なります)

     ウィッグルスワースの指揮する演奏がそうした「自作の振り返り」という側面を強調したものだったというよりも、今になって私が気づいただけなのかもしれませんが、しかし、これまで聴いてきた20種類近い演奏では、それがどんなに素晴らしいものであろうと、そうした「引用」に気づかせてくれることはありませんでした。だから、もしかするとウィッグルスワースが第1番との共通項に深く注意しながら演奏しているために、自ずと自作の他の曲との関連性が明らかになっているのかもしれません。

     そう思って、ウィッグルスワース自身の手によるライナーノートの解説を読むと、こんな記述がありました。

    多くのロシアの芸術家同様、ショスタコーヴィチは音楽を通して真実を語らなければならないという倫理的な責任を強く認識していた。彼が生きていたらペレストロイカやグラスノスチを支持しただろうが、彼は現実主義者だったのでそれらが万能薬であるとは思え手放しには賛成できなかったに違いない。心理的な矛盾はロシア人なら誰でも持つもの。現に、今、ロシア人の半数近くがスターリンに対して悪感情を持っておらず、4分の1の人たちはスターリンが生きていたら彼に投票するだろう。ショスタコーヴィチの音楽は今こそもっと聴かれるべきだ。時として物事は大きく変化するが、結局は前と変わっていなかったりすることもあるということを、ショスタコーヴィチの最初と最後の交響曲の共通点に注意して聴けば、強く感じることができるはずだ。

     なるほど、そういうことだったのか。やはり彼は既出の録音を再カップリングさせてまで、第1、15番を組み合わせたディスクを最後に持ってきたのは、両曲の共通点から見えるもの、感じられるものを私たちに提示しようとしたのでした。そして、そのもくろみは見事に当たり、極東に住む音楽ファンがそのテーゼを実感することができた。

     そう思うと、私たち日本人も、このショスタコーヴィチの音楽を聴きながら、「結局は前と変わらない日本人」に思いを馳せるべきではないかという気がします。そう、このところ起こっている様々な問題を考えるに、あれだけの戦争を経験し、国の形が大きく変わった日本ですが、実のところは昔と何も変わっていない部分があるのだということに改めて気づくべきではないかと。

     その先、どんなことを考え、どんな行動をとるべきなのかは分かりませんが、これらの音楽を通して、それをこれからもずっと考え続けていかなければならないということを強く感じさせてくれたディスクでした。

     それは多分、演奏が素晴らしいということと、私の中では同義です。素晴らしい演奏じゃなければ、こんなことは考えないから。重量感のある響き、沈み込んだ表情の美しさ、そして暴力的なまでの盛り上がり。ショスタコーヴィチの音楽を聴く時に特に大切にしたいものがすべて備わった演奏だと思います。

     17年の歳月(録音自体は10年くらい)をかけて追いかけて来たチクルスが、このように私に大切な問いを与えてくれる演奏で締めくくられたことを喜びたいです。
    | nailsweet | ショスタコーヴィチ | 03:58 | comments(0) | trackbacks(0) |
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