【ディスク 感想】noon moon 〜 原田知世

2014.05.11 Sunday

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    ・noon moon
     原田知世(Vo) (commons)

     →詳細はコチラ(Tower/HMV/Amzon)




    <<曲目>>
     1.青空の月
     2.うたかたの恋
     3.Double Rainbow
     4.A Moment Of Clarity
     5.走る人
     6.My Dear
     7.LOVE
     8.レモン
     9.名前が知りたい
    10.Brand New Day

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     ついさっきまで、NHKの歌番組「SONGS」を見ていました。原田知世が出ていたからです。

     ちょうど昨日、彼女のニューアルバム"noon moon"を買って聴いたところでしたから、とてもいいタイミングで彼女の歌を聴けて良かった。また、故郷の長崎を訪れ、ニコニコと思い出を語る原田知世の表情はキラキラと輝いて美しかったし、病に倒れた恩師からの手紙を息子さんから受け取り涙ながらに読む彼女の姿にもらい泣きしてしまいました。「時をかける少女」「ダンデライオン」という懐かしい歌を、しっとりした落ち着いたアレンジで(キーが相当に低くなっていてびっくりしましたけれど)聴けたのも嬉しかった。いや、彼女はなんて「いい女」なんでしょうか。

     私はこのブログで何度も書いてきたように薬師丸ひろ子の大ファンなのですが、実を言うと、最初は原田知世のファンでした。薬師丸ひろ子の「探偵物語」「メインテーマ」「Wの悲劇」は、いずれも、併映の原田知世主演の「時をかける少女」「愛情物語」「天国に一番近い島」を見た「ついでに」見たのでした。ええ、レコードも「パヴァーヌ」というアルバムまでは全部持っていましたし、写真集も持ってました。彼女が出る雑誌(特に角川の「バラエティ」)も買ってました。ラジオ番組(「ヤングパラダイス」「星空アイランド」)も毎回聴いてました。でも、何と言っても私にとっては彼女は映画女優さんであって、特に、彼女の銀幕デビューの「時をかける少女」は名画だと思っています。また、彼女が映画で初キス(林隆三と)をした「早春物語」にはいろいろな思い出もあって忘れられません。だからという訳でもありませんが、映画に出てきた御茶ノ水のニコライ堂のあたりは大好きで、今も時折、機会を見つけて散歩します。「会いたくて 会いたくて 会いたくて あなたに すぐに〜」なんて口ずさみながら。

     私は彼女と同い年。勿論、私など手の届かない「会いに行けないアイドル」でしたが、芸能界ずれしないフレッシュなたたずまいが好きでした。聖子ちゃん、明菜ちゃん、キョンキョン、あるいはひろ子ちゃんの人気がすさまじかった頃でしたが、私は断然、知世ちゃんのファンでした。だから、大学進学のために上京し、学生オーケストラの練習のためにNHKのスタジオに毎週通っていた頃、当時、時代劇のドラマに出演していた彼女が、NHKの廊下で電話をしているのを少し離れているところから目撃した時には、「ああ、第二志望の大学に入ったけど、原田知世を見られたのだから東京に来てよかった」という訳の分からない喜びに打ち震え、目に涙さえ浮かんだのを覚えています。

     それがいつの間にか彼女の活動からは疎遠になってしまっていたのは、まったくもってファンとしては不徳の致すところなのですが、それでも彼女はいつも気になる人でした。映画も何本か見ましたし、テレビに出ると出来る限り見ます。特に彼女のナレーションや朗読は素晴らしいものがあって、大好きです。

     ただ、彼女の歌は長くちゃんと聴いてきませんでした。その理由は自分でも深く考えたことがないので、よく分からないのですが、今回のニューアルバムを買おうと思った理由はいくつか説明できます。

     まず、いくつかの雑誌で彼女がこのアルバムについてインタビューを受けているのを見て、池澤夏樹の作詞による歌が1曲収録されていることを知ったから。池澤夏樹と言えば、私にとっては、いくつかの小説を書いた小説家でもありますが、何と言っても、アンゲロプロスの映画の字幕を書いてくれる「ギリシャ語の翻訳家」なのです。彼の小説にしても、新聞のコラムにしても、そしてアンゲロプロスの難解なセリフの翻訳にしても、いつも「詩」を感じさせてくれるので、好きなのです。そんな池澤さんの言葉を、彼女が最近よく朗読しているというのは聞いていて、いつかぜひ聞いてみたいとは思っていたのですが、その前に歌ができたというのですから聴きたいと思った。

     それからもうひとつ、このアルバムのプロデュースと、作曲、そしてギター演奏をしている伊藤ゴローという人に興味があるからです。そのきっかけというのは、もうすぐ放送休止してしまうネットラジオOttavaで、彼が参加しているボサノバ・ユニット、naomi&goroの歌がよくオンエアされていて、気に入っていたからです(ただ、CDは持ってませんけれど)。歌を歌うnaomiという方の歌が日本人離れしていていいのと、伊藤ゴローのギターがこれまた何ともいい味わいがあって、特に、私の大好きなジョビンのナンバーなんてとてもおしゃれで聴いていて気持ちがいい。

     原田知世が伊藤ゴローと組んで音楽活動をしていて、今回のアルバムは3作目の共演とのことで、今度は是非聴いてみようと思って、眩暈がしそうなホログラム仕様のジャケットにある彼女の美しい写真を見ながら聴きました。

     全体的に言って、歌もバックの演奏も、「狭い」音楽だと思いました。いや、貶しているのではありません。とても心地よくて、とても心にしみてくる「狭さ」を持った音楽。最良の意味で「狭い」音楽だと言っています。

     その印象の根源は、まず何よりも歌の振れ幅の「狭さ」にあります。言葉を一つ一つ大切にして丁寧に歌っているのだけれど、言葉そのものの意味を際立たせるために、何かを強調してみたり、感情をこめたりはしない。とにかく「表現」をしない。強弱もリズムの揺れも、ごくごく一定の振幅の中にきれいにおさめてしまって、そこから一歩も出ない。速さも温度も一定の風がそよそよと頬を撫でるかのように、私を通り過ぎていく。やる気があるのかないのか、嬉しいのか哀しいのか、元気なのか疲れているのか、そんなことを軽く超越してしまったような、ただ脱力した空気感。そこは、何千人もの人たちが息をつめて音楽を聴くようなだだっ広い空間などではなく、小さなカフェとかライヴハウスとか、まさに作り手と聴き手が、膝を突き合わせ、お互いの息遣いを聴きながら、ほとんどサウンドスケープと言ってもいいような希薄な音楽空間が展開される狭い空間にこそ似つかわしい。

     いや、そりゃボサノバをやってるミュージシャンが曲を書いてプロデュースしたアルバムなんだから、こうなるのは当然だろうという話はあるかもしれません。ボサノバという音楽は、その一面、ひたすら「頑張らない」音楽でもあるのですから。

     そんな狭さの中で、原田知世は、でも、何と自由にふるまっていることでしょうか。いや、やっぱり表現の幅は狭いのです。決して「歌い上げる」なんていう場面はなく、高音は大体全部がファルセットになって、風船が空へと飛んでいくかのように目の前から揮発していく。まさかドスの効いた低音なんてのも一切ありません。小学生の頃、音楽の先生から、歌を歌う時は「お腹から声を出せ」と言われていましたが、知世ちゃんは学校でそうは習わなかったのかな?と言いたくなるくらい。

     しかし、その代わりに、彼女の体は完全に脱力している。幼少の頃からバレエで鍛えた彼女のしなやかな体と同じように、どんな音でも、どんな言葉でも、彼女の頭と心に湧いたイメージを、何の障害物もなく、そのまま聴き手へと放つことができるような柔らかさがある。きっと声帯もリラックスしているのでしょう、声の伸びやかさが素晴らしい。

     また、彼女の音楽の表現の「狭さ」は、彼女の音楽へのイメージの掴み方に起因しているような気がします。彼女はそれぞれの曲のもつ景色を、まず全体として、まるで絵を見るかのようにスタティックなものとして捉える。そして、歌詞の言葉は何かドラマを生むためのトリガーとなる動的なものではなく、彼女が見た絵のディテール、あるいはパズルのピースのようなもの。歌うということは、音も言葉を、あらかじめ決めた絵に「置いていく」ような作業なのかもしれない。

     そして、今の彼女はその作業をとても楽しんでいる。心の中にあるものが、そのまま絵になり、風景になっていくことが楽しくて仕方がない。池澤夏樹の詞にあるちょっとざらっとした感触の言葉でさえもが、彼女自身の言葉として、自分の体から直接あふれ出ているかのように思えて、彼女は歌うことに深い喜びを感じている。そんな趣を感じる歌たち(全10曲)であり、アルバムです。

     そんな彼女の柔らかな声はやはり「狭い」ところで、静かに、大切に、慈しむように楽しみたい。だから、とても落ち着いたアナログな伊藤ゴローの曲作り、音作りは、原田知世の歌を、それぞれの曲の音の風景の中で楽器のように大切に大切に扱うことで、彼女の歌の「狭さ」を最大の武器に変えてしまっているようで、凄いなあと思いました。

     彼女はこれまで、素晴らしいミュージシャンと組んで来ましたが、とにかく今、伊藤ゴローという人とコラボレーションできているのはとても幸福なことなのではないでしょうか。

     10曲の中では、ちょっと昭和の歌謡曲のテイストのある、ちょっと物憂げな官能を感じる「うたかたの恋」がいいなと思いました。また、冒頭のさわやかな風のような「青空の月」もいい。それから「レモン」の「あまい思い出みつけたよ」というフレーズの甘さが私のツボで、これまた彼女の脱力した声がいい。池澤夏樹作詞の「名前が知りたい」もいい。全体に、アルバムのタイトルは「真昼の月」ですから、「月」と名の付く曲であっても、決して暗くない、明朗さが全体を支配していて、ちょっと日の出ている昼下がり、昼寝というよりシエスタのお供に聴きたいようなアルバムだと感じました。

     このとてもいとおしい「狭さ」に溢れたアルバムのおかげで、私はまた原田知世という人に強い魅力を感じるようになりました。今日見たテレビでも、彼女は本当に美しかった。正直なことを言うと、彼女が歌を歌い終わり、まっすぐにカメラを向いてニコッと微笑み、次の瞬間、ちょっと照れたように目線をカメラから外すようなとき、もう胸がキュンキュンしてしまって、こっちが恥ずかしくなってテレビの画面から目線を外してしまいました。。「ああ、こんなええ女が独身なんてもったいない。何なら俺が・・・」などと真剣に思ったりして、ええ歳こいたおっさんが何やってんのやろかと汗顔ものですが、でも、事実だから仕方がない。ともかく、また彼女のファンに正式復帰しようと思いました。

     しかし、しかしです。ああ何ということか、直近の彼女の東京でのライブはすべて完売ではありませんか。うむ。悔しい・・・。




















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    2019.08.15 Thursday

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      コメント
      はじめまして。
      ヤフオクに良いチケットがありますよ!
      http://page10.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/m120615054

      是非facebookファンページにいらしてください。
      https://www.facebook.com/tomoyolove
      • by omi_rena
      • 2014/05/11 10:52 PM
      「狭い音楽」ですか・・・いやはや卓見ですなあ。私は原田知世さんの音楽をずっと聴き続けてきた人間ですが、であるからこそ気付けない部分が有るのでしょうね。
      今回のアルバム、今ひとつ「何が良いのか説明出来ない」状態だったんですよ。
      確かに聴いてて心地よい。
      でも前作「eyja」のように「アイルランドまで行ってビョークのプロデューサーまで捕まえ音楽的冒険をした」みたいな分かりやすさはなかったんですよね。
      そう、今回の挑戦は「狭い世界」だったんでしょうねえ。

      >言葉を一つ一つ大切にして丁寧に歌っているのだけれど

      以前の知世さんは「歌詞は書いた時点で終わり。あとは聞き取れなくても楽器の一部として聴いて貰えれば・・・」なんて言ってたんですよ。
      こういう細かい違い、変遷に気付かせてくれた貴兄に感謝!です。




      • by けん
      • 2014/05/20 11:25 PM
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