【ディスク 感想】J.S.バッハ/無伴奏チェロ組曲第1,3,5番 〜 ディッタ・ローマン(Vc)

2014.08.07 Thursday

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     J.S.バッハ/無伴奏チェロ組曲第1,3,5番
     ディッタ・ローマン(Vc)(Hungaroton)
     →詳細はコチラ(Tower/HMV)




     今日は夜更かしをやめて早く寝ようと思ったのに、今日買ってきたCDを聴き始めたらあんまり素晴らしいので途中でやめる訳にいかず、そして何とかちょっとだけでもブログに感想を書いておこうと思い立って、今こうして文章を書いています。

     聴いたのは、フンガロトンからリリースされたハンガリーの若手チェリスト、ディッタ・ローマンの弾くバッハの無伴奏チェロ組曲第1集、奇数番の3曲が演奏されています。ローマンというチェリストについてはまったく名前を知らなかったのですが、ライプツィッヒでのバッハ・コンクールの優勝者との由、フンガロトンから4枚ほど室内楽のアルバムが出ていて、これが恐らくソロデビューとなるようです。デビュー盤からいきなりバッハかと驚くのですが、最近ではさほど珍しいことではないのかもしれません。

     さて、このアルバムを聴いて思ったのは、もうモダンだ古楽器だというような宗教論争みたいなことをしている時代は過ぎ去ったということです。いや、もうここ何年かの潮流として、例えばイザベル・ファウストやアリーナ・イブラギモヴァといったヴァイオリニストが実践しているようなモダンと古楽を高い次元で融合させようという動きが活発ですが、このローマンのバッハはそうした動きさえも超越していて、もうどちらでもない「スーパー・ナチュラル」なバッハを聴くことができます。特にピリオド奏法を意識したというような弾き方はしていませんが、かといって往年のチェリストのような「歌う」バッハは絶対に弾かない。もう旧約聖書だとか、聖典だとかいうような権威主義的な言葉とも縁を切った、ただただひたすら音楽の内面にだけ注目したような柔らかいバッハ。

     私はこういうバッハを待ち望んでいたのかもしれないと思います。いや、最近、そう思うようになったのか。勿論、私とてアマチュア・チェロ弾きのはしくれですから、そこそこのバッハの無伴奏チェロの聴体験はありますが、最近はどうも精神がヤワになってしまったのか、疲れているのか、聳え立つような偉容を湛えた歴史的名演の類はあまり聴けなくなってしまいました。それは聴けば聴いたで大いに感動するのでしょうが、あまりに非日常的すぎてしんどい。古楽系の楽しいバッハでも、あまりに饒舌すぎたりして疲れてしまう。

     そこへ来ると、このローマンのバッハの何と耳に心地よく優しいことでしょうか。何度も繰り返し聴きたくなるくらい。そして、ああ、こんな風に弾いてみたいと思う。派手さはないけれど、中身のつまった「いい音」、決して極端に走らないたしかな足取り、センスの良い上品なヴィブラート、まさに「ジャストミート」の長さのフレージングと、尖りすぎないアーティキュレーション。この心地よさを何に例えるかというと、まさに適温の風呂に入る時のような心持ちとでも言えば良いでしょうか(このたとえ、本ブログで何回書いたかわかりませんが)彼女がミクロシュ・ペレーニに師事したチェリストであるというのはとても納得のいくところ。あの神様に教えを受けたというのはまったくもって納得。

     のびやかですがすがしい第1番、落ち着きと躍動感が共存した第3番、暗さや重厚さから解放され森林浴でもしているかのような空気感が嬉しい第5番、どれをとっても、勢いのある若さと落ち着いた成熟が共存した私の好みの演奏です。テンポの早い舞曲、ゆったりした舞曲、どちらかに偏った適性を見せるのではなく、音楽全体として一貫した好ましさをずっと感じられるあたりが本当に素晴らしい。これは私にとってのとっておきの愛聴盤になるでしょうし、来月早速発売されるという残りの偶数番の曲たちを聴くのがとても楽しみです。

     正直、ジャケ買いなんかしてないよ、なんてことは言えないのですが、期待以上の素晴らしい演奏に私は満足です。こうなると実演を聴きたくなるというのが人情。是非、招聘して頂きたいです。



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