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【ライヴ 感想】純名里沙with笹子重治&佐藤芳明 (2014.08.29 横浜モーションブルー)

・純名里沙with笹子重治&佐藤芳明
 (2014.08.29 横浜モーションブルー)








 横浜は赤レンガ倉庫にあるモーションブルーで、純名里沙のライヴを聴いてきました。ここ2年くらい、彼女が一緒に音楽活動をしているギタリスト笹子重治と、アコーディオンの佐藤芳明 の3人のユニットでの演奏。

 純名里沙は何と美しい人だろうと見惚れながら、何といい歌だろうかと聴き惚れた、ということに尽きるでしょうか。ライヴが終わって数時間以上経つ今でも、目に焼き付いた彼女の姿を思い浮かべるだけでうっとりとしてしまうし、心に刻み込まれた彼女の歌を脳内再生して胸が躍ってしまいます。

 純名里沙という人は、「言葉」を大切にする人だなと思いました。日本語でも英語でも、とにかく一つ一つの言葉をはっきりと発音し、その意味に合わせて濃やかな表情をつける。几帳面というか真面目というか、いや、もしかしたら、大袈裟というくらいにはっきりと感情をこめて言葉を発音する。とても深く響くけれど決して品位を失わない低音から、透明感を損なわないままに伸びる高音まで、そして、囁くようなウィスパーボイスから、大きな会場でも十分に届くくらいのピンと張ったフォルテまで、まあどれだけこの人はたくさんの引き出しを持っているのだろうかというくらいに多彩な表現を聴かせる。声の質の不均一さえも計算に入れて、旋律と言葉が分かちがたく結びついた状態で歌う。さほど大きくない会場に合わせ、どちらかというと抑えた表現を多用しているのだけれど、常に表情や表現が痩せない。

 これぞまさにプロの歌。ライヴ開始直後から少しの間は音程がとりにくそうだったけれど、声があたたまって安定し始めた。まったくキャラクターの違う歌のそれぞれの世界に誘われ、うっとり、じっくり、しっとりと聴きほれる。曲の内容に合わせて様々な表情を見せる彼女の姿に、ただただ見とれる。

 「里沙ワールド」の中でデレデレの中年オヤジになりながら、ああ、この人は根っからの「女優」なのだろうかと思いました。しかし、やぱり彼女は歌がいい。根っからの「歌手」でもある。ならば「女優のように歌を演じる歌手」というのが正確なところだろうかと思いました。

 だから、歌っている時は、完全に彼女は歌そのものになりきっている。道ならぬ恋を歌うミュージカルナンバーを歌えば感極まって涙ぐむ。お、もしかして彼女は今そんな恋に身をやつしているのか?と思ったら、一瞬にして表情が切り替わって、いつもの快活な純名里沙に戻ってしまう。ああ、あんなに切実に響いた歌だったけれど、あれは「演技」だったのかと思い至る。
 
 一体どれが本当の彼女なんだ?と思わずにいられないのですが、きっとどれもが本当の彼女なのでしょう。彼女自身がラジオのような受信機となり、それぞれの歌の世界にチャンネルを合わせてしまえる。歌っている間はその歌の内容こそが彼女にとっての「真実」となる。彼女自身の存在を歌の世界の中に溶け込ませ、歌を演じることで、彼女という存在の「核心」を表現できる。

 そんな印象を彼女の歌から受けました。もしかしたら、こういう歌は、今の世の中では主流とはなりにくいかもしれない。今は歌詞は前向きポエムを垂れ流す「引っかかり」のない歌が受けるのですから、歌の中にある言葉を重視するような歌はあまり好まれないのかもという気がします。

 でも、そうした歌は、彼女と同世代の私たち、あるいは、その上の世代の人たちにとっては、余り聴くことのできない、とても貴重なもの。男女問わず、彼女のひっかかりのたくさんある、意味をたくさん含んだ歌に親しんできたし、そういう歌を必要としている。しかも歌っているのは日常的に見ることが不可能なくらいに美しい人。

 ああ、何と美しくて、何と愉しい時間を過ごしたことでしょうか。いつまでも彼女が歌う世界に浸りながら、美しい彼女の表情を見ていたかった。

 ユニットを組んだ2人のアーティストも素晴らしい。ショーロクラブやコーコーヤのメンバーとしての笹子重治の音楽はこれまで少しは聴いてきましたが(主にOttavaを通して)、ナマで聴くことができて良かった。全然声高に存在を主張することはないのだけれど、純名里沙の歌にパルスを与え、彼女自身の歌を巧みに引き出す。一瞬の音程のブレにそっと合わせてしまうようなところも含め、これもまさにプロの技。

 佐藤芳明のアコーディオンも、どこかに哀愁を感じさせる音色と、洗練された音使いが魅力的。トークもなかなかにぎこちなくて、純名里沙にいじられていて面白かった。けん玉もうまかった。

 曲は何曲くらい歌ってくれたでしょうか。すべての歌が印象的と言って良いですが、特に印象に残ったのは、例えば武満徹の「島へ」、ラストで「反戦歌」ですと紹介して歌った「一本のエンピツ」でしょうか。特に後者は、今、世界がこういう状況ですから胸に響きました。いい歌でした、ほんとに。他に彼女のオリジナル「月の庭」も良かったし、ミュージカルナンバーも素晴らしかった。「黄昏のビギン」は最近薬師丸ひろ子が歌うのを聴いて気に入りましたが、純名里沙の歌も良かった。

 これだけ器用に音楽そのものを演じ切れてしまう彼女は、現実の生活では、特に男にとっては「扱いづらい」存在なのかもしれません。これだけの美貌ですし、私などからすると高嶺の花です。でも、歌い手と聴き手として、ほんの2時間近い間、同じ時間と空間を共有し、音楽を通してたしかに触れ合い、交差できた。とても非日常的で幸せな時間でした。

 純名里沙がこれからも歌手としての活動を続け、ライヴは勿論のこと、CDも出してくれることを希望します。そして、「歌を演じる」ことで、私たちに幸せな時間を共有してほしいと思います。

 感想、終わり。
 

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  • 2017.03.01 Wednesday
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