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【演奏会 感想】イリーナ・メジューエワ ピアノ・リサイタル(2014.10.29 代々木上原ムジカーザ)

・イリーナ・メジューエワ ピアノ・リサイタル
 (2014.10.29 代々木上原ムジカーザ)








<<曲目>>
・モーツァルト/幻想曲 ハ短調 K.396 
・モーツァルト/ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K.330 
・ショパン/ノクターン ト短調 作品15-3 
・ショパン/バラード 第3番 変イ長調 作品47 
・ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ 
・ラヴェル/ソナチネ 
・ラフマニノフ/プレリュード(5曲) 
 - 嬰ト短調 作品32-12 
 - ロ短調 作品32-10 
 - ハ短調 作品23-7 
 - ト長調 作品32-5 
 - 変ニ長調 作品32-13
(アンコール)
・ラフマニノフ/リラの花


---

 演奏会前半のプログラムの最後、ショパンのバラード第3番の素晴らしい演奏に圧倒されて体が火照ってしまったので、休憩時間に入り、会場の外に出て夜風に当たろうと思いました。すると、出口を出た瞬間、私の横を二人の姉妹が駆け抜けていきました。姉は中学生くらい、妹は小学校低学年というところでしょうか。お姉ちゃんが妹に向かって、「ああ、私もいつかバラードをあんな風に弾けたらなあ!」とほとんど叫ぶようにして言っていました。妹さんも何か答えていたようですが、ものすごいスピードで走り去ったのでよく聞こえませんでした。

 そのショパンを演奏をしていたイリーナ・メジューエワさんは、最近は、京都芸大で教鞭もとっていて、まさに次の世代の音楽家たちを育成している教育者ですが、彼女の本分である演奏家としても、音楽を伝えていくという役割をとても立派に果たしておられるのだなあとつくづく感じる瞬間でした。

 自分が心をこめて奏でた音楽が、世代を超えて確実に伝わり、次の世代の憧れの対象となり目標となる。自分にとってかけがえのない音楽が、少しずつ形は変わっていくかもしれませんが、新しい時代へと確実に受け継がれていく。そんなふうに世代間の橋渡しを担うということは、歴史に名を刻むということでもあるのですから、音楽家冥利に尽きるのではないでしょうか。

 今日、代々木上原のムジカーザで聴いたメジューエワさんのリサイタルは、イデアミュージックという、若手音楽家を育成している教育機関が主催したもの。イデア・ミュージック・アカデミーの代表である中西誠氏の師匠が、メジューエワさんの師匠にあたるウラジミール・トロップさんと親しいことから、メジューエワさんと長い付き合いがあり、それが今回の彼女の出演へとつながったのだそうです(メジューエワさん自身は、この会場で以前から何度も演奏会をなさっています)。

 演奏されたのは、モーツァルトの幻想曲、ピアノ・ソナタ第10番、ショパンのノクターンOp.15-3とバラード第3番、休憩をはさんで、ラヴェルの「亡き王女へのパヴァーヌ」「ソナチネ」、そしてラフマニノフの前奏曲5曲、アンコールにラフマニノフの「ライラック」。

 実は私は今日になるまで、この演奏会が開かれることは知らなかったのですが、彼女が最近CDを発売したばかりのモーツァルト(CDには未収録)が聴け、ラヴェルの名曲に、彼女が得意とするショパンとラフマニノフが聴けるとあり、仕事を途中で放り出して当日券で聴きました。

 冒頭で述べたショパンのバラード第3番と、ラフマニノフは、繰り返しになりますが、まさに圧巻としか言いようのない、大きな音楽でした。普段はこじんまりとした発表会などが行われるような小さな会場で、音響的にもなかなか厳しい環境だったので、完全に彼女の音楽が、会場からはみ出してしまうかのような印象を持ちました。見栄え良く弾き飛ばしたり、甘ったるいムードでお茶を濁すようなことを厳しく戒め、すべての音を克明に、刻みこむように弾く彼女の強靭な姿勢はいつも通りなのですが、何度も弾きこんでいくうちに、もはや彼女が音楽と同化してしまったかのような「一体感」があって、ほとんど「凄み」を感じるような場面が随所にありました。

 特に、プログラムの最後ということもあって、ラフマニノフの前奏曲の5曲目の最後、変ニ長調の和音が、高い音から低い音まで、これでもか、これでもかと打ち鳴らされる時、聳え立つ大聖堂(もしかしたらロシア正教会)を見上げるかのような思いでした。そう、同じ作曲家の書いた合唱曲「晩祷」が、例えば、御茶ノ水のニコライ堂で歌われ、その強烈な響きが御茶ノ水一帯に響き渡っている、そんな光景を思い起こさずにはいられないような。ショパンも、まるで交響曲1曲分聴いたような充実感溢れる、スケールの大きな音楽をまさに堪能しました。

 先日、最新盤でも素晴らしい演奏を聴かせてくれたモーツァルトは、ソナタが強烈な印象を持ちました。音楽の変化点を的確にとらえ一瞬にして音色も空気も変えてしまい、絶妙の「ゆらぎ」を抽出してみせる手腕は、実演で聴くと尚更鮮やかに感じられます。「フィガロの結婚」や「コシ・ファン・トゥッテ」の闊達なレシタティーヴォのような「おしゃべり」が聴こえてくる両端楽章、どこまでもクリアで解像度の高い硬質な音楽でありながら、ほんのわずかな翳りの中から作曲者の「心の声」のようなものを感じさせてくれる緩徐楽章、いずれもメジューエワさんのモーツァルトでありつつも、モーツァルトの音楽のとても本質的なところに触れたという喜びに包まれながら聴きました。幻想曲も、きりりと引き締まった造形が美しく、前半、音階だけでできあがったような音楽から、いろいろな色や景色を見せてくれていて引きこまれてしまいました。

 ラヴェルの2曲は、彼女のドビュッシーもそうなのですが、外見はかなりユニークです。手触りがゴツゴツしていて、過剰なくらいに克明で、いちいち音の「仕組み」「仕掛け」がはっきりと可視化されている。印象派とか、おフランスの音楽とか、そんなものはクスリにもしたくない辛口の演奏。私が日頃聴いているラヴェルの演奏とは余りにも相違点が大きい気がする。でも、ちょっと待て、彼女の演奏は、本当はユニークなんかじゃなくて、これが正統なのであって、他の演奏が、ラヴェルの音楽をもっとアバウトに取り扱っているだけなのかもしれない、と思わずにはいられないくらいに切実な「真実」をもった演奏だったと思います。その意味で「パヴァーヌ」以上に、「ソナチネ」が印象的でした。この「可愛らしい」音楽が、こんなにも立派な内容をもった音楽だったのかと驚きました。特に第3楽章の精巧な音の仕掛けのまあ面白いこと。

 アンコールのすがすがしいロマンはとても良い余韻を残してくれました。

 全体を振り返ると、やはりメジューエワさんの演奏自体は去ることながら、彼女の厳しくも美しい音楽へのあり方、関わり方、姿勢に感動せずにいられなかったと言えます。ただ楽しいだけではない、厳しい音楽の追求をその根底にもった演奏は、強いです。

 休憩後には、メジューエワさんと、前述の中西氏とのトークがありました。主に音楽教育についてのお話でしたが、とても興味深い言葉がたくさんありましたので書き留めておきます。

・日本の音楽を学ぶ学生はまじめで熱心、一所懸命音楽をやっていて驚く
・しかし、シューマンのピアノ曲を学ぶ学生が、シューマンの交響曲がいくつあるかを知らないというようなことは結構あってショックを受ける
・ロシアでは音楽は芸術の一分野、音楽以外の芸術への理解も深めることが求められるが、日本の若い学生さんたちは音楽だけ、ピアノだけにしか興味がないという傾向が強い
・個性というのは出そうと思って出せるものじゃないし、隠そうと思っても出てしまうもの。何より大事なのは音楽であり、その楽譜にこそ音楽がある。楽譜をしっかり読んで演奏すれば個性はあとからついてくる。
・日本には素晴らしい伝統芸能がある。80歳、90歳になっても義太夫の達人は、何年も何年も同じ本を使い、それを「型」として使いこなしながら、いつも自分のやっている「型」へのリスペクトを忘れない。
・楽譜は「型」。これがないと演奏家は成り立たない。一番大事。義太夫の方のように「型」を大切にしたい。

 演奏会終了後、彼女のCDにサインをしてもらいました。間近で見るメジューエワさんは、舞台で見るより小さくて、やっぱり可愛らしいチャーミングな女性でした。恥ずかしかったのですが意を決して自己紹介をし、ほんの一言二言ですが会話をしました。憧れのメジューエワさんと言葉を交わせた喜び、そして、何よりも素晴らしい音楽を聴いた幸せに頬が緩ませ、、ほくほくと温かい気分で、肌寒さも何のその、家路を急ぎました。

 休憩の時、「私もいつかは」と叫んでいた女の子は、将来、どんな人になるのでしょうか。もしかしたら彼女の演奏会を老いた私が聴くのかもしれないし、彼女は地域の音楽の裾野を広げていく先生になるのかもしれないし、いや、ごく普通のアマチュアとして音楽を楽しむ人になるのかもしれません。でも、きっと、彼女にとって、今日聴いたメジューエワさんのショパンが、もしかしたら一生忘れられない宝物になるのかもしれません。ベートーヴェンの言葉を借りれば「心より出でて 心へと伝わる」、今日、私が聴いた音楽がそうであったらいいなあと心から思います。

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  • 2017.06.25 Sunday
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