【ライヴ 感想】"noon moon" Christmas Special Live 2014 〜 原田知世 (2014.12.19 恵比寿ガーデンホール)

2014.12.20 Saturday

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     ・"noon moon" Christmas Special Live 2014
      原田知世(Vo) 伊藤ゴローほか
      (2014.12.19 恵比寿ガーデンホール)







     恵比寿のガーデンホールで、原田知世のライヴを聴いて来ました。5月に彼女が5年ぶりにリリースした"noon moon"でバックを務めている伊藤ゴロー始めとするミュージシャンがそのままバンドとして参加、"noon moon"の曲を中心に聴かせてくれました。

     "noon moon"の感想でも書いたのですが、私は高校生の頃、彼女の大ファンでした。今回の新盤を聴き、そして時を同じくして彼女が出演したNHKの歌番組を見てとても好印象を持ったことで、彼女への関心が再燃していたところ。いつか彼女の実物をちゃんと見て、彼女の歌を聴きたいと思っていたのですが、たまたま今日のライヴのことを知り、チケットがまだ少しだけ残っていたので慌ててチケットを購入し、喜び勇んで駆けつけたのです。

     休憩20分を挟んで正味1時間半くらい、彼女の歌を聴いていて、一つとても腑に落ちたことがあります。

     原田知世というと、ここ何年かインスタントコーヒーのCMに出演しています。庭仕事やら家の片づけ、あるいは育児の手を休め、コーヒーやカフェオレを飲んで「ホッとする」というシチュエーションのものがほとんどで、その時の満足げな彼女の表情がとても印象的ですが、ああ、このCMを作っている人たちの気持ち、すごく分かるなあということでした。

     彼女の歌を聴いて、何だかそれだけで心が柔らかくなって、気持ちも和らぐのです。そりゃそうです。彼女のいい具合に脱力した、そして決して声を張り上げたりしない「いい塩梅」の歌声はただただ心地良い。ヴィブラートをかけて朗々と歌って聴取を圧倒しようとか、ウィスパーヴォイス(最近は死語ですが)で聴き手の官能を刺激しようとか、そういう企みなどはまったくないひたすら透明で作為のない歌は、アルバムの感想で書いた通りにレンジがとても「狭い」のですが、その代わりに胸にすっと沁みわたるような不思議な力を持っています。

     そして、そんなひたすらに柔らかい歌を歌う彼女の姿もまた柔らかい。それを見ている私は言えば、彼女の立ち姿の「美しさ」に見とれてしまって、完全に思考停止していたというのが正直なところなのですが、それは「いい女」を見ているという感覚ではありません。ただひたすら、彼女の醸し出す柔らかな雰囲気に包まれて、社会人として生きていくために身に着けている鎧や仮面をどんどん外して、ただ一人の何にもない空っぽの人間に戻れているという感覚が嬉しくて、そこにずっと浸っていたというのが正確なところ。間違っても、欲望を掻き立てられるようなことはありません。こちらのオスとしての戦意を喪失させ、ただ武装解除して、ゆったりした心地良い時間を共有することに専念できる。そこがこの原田知世という人のユニークなところだし、それが、男女問わず誰にも同じように感じられるものだから、「ホッとする」時間を演出するCMに彼女を起用するなんていうのは、もうこれ以上ないというくらいにバッチリな人選なんじゃないかと思うのです。

     言葉として適切でないことを承知の上で言いますが、この原田知世という人は、まったくユニークな「素材」なのだろうと思います。彼女に何かを着せたり、脱がせたり、飾り立てることでは彼女の存在は生きない。むしろ壊れてしまう。その「素材」を、そのまま、何も付け加えず、何も引かずに、ただそこで歌い、彼女がその「素材」として生き生きと振る舞えるように周囲が最高のお膳立てをすればいい。

     彼女を花に譬えるなら、フラワーアレンジメントとか、生け花とか、花自体に何か手を加えてしまうと、その美しさを実感することがまったくできなくなってしまう花。その花が咲いているところにこちらが近寄っていて、その周りをシンプルに美しくし整えてこそ、その花がもっている「美」が意味を持つ。だから、バックバンドの伊藤ゴロー始めとする一流ミュージャンは、高山に咲いている珍しい花の写真を撮る時に、どういう角度で、どういう景色をバックに撮るか、そこに最高のセンスや技術を駆使する写真家のように、「何もしない」「ありのままの」彼女が最高に映える音楽を奏でる訳です。これはプロミュージシャンとしては、とても難しくて、でもとても報われる、クリエイティブな行為なのではないでしょうか。バックの人たちが、とても楽しそうに、そして非常にレベルの高い音楽を聴かせてくれたのは、そのことを証明してくれている気がします。

     勿論、バンドのそうした意志は原田知世にも伝わっていて、彼女自身もただただ彼女自身であることを楽しんでいるというような幸せな歌を歌う。正直言うと、彼女自身は、「ミュージシャン」ではないと感じています。とても音楽の趣味の良い人だし、声質もとてもいいものがあるとは思いますが、トレーニングで鍛え上げた歌を聴かせるだとか、聴く者を圧倒してしまうような天性のテクニックを披露するという場面はない。しかし、彼女の稀有な「存在感」は、その「欠如」を補って余りある。プロのミュージシャンはそれによって激しく刺激され、腕をふるわずにいられないのでしょう。彼女とバンドとの良い相乗効果が、実にホッとするような柔らかであたたかい時間を生み出し、私たち聴き手をすっぽりと包み込む。そんな正味90分のライヴだったのではないでしょうか。

     池澤夏樹作詞の「名前が知りたい」も良かったのですが、目下、彼女の歌で一番好きな「うたかたの恋」が聴けてうれしかった。このマイナーコードの80年代歌謡曲の雰囲気をもったレトロな歌は、すっかり忘れ去ってしまった恋などという感情を呼び起こしてくれるのですが、でも、それは落ち着いた、オトナの感情なので、胸が締め付けられるとかいうものではなく、むしろ心を活性化させてくれるような柔らかさがいい。

     そして、鳴りやまない拍手に応えて2回行われたアンコールの最後、伊藤ゴローのアコギ伴奏で歌った「時をかける少女」は、やっぱり良かった。キーを下げてボサノバ調で歌っているので、あの私が彼女に熱を上げていた頃の歌とは随分と印象が違うのですが、下手にこちらのノスタルジーを刺激しないのがいい。私たちファンの嫉妬心を掻き立てた高柳良一や尾見としのりの姿も、ラベンダーの花咲く温室や尾道の風景も、そして、高校生の頃の自分のことなどはまったく頭に浮かばず、今の原田知世と今の私で聴けた。それが嬉しかった。もしそうじゃなかったら、下手をすると「時をかけたおばちゃん」の過去の栄光を懐かしむ残念なおっさんという「悲しいくらいほんとの話」に泣いてしまったでしょうから。

     原田知世と、たくさんのファンとともに、とても幸せな、とてもあたたかい時間を過ごすことができました。また彼女のライヴ、是非是非聴きたいと思います。

     今日、彼女の口からは、来年春ごろを目指してニューアルバムを制作中であることが告げられました。今回は久々のカバーアルバムということで、バックバンドも今回と同じ面子だとか。どんな曲を歌うのかは教えてもらえませんでしたが、これはとても楽しみです。また、来週25日には彼女が出演したNHKのドラマ「途中下車」が放送ということですから、彼女のファンに復帰した私としては必見ということになります。


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    2019.05.08 Wednesday

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      コメント
      はじめまして。
      私もライブに行きました。

      facebookのファンページに
      是非いらしてください。
      https://www.facebook.com/tomoyolove
      • by 小手 重臣(おで しげおみ)
      • 2014/12/20 11:48 AM
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