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【ディスク 感想】ムソルグスキー/展覧会の絵ほか 〜イリーナ・メジューエワ(P)

 ・ムソルグスキー/展覧会の絵、ラフマニノフ/前奏曲ほか
 イリーナ・メジューエワ(P) (若林工房)
 →詳細はコチラ(Tower)




<<曲目>>
・ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」
・ラフマニノフ/断片 変イ長調(1917)
・ラフマニノフ/プレリュード(ピアノ小品) ニ短調(遺作)
・ラフマニノフ/プレリュード ハ短調 作品23の7
・ラフマニノフ/プレリュード ロ短調 作品32の10
・ラフマニノフ/プレリュード ト長調 作品32の5
・ラフマニノフ/プレリュード 嬰ト短調 作品32の12
・ラフマニノフ/プレリュード 変ニ長調 作品32の13

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 先日、「チューリッヒ美術展」を見てきました。ゴッホ、セザンヌ、モネ、ココシュカ、ピカソ、シャガール、ホドラー、モンドリアン、クレー、ロダン、ジャコメッティといった人たちの名作がずらりと並んだ壮観なもので、とても楽しかった。特に、シャガールとココシュカの絵を前にした時には、まさに魂が揺さぶられるような体験をしましたが、モネの「ノルマンディーの藁葺きの家」を見た時に、とても驚きました。



 この絵には「リズム」があると思ったのです。絵画というのは、ただ画家が切り取った一瞬のスナップショットなのではなくて、そこには「時間軸」が存在している。その時間軸の中で、人や景色は動いていて、時間軸は自由に過去と現在と未来を行き来している。そうした動きの中には、その画家自身の持っている脈動があり、絵固有のリズムを作っている。

 件のモネの絵をじかに見ると、その筆致には明らかにムラがある。一筆の間で強弱や濃淡が変化していて、それが描いている対象の持つ生命の脈動、リズムを表現している。池を描く筆の不均一なタッチが夥しく積み重ねられることによって、風で波紋ができたり、周囲の景色を映し出したりしている水面の描写となり、それはただの描写から「表現」へと昇華される。同じように、木々のまぶしいくらいの緑のざわめき、そびえたつ木の幹のたくましさが自然の生命のリズムを表現し、柔らかなタッチの藁葺屋根が自然の中に溶け込みつましい生活を送る人たちの生き様を映し出す。いまここに、モネが景色を見た時の感動のようなものが、私の中で新しく生まれてくる。これは本物の絵を間近で見ないと、例えば画集やネットで見ても絶対に感じることのできないものであって、ああ、見に来て良かったと涙を流さんばかりに感謝の念が巻き起こりました。

 ちょっと待てよ、ああ、この感覚、ついこの間何かで感じたぞと思いました。それは、イリーナ・メジューエワの新盤、「展覧会の絵」とラフマニノフの作品を集めたディスクを聴いた時に感じたものと共通したものだったのです。

 「展覧会の絵」は、友人の死後に開かれた展覧会を見たムソルグスキーが、その絵にインスピレーションを受けて書いたものですが、やはり私は音楽を聴いた訳ですから、モネの絵を見た時の感覚と、「展覧会の絵」という音楽を聴いた時のそれが同じというのはおかしいのですが、しかし、やはり両者に接して私の中で巻き起こったものに大きな共通点があることは間違いない。

 その共通点が「リズム」なのです。音楽なんだからリズムが感じられるのは当たり前なのですが、チューリッヒ美術館展で絵を見ている時に絵に「リズム」があるという思いを得たことで、モネの絵を見た時tと、メジューエワの弾く「展覧会の絵」を聴いた時に、相通ずる感覚を得られたことに対して私はとても腑に落ちたのです。

 そう、メジューエワの演奏する「展覧会の絵」そして、ラフマニノフの小品(前奏曲6曲、断片1曲)から、「リズム」をとても豊かに感じ取ることができたのです。それは単に小気味の良いリズム感だとか、テンポがいいとかそういうことではない。作曲家のもつ固有のリズム、あるいは、作曲者に霊感を与えた絵画の持つリズムが強烈に表現されているということです。

 例えば、「展覧会の絵」の「ブイドロ(ライナーノートではビドゥオと訳出)」を聴けば、大体の方は私の言っていることの意味を理解してもらえると思います。このブイドロは、原画が失われているので、ムソルグスキーの盟友だった画家がどんな絵を描いたかは不明なのですが、「2頭の牛に引かれた巨大な車輪のついたポーランドの荷車」が描かれた絵であるということから、まずは重い荷車をよろめきながら引っ張る牛の不均一で重い足取りが音になっているとされる訳ですが、このメジューエワほどにインテンポの中でよろよろとよたっている牛の歩調が見事に表現された例を今まで聴いたことはありません。しかも、それはただの「牛車」の生々しい表現ではなくて、同じ作曲家のオペラ「ボリス・ゴドゥノフ」に出てくるロシア民衆を想起させるような、もっと抽象的なものを表現したものであるかのように感じ取られる。あるいは酩酊してなかなかまっすぐに歩けないムソルグスキー自身や、やはり「ロシア人」のメタファーになっているのかもしれない。

 「卵の殻をつけた雛たちの踊り」での何となくぎこちない雛の動き、「サムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ」でのブツブツと独り言を言いながら金持ちに屈服するユダヤ人シュムイレの卑屈に揺れる口調、「こびと」で不気味に蠢く何者かの動きなど、挙げればキリのないほどにこの曲のもつ独特のリズムを明らかにした演奏はかつてあっただろうか(私自身がどれくらいの数聴いたかは憶えていませんが)と思ってしまいます。

 そんな圧倒的な描写力をもったメジューエワの「展覧会の絵」を聴いていると、ムソルグスキー自身、友人の画家ハルトマン、そして絵の中に描かれたものの「リズム」が複雑に交錯したものに触れて、私はとても刺激を受けました。ある時は、絵の中の人物や動物が目の前で動き回るのを見るかのように感じ、ムソルグスキーという作曲家の内面のリズムを体感するかのように感じ、あるいは、メジューエワという演奏家のもっているリズムを身をもって体験しているような気分になる。

 ラフマニノフの音楽は、「展覧会の絵」のような標題音楽ではありませんが、やはりメジューエワの演奏からは作曲家自身のもつリズムのようなものを強く感じずにはいられません。ラフマニノフという作曲家の息遣いや呼吸、鼓動、そういったものが音楽を通して完璧に表現されている、そこに私は心の底から感動しました。

 これこそ、メジューエワの演奏こそ、まさに「再現芸術」なのではないかと思います。音楽のもつリズム、作曲家のもっているリズムを、まずは自分のフィルターを通して感じ取り、それをちゃんと音にして表現し、聴き手に届けるという行為が、まさに再現芸術。誰もがその再現芸術の神髄、醍醐味を感じさせてくれるような演奏を聴かせてくれる訳ではありません。しかし、このメジューエワは、その「核心」のようなものに触れてさせてくれる。チューリッヒ美術館展でモネの絵に出会った時に得られたものを、音楽という私にとってはとても大切なものを通して強烈に自覚することができたので、私の中まさに「目から鱗」の体験だったと言えます。

 彼女にとっては3回目(2004、2012年録音、後者は未聴)となる「展覧会の絵」ですが、今回のディスクは、彼女の最近の著しい深化を如実に刻み込んだアルバムとして、私は長く愛聴することになるだろうと思います。何と素晴らしい演奏なのでしょうか!!

 メジューエワは先日、横浜みなとみらいでのリサイタルで、「展覧会の絵」を披露しました。私は生憎演奏会は聴きに行けなかったのですが、聴いた家族によるとそれはそれは素晴らしい演奏だったと聞きました。地団太踏んで悔しい思いをしました。また機会があれば、できれば大ホールでこの曲を取り上げてほしいと思っています。

・イリーナ・メジューエワ 京都リサイタル2014
 →詳細はコチラ(Tower)





 メジューエワさんの次回作が12/25に発売。これは私が10月末に東京で聴いたのと同一プロですが、スタインウエイのCD-135(1925年ニューヨーク製)というヴィンテージ楽器を弾いていることもあって、実に味わい深い演奏になっています。これもまた感想を書きたいと思います。素晴らしいです!!

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  • 2017.06.25 Sunday
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