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2019.08.15 Thursday

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    【演奏会 感想】オルガ・シェプス ピアノ・リサイタル(2015.01.26 日経ホール)

    2015.01.27 Tuesday

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       ・オルガ・シェプス ピアノ・リサイタル
       (2015.01.26 日経ホール)






      <<曲目>>
      ・ショパン/バラード第1番
      ・ショパン/ピアノ・ソナタ第3番
      ・ラフマニノフ/コレルリの主題による変奏曲
      ・プロコフィエフ/ピアノ・ソナタ第7番「戦争ソナタ」
      (アンコール)
      ・グルック/「オルフェオとエウリディーチェ」より「精霊の踊り」
      ・チャイコフスキー/四季〜5月
      ・ショパン/夜想曲第8番


      ---

       以前、吉田秀和氏だったと思うのですが、演奏家は実際にナマを聴いてみないことには本当のところは分からないと書いておられたのを読んだ気がします。当たり前と言えば当たり前のこととも言えますが、ある程度の期間、ずっと音楽を聴いてきて、いやいや、ディスクでもかなりのことが分かるぞと思ったりもしていました、今日までは。

       しかし、初来日したロシア出身のピアニスト、オルガ・シェプスの東京での初日公演を聴いて、吉田氏の言葉がまったくその通り、やっぱり実演を聴いてみないと分からないということを猛烈に実感しました。

       このシェプスは、デビュー以来リリースされた4枚のCDはすべて持っていて聴いていました。何しろ大変な美人ですから。それらを聴いての私の彼女の印象は、折り目正しく、小品をきちんとまとめるピアニストというものでした。エキセントリックな表現に走ることもなく、とても着実に音楽をやるところに好感を持ちましたが、彼女の刻むリズムはどちらかというとスクエアで生硬なものに思えて、聴いていて余り強い印象を持ったというところまではいきませんでした。特にショパン。丁寧に丁寧に弾いているのですが、それ以上の感想が持てませんでした。それに比べると彼女の故郷であるロシアの作曲家の作品を集めたアルバムはもっとのびのびと弾いていて良かった。しかし、全体的には、「可愛らしいお嬢様系ピアニスト」というのが彼女への印象でした。

       そして、今日の演奏会の前半で彼女が弾いたショパンのバラード1番とピアノ・ソナタ第3番も、そうした彼女へのイメージを覆すようなものではありませんでした。確かに、どの音も几帳面に弾いていて、指もよく回るし、決して弾き飛ばしたりしない誠実さ、清潔さは彼女の美質として感じました。特にソナタの第1楽章の第2主題のリリカルな旋律や、第3楽章の静謐な響きはなかなかのものですし、第4楽章の堅牢な音の組み立てにも目を瞠るものはありましたが、全体に、彼女がショパンの音楽に見出している「核」のようなものが何なのかはあまり良く分かりませんでした。バラードは、こじんまりしていて、音楽に葛藤が感じられず、もっと彼女の内側から迸るものがあっても良いと思いました。ソナタの第1楽章も、音楽の区切りをはっきりと示すのは良いにしても、そこを貫く強靭な「芯」のようなものが感じられないので、音楽がバラバラになって、部分の関連があまりよく分からなかった。これだけ確かなテクニックを持っているのにもったいないな、と思いました。ただ、明らかに彼女が緊張していたバラードから比べると、ソナタは尻上がりに音楽の充実度が増していたので、後半に期待をかけることにしました。

       すると、どうでしょうか。後半にラフマニノフの「コレルリの主題による変奏曲」と、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番を弾いた彼女は、前半とはまったく別人のようでした。これまで聴いてきたCDのシェプスとも違う。

       正直言って、度胆を抜かれました。椅子をピアノから離し、長くてしなやかな腕がまっすぐに伸びるくらいの位置で弾き、背筋をピンと伸ばした状態で体重をかけて重量感のある打鍵を見せるのはショパンと同じですが、眩いほどに鮮やかで変幻自在の音色と表現を駆使して一つ一つの音に敏感に反応するさまは、まるで豹のような鋭い動き。

       特にプロコフィエフは圧巻で、乾いた抒情と、無機的と言って良いほどの「冷たい情熱」が、まったく巧まずして自然に表現されていました。しかも、それが決して聴き手を追い詰めるようなサディズムに陥ることもなく、音楽の「息遣い」を常に感じさせてくれるところがいい。ああ、これは彼女の「母国語」の音楽なのだと思いました。

       ラフマニノフも素晴らしい。本質的に彼女はヴィルトゥオーゾとしての資質をもった人であり、ありとあらゆる手練手管を使い、時には豪壮にピアノを鳴らし、時にはピアノから濃厚なロマンティシズムを孕んだ歌を引き出しながら、音楽のさまざまな色彩や表情を明らかにしていくことに長けている。しかし、その変幻自在な音楽を支えているのが、彼女の堅固な構築力であって、この変奏曲から見事な「ストーリー」のようなものを浮かび上がらせてくれる。もう聴いているのが楽しくて仕方がない。

       プロコフィエフのソナタで満場の拍手喝さいを受けた彼女は、アンコールに、グルックの「精霊の踊り」、チャイコフスキーの「五月」、そしてショパンの夜想曲第8番を弾いてくれました。これらはまた前半の彼女の姿に戻って、爽やかなリリシズムを身上とする音楽をやっていました。特にグルックとショパンでは、ほとんど極限までに音量を抑えた超弱音を美しく響かせていて、ああ、これはいい音だと思いました。正直言って、ホールのピアノがあんまり状態が良くないのか、ホールの音響が良くないのか、ちょっと彼女が可哀想なコンディションではありましたが、それでも自分の長所はちゃんと生かすあたり、やはり大した技量の持ち主だと思いました。

       ただ、ラフマニノフとプロコフィエフで射抜かれた後でしたから、彼女のこの「お嬢様路線」は、レコード会社の意図に沿って演じているものであって、ああいうヴィルトゥオージティを発揮できる曲を本当はやりたいんじゃないだろうかなんて思ったりもしました。でも、あれほどにものすごい弱音へのこだわりを見せている姿に接すると、彼女自身はロシア出身(早くにドイツ移住し、ドイツで教育を受けた)の「ロシアもののスペシャリスト」としてイメージが固定されてしまうのを嫌い、もっとユニバーサルでグローバルなピアニストとしての足場を固めたいと思っているのかなという気もしました。

       しかし、血は争えないというか、彼女がロシアもので聴かせてくれた適性は、やはり彼女のDNAにある「ロシア」ゆえのものではないのでしょうか。あれほどにのびのびと、あれほどに深く音楽に没入する姿には、繰り返しになりますが、「母国語」を喋る安心感というか喜びのようなものを感じました。

       もう一つ、彼女の演奏で面白いのは、彼女の演奏に、いわゆる「ロシア・ピアニズム」の流れはあまり感じないところです。ロシア人としてのアイデンティティを強烈に感じる演奏なのに、私がよく知るロシアの人たちの演奏から共通して聴きとれるものはあまりない。それが「欠如」だとはまったく思いません。とにかく違う。そこが興味深いです。

       とにかく、また最初に述べたことの反復になりますが、演奏家はナマで聴かないと実像は捉えられないものだということを今日は学びました。ギャップ萌えという言葉がありますが、まさにそれ。CDを聴いて抱いていたイメージを実演で見事に破壊されるという体験ができて、私は嬉しかったです。このシェプスはこれからも追いかけていきたいと思います。

      ■ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番第1楽章
       

      ■ショパン/夜想曲第8番


      ■ショパン/ワルツ第10番(アリス・紗良・オットとデュオ)

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      2019.08.15 Thursday

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        コメント
        初めまして、早速のコンサートレビューありがとうございました。
        私も後半のプログラム(特に戦争ソナタ)に魅かれました。戦争ソナタを目的に足を運んだのですが、彼女のCDを聴いているとどんなプロコフィエフ弾くのかピンとこない面もありました。確かにおっしゃる通り彼女の「母国語」としてのロシア作品が表現されていました。
        確かにこれから目が離せない人ですね。
        しかし、なんで美人演奏家だとクラオタが湧いて出るんでしょうか?演奏の素晴らしさに感激した後なので余計げんなりしました。
        日経ホールは何度か聴きに行ってますが、いつもいまいち聴衆側に難があります。


        • by V4マニア
        • 2015/01/27 1:16 PM
        ここに書き込むのは場違いとは思いますが…blog主様がお好きと過去に書いておられた曲について情報がありましたので、既にご存じかもしれませんが報告させていただきます。

        Facebookより
        横浜シンフォニエッタ - Yokohama Sinfonietta
        1月29日フィリアホール 横浜シンフォニエッタ第9回演奏会、ほぼ満席の盛況にて終演いたしました。ご来場、ご声援下さいました皆様に、心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
        なお、昨日のアンコール曲の提示に誤りがございました。

        クニャーゼフ氏のソリストアンコール
        J. S. バッハ 
        無伴奏チェロ組曲より
        第2番 サラバンド
        第1番 プレリュード

        オーケストラアンコール
        アザラシヴィリ(上田真樹編曲) 無言歌


        横浜シンフォニエッタは2/1に平塚で演奏会があるようですね。アンコールが同じ可能性も高いのでは?

        場汚しだったらごめんなさい。
        • by ktb
        • 2015/01/31 2:01 AM
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