2015年2月1日に聴いたヴェルディとバッハ

2015.02.02 Monday

0
    ・後藤健二さん Kenji Goto
     →Twitter
     →HomePage






     今日は辛いニュースがありました。湯川さんと後藤さんが殺害されたこと、本当に心が痛みます。夜にNHKスペシャルで放送されたISISについてのリポートを見て、この二人の日本人に限らず、これまで何人ものジャーナリストたちが殺され、それ以上にシリアなど中東各国で何万人もの無実の市民が殺され、傷つけられ、誘拐されて戦闘員にされ(子供までもが)、幸せだった日常が、恐怖と飢えに支配されていることを改めて思い知らされ、辛さが身に沁みました。勿論、私はそんな悲惨な状況を、人の死を、ぬくぬくとした自宅の安全な場所でただ傍観者として見ているだけですから、ただ哀しい、辛いと事態を嘆くことしかできない。

     せめて音楽を聴いて気持ちを落ち着けようとCDを聴き始めたのですが、最近よく聴いているアルバムにこんな曲があって、聴いていたら思わず落涙してしまいました。それはヴェルディの歌劇「マクベス」の中のスコットランド亡命者たちが歌う「虐げられた祖国よ!」という合唱曲です。第4幕冒頭に置かれた有名な合唱曲ですが、その歌詞を見ながら聴いていて、その言葉が余りにも今の状況とリンクするのです。以下、CDのライナーノートから引用します。

    虐げられた祖国よ!
    母なる祖国という 甘美な名で
    おまえを呼ぶことは もはやできない
    今や 祖国のすべては
    その子らの墓と化してしまった

    親を失った孤児たちの叫び
    夫や子を失い 嘆き悲しむ者たちの叫びが
    新たな夜明けの度に立ち昇り 天を揺るがす
    憐れみを感じた天は その叫びに応えて
    世のすべてに知らしめんと
    しているかのようだ
    虐げられた祖国よ おまえの苦悩を!

    弔いの鐘が 絶えず鳴り響く
    だが 苦しむ者や死にゆく者のために
    報われぬ涙を流す勇気を
    誰も 持ってはいない
    苦しむ者や 死にゆく者のために
    誰も 涙を流すこともないのだ

    虐げられた祖国よ!
    我が故郷よ おお祖国よ!
    (井内百合子訳)

    ■ヴェルディ/歌劇「マクベス」より「虐げられた祖国よ」
     ジェームズ・レヴァイン指揮メトロポリタン歌劇場




     シリアでの殺戮から逃れてトルコや近隣諸国に亡命している人たちの思いをそのまま代弁したような歌詞ではないでしょうか。ヴェルディが1865年にこの歌劇を改定してからちょうど150年が経つ今年になって、いや、シェークスピアがこの「マクベス」という戯曲を書いてから410年経つ今、まだこの歌詞がリアルなものとして響いて来るということ自体、まったくもって人間とは一体何だろうかと思わずにいられないことです。勿論、それはシェークスピアとヴェルディという天才のものした作品だからこそ可能なことと言えばそれまでですが、人間というのはまったく進歩などしていないのではないのかと暗然たる気持ちになります。

     これだけではまだ気持ちが鎮まらないので、バッハを2曲聴くことにしました。

     まずは、今日の東京文化会館でのリサイタルを後藤健二さんに捧げるとしたミーシャ・マイスキーに敬意を表して、彼が最初に録音した無伴奏チェロ組曲全曲アルバムから、第2番のサラバンド。深い祈りに満ちた音楽で、ただただ死んでいった人たちへの祈りを捧げることにしました。

    ■J.S.バッハ/無伴奏チェロ組曲第2番よりサラバンド ミーシャ・マイスキー(Vc)


     そして最後に、昨年末に偶然知った「アラビア受難曲」から「憐れんで下さい」を。バッハの名作「マタイ受難曲」をイスラムの音楽風にアレンジして演奏したもの。原曲でも印象深いアリアを、アラビア語で、イスラム音楽のテイストで歌っているのですが、宗教を超えた「哀しみ」そして「祈り」が私たちの間で共有され、一日も早く中東の平和が達成されることを心から願わずにいられません。

    ■Sarband & Fadia el-Hage, "Erbarme dich, mein Gott" in Arabic.


    ただただ合掌です。

    スポンサーサイト

    2019.08.15 Thursday

    0
      コメント
       はじめまして

       「憐れみたまえ」のin Arabicを聴かせていただきました。バッハの原曲を生かしており違和感はまったく感じられませんでした。
       私の音盤がメンゲルベルク/ロイヤル・コンセルトヘボウ(1939年録音)と古いライヴ録音でヴァイイリンにポルタメントがかかっていてin Arabicに近い演奏とさへ思わせることも一因かま知れません。
      また、マタイ受難曲の「憐れみたまえ」自体がバッハの頂点に立つ程の名曲と思っていますので、アレンジしても良い音楽として聴くことができます。

       この度の日本人殺害ニュースに接し、21世紀の世界はどういうものになるのか不安でもあります。
      また、行いがどうであれ二人の死の報道に差があるように思えてなりません。
      ”人の命は地球より思い”と言いますからね、命の評価は平等であると思います。
       拙劣な文ですみません。

       
      • by たつ
      • 2015/02/02 10:35 PM
      管理者の承認待ちコメントです。
      • by -
      • 2015/02/06 12:26 AM
      コメントする
      トラックバック
      この記事のトラックバックURL