【ディスク 感想】恋愛小説 〜 原田知世

2015.03.20 Friday

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    ・恋愛小説 
     原田知世(Vo) (Univarsal)

     →詳細はコチラ(Tower/HMV)
    <<曲目>>
    01. 夢の人(ザ・ビートルズ)   
    02. ドント・ノー・ホワイ feat. ジェシー・ハリス (ノラ・ジョーンズ)   
    03. イン・マイ・シークレット・ライフ(レナード・コーエン)   
    04. ベイビー・アイム・ア・フール(メロディ・ガルドー)   
    05. ナイト・アンド・デイ   
    06. ブルー・ムーン   
    07. イフ・ユー・ウェント・アウェイ(マルコス・ヴァーリ)   
    08. フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン(ジュリー・ロンドン)   
    09. 恋の面影(ダスティ・スプリングフィールド)   
    10. ラヴ・ミー・テンダー(エルヴィス・プレスリー)   

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     可愛い。

     原田知世のニューアルバム「恋愛小説」を聴いていて、一番私の心の中で湧き起こった言葉は、この「可愛い」でした。と言っても、クールジャパンとかきゃりーぱみゅぱみゅといったコンテキストで使われる「カワイイ」ではない。ただただ「可愛い」というものです。

     失礼なんじゃないかと思うんですよね、私と同い年の女性の歌に対して「可愛い」なんていう言葉をかけるというのは。巧いとか、声がいいとか、美しいとか、心に響いたとか、何より音楽を聴いたんですから、それに相応しい褒め言葉はあるだろうに、それらよりも何よりも彼女に対して「可愛い」という言葉をかけたくて仕方がない。

     何が可愛いのか。容姿、もちろん。声、それもある。伊藤ゴローがアレンジしたバックの音も。でも、私は何だかもっと違うところに対して「可愛い」と感じているような気がしてなりません。

     可愛いという言葉は、小さいものや幼いものに対する愛着を示すものとしても使われることがあります。可哀想という言葉とも関連があります。最近では適応する範囲がぐんと広がって、高齢者や地位の高い人に対しても使うことがあるし、「エロ可愛い」だの「ブサ可愛い」だのというような言葉が生まれたりもしています。そう考えると、私のこの「可愛い」は一体このアルバムの何に対して感じているのか、ますます分からなくなります。

     でも、どうにもならないこの感覚。正体は何なのか誰か教えてほしい。

     まあ「恋愛小説」というタイトルのアルバムですから、彼女が歌っているラヴソングたちの中にある「恋愛感情」が私の心の何かを刺激して、架空の女性に対する愛おしさのような思いが湧いてきて、それが「可愛い」という言葉を生み出しているのかもしれません。あるいは、これらの歌の主体となっている女性に対して、私が性を超えたシンパシーを感じ、ああ分かる分かると思ううちに、愛おしいという感情が湧いてきて、それが最終的に「可愛い」に繋がっているのかもしれません。

     今回は全編英語のカバーアルバム。「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」「ラヴ・ミー・テンダー」のようなエヴァーグリーンから、ビートルズの「夢の人」やノラ・ジョーンズの「ドント・ノウ・ホワイ」のような曲まで10トラック、まことに上質の音楽ばかり。サウンドは極上、原田知世はそこに気持ちよさげに乗っかって、心地良い歌を歌っています。その気負いのないナチュラルな歌声、決して過剰になることのない洗練されたセンス、どれもが今の彼女の充実した内面から滲み出て来たもののように思えます。

     歌詞を見てみると、ハッピーな恋愛を歌ったものだけじゃなくて、むしろチクチクと胸を刺すような苦みのきいた歌も多いのです。レナード・コーエンの「イン・マイ・シークレット・ライフ」なんて、少し前に知った彼女のゴシップを重ねずにはいられないものでもあります。マルコス・ヴァーリの「イフ・ユー・ウェント・アウェイ」も、恐らくは恋が成就して幸せの絶頂にあるはずなのに、それがもしかしたらいつ自分の手から離れてもおかしくはないと不安に思わずにはいられない女性の気持ちが歌われているのかもしれません。でも、原田知世は、今や、そうした恋愛にまつわるいろいろなものも、静かに、少し離れたところから客観視できる「大人」の女性です。以前の彼女の歌には、頑張って大人の歌を目指しているというような趣がなきにしもあらずでしたけれど、もう今はそうした内容の歌を等身大の女性として歌える。もしかすると、そんな風に、いろんな負の感情も笑顔の中にしまい込んでしまえるところが、私には「可愛い」と思えるのかもしれません。

     自分にはそんな可愛げはないなあと反省してシュンとしてしまいます。彼女と同じ年数生きてきているのに、何と貧しく痩せた人生だろうかと思います。でも、あちらは何と言ってもタレントを持った歌手・俳優さんで、こちらはただの凡人なのですから当たり前と言えば当たり前の格差なのですけれども、いやはや何とも・・・。

     このくたびれた中年が「可愛いおっさん」になることは無理だし、そもそも必要ないですが、せめてこの彼女のしなやかな成熟は見習いたいなあと思います。そのためにも、このアルバムは折に触れて取り出して、彼女の可愛らしさに触れて、背筋を伸ばすようにします。

     ほんとに素敵なアルバムでした。

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    2019.08.15 Thursday

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