【ライヴ 感想】薬師丸ひろ子 コンサート 2015 (2015.10.14 オーチャードホール)

2015.10.15 Thursday

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    ・薬師丸ひろ子 コンサート 2015
     (2015.10.14 オーチャードホール)






     

     薬師丸ひろ子が凄いことになってる

     今日、オーチャードホールで薬師丸ひろ子のコンサートを聴いて私はそう思いました。

     2年前に同じ会場で聴いたデビュー35周年記念コンサートや、昨年聴き逃したビルボード東京でのライヴ映像も良かったのですが、今日の彼女の歌には度胆抜かれました。ありきたりの言葉になってしまいますが、まさに圧巻の歌。

     

     彼女のヴォーカリストとしての進境ぶりには目を瞠らずにはいられません。相当に凄い人の下で厳しいヴォイストレーニングをし、自身でも効果的な練習を積み重ねたのがありありと分かるくらいに、声がよく出ていて力もあった。それでいてあの透明な美しい声は損なわれていない。いや、それどころかむしろ輝きを増している。

     それ以上に、曲の内面を「演じる」彼女が美しい。アイドル女優だった10代の彼女を想定して書かれた曲であっても、彼女はその歌の世界の中でみずみずしく生きていて、まさに今の彼女が歌うのに相応しい曲のように聴こえた。考えてみればそれは驚異的なことです。

     

     ちょっと前、YouTubeで、60年代にアイドルとして活躍していた某女性歌手の最近の歌を視聴した時のことを思い出しました。当時は歌の巧さでも定評のある人だったのに、歳を重ねて歌自体もヘタクソになっている以上に、曲が余りにミスマッチで聴いていられなくて失望してしまったのです。何という残酷なまでの違いでしょうか。

     今回、薬師丸が歌った曲目は2年前と大体同じでした。つまり、かつての映画主題歌を中心としたヒット曲に、目下の最新盤「時の扉」からの曲、それに加えて、アニメ映画本編でしか聴けない最新曲という構成。どれが良かったとか、イマイチだったとかいうのはまったくありません。私は「凄いことになってる」薬師丸ひろ子の歌にただただ聴き惚れ、幸せで、切なくて、愉しくて、ちょっとしんみりするような、かけがえのない時間を過ごしました。

     強いて挙げるなら、彼女が最後に歌った「Wの悲劇」でしょうか。それは今まで数えきれないくらいに聴いてきた彼女の歌の中でも、一番凄かったと言えます。クライマックスでのピンと張った声が会場のすみずみにまでレーザービームのように放射されていくさまは感動的でもあった。しかも、彼女自身はちゃんと体の力が脱け、声の柔らかさが十分に保たれていたので、誰もがその彼女の声の豊かな響きに包まれる幸せを満喫できたはずです。だからこそ、1番の歌詞を歌い終わった時点で、多くの人が「思わず」盛大な拍手をしてしまったのだろうと思います。

     

     「絶唱」と言いたくなるような素晴らしい歌に鳥肌を立てながら、あの映画で三田佳子演じる大女優、羽鳥翔に「女優、女優、女優」とたしなめられていた若い劇団員の三田静香が、年齢を重ねて自身が「大女優」へと成長した、そんな場面を見ているような思いにかられました。もっとも、彼女自身は、若い女優に居丈高な態度をとる「偉い人」なんかじゃない。MCでおしゃべりに夢中になり、無意識に左手を腰に当てて客席に話しかけているのに自分で気がつき、「威張ってるみたいでごめんなさい」と謝るくらいに謙虚な人なのでした。それがまた、たまらなくいい。

     個人的には、私がかつて毎日のように聴いていた「紅い花 青い花」、そして「未完成」を聴けたのは嬉しかった。前者は松本隆作詞、細野晴臣作曲という「はっぴいえんど」コンビの書いた名曲で、CMでも使われたもの。後者は中島みゆきが彼女のために書き下ろした、これも超の字のつく名曲。

     どちらも私にとっては、思い出深い曲でした。

     私が生まれて初めて異性とコンサートを聴いたのは、1987年の8月、薬師丸ひろ子の「星紀行」ツアーの大阪公演でした。

     

     当時私は大学一年生。その年の春に進学のため神戸から上京したのですが、高校時代から付き合っていた女性がいて、いわゆる遠距離恋愛をしていました。

     

     彼女は薬師丸ひろ子の大ファンで、あるとき、彼女が薬師丸ひろ子のベスト盤を貸してくれました。その頃私は、もう一人の角川映画のアイドル女優、原田知世の追っかけをしていたので、当然薬師丸ひろ子の映画も見ていたし、ヒットした主題歌も好きでしたが、ファンというほどではありませんでした。でも、いろいろな曲をじっくり聴いてみて、彼女が魅力的な歌手でもあることに初めて気づき、すっかりハマって私も大ファンになってしまった。だから、夏休みに帰省した時、リリースされたばかりのアルバム「星紀行」に連動したコンサートを、当然のように二人で聴きに行ったのでした。

     

     初めてナマで聴く薬師丸ひろ子の歌は、予想を超えて素晴らしいもので、若かった私たちも、憧れのアイドルの歌を聴いて、とてつもなく昂揚していました。最後のカーテンコールの時、薬師丸が客席に向かって手を振ったとき、ホール1階の最後列で、二人して彼女に向かって手を振り返したのをよく覚えています。

     

     でも、それはとても甘くて切ない思い出になってしまいました。いろいろあって、その彼女とは、それから数か月後に別れてしまったからです(というかフラれたのですが)。

     

     それでも、私は薬師丸ひろ子のファンをやめられませんでした。失恋の痛みをわざわざ自分で確かめ味わうかのように、毎日毎日、何度も何度も彼女の歌を聴いていたのです。「紅い花 青い花」は、別れた女性が一番好きな曲と言っていましたし、「未完成」は私自身、東京と神戸という距離、学生と社会人という立場の違いなど、いろいろな理由からだんだん二人の関係が壊れていた頃に繰り返し聴いていました。「歌い方を教えて下さらないから 最後の小節がいつまでもなぞれない」という歌詞の内容にビリビリと痺れながら。

     そんな若さゆえの痛みが記憶に刻み込まれた曲たちを、薬師丸ひろ子があの頃とまったく同じ歌い方、同じキーで、そしてオリジナルを重視したアレンジをバックにして歌う。

     

     もうダメでした。あの頃私が触れていたいろいろな風景や顔がリアルに思い浮かんで、こみ上げてくるものを堪えるのに必死でした。音楽って、こんな風に、すっかり忘れていたはずの記憶や感情を、きれいにそのまま蘇らせる力があるのかと、今さらのように驚きました。

     ふと、今日(10月14日)はあの夏、「星紀行」を一緒に聴きに行った女性の誕生日だと気づきました。しかも、今回のツアーの初日で薬師丸が歌った大阪のオリックス劇場は、その大阪公演が行われた大阪厚生年金会館が改名したホールです。

     ああ、あの人は今頃どうしてるかなと思いました。それこそ「今どこにいるの?今何してるの?そして愛してる人は誰ですか?」と聞きたくなりました。彼女は、別れる時に、私に向かって「私のこと嫌いになっても 女の人のこと嫌いにならないでね」と前田敦子みたいなことを言ってましたが、彼女は男のこと嫌いになってないだろうか。もう結婚して、もしかしたら子供もいて、幸せに暮らしてるのかな。薬師丸ひろ子の歌は、今も好きかな。心の片隅にでも小さくメモして、私のことを思い出すこともあるのかな、ないのかな。そんなことが頭をよぎりました。

     でも、生々しい失恋の真っ只中で、半ば苦しみながら、薬師丸ひろ子の歌を聴いていた頃から25年以上が過ぎました。図太くなったというか、鈍感になったというか、正直、もうそれらを思い出してクヨクヨするようなことはまったくありません。今となってはいい思い出だなとポジティブに振り返ることができます。

     

     それに、他の曲には、その後の思い出もこびりついている。別の女性と短期間付き合ってフラれた頃に聴いてたものもあるし、カミさんと付き合ってる頃に愛聴していた曲もある。遠距離恋愛していた女性のことばかりを考えて、薬師丸ひろ子の歌を聴いていた訳ではありません。未練とかそういう感情が皆無なのは言うまでもないことです。

     ですから、「あんな時代もあったよね」と「笑って話せる」時代が来たことを喜びながら、2時間半足らずの盛りだくさんのコンサートを満喫した、というたしかで幸せな実感だけが私の中に残っています。

     

     会場を埋め尽くした私と同世代以上のおじさん、おばさん方も、思いはそれぞれ違えど、やはり薬師丸ひろ子と一緒に「思い出」を楽しみに来て、その期待通りの歌が聴けて大いに満足したのだろうと思います。勿論、80年代初頭、スクリーンやテレビ画面でキラキラと輝いていた彼女の姿を思い起こすこともあったでしょうが、何よりも、それぞれの人たち自身の人生の様々な景色を思い浮かべながら、薬師丸の歌に胸を熱くしていたに違いありません。

     

     そう考えると、彼女は、2000人ほどの聴衆の膨大な量の思い出から来るパワーに押されながら歌を歌っていた訳です。普通ならプレッシャーに押しつぶされかねないところですが、彼女はむしろそれらにうまく乗っかって、あれほどの素晴らしい歌を歌った。そんな姿を目の当たりにして、彼女自身、きっとリアルタイムでファンと繋がれることの喜びをひしひしと感じる「舞台人」なんだろうなと思いました。私は彼女は映画館のスクリーンで最も映える人だと思ってきましたけれど、どうやらそうばかりではないということがよく分かりました。

     であるならば、彼女が最後に言っていたように、また近いうち、こうしてオーチャードホールの舞台に立って、美しい歌を聴かせてほしいと心から願います。

     

     と言っても、私はまた明日、もう一回彼女のコンサートを聴きに行きますけれども。

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    2020.05.19 Tuesday

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      コメント
      私も昨日オーチャードホールに行きました。
      彼女の変わらぬかわいらしさ、透明な歌声にすっかり魅せられ、これから学生時代のCDを掘り起こします(笑)
      今日も行かれるんですね。2回目だとまた別の楽しみ方もできると思います。楽しんでらしてください。
      • by まき
      • 2015/10/15 11:15 AM
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