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【ライヴ 感想】純名里沙&笹子重治 インストア・ライヴ (2015.11.25 タワーレコード渋谷店)

・純名里沙&笹子重治 インストア・ライヴ
  (2015.11.25 タワーレコード渋谷店)







 今日はタワーレコード渋谷店6Fのイベントスペースでおこなわれた、純名里沙&笹子重治のデュオのインストア・ライヴとサイン会に参加してきました。もちろん、お二人の最新盤、"Silent love"を持って。

 ライヴはたった30分ほどの短いもので、歌われたのも5曲くらい。あっという間に終わってしまった、もっと聴きたかったという気持ちもありましたが、音楽の内容が濃くて充実していたからでしょうか、お二人からCDにサインを頂き、握手までしてもらったからでしょうか、満足感いっぱいで帰路に着きました。

 純名里沙さんという人は、本当に歌うことが好きなんだなと思いながらライヴを聴いていました。彼女の輝いた表情を見ていると、彼女は、歌を歌えること以上の幸せは自分にはない、いや、歌っている自分以上に幸せな人間はこの世界のどこにもいない、と思ってるに違いないとさえ感じます。そのくらい彼女は全身で幸せを感じながら歌っています。

 いや、歌っていない時だって、目を閉じて笹子重治のギターを幸福感いっぱいの表情で味わい、そのギターの音から音楽のイメージを広げて、次の歌につなげています。また、歌う前に曲の歌詞の意味を説明してくれるのですけれど、もう何度話したか分からないような内容を、まるで今日初めて話すかのように、そして、この歌が好きでたまらないの!と好きな男子のことを友達に話す少女のように、キラキラした表情で私たち聴き手に伝えてくれる。

 そんな風に全身から幸せオーラを放射してライヴを進めている彼女を見ていると、私も幸せな気分になります。彼女の声に包まれ、スタンダードな名曲のもつ魅力を心ゆくまで味わい、噛み合っているのかいないのかさっぱり分からない二人のトークに笑いながら、昼間の煩わしい雑事も、渋谷という街の喧騒も忘れ、ずっとニコニコしながら充実した幸せな時間を過ごす。

 今日のライヴでは、純名里沙さんが、これまで以上に自由に歌の中で振る舞っているように感じました。一つ一つの言葉の表情も濃く、ダイナミックレンジも広がり、時々、いい感じにレールから外れる(ちゃんとすぐに戻って来るのですが)。笹子さん側がけしかけているようなフシも感じるのですが、彼女はそれにうまくキャッチして、ギターが作ってくれた流れに乗っかり「ジャンプ」する。

 あらかじめ決め段取りを間違えないように完璧に再現することにはさほど固執せず、「いま、ここ」で生まれた音楽をそのまま解き放つことに情熱を傾ける。徹底的に作り込んできたものを、あたかも即興でできたものとして聴き手に届ける。周囲の雑音さえも味方にして、その場にふさわしい音楽がおのずと流れ出す。 「合わせる」のではなく、自然に「合った」音楽を生みだす。

 今日のライヴはそんな雰囲気をもったものであるように感じました。最近読んだインタビュー記事で、笹子さんは「デュオが形になるには3年はかかる」と笹子が言っていますけれど、それと同じような意味で、このデュオの「エージング」がうまい具合に進んでいる結果、こんなにライヴな音楽が生まれたんじゃないでしょうか。きっとこのデュオの「進化」「深化」なのだろうと思います。

 いつも素晴らしいなあと思っていた笹子重治さんのギターも、CDでじっくり聴いた上で、再びライヴで聴いてみると、彼がシレッと涼しげな顔でやっていることの凄さがしみじみと分かりました。ギターのテクニックがどうというのではなく、音楽の内容に応じたヴォルテージの上げ下げの匙加減がいちいち腑に落ちるのです。

 これは本当に難しいことだと思うのです。音楽の内面的な構造を完全に理解しないとできないし、何かにつけて突っ走ってしまう若さ人にはなかなか対処できないことだからです。アルバムのタイトルにも、今回のような催しでも、決して自分の名前は出さず、裏方に徹している笹子さんですが、「この人のギターで歌えて良かった」と彼女が言う通り、笹子重治という名人がいてこそ生まれた音楽なのだということを強く強く実感しました。

 サイン会は盛況でした。私も、ライナーノートの二人が写った写真に、お二人のサインをもらいました。8月に引き続き、握手もしてもらいました(その手は本当に残念なことにもう洗ってしまいましたが・・・)。そうでなくともこれは私にとってかけがえのない宝物のアルバムですけれど、神棚行き決定。いや、神棚に飾ってしまうと聴かなくなってしまうからダメか。そもそも神棚、ウチにないし。とにかく、家宝にして大切に愛聴します。

 それにしても、私は、今日の純名里沙さんみたいに、自分の仕事を幸せそうにやっているだろうかと考えてしまいます。朝起きて、産道を通るような思い(小田嶋隆さんの表現を借用)でベッドを脱け出し、重い体と心を引きずって会社へと出かけ、「飯の種」と言い聞かせてムスッとした顔でディスプレイに向かって仕事を始める。ああ、こんなんじゃいかんなと思います。彼女のように、やってて幸せと思えることをやれる人は一握りの人にしか許されないことなので、凡人である私は、せめて、やっていることの中にちょっとでも幸せを見出せるようになりたいと思います。

 純名さん、笹子さん、今日も素敵な音楽を届けて下さって、本当にどうもありがとうございます。これから暫くは首都圏でのライヴがないとのこと、とてもとても残念ですが、その代わり、お二人の音楽を待っているたくさんの方々に、純名さんと笹子さんの作り出す「幸せ」を届けてあげて下さい。私は、次にライヴが聴けるまでは"Silent Love"を擦り切れる(CDなのでそんなことはないですが)くらいまで聴き込んでおきます。どうか、くれぐれもお体に気をつけて。

(追記)
 純名里沙さんは猫を飼っているそうで、猫好きな私(今は飼ってないのですが)は嬉しくなりました。また、笹子重治さんは同郷人(神戸)だということは知っていましたが、私の実家のすぐ近くの学校に通っておられたことを知りました。笹子青年と少年時代の私は、神戸ですれ違っていたのかもしれない。純名さんも大阪出身の方なので、大阪あたりですれ違っていたかもしれない。他の人からすれば、それがどないしてん、というようなことばかりですけれど、そんなちょっとしたことも嬉しいです。

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  • 2017.06.25 Sunday
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