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【ディスク 感想】ショパン/ワルツ集(全19曲) 〜 イリーナ・メジューエワ(P) (若林工房)

・ショパン/ワルツ集(全19曲)
 イリーナ・メジューエワ(P) (若林工房)

 →詳細はコチラ(HMV/Tower)





<<曲目>>
1 ワルツ 第2番 変イ長調op.34-1 『華麗なる円舞曲』
2 ワルツ 第3番 イ短調op.34-2 『華麗なる円舞曲』
3 ワルツ 第4番 ヘ長調op.34-3 『華麗なる円舞曲』
4 ワルツ 第5番 変イ長調op.42 『大円舞曲』
5 ワルツ 第6番 変ニ長調op.64-1 『小犬』
6 ワルツ 第8番 変イ長調op.64-3
7 ワルツ 第7番 嬰ハ短調op.64-2
8 ワルツ 第9番 変イ長調op.69-1 『告別』
9 ワルツ 第1番 変ホ長調op.18 『華麗なる大円舞曲』
10 ワルツ 第12番 ヘ短調op.70-2
11 ワルツ 第13番 変ニ長調op.70-3
12 ワルツ 第11番 変ト長調op.70-1
13 ワルツ 第10番 ロ短調op.69-2
14 ワルツ 第14番 ホ短調KK.IVa/15
15 ワルツ 第15番 ホ長調KK.IVa/12
16 ワルツ 第19番 イ短調KK.IVb/11
17 ワルツ 第16番 変イ長調KK.IVa/13
18 ワルツ 第18番 変ホ長調KK.IVb/10 (ソステヌート)
19 ワルツ 第17番 変ホ長調KK.IVa/14


---

  ネットで調べものをしていたら、ピアニストのイリーナ・メジューエワのこんな写真を見つけました。


(出典:Stereo Soundホームページ) 

  写真が掲載されているのは、雑誌「ステレオサウンド」のオンラインショップで販売されているオーディオシステム「マリアージュ(Mariage)」の宣伝ページ。これはメジューエワが自宅のグランド・ピアノの上に置けるものを、と探して巡り合ったオラソニックの「ナノコンポ(NANOCOMPO)」のCD プレーヤーとアンプに、Elacのスピーカーを組み合わせて「メジューエワ・セレクション」として販売するもの。

 グランドピアノの上に鎮座する小さなオーディオシステム。恐らくそこで流れているであろう音楽に耳を傾けるメジューエワ。とても印象的な写真で、この「マリアージュ」に興味を引かれてしまうのですが、私はスピーカーの横にさりげなく置かれた小さなポートレート写真に目が釘付けになりました。

 そこに写っているのは、往年のイタリアの大テノール、マリオ・デル・モナコ。

  「黄金のトランペット」と称えられ、「オテロ」や「道化師」などで歴史的な名唱を残したデル・モナコの、キャリア後期に撮影された、CDジャケットにもたびたび使われてお馴染みの写真。カレンダーの類ではなさそうなので、彼女は、「わざわざ」彼の写真をピアノの上に飾っているに違いない。であるなら、彼女は熱狂的なデル・モナコのファンなのではないでしょうか。
 
 私はこの写真を見て、飛び上がるほどに嬉しくなりました。このブログでたびたび書いて来たことですが、私は彼の熱狂的なファンなのです。彼が亡くなる前年(1981年)に、彼の歌う「衣装を着けろ」を聴いて強烈な衝撃を受けてからずっと。彼女もデル・モナコの歌をこよなく愛するファンなのだ、「同志!」と写真に向かって声をかけたくなりました。
 
 いや、 だからどうしたと言われればそれまでなのです。大好きな音楽家と、興味の対象がたまたま一致した、ただそれだけのことに過ぎません。それでも私は嬉しかったのは、メジューエワがデル・モナコのファンであると知ることで、彼女が奏でる音楽の魅力を、より深く感じ取ることができるのではないかという直感が働い たからです。
 
 とは言え、聴き手ではなく、弾き手としての彼女の演奏に、その「デル・モナコ愛」が何がしか反映されているのかというと 正直分かりませんでした。そもそもイタリア・オペラの歌手と、ピアニストなのでレパートリーが重ならないし、いや、それ以上に音楽性も全然違う、そう思えたからです。たとえ彼女がデル・モナコのファンであるからと言って、それはあくまで聴き手としての趣味の問題なのであって、彼女の演奏にデル・モナコの影が見えるとは限らないし、見えなくたって構わないのだと言い聞かせ、写真を見た時に抱いた直感は心の奥底にしまっておくことにしました。

  この写真を見た後、彼女は立て続けに素晴らしいアルバムをリリースしました。バッハの「ゴルドベルク」と「平均律第1巻」、そして、モーツァルトのピアノ・ソナタ集の第2集。このところなかなか時間がとれず感想が書けていないのが非常に悔しいのですが、私が一生聴いていきたい音楽はこのようなものだと思 わずにいられないほどに、深い共感と感銘を感じながら聴きました。ですが、これらの音盤を聴いていても、やはり「マリオ・デル・モナコ」というテノールの名前は思い浮かびませんでした。

 そんな中で、メジューエワがつい最近リリースした新盤、ショパンのワルツ集を聴き、私の中で、ようやくメジューエワとデル・モナコというまったく個性の異なる音楽家をつなぐ補助線のようなものが見えた気がしました。

  どの曲も、徹頭徹尾、彼女自身の言葉で語られたショパンだと私は感じました。つまり、その音楽は、彼女自身の思考や言葉から出発したもの、彼女自身の心の奥底から生まれてきたものだと強く感じられたのです。19曲のどれも一見オーソドックスに聴こえる演奏ながら、注意深く聴いていると、誰かから借りてきた ものだとか、伝統という名の慣習から安易に生まれたものは、一音たりとも、一瞬たりともないということがよく分かります。

 ただ、ここがとても大事なのですが、このワルツ集の一番魅力的なのは、そのあくまでメジューエワというユニークな個の持つ「特殊」から出発した音楽であるのに、その音が発せられた瞬間に、音楽が「普遍」へと昇華していくさまを体感できることです。

  息の長いフレーズの歌い方、ほんのちょっとしたルバート、左手の3拍子のリズムのつけ方などから感じ取ることのできる、曲ごとに、あるいは楽想ごとに、彼 女自身の内面から発せられたであろう音の言葉は、その実感のこもった真実味はそのままに、吟味に吟味を重ね、熟慮に熟慮を加え、彫琢の限りを尽くして、ある種の「様式」にまで高められている。ショパンのワルツ自体がもともとそうした「様式」に裏打ちされた美を持ったものですが、演奏家自身がそれを自分の頭 と心で再構築したものでなければ、音楽の内容と様式が有機的に結びつくことはできず、普遍の地平へと羽ばたくことができない。

 一方、デル・モナコの歌は、そのあまりに個性的な歌声や唱法ゆえに「特殊」なものであるというイメージを払拭するのは難しい(それゆえに好悪を激しく分かつ)かもしれませんが、私が彼の歌に感銘するのは、まず彼の声が、歴史の中で二度と現れることのないユニークなものでありながら、それがただ響き渡るだけで、音楽のはらむドラマ、特に悲劇を、非常に高い抽象度で体現してしまう、というような「普遍性」をまとっているという点です。役柄の属性だとか、オペラのあらすじとか、そういったものを乗り越えて私の感覚を麻痺させてしまう。

 そして、私が彼の歌に魅了されるもう一つの理由は、彼の歌唱法、役作りには、明瞭な「型」が、そして「様式」があるという点です。喜怒哀楽の表現はすべてその「型」の組み合わせであって、それは例えばプラシド・ドミンゴの 聴かせてくれる多彩で複雑なものよりももっとプリミティヴなものかもしれませんが、むしろそのシンプルさゆえに、まさにその歌の内容と様式がぴったりと一 致した時には、その音楽は唯一無二の説得力を持つ。それがまさに「オテロ」や「道化師」での彼の歌唱、演技の魅力そのものだと思います。

 このように、音楽の内容と様式を一致させることで、音楽を特殊から普遍へと解き放とうという音楽家としてのありよう、それが、メジューエワとデル・モナコという二人の音楽家の、根本的な部分での大きな共通点なのではないかと私は思うのです。

  私はこんなことを考えながら、このワルツ集を聴いていた訳ではありません。聴いている間はただひたすらにその音楽の美しさ、哀しさ、気品の高さを無心で楽しんでいたのですが、聴いた後に残ったものを思い起こし、いろいろな想像力を働かせている間に、こうした考えに至ったという訳です。そう、「考えるな感じろ」という気持ちで聴きながら、その後は「何を感じたか、考えて考えて考え抜け、そして考えたことを忘れて無心で聴け、またその後で何を感じたか、考えて 考えて・・・(以下繰り返し)」というプロセスを繰り返しているうちに感じたのです。

 「様式」など持ち得ず、私という「特殊」の中にと どまってしまった残念な感想文を書き散らしながら、私には到底真似することのできないことを淡々と成し遂げるメジューエワとデル・モナコという音楽家を羨 望と驚嘆の念をもって賞賛したいと思います。これからも彼女と彼の聴き手として生きていこうと心の底からそう思います。

 それにしても、 メジューエワという人、一人の聴き手としての彼女にもとても興味が湧いてきました。このHPの記事によると、シュナーベルのベートーヴェンや、エラ・フィッツジェラルドの歌うコール・ポーターを試聴したという記載がありますし、以前読んだインタビューでは、クナッパーツブッシュのブラームスの交響曲第 3番を愛聴しているとのことでした。デル・モナコ含め、彼女の一人の聴き手としてのお話も、何かの機会に聞いたり読んだりしてみたい気がします。





・マリオ・デル・モナコ(1915-1982)



 

















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  • 2017.04.28 Friday
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