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【ディスク 感想】アルバニアの花, コソヴォの花 〜 フラカ・ゴルナンツィ(S) ディエッリ・アンサンブル他

・アルバニアの花, コソヴォの花
 〜アルバニアとコソヴォの伝統歌を, ピアノ三重奏と〜
 フラカ・ゴルナンツィ(S) ディエッリ・アンサンブル  (Gramola)

 →詳細はコチラ(Tower/HMV)



 
<<曲目>>
(1)愛おしい花盛りの薔薇よ(伝承歌/アルバニア南部ベラト)
(2)ずっとおまえを愛していた(ジェト・べべティ詩、曲/中部エルバサン)
(3)マルジェロ(アルクサンダル・バヌシ詩、プレンク・ヤコヴァ曲/北部シコドラ)
(4)一輪の花(伝承歌/北部シュコドラ)
(5)私たちの結婚(ガズメンド・ザイミ詩、曲/コソヴォ南部プリズレン)
(6)漆黒の瞳を開けてくれ(伝承歌/アルバニア南部パルメト)
(7)待雪草(ナショ・ヨルガチ詩、シモン・ジョニ曲/北部シコドラ)
(8)あなたのほほえみを(S. ヴァルダリ&I. ドゥカ詩、プランヴェラ・バディヴク曲/コソヴォ南部プリズレン)
(9)郷愁(R. クラスニチ詩、曲/南部プリズレン)
(10)おお百合よ 白百合よ(伝承歌/南西部ジャコヴァ)
(11)日が昇る(伝承歌/アルバニア中部ティラナ)


---

 このところ、身に沁みて思うことがあります。私が一生のうちに聴ける音楽なんて、世界に存在するすべての音楽の中では本当に哀しくなるくらいにわずかなものだろうということ。最近は音楽を聴くキャパシティが減ってしまったのか、以前のように量を聴くということが難しくなってきましたのでなおのこと。あと何年生きられるか分かりませんが、あとどれくらい音楽を聴けるだろうか、聴けたとしてもそんなの微々たるもんだろうななどと考えてしまいます。

 ですから、「アルバニアの花、コソヴォの花」と題されたアルバニア語による伝統音楽なんていうCDが出たと知ると、どうしても聴かずにいられません。ちょっとでも聴ける音楽の世界を広げたい、今まで知らなかった音の景色を見たい、聴きたいと思うからです。さすがにこういう音楽をナマで聴く機会なんてそうそうあるとも思えず、音盤のありがたさを実感します。

 「アルバニアの花、コソヴォの花」は、文字通り、アルバニアとコソヴォに伝わる古い曲を収録したもので、コソヴォ出身のメゾソプラノ、フラカ・ゴランツィが歌い、作曲家で指揮者のクシュトリム・ガシがピアノ三重奏に編曲した伴奏による演奏。時々、このテのアルバムをリリースしているグラモーラレーベルからの発売です。

 いずれもロシア、ジョージア(グルジア)やアゼルバイジャン、イスラム諸国、ギリシャやトルコなど様々な国や地方の音楽のエッセンスが入り混じった複雑な味わいのある曲ばかり。悪く言えば際立った特徴に乏しいという聴き方も成立すると思いますが、旋律は甘美でセンチメンタル、ロマやユダヤの音楽と共通する半音階を多用したエキゾチックな雰囲気も妖しい、そんな音楽には言い知れぬ魅力を感じます。「心のふるさと」的な懐かしさを感じてDNAが疼く。

 歌詞を見てみると情熱的な恋の歌ばかりです。肉感的とも言える艶やかな内容、マーラーの「さすらう若人の歌」の歌詞のような失恋を歌ったものもある。これらがセレナーデとして歌われたのか、どんなシチュエーションでどんな風に歌われるものなのかなど文脈が全然分からないので、私はこの音楽から一体何を聴き取るべきなのかもさっぱり手がかりがないのですが、それでもやはり音そのものから伝わってくるものはあるような気がします。

 それは人と繋がりたい、抱き合いたいという熱い気持ち、でしょうか。これらの曲において、歌い手が恋の哀しみや苦しみ、そして喜びを歌う時、そこには人のぬくもりを求める憧れ、渇望がある。その音遣いとか、編曲の妙味とか、演奏の良さとか音楽の表面への共感以上に、「繋がる」ことへの希望が私の心を打ちます。

 中でもトラック7の「待雪草」、トラック11の「日が昇る」は聴けて良かったと思える美しい音楽でした。トラック1の「愛おしい花盛りの薔薇よ」も。いずれもテオドラキスの歌曲と共通するようなセンチメンタルの際立つ旋律が好きです。

 聴きながら、思い出したことがあります。

 先ほど来日したフランスの人口学者エマニュエル・トッドがテレビのニュース番組で主ツンしたインタビュー見たのですが、そこで彼は「ヨーロッパはEUの解体へと向かっていくだろう」と将来への展望を語っていました。

 「アラブの春」の発生を事前に見抜いた学者の最新の予言だからという事情を抜きにしても、今のヨーロッパの情勢を考えると、彼の言う通りなのかもなという気がします。今、ヨーロッパを揺るがしているテロや移民・難民問題、ギリシャの経済危機、ロシアの欧米分断の揺さぶりなど、彼の予言が的中すべき要因がゴロゴロしているからです。

 アルバニアは今、EU加盟候補国です。加盟の要件を満たしていないとして、交渉開始のためには5つの優先課題の充足が求められていて、行政改革、司法改革、汚職対策、組織犯罪対策、人権保護に取り組んでいるところ。経済的にもバルカン半島では2013年には最貧国の地位にあったらしい。文化的にも世界的に通用するようなものは調べた限り、ない。小説家のイスマイル・カダレとか、ソプラノ歌手のインヴァ・ムーラくらいしか知らない。要するに、小さくて貧しくて不安定な国。治安も良くなさそう。

 もしトッドの言う通りEUが解体してしまうのだったら、今後、アルバニアやコソヴォは一体どうなるんだろうなあと思います。

 アルバニアは経済的な恩恵を期待してEU加盟を望んでいるはずですが、今、そのEUというものの存在意義が問われてしまっている。ギリシャの問題があって、経済的な問題を抱えた国を、豊かな国がどうして助けなければならないのかという疑問の声が常にある。アルバニアが今EUに加盟することで、ギリシャと同じような問題が起こらないという保証はどこにもない。そうなればさらにEU解体論が力を増すに違いない。

 一方、コソヴォはコソヴォで90年代の紛争終結後にセルビアから独立し、アルバニアだけでなく世界のほとんどの国から承認されていますが、少数民族の独立問題の象徴的な存在でもある。

 EU解体、民族自決という流れが強まっていく先に見えるものと言えば、あまり想像したくないことですが、偏狭なナショナリズムの勃興であったり、もしかするとファシズムであったりするのかもしれない。追い打ちをかけるようにシリアからの難民の問題もあって、バルカン半島の人たちも何らかの影響を受けるに違いない。大丈夫だろうか?また「火薬庫」が爆発するようなことはないだろうか?

 そう言えば、SNSで流行している「私を構成する9枚」じゃないですが、「私を構成する9本」の中に絶対に入る映画に、テオ・アンゲロプロス監督の「永遠と一日」があります。

 ブルーノ・ガンツ演じる主人公アレキサンデレは、難病で死期を悟り、病院へ入院する前日に自分だけの時間を過ごしますが、そこで一人の少年と出会い、小さな旅をします。その少年こそ、アルバニアからギリシャからやってきた難民でした。車の窓ふきをして生活していた少年がブローカーに捕まって人身売買にかけられそうになるところを助け出し、アルバニア国境へ行こうとして断念(恐らく国境を超えようとして殺された人と思しき姿が映し出されていた)した場面、ギリシャへと密入国しようとした少年の仲間が、船が難破して打ち上げられる場面など、胸が痛くなるようなシーンがいくつかありました。

 アンゲロプロスが映画でアルバニア難民の少年を描いた状況から、今のヨーロッパは良くなったのか、悪くなったのか、これからどうなっていくのか。アンゲロプロスが生きていたら、今のヨーロッパ、バルカン半島の状況をどんな映画にするだろうか。

 そんなことをつらつらと考えながら聴いていたのですが、しかし、それは音楽そのものとはまったく関係のない話。EUがどうしたとか、難民がどうだとかいう問題とは無縁。ここで聴ける曲は、前述のようにただひたすら人間の日々の生活の中のありふれた喜怒哀楽を歌ったものばかりです。

 アルバニアとかコソヴォという国の名前から繋がりを阻害するような話ばかり連想してしまいつつも、最終的には、素朴な歌詞と哀愁を帯びたメロディから伝わってくる、人と人とのつながりを大事にして、いつも「繋がりたい」という気持ちが私の心を打ちます。

 国家というのは、どうして音楽のようにつながれないものなんでしょうか?

 かつて吉田健一は言いました。

 「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである」

 もしかするとこう言い換えることができるのかもしれません。

 「人の繋がり鎖を断ち切る力に対抗する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである」

 限りある残りの人生、もっともっとたくさんの音楽を聴いていきたいです。執着すべき美しい生活を送るために。

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  • 2017.06.25 Sunday
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