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【ライヴ 感想】純名里沙&笹子重治  CD発売記念 ライブツアー in 東京  (2016.03.23 東京コットンクラブ)
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    ・純名里沙&笹子重治  CD発売記念 ライブツアー in 東京
     (2016.03.23 東京丸の内コットンクラブ)






     
     昨年秋にニューアルバムを発表して以来、全国各地でライヴをおこなってきた純名里沙と笹子重治のデュオが、東京駅近くのコットンクラブで「レコ発ツアー」の掉尾を飾るライヴを開きました。お二人の音楽をこよなく愛するファンとしては行かない訳にはいきません。仕事を終え、9時から始まる第2ステージを聴いて来ました。

     曲目のほとんどはアルバム「Silent Love」に収められたものばかり(「星影の小径」がアルバムとはまったく違うアレンジになっていましたが)で、初共演以来3年近くをかけて練りに練り、いい感じに熟れた素敵な音楽を聴けました。

     少し前、ネットラジオOttavaで、指揮者の大野和士氏が「音楽は人間の心を開放するもの」とインタビューで言っているのを聞きましたが、二人の音楽から、その「開放」に向かう大らかさや心地良さが、以前よりも強く感じられたことが一番嬉しかった。

     アルバム「Silent Love」を聴いた時に感じた二人の「作り込んだ自然さ」は、もう作り手側の手にしっくりと馴染んで同化してしまっている。「作り込む」という内向きの集中力の行く先を、音楽を自分たちの内から外へと溢れ出させる方向へシフトさせた「ただただ自然な音楽」が流れる。作り手の心の底から労せず泉のように湧き出てくるのを全身に浴びていると、こちらも自然と心を開放させて音楽の中へザボンと飛び込みたくなる。今回のライブはそんな場になっていたような気がします。 ああ、またこの人たちの音楽を聴けて良かった、幸せだなと思わずにいられませんでした。

     これまで長期のツアーをおこない、その日も少し前に1ステージこなして疲れているはずだろうに、最後までペースを崩さずに歌い切った純名里沙の歌は魅力的でした。ここぞというところまで大切にとっておく高音の伸びはいつもながらに美しく、静かなところで深い響きを作りながら囁くあたりは磨きがかかっていて、全体に大人の色気をたたえたしっとりとした歌を堪能しました。

     特に、「Embraceable You」は、これまで何度か聴いてきた中で、一番、ピントの合った歌のように思いました。歌手、ギタリストの存在も消え、歌詞を歌うミュージカルの役柄も消えて、ただ音楽だけがそこにあった。とびきりの上質な時間が流れていました。

     そして、純名里沙が「壊れてきた」と言いながら、歌もMCもボルテージを徐々に上げていくあたりの開放感は素敵で、饒舌なまでに喋り、抑えきれない歌への衝動を露わに弾ける彼女はとても自由で美しかったし、会場の空気もほどよく和んでいました。アンコールで「すみれの花咲く頃」を客席と合唱する親近感も楽しくて、とってもヘンな言い方になってしまいますけれど、混浴の温泉で、お互いあけっぴろげに語らいながら、音楽を楽しみ、夜の雰囲気を味わっているような、そんな幸福な時間を過ごさせてもらいました。

     笹子重治のアレンジとギター演奏にも改めて魅了されました。このところ、「Silent Love」に触発されてコール・ポーターやリチャード・ロジャースの曲を収めたCDをいくつか聴いてきましたが、その耳で彼のギターをナマで聴くと、笹子のアレンジがどれほどセンスの良い、しかも的確に音楽のエッセンスを捕まえたものかがよく分かりました。毎度のことですが「So In Love」や「My Romance」のソロには痺れました。そして、「ブラジル音楽って何?」という純名の質問に答え、笹子がサンバのリズムを何パターンか聴かせてくれたのは良かった。きっとこの人は寝言もサンバやボサノバのリズムに乗って喋っているに違いないというくらいにキマッていました。まるで、会場にブラジルからの風が吹き抜けたかのよう。

     思うのですが、笹子が音楽活動の原点としているブラジルの音楽、例えばショーロは、きっと家族とか近所の仲間など親密な関係のある人たちの中で、家具や調度品と同じく生活必需品のように大切にされてきた音楽の形態だと思います。そこで人々は様々な思いを音に乗せて、歌い、踊り、自らを開放し、他者と触れ合い、愛し合った。そんな風に人の心を開放する音楽のありようが笹子重治のギターの音には沁みついていて、大劇場で多くの人を相手に歌うことに慣れ親しんでいた純名里沙は、そんな笹子の音楽の親密さ、開放感に憧れを抱いて彼のもとに飛び込んでいったのかなあなどと、的外れで勝手な思いを巡らせながら、今回のライヴを聴いていました。

     純名里沙がMCでこんなことを言ってました。

     残念ながら、今はCDが売れない時代。CDショップはどんどん消えていくし、正直なところ「斜陽業界」になってしまっている。そんな時期に敢えてこの世界に飛び込んで音楽をやっていくのは勇気がいる。その点、アルバムをビクターが出してくれたのは感謝あるのみ。次回もそろそろ考えたいところだけれど、なかなか大変、と。

     確かにそうなんだろうと思います。CDが売れない、先行きが不安という危機感は、我々ファンも共有しています。この素晴らしいデュオでさえも、一枚のアルバムをリリースするまでには、きっといろんなハードルを越えなければならないのだろうとも思います。でも、人の心を明るく開け放つ力を持った彼女らの音楽が、さらなるライヴ活動を通して今まで以上にたくさんの心を掴み、生活必需品のようになってほしいし、それは可能なはずと確信しています。「Silent Love」に続く新しいアルバムを、遠くない将来に聴けるはずと期待もしています。私にとっての生活必需品のようなアルバムを。

     一つだけ贅沢な希望を言わせてもらうと、またいつかのようにマイク、PAなしのライヴを是非聴かせてほしい。音楽以外の要因に煩わされることなく、彼女が存分に思いの丈を歌い切れる環境で、二人の音楽を間近で感じたい。常に最高のものを追い求める彼女の真摯な姿勢には頭が下がる思いですが、マイクなしなら、そうした拘りを超越して自由を得た歌が聴けるような気がするからです。

     でも、最終的には、私は彼女の歌が聴ければ何でもいい。今後は、ピアノも交えたライヴや、オーケストラとの共演が予定されているとのことだし、近々再びNHKの歌番組に出演するらしい。たくさんの「次」を心から楽しみにしています。
    | nailsweet | 純名里沙 | 02:48 | comments(0) | trackbacks(0) |
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