【ディスク 感想】 恋愛小説2−若葉のころ 〜 原田知世

2016.05.12 Thursday

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    ・恋愛小説2−若葉のころ 〜 原田知世
     →詳細はコチラ(Tower/HMV)



     
    <<曲目>>
    <CD>
    01. September (竹内まりや・1979年)     
    02. やさしさに包まれたなら (荒井由実・1974年)     
    03. 秘密の花園 (松田聖子・1983年)     
    04. 木綿のハンカチーフ (太田裕美・1975年)     
    05. キャンディ (原田真二・1977年)     
    06. 年下の男の子 (キャンディーズ・1975年)     
    07. 異邦人 (久保田早紀・1979年)     
    08. 夏に恋する女たち (大貫妙子・1983年)     
    09. 夢先案内人 (山口百恵・1977年)     
    10. SWEET MEMORIES (松田聖子・1983年)     
    11. いちょう並木のセレナーデ (小沢健二・1994年) ※初回限定盤のみのボーナス・トラック     
    <DVD>
    01. September (Music Video)     
    02. 夢の人 (Music Video)


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     原田知世のニューアルバム「恋愛小説2−若葉のころ」を聴きました。1年ほどまえにリリースした前作で洋楽をカヴァーした彼女が、今度は日本の楽曲のカヴァーアルバムを作りました。

     アルバムに収められているのは、ボーナストラックの小沢健二の「いちょう並木のセレナーデ」を除けば、70〜80年代、いや、昭和49〜58年にヒットした歌謡曲とニューミュージック10曲。サブタイトルは「ザ・昭和」でもいいんじゃないかというような、彼女が小学生に入学した頃から、高校1年で映画デビューした年までにヒットした音楽たちで、まさに彼女にとっての「青春のうた」が収められたアルバムでもあります。勿論、彼女と同い年の私にとっても同じことで、楽しみにして聴きました。

     このアルバムでの原田知世の歌は、基本的に「引き算」の歌だと思います。70〜80年代の音楽の独特のテイストが絶妙な具合に消し去られたアレンジの中で、どの曲でも彼女はあまり抑揚や起伏をつけず、それと分かるような感情移入もほとんどみせず、音楽や言葉とは距離を置き、終始抑えたトーンでしみじみと言葉を噛みしめながら、つぶやくように平らに歌っています。
     その結果、それぞれの曲のオリジナルの作曲家や歌手の個性や持ち味は、彼女の歌からは隠ぺいされています。唯一、歌いだしから「本人?」とハッとしてしまうユーミンの「やさしさに包まれたなら」だけは例外ですが、全体的には、私たちがこれらの曲に対して持っていた明確なイメージから引き算を繰り返し、それでもなお楽曲が形を崩さず持ちこたえられるか、まるで実験でもしているかのように歌っています。
     でも、彼女の「引き算」は、余分なものを切り捨てて、より研ぎ澄ませたものを作ろうというような、ストイックで非情なものではありません。むしろ引き算したものへのまなざしには深い愛情が感じられる。どれも幸せで、あたたかくて、優しくて、美しい歌です。引き算されて生まれた余白の中に、私たち聴き手が入り込む場所が生まれているというか、旧友と会って昔話に花を咲かせつつ、互いの「いま」を話せるような感覚が得られるのが嬉しい。

     まだ恋愛なんて遠い憧れでしかなかった時期、意味も分からないままオトナの真似をして歌っていた恋の歌たちを、今、まぎれもない大人になって歌い、聴いている。あれから30年以上を経た今、私たちは音楽を作り歌っていた人たちよりもずっと年齢が上になっている。その間、私はたくさんの「引き算」をして生きてきました。数々の失敗を繰り返し、いろんな夢や可能性を諦め、大切な人との別れを経験し、でも、それでも手元に残っているささやかな幸せをよりどころにして生きている。
     そんな心持ちをもって、これらの懐かしい歌に改めて触れてみると、ああ、これは確かに「若葉のころ」の音楽だなあとしみじみ実感します。いずれも目に眩しい新緑のような瑞々しくて美しい感性をもった人たちが書き、歌った音楽であり、それをやはり青々とした若葉のような少年少女時代の私たちが聴き、一緒に歌っていたのだと。
     でも、過ぎ去っていったものはもう戻っては来ない。引き算してしまったものは二度と手に入らない。ただ大人になることに憧れながら聴いていた"Sweet Memories"が、本当に自分の歌として心に響く年齢になったのもしれない。あのサントリーのCMでペンギンたちが流していた涙の意味がようやく分かったような気さえする・・・。

     と、そんなくたびれた中年男のノスタルジーはここで止めておきますが、ともかく、彼女の歌は何と魅力的なのでしょうか。
    よく知られた往年のヒット曲を自分の個性に合わせたような我田引水に陥ることもなく、でも鼻歌まじりに気軽に歌ったというような安易さにもたれることもなく、ただただ自らの中に広がるイメージ通りに歌いましたというでもいうような、構えて聴こうとすると拍子抜けしそうな自然な態度がどの歌でも心地よい。
     しかも彼女のデビュー当時を強烈に記憶している私としては、「時をかける少女」から「早春物語」の角川映画の主役として彼女が活躍していた頃の彼女の歌声に通じるものがところどころで聴けるのがたまらない。いつまでもいつまでもこの歌に包まれていたいと願わずにいられないほどに幸せな時間を過ごしました。

     いつものことながら伊藤ゴローの変幻自在なアレンジも素晴らしい。原田知世の引き算を重ねた歌の「キワ」ぎりぎりのところで音楽を転回させて新しいイメージのサウンドを作り、あちこちで遊び、弾け、歌に饒舌に絡む。ボサノバでも、ヨーロピアン・ポップでも、ニューミュージックでもない、新鮮な「2016年の原田知世の歌」を心ゆくまで楽しみました。

     どの曲が気に入ったかと聞かれれば、少し前にテレビで歌っていた久保田早紀の「異邦人」でしょうか。随分と都会的でジャジーな雰囲気の歌になっていますが、ウッドベースとサックスのエロティックなソロと、ポーカーフェースでクールに歌う彼女の歌の対比がたまらなくアダルトで、ドラマの一場面を見ているかのように想像をかき立てます。
     デビュー当時から彼女と深い繋がりを保っている大貫妙子の「夏に恋する女たち」も美しい。ストリングスとピアノの美しいバックの中で、彼女は淡い恋心をにじませた少女のような表情を見せていて、胸に響きます。ああ「パヴァーヌ」というアルバムにもこんな雰囲気な曲があったなあと懐かしく思い出しました。
     いや、松田聖子の「秘密の花園」「SWEET MEMORIES」はアレンジの妙もあって素敵だし、竹内まりやの「September」のクールビューティな歌と、バックの引き算した瘠せたストリングスの響きも新鮮でいい。ちょっとだけ甘えたようなコケティッシュな表情を作った「年下の男の子」も、彼女がかつてDJをやっていたラジオ番組で好きだと公言していた原田真二の「キャンディ」のザラッとした感触の歌もいい。「木綿のハンカチーフ」もやっぱり名曲だなと思う。
     とにかく、とてもとても心に沁みるカヴァーアルバムだと思います。

     私は初回限定盤を購入したのですが、ボーナスでついてきたDVDでの彼女の姿も素晴らしい。「Septenmber」での彼女の穏やかな振り付けと、時折こちらに向けてくる視線、可愛らしいツインテール、人差し指と中指でトコトコと歩くシーン、何もかもが美しい。そして、最後、彼女が歯を見せて微笑むその笑顔にやられてしまいました。ああ、俺、この人ほんとに好きだったな、夢中になってたな、でも、もしかしたら今の方がもっときれいなんじゃないかと思いながら惚れ惚れと見入ってしまいました。どうやったらこんなに「いい女」になれるんだろうか。どれだけの喜びを経験し、どれだけの涙を流したら、こんなにいい笑顔ができるんだろうか。

     このアルバム発売をきっかけにライヴの予定はあるんでしょうか。タワレコではフライングゲット日に発売記念イベントがありましたが、優先的に入場整理券をもらえるようにとディスクを予約していたのに仕事が終わらず(そもそも早々に整理券はなくなったらしい)、私がタワレコに着いたのは彼女の残り香さえも消えた閉店間際でした。できることならば、また彼女のライヴを聴きたいです。彼女の引き算の歌と、素敵な笑顔と、「ウフフ」という笑い声に触れたいです。


     

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    2019.05.08 Wednesday

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