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【演奏会 感想】ウィリアム・クリスティ&レザール・フロリサン <イタリアの庭で〜愛のアカデミア> (2016.10.13 サントリーホール)

・ウィリアム・クリスティ&レザール・フロリサン

 <イタリアの庭で〜愛のアカデミア>

 (2016.10.13 サントリーホール)

 

 

 

 

 

 

 

 

<<曲目>>

バンキエーリ:「音楽のザバイオーネ」〜&5声のマドリガーレ第1集 より
ストラデッラ:カンタータ「アマンティ・オーラ(愛のアカデミア)」 より
ヴェッキ:「シエーナの夜会、または新音楽のさまざまな気分」 より
ヘンデル:歌劇「オルランド」 / オラトリオ「時と真理の勝利」 より
ヴェルト:マドリガーレ「もう涙も出ない」 より
ヴィヴァルディ:歌劇「オルランド・フリオーソ」 / 「離宮のオットー大帝」 /
「愛と憎しみに打ち勝つ徳、またはティグラネス王」 より
チマローザ:歌劇「みじめな劇場支配人」 より
サッロ:歌劇「カナリー劇場支配人」 より
モーツァルト:バスとオーケストラのためのアリエッタ「御手に口づけすれば」
ポルポラ:ソロ・カンタータ「もし私の心が一人だったら」
ハイドン:歌劇「歌姫」 / 「騎士オルランド」 より  他

 

ウィリアム・クリスティ指揮レザール・フロリサン
ルシア・マルティン=カルトン(ソプラノ)
レア・デザンドレ(メゾ・ソプラノ)
カルロ・ヴィストリ(カウンターテナー)
ニコラス・スコット(テノール)
レナート・ドルチーニ(バリトン)
ジョン・テイラー・ウォード(バス)

 

---

 

 

 幸せになりたいなら、愛してくれる人を純真な心で愛しなさい。そうすれば満ち足りた心になる

 

 ウィリアム・クリスティとレザール・フロリサンの来日公演、「イタリアの庭で〜愛のアカデミア」のプログラム最後を飾ったハイドンのオペラ「騎士オルランド」の大詰めの部分では、そんな歌詞が歌われます。

 

 この言葉こそ、そしてこの言葉にこめられた「愛」こそが、今日のコンサートの最大のテーマだったし、私が最も胸を打たれたものでした。

 

 素晴らしい、もう、いくら言葉を重ねても表現しきれないほどに素晴らしいコンサートでした。

 

 クリスティとレザール・フロリサンが、厳しいオーディションの末選ばれた若い6人の歌手たちと一緒に作り上げたセミ・ステージ(ソフィー・デインマン演出)。16世紀の声楽曲から、ハイドンやモーツァルトのオペラ・アリアやコンサート・アリアなど、まったく背景の異なった曲を寄せ集めて、歌手たちが次から次へと歌い、舞台を駆け回る。それは、2時間あまりにわたってサントリーホールを「劇場空間」に変容させるものでした。

 

 主人公はいません。あくまで、「音楽」、いや、「愛」がその中心にある。

 男女の愛、愛のもつれからくる嫉妬、怒り、絶望、そして喜び、そんな人間の生き生きとした感情が、惚れ惚れするほどに均整の取れた旋律と、いつも清新さを失わないみずみずしい響き、そして、技巧の限りを尽くしたレトリックによって余すところなく表現される。しかも、それらは説教臭くなったり、深刻で重厚なものになったりは決してない。いつも、音楽家たちのひたすら「美」を追求するひたむきで純粋な心持ちに貫かれた、光彩に満ちた音楽が鳴り響き、ホールをいっぱいに満たす。

 

 こんな音楽を聴きたかったんだと、しみじみ思いながら、彼らの生み出す音楽に、全身で浸り切りました。音楽には、こんなにも新鮮で、深くて、ちょっと官能的な快楽があるのかとあらためてその力に酔ったというところ。

 

 クリスティが選んだ6人の若手歌手にはスターはいないけれど、何年かしたら必ず私たちはこの人の名をもっと頻繁に聞くだろうと思えるようなキラキラした才能と声をもった人たちの歌。闊達で、ユーモアと活力、そして、美を追求する心、音楽と人生への溢れんばかりの愛を全身全霊で発散させる彼ら彼女らの歌は、呆然としてしまうほどに巧く、美しかった。特に女声二人の澄み切った声には、あまりにも陳腐な言葉になってしまいますが、耳と心が洗われる思いがしましたし、デザンドレという23歳のメゾのアジリタにもほとほと感心しました。

 

 そして、クリスティとレザール・フロリサンの、どこにも力みのない、羽毛のように軽やかでありながら、心の奥底から外へと強烈に発散していく響きの何と心に沁みることでしょうか。

 開始直後、バンキエーリのマドリガーレに引き続き演奏されたストレデッラのシンフォニエッタのまさに第一音からして、あまりにも心の襞の奥にまですっと入ってくる音だったので、どうした訳か感極まってしまったほどでした。

 

 心の中で、「これだ!」と叫びたくなるほどに、心のど真ん中に沁みわたってくる音楽。

 

 磨き抜かれた響きというには、もっと無為自然で作為のあとは感じられず、躍動する音の動きというには、もっと柔らかくて過度の刺激を避けようとする洗練された趣味を感じさせる。指揮者の個性と、集団としてのオーケストラの個性、そして一人一人の音楽家の個性が、分かちがたく融合し、高次元の音楽を生み出していた気がします。コントラバス2本の弦楽合奏に、フルートとオーボエ、ファゴットが加わるだけの小さな編成であるのに、どうしたらこんなにのびやかな音がホールいっぱいに広がるのだろうか。どんな秘訣があるのだろうかと不思議に思ったくらいです。

 

 こういうかけがえのない音楽体験のために、劇場(敢えてホールとは呼びません)がある。一流の音楽を聴いたからでも、流行や研究の最先端をいく音楽に触れたからでも、あるいは、人気の高いアーティストの演奏を聴けたからでもなくて、音楽から溢れ出んばかりの「愛」を感じ、いまここで過ごしている時間と、これからの自分の人生とを全力で肯定できているように思えること、それこそが今日のコンサートの最大の収穫でした。

 

 個々の曲では、ヘンデルの「時と悟りの勝利」の中から、有名な「リナルド」の「泣かせてください」を転用して作られた「棘は刺したまま、薔薇の花だけ」がとりわけ印象に残りました。歌っていたルシア・マルティン=カルトンのソプラノの可憐さと、純粋さ、弱音を大切にしたデリケートな表現、いずれもがとても心に響きました。

 

 ああ、世界の人たちがみんなこのエントリーの冒頭で引用した言葉を実践できれば、こんなに紛争や対立は起きたりせず、平和に、幸せに生きていけるのに。そして、「愛を感じられない人は けっして詩人にはなれない」という言葉どおり、この世界にもっと詩人が増えれば、世の中には「愛」が増えてくるのに。なのに、人間はどうして・・・・?

 でも、諦めてはいけない。クリスティとレザール・フロリサンが開いた「愛の学校」を、それを聴いた人たちの間で大切にする。そして、「愛の学校」の彼らの生徒として、その理念を大切に守っていく。まずはそこから、でしょうか。先は遠いですが、ゆっくりと、でも、確実に「学校」を発展させたいです。


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  • 2017.04.25 Tuesday
  • -
  • 03:00
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コメント
こんばんは、このコンサート、非常に気になってはいましたが、やはりお値段が高かったので見送りましたが、やはり非常にいいコンサートだったようですね。大変参考になりました。
  • siegfried
  • 2016/11/21 3:58 AM
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