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【演奏会 感想】武満徹へのオマージュ 〜 フィルム・ミュージックと彼が愛した音楽〜  鈴木大介(g)ほか(2016.10.18 銀座ヤマハホール)

・武満徹へのオマージュ
 〜フィルム・ミュージックと彼が愛した音楽〜

 鈴木大介(g)ほか

 (2016.10.18 銀座ヤマハホール)

 

 

 

 

 

 

 

<<共演>>

 田口悌治(g), 吉野弘志(bs), 芳垣安洋(Drs), 北村 聡(バンドネオン)

<<曲目>>

 J.レノン=P.マッカートニー/ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア/ヘイ・ジュード(武満徹編/12の歌より)
 A.バリオス/郷愁のショーロ
 J.ウィリアムズ/シンドラーのリスト
 A.ピアソラ/アディオス・ノニーノ
 武満徹/今朝の秋
 武満徹/森のなかで〜ウェインスコット・ポンド/ローズデール/ミュアー・ウッズ
 J.S.バッハ/マタイ受難曲より 愛ゆえに我が救い主は死に給う
 J.ルイス/ジャンゴ
 E.モリコーネ/1900年のテーマ
 武満徹/太平洋ひとりぼっち/伊豆の踊子/狂った果実/からみあい/乱れ雲/夢千代日記

(アンコール)

 武満徹/三月のうた、映画「写楽」より人間賛歌

 

---

 

 ギタリストの鈴木大介が銀座ヤマハホールで開いた「武満徹へのオマージュ」というコンサートを聴いてきました。

 

 武満の遺した映画音楽を中心に、彼が愛した音楽をとりまぜ、前半はギターソロ、後半は、ギター2本、バンドネオン、ウッドベース、ドラムで演奏するという趣向。

 会場は、さしずめ、前半は、しっとりと静かな雰囲気の中で珈琲を飲みながらしみじみと音楽を聴く「Café Takemitsu」で、休憩をはさんで、後半は色っぽい照明がアダルトな雰囲気を醸し出す中でグラスを傾けながら音楽を聴いて楽しむ「Bar Takemitsu」とでもいうべき趣。

 

 そのカフェとバーの両方のマスターは、言うまでもなく鈴木大介。めっぽうギターが巧くて、編曲もMCも解説の執筆も見事にこなす。彼のやることなすことすべてにお客さんは大喜び。しかも、腕っこきのミュージシャンが招かれて、素晴らしい音楽が振る舞われるのです。私たち聴衆は、彼らの演奏する武満の音楽に酔いしれながら、彼の肉声を聴きとり、歴史に名を残す大作曲家をより身近に、より親しげな存在として再認識する。音楽の喜びに浸り、満ち足りた気持ちで帰路につき、一日を穏やかに終える・・・。

 

 そんな演奏会だったと総括することができるのではないかと思います。

 

 武満の書いた映画音楽やギター曲を並べ、さらに彼が愛した音楽(バリオスのギター曲、ジョン・ウィリアムズやモリコーネの映画音楽、バッハのマタイ受難曲など)をまとめて聴いていて、武満徹という作曲家が、いつも心のどこかで「旋律」へと向かっていたのではないかということを感じました。
 今回の演奏会では、甘美な、あるいは、快活で印象的な旋律をもった曲を集めたのですから、それは当然と言えるのかもしれませんが、彼のシリアスなオーケストラ曲やピアノ作品を思い起こしても、五線譜に向かう彼の深層心理には、いつもどこかに「旋律」を求める気持ちがあったのではないかと思えてなりませんでした。


 今日の演奏会で言えば、武満が生前最後に書いたギター曲「森のなかで」が象徴的だったと思います。この曲には、いつもどこかに「旋律になりきれない何か」が断片として紛れ込んでいる気がしたのです。それは多くの場合、メランコリックで甘美な和声へと昇華され、遠い彼岸におぼろげながらに蜃気楼のように立ち昇るものとして現れたり、あるいは、ワルツのリズムに姿を変えたりして、ぼんやりと、曖昧に表現されているのですが、その甘い音楽にはほとんど痛みに近いほどの強度を持った「憧憬」を感じずにはいられません。
 作曲者の内側の未分化で言語化困難な領域にある何ものかが、その領域から抜け出して、はっきりした「かたち」を得たいと憧れ、切望し、覚醒した意識の領域に切実に訴えている。武満は、決して満たされることなく彷徨い続ける思いに突き動かされ、音を紡ぐのだけれど、それに安易な旋律をつけることを彼の審美眼が許さない。あまりにあからさまなものは、美しくないから。だから、平易な和声やリズムにそれを昇華させて、満たされぬ思いを成仏させてあげた。そうやってできあがったのが「森のなかで」という音楽。そんな図式を、今日の鈴木大介の演奏から見ました。それは間違いだらけの感想に違いありませんけれども、そういうふうに聴くことで、私はこの曲に対する親しみを強められた気がします。


 その点、武満は映画音楽やポップ・ソングでは、自らのうちの旋律への憧憬を、映画のストーリーや雰囲気に乗せて、軽やかに解放することができ、自由に振る舞う。彼自身の内側に湧き起こる「旋律への思い」は、登場人物や風景の佇まいや振る舞いというイメージを借り、具現化することができる。あからさまであることで決して美しさは損なわれない。存分に旋律を書けることの喜びは、曲想が明るいものだろうが、暗いものだろうが関係なく、聴き手にストレートに伝わって来る。その心に視覚的なイメージを喚起し、心の動きを誘発し、最後にはあたたかな幸福を与えてくれる。

 

 「旋律になりきれない何か」を突き詰めていくような音楽を書くのも、心を開放して「旋律」を謳歌するような音楽を書くのも、そのどちらもが武満徹という作曲家の本当の姿であり、両方の側面を知ることでこそ、彼の音楽に深く入り込んでいけるのだということを、鈴木大介というギタリストが身をもって教えてくれた気がします。今日の演奏会を通じて、武満徹の音楽がまた一歩、近い存在になりました。

 

 それにしても、鈴木のギターは言うに及ばず、ゲストミュージシャンの演奏のなんと素晴らしいこと。そしてなんと楽しいこと。
 2月に舘野ファミリーの演奏会で聴き、アンコールのピアソラで号泣させてくれたバンドネオンの北村聡を再び聴けてとても嬉しかったし、ギターの田口悌治、ベースの吉野弘志の熟達の演奏にも心躍ったのですが、ドラムの芳垣安洋のプレイには射抜かれてしまいました。いろいろなバチや道具を使って多彩な音を出しているというだけではなく、ドラムという打楽器を「叩いて」いるのに、その音から風や水しぶきが聴こえ、海や山の風景が見えたのです。こんな表現が可能なのかと目から鱗でしたし、かように卓越したミュージシャンの存在を知らないなんて、私は音楽について何も知らないんだなとつくづく実感しました。

 個別の曲では、ドラマ「今朝の秋」の主題曲で決壊。笠智衆主演のこのドラマ、最近再放送された(2013.9.30)のを見て深い感銘を受けると同時に、その音楽にも強く魅かれたことを思い出しました。甘い甘いしらべに触れて「終活」を先取りしたドラマの印象を思い出しながら胸を熱くしました。
 後半のスーパースターを迎えてのセッションは、もうどれも甲乙つけ難いものでしたので、1曲を選ぶことは困難。もうちょっと我々聴衆も「行儀悪く」聴いてもいいんじゃないかというほどにノリの良い音楽を満喫しました。

 でも、それでも1曲選べということなら、アンコールで演奏された「三月のうた」でしょうか。私が鈴木大介というギタリストを知ったきっかけの曲を聴けて感無量でしたし、私にこの曲を通して、彼の存在を教えてくれた友人への感謝の気持ちを新たにしました。

 「マタイ受難曲」の「愛ゆえに」も沁みました。武満が引用したことでも知られるコラールや、彼とかかわりの深いタルコフスキ絡みで「憐れんで下さい」ではなく、この「愛ゆえに」が選ばれたのは、武満がこよなく愛し、生前最後に聴いたという「マタイ受難曲」の中核に存在する歌だからなんだろうと思います。ギター二本とバンドネオンというアレンジもスパイスが利いていてとても良かったし、中間のインプロヴィゼーションも美しかった。

 

 今日の演奏会は、カフェとバーの「住人」である武満徹も、存分に楽しまれたのではないでしょうか。豊かな音楽体験を与えてくれた鈴木大介さん、4人のミュージシャンに心からお礼を言いたいです。


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  • 2017.06.25 Sunday
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