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【ディスク 感想】 薬師丸ひろ子 「Cinema Songs」

・薬師丸ひろ子「Cinema Songs」

 →詳細はコチラ(Tower/HMV)

 

 

 

 

 

 

<<曲目>>

01. ムーン・リバー     
02. Smoke Gets In Your Eyes     
03. Mr.Sandman     
04. ベンのテーマ     
05. Tea For Two     
06. Cavatina     
07. トゥモロー     
08. 追憶     
09. コール     
10. 愛のバラード     
11. 戦士の休息     
12. セーラー服と機関銃 ~Anniversary Version~ (Bonus track)

 

---

 

 先日、家人が出演するアマオケを聴きに行き、終演後のロビーで、かつてのオケ仲間たちに会いました。久しぶりに会えてとても嬉しかったのですが、一つ、どうにも納得のいかないことがありました。
 それは、女子(といっても私と同世代なのですが)と話すと、皆が、異口同音に、「粟野さん、相変わらずですね~」と言ったことです。相変わらずひねくれたことを言う、相変わらず寒いギャグで場を凍りつかせる、などと、半ば呆れ顔で、半ば憐れむような表情で言うのです。彼女らの余りに失礼千万な言い草に立腹し、家人に不条理を訴えると、「みんなの言うとおり。事実だから受け容れなさいよ」と、つれない返事。
 そうか、私という人間は、外見はともかく、もう30年近く前から何にも変わってないのかと愕然、呆然、唖然としました。でも、そう言えば、確かにそうだな、私という人間は結局何にも変わってない。それは毎日思い知っていることじゃないかと思い直したのでした。我が身の情けなさにがっくりしながら、かつてのオケ仲間の女子たちの鋭い観察眼に感心してしまいました。

 

 ところが、人間というのはまさにピンキリで、例えば、ここ数日、何本かのテレビ番組に出演した女優の薬師丸ひろ子の場合、彼女に向かって「相変わらずですね」なんてことを言う人は誰もいません。みんな、「ひろ子さん、いつまでも変わらない。ずっときれいですね!」と口をそろえて称賛する。
 いや、実際には、変わらないなんてことはないはず。歳を重ねればどうやったって外見は変わるし、喋っている時の声のトーンだって低くなっている。ナハハハと笑う時でさえ、その物腰には大人の気品がある。そして何より「母親役」が似合う女優さんになっている。
 でも、やっぱり薬師丸ひろ子は、デビューからどんなに時間が経っても、薬師丸ひろ子のままです。表情の美しさ、あの真摯な演技、凛とした立ち居振る舞いは「角川三人娘」の頃から何も変わっていない気がする。

 

 その「いつまでも変わらない」薬師丸ひろ子の魅力を、発売されたばかりのニューアルバム「Cinema Songs」で存分に味わいました。
 とは言え、彼女の歌は、たぶん、変わっています。以前より格段に味わいを増しているように思うのです。彼女が歌う一つ一つの言葉の明瞭さ、何よりもその言葉に込めた思いの大きさは、やはり年齢を重ねた上でないと実現できないものだろうと思いますし、曲のクライマックスの持っていき方が素晴らしくて、それはアレンジの吉俣良の力にもよるのでしょうが、これまで彼女が積み重ねてきた鍛錬や経験の賜物であって、彼女の歌に一層磨きがかかっていることは間違いありません。それに、今回のアルバムでは、彼女がこれまであまり歌ってこなかったタイプの楽曲が多く取り上げられているし、歌い方にもいろいろ工夫があって、彼女が自分の歌の幅を広げるべく果敢にチャレンジしながら作ったアルバムであることも確かです。


 でも、それでも、彼女の歌の魅力の一番大きなものは、彼女が10代の頃から既に身にまとい、その声に乗せて私たちに届けてくれていたものと、何ら変わっていないように思うのです。そう、映画で、テレビドラマで、そして、数々のディスクで、私たちファンを夢中にさせていたもの。あれです。

 

 彼女の「いつまでも変わらない」ものの正体って、じゃあ一体何だろうかと考えながら、アルバムを繰り返し聴いているのですが、答えは皆目分かりません。声とか、歌い方とかいうレベルのことではなくて、彼女のパーソナリティに属する何か。個性と言ってひとくくりにしてしまうには余りにももったいない何か。彼女自身ももしかしたら気づいていない何か。そして、聴き手が「ああ、どうか、あなたはいつまでもそのままでいてください」と願わずにいられない何か。その「何か」をどうにも言葉にできずモヤモヤとしながら、でも、やっぱり言葉にしてしまうのはもったいないとそのモヤモヤを弄びながら聴く。それが、私にとっての「Cinema Songs」の正しい楽しみ方であるような気がします。

 

 印象に残った曲を強いて挙げるとするなら、映画「ナースコール」の主題歌「コール」でしょうか。
 私は嬉しいのです。彼女が、玉置浩二の歌を歌っていることが。それは、ゴシップ的な意味では決してなくて、彼女が、これまでの封印を解いて、今後、玉置浩二の書いた歌を歌ってくれるかもしれないという理由で。
 以前、このブログでも書いたことなのですが、私は、彼女が歌う「胸の振子」という曲を偏愛しているのですが、それも玉置浩二が書いた曲なのです。でも、彼女はもう長くこの曲を歌っていないので、ライヴでは聴けていない。これを機に、久々に彼女が「胸の振子」を歌ってくれるかもしれないという期待を抱かせてくれる、という意味で、この「コール」は私にとって大きな価値を持つ曲なのです。
 でも、「胸の振子」云々はともかく、この「コール」は心に沁みる歌です。曲がまず素晴らしい。玉置浩二のソングライターとしての力量が発揮されたスケールの大きな曲で、そして、メロディやハーモニーに、あたたかく人を包み込む甘美な優しさがあって、私の胸の奥の湿った部分を刺激するのです。
 そして、薬師丸ひろ子の歌が、いい。特にサビの部分の幅広いメロディを、すべてを開け放ち、両手を大きく広げて歌う彼女の声は、もう神々しくさえ思える。最高音でも喉がちゃんと開いていて、音をずり上げずにポーンと当てに行くので歌が縮こまらない。サビを繰り返すうちに転調してキーが上がっていくところなど、かなりベタな展開で、それをまた甘いストリングスが盛り上げるものだから、普通なら恥ずかしくて聴けなくなるところですが、彼女の歌ではそんな心配は無用です。「Wの悲劇」「終楽章」「未完成」などの歌で聴かせてくれる、あの彼女のストーリー性を帯びてしまったような凄みのある歌の世界を堪能させてくれる。そして、曲に乗り移ったかのような彼女の歌のありようは、ただ美しいとしか言いようがない。この1曲を聴けただけでも、このアルバムを聴いた意味があると言いたくなるくらいの「絶唱」だと思いました。

 

 彼女の映画デビュー作となった「野生の証明」のテーマ曲「戦士の休息」も感慨深い歌です。何と言っても、「お父さん、怖いよ。何か来るよ。大勢でお父さんを殺しに来るよ」と高倉健に言っていたあの美少女が、町田義人が歌った印象的なテーマ曲を歌っているのです。それだけで万感胸に迫るものがあります。

 もともとかなり難易度の高い曲だと思うのですが、切々と、男のダンディズムのようなものを歌いあげているさまが感動的でした。あの映画で見た彼女の衝撃的ともいえる可憐さと、何より高倉健の惚れ惚れする演技を思い出し、こみ上げてくるものをこらえるのに苦労しながら聴きました。これもまた名曲の名唱だと思います。

 天国の健さんに聴かせてあげたい歌です。彼は、はにかみながら、ニコニコとして彼女の歌を聴いてくれるのではないでしょうか。「頼子ちゃん、やるね」と。

 

 あと、「犬神家の一族」の「愛のバラード」に歌詞のあるバージョン(山口洋子作詞)があるとは知りませんでしたが、これもまたなかなかに味わい深かった。薬師丸ひろ子の歌で、こういう「怖い」世界を覗き見るのも乙なものです。声のピュアさとのギャップが面白いからです。

 

 他には、「ムーン・リバー」「ベンのテーマ」「追憶」といったおなじみのナンバーや、「煙が目に沁みる(Smoke Gets In Your Eyes)」や「二人でお茶を(Tea For Two)」、マイヤーズの「カヴァティーナ(「ディアハンター」のテーマ曲)」などが収録されています。いずれも、「ああ、私の大好きな薬師丸ひろ子が、いつもと変わらず、そこにいてくれる」という大きな安心、喜びを与えてくれる歌です。英語の発音がちょっと日本語っぽいけど可愛いなあとか、アレンジがイメージと違ってて面白いなあとか、ブツブツと呟きながら、日中の煩わしい雑事を忘れ、「いつまでも変わらない」彼女の歌を楽しみました。

 

 一つ。「追憶」は岩谷時子の訳詞によるもので、”Lover's Concerto"の頃からずっと思っていたことですが、彼女の歌はなぜか岩谷の詞がぴったりきます。「ただ傷つくだけの思い出ならもう忘れましょう 何もかも過ぎたこと」などと歌われてしまうと、古傷がチクリと傷んだりしてしまいます。一体どうしでしょうか。

 

 彼女の前作「時の扉」も心に残るアルバムでしたが、レコード会社移籍第1弾となる「Cinema Songs」もまた、繰り返し聴きたくなる「名盤」だと思います。前述のように、あくまで熱狂的ファンの言うことなので、客観性などどこにもないですけれど。

 この24,25日には、彼女はビルボード東京でライヴを開催します。しかし、本当に地団太を踏むほどに悔しいのですが、チケット発売開始数分で争奪戦に敗北し、聴きに行くことはできません。どうせチケットを買えても、仕事が立て込んでいるので行けないかもと諦め、来年1月の六本木での追加公演は何とかチケットを入手して聴きに行きたいと思います。

 そして、彼女が出演するドラマ「富士ファミリー2」を見るのも楽しみにしていますし、「徹子の部屋」で言っていたように「大人のラブロマンス」のヒロインを演じる彼女を見たいと心から願います。いつもと違うけれど、いつまでも変わらない薬師丸ひろ子の美しい姿と声に接することを。

 

 

 それにしても、何をどうしたら、彼女のように、成長し変化しながらも、いつまでも変わらないでいられるのだろうかと心から不思議に思います。変化させつつ安定するということは、簡単なようでいて、本当に難しいこと。それを、恐らく無自覚のうちにやり遂げていられているからこそ、薬師丸ひろ子という稀有の存在が成立しているのだろうとしみじみと思います。

 私も、敬愛する薬師丸ひろ子を見習い、「相変わらずですね」と言われるダメ男から、「いつまでも変わらないですね」と称賛され、「いつまでも変わらないでいてね」と願われるような、いい男へと変身できるように頑張りたいと思います。絶対、無理ですけど。

 

 


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  • 2017.05.23 Tuesday
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