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【ディスク 感想】ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲第1,2番、弦楽四重奏曲第8番(ピアノ版) 〜 ギルトブルグ(P)、V.ペトレンコ指揮RLPO(Naxos)

・ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲第1,2番ほか

 ボリス・ギルトブルグ(P)

 ヴァシリー・.ペトレンコ指揮

 ロイヤル・リヴァプール・フィル(Naxos)

 →詳細はコチラ(Tower/HMV)

 

 

<<曲目>>

・ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲第1番ハ短調Op.35

・ショスタコーヴィチ/弦楽四重奏曲第2番イ長調Op.68 〜 第3楽章ワルツ(ギルトブルグ編)

・ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲第2番ヘ長調Op.102

・ショスタコーヴィチ/弦楽四重奏曲第8番ハ短調Op.110a(ギルトブルグ編)

 

---

 

 ナクソス・レーベルの新譜、ボリス・ギルトブルグのピアノ、ヴァシリー・ペトレンコ指揮ロイヤル・リヴァプール・フィル(RLPO)によるショスタコーヴィチのピアノ協奏曲集を聴きました。

 

 メインは言うまでもなく2曲の協奏曲で、ショスタコーヴィチの交響曲全集の録音で高い評価を受けたペトレンコとRLPOのバックに期待が集まるところです。でも、私自身は、それよりもむしろ、カップリングされた曲を聴くのを、インフォメーションを見て以来、ずっと楽しみにしていました。

 

 そのカップリング曲とは、ギルトブルグ自身がピアノ用に編曲した弦楽四重奏曲第8番。第2楽章を除けば、技術的にも内容的にも、ピアノで弾くにはおよそ向かないはずの曲を、ギルトブルグはなぜ編曲・演奏したのか。ただの腕自慢?それとも、この曲に新しい光を当てるべく果敢に挑戦したのか?その正気の沙汰とは思えない「蛮行」の結果を、この耳で聴き届けたいという一心で聴きました。

 

 面白かった。「ファシズムと戦争の犠牲者に捧ぐ」とされたシリアスな曲に対して、面白いなどということが適切なのかどうかはわかりませんが、とにかく聴いていて興味が逸らされる瞬間は一瞬たりともありませんでした。

 

 まず、編曲がよくできていると思います。

 

 最大の懸念だった第4楽章で第1ヴァイオリンが延々と同じ音を弾き続けるところは、ペダルを巧みに使いながら音は保持されています。両端楽章での、作曲者の名前からとられたDSCH音型をモチーフとした、対位法的な線の重なりも、ピアノの音の早い減衰が功を奏してむしろ原曲よりもクリアに聴きとれるようになってもいる。また、第2楽章での空襲を思わせるような激しい音楽も、特に左手の重音での強いアタック、クライマックスでの分厚い和声の響きが、この曲がもともと持っている仮借なさを強めてもいる。正直言えば、いくつか違和感のある部分(第3楽章の第1ヴァイオリンの耳鳴りのような高音など)もあったのですが、でも、随所に工夫を凝らして課題を克服していて、満足のいく編曲でした。耳には馴染みがあるのだけれど、まるで未知のピアノ・ソナタを聴いたような新鮮な気持ちになりました。


 ギルトブルグの演奏も、切れ味鋭いテクニックを駆使して、超難曲を弾ききっていて唖然とします。でも、それ以上に、ショスタコーヴィチの音楽に絶対に欠かすことのできない、のっぴきならない切迫感をもって弾いているところが素晴らしい。弦楽器で弾くのに比べてテンポが早めにならざるを得ないのですが、それが良い方に作用しているのかもしれない。

 

 特に印象に残っているのは、第4楽章、「ムツェンスク郡のマクベス夫人」でカテリーナが歌うアリアが引用される部分。原曲ではチェロが高音で歌う部分で、情夫セルゲイを想い「セロージャ、セロージャ」と呼びかける切ない歌ですが、ギルトブルグは、この部分を、ひりつくような寂寥感を表出しつつ、どこか血の通ったあたたかさを感じさせる優しい手つきで弾いています。その音楽への愛情あふれるまなざしが胸を打ちます。もともとこの曲で一番好きな部分ですし、かつて自分でも弾いた時も、最も感情移入して弾いたところなので、ここでこういう風に心に響く演奏をしてくれるのはうれしい。

 

 ですから、私は、ギルトブルグが、単に自らのヴィルトォージティを誇示するため、ショーピースとしてこの曲を演奏したのではなくて、ショスタコーヴィチの音楽にある緊迫感や、美しさを音楽として表現するために挑戦したのだろうと思いました。その心意気に感心しましたし、ショスタコーヴィチの音楽を愛する者として、心から共感しました。待った甲斐、聴いた甲斐がありました。

 

 ディスクのメインであるピアノ協奏曲2曲ですが、ギルトブルグのピアノは、ここでもキレッキレ。とても良かったのですが、それ以上に、私はペトレンコ指揮RLPOのバックにどうしても耳が行ってしまいました。彼らのショスタコーヴィチは、交響曲チクルスの頃から、また一歩進化しているような気がしたからです。


 粗削りなくらいの仮借ない切り込みあり、濃厚なカンタービレあり、繊細で青白いリリシズムあり、これまでにこれほど雄弁な演奏を聴いたことがあるのだろうかと思う(いや、実際にはあるんでしょうけれど)ほどに鮮烈。素晴らしかった交響曲全集から比べて、もっとタイトで、もっと多様で複雑な味わいをもった、豊かな音楽になっているのです。


 特に、両曲の緩徐楽章で聴かせてくれる透明な抒情には、その純度の高さの背後に、むしろ濾過された多くのものの気配が残っていて、不思議な翳りを与えているよう。ああ、それを感じることこそショスタコーヴィチの音楽を聴く醍醐味だよなと頷きながら、彼らの才気あふれる小気味よい第1番と、おもちゃ箱をひっくり返したような愉悦感に満ちた第2番を心ゆくまで楽しみました。第1番のオーウェンのトランペットも安定感があって、ピアノと丁々発止の掛け合いをやっていて頼もしい。

 

 これらの曲は個別にいろいろな演奏で聴いて感銘を受けてきましたし、愛聴盤となっているものもいくつかありますが、今回のギルトブルグとペトレンコの盤も、間違いなく定期的に聴きたくなるだろうと確信します。また、ペトレンコとRLPOのショスタコ^ヴィチは、声楽曲やオペラなどももっと聴いてみたいし、交響曲ももう一回録音してほしいと思うくらいです。

 

 このアルバムには、もう一曲、弦楽四重奏曲第2番の第3楽章ワルツの、同じくギルトブルグ編曲のピアノ版が収録されています。平明なワルツがどんどんグロテスクにこんがらがっていくショスタコ節炸裂の作品ですが、これなんかは、もともとショスタコーヴィチがピアノ的発想で書いた曲じゃないかと思うくらいにピアノ向きの曲。ギルトブルグはモリモリ、バリバリと弾いていて爽快。これさえ聴けば、たとえ嫌なことがあっても、そんなものは一瞬で吹き飛ばしてくれるんじゃないかと思うほどです。

 

 久しぶりにショスタコーヴィチの音楽を満喫した一枚でした。私の周囲のショスタキストさんたちはどんなふうに聴くでしょうか。

 

■NaxosのTrailer

 

■弦楽四重奏曲第8番:ボロディンSQ→コペルマン時代の聖典

 

■弦楽四重奏曲第8番:カザルスSQ→緩急の差の激しさ!(第2楽章!)


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  • 2017.05.23 Tuesday
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