【ディスク 感想】 Shadow, Echo, Memory 〜 ノースウェスタン大学チェロ・アンサンブル(Solo Luminus)

2017.01.30 Monday

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    ・Shadow, Echo, Memory

     ノースウェスタン大学チェロ・アンサンブル

     (Solo Luminus)

     →詳細はコチラ(Tower/HMV)

     

     

     

    <<曲目>>

    ・ワッズワース/3つの彩漆(寺院の儀式/年の通過/燃え尽きた備え物)
    ・フォーレ/夢のあとに
    ・デル・スロート/シャドウ、エコー、メモリー
    ・ラフマニノフ/ヴォカリーズ
    ・トマッラ/フレモ - 間奏曲
    ・カーニス/バラッド/
    ・リゲティ/ルクス・エテルナ(永遠の光)
    ・マーラー/交響曲第5番-第4楽章 アダージェット

     

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     ノースウェスタン大学チェロアンサンブルという耳慣れない団体による新譜”Shadow, Echo, Memory”を聴きました。

     

     このアルバムを聴こうと思ったのは、私がもともとチェロ・アンサンブルを弾く立場として楽しんでいた時期があって、このジャンルのアルバムに興味があるからというのがあるのですが、それ以上に、選曲の面白さに惹かれたからです。

     

     フォーレの「夢のあとに」、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」、マーラーの交響曲第5番第4楽章アダージェットといった定番曲に加え、いくつかの現代曲が収められていて、中でもリゲティのアカペラ合唱曲「ルクス・エテルナ(永遠の光)」のチェロアンサンブル版が聴きたかったのです。

     

     このノースウェスタン大学のチェロアンサンブルというのは、この大学のチェロ科の先生や生徒が集まって結成された団体らしく、人数がアンサンブルと言うよりオーケストラと言っていいくらいに多いのが特徴。また、曲によってはコントラバス、ハープ、パーカッションも適宜参加しています。指揮をしているのは、ハンス・イェルゲン・イェンセン。

     

     さて、このアルバム、全体を通して、この団体の演奏能力の高さにとても驚きました。一人一人の奏者の技量が高いということもあるし、おそらく指揮者の統率力が優れているのでしょう、とても安定した、そしてなかなかに味わいのある、いい音楽を聴かせてくれています。音色が柔らかくて、常に厚みのある充実したハーモニーが感じられること、ここぞというところでは激しい音楽への斬り込みがあって、ただ耳に心地よく流れていくだけの安易な音楽ではなく、何かいつも耳に刺激を与えてくれるものを与えてくれるのがいい。

     

     特に、ワッズワースの「3つの彩漆」とか、カーニスの「バラッド」のような旋律の美しさが際立つ曲は、まさに「歌う楽器」「旋律楽器」としてのチェロの魅力が詰まった楽しい聴きものになっています。また、デル・スロートのタイトル曲「シャドウ、エコー、メモリー」や、トマッラの「フレモ 間奏曲」のようなバリバリの現代曲でのちょっとおどろおどろしい音の世界でも、チェロアンサンブルの新たな可能性を聴かせてくれて印象に残ります。

     

     「ヴォカリーズ」と「夢のあとに」は、競合盤が結構あるので、それと比べて一頭地抜けたものかどうかは微妙ですが、クセのない素直なソロとアンサンブルが好ましい。

     

     でも、やはりこのアルバムの白眉は、最後のリゲティとマーラー。混声16部の無伴奏合唱曲である「ルクス・エテルナ」は、「20001年宇宙の旅」で使われたという枕詞はもう不要かもしれませんが、この曲の持ち味である、宇宙の広大無辺な広がりとか、その中にポツンと存在する人間の激しい孤独を感じさせてくれるという点で、とても良い演奏だし、編曲だと思いました。こういうのを聴くと、確かにチェロと人間の声は、音域が近いというのは本当かもしれないなと思います。原曲と違う味わいを感じた点があるとすれば、その響きの豊かさの質が合唱とは違って、音楽が地底から湧き起こって高い空へと昇っていくような感覚が付与されたことでしょうか。これはこれで私はとても好き。この1曲のためだけにでもCDを購入してよかったなと思います。

     

     そして、アルバムの最後、マーラーのアダージェットも素晴らしい。ハープとコントラバス(五弦含む)をそのまま使い、原曲の味わいをまったく損なうことなく楽しめる編曲なのですが、一瞬、チェロアンサンブルを聴いているのだということを忘れるくらいに、音色はまさにシンフォニー・オーケストラそのものでびっくりします。特に、最後のクライマックスでの壮大な響きは、さすがに高音がヴァイオリンほどの量感はなく少し痩せていますが、でも、その音には十分なテンションがあって、音楽が求めているだろう強烈な力の放射はちゃんとある。内声が原曲より分厚い響きになっている分、ずしりとした重量感のある手ごたえがものすごく肚にこたえる。
     でも、この演奏で一番魅力的なのは、そのデリケートなカンタービレです。マーラーの音楽を聴くときに私が求めてしまう、心の底から発せられた声のような深い祈りの歌が、ここにある。ここにいまないもの、ここではないどこか、もう過ぎ去って帰ってこない時間、そうしたものへの果てしない憧れ、渇望といった想いが、どの音符にも込められている。12分以上をかけてじっくり歌われる美しいカンタービレを聴きながら、ああ、私の求めるマーラーはこういうのだよなと、久しぶりにマーラーの音楽を聴いて鳥肌が立ちました。思わず、私のエバーグリーンであるCDを引っ張り出して聴いたちしてしまったくらい。

     

     マイナーレーベルのCDではよくあることですが、もしかするととんでもないゲテモノなのではないかという危惧をもって恐る恐る聴きました。でも、期待をはるかに上回る面白いアルバムを聴けて良かったと思います。これだからCD探索はやめられません。もしかすると、チェロ弾き仲間に聴かせれば、評判いいんじゃないかと思ったりもします。このリゲティなんてやってみたいです。

     

     

     

     

     

     

     

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