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【演奏会 感想】アントニ・ヴィット指揮新日本フィル演奏会(2017.02.24 すみだトリフォニーホール)
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    ・アントニ・ヴィット指揮新日本フィル演奏会

       クシシュトフ・ヤブウォンスキ(P)

     #569 トパーズ<トリフォニー・シリーズ>

       (2017.02.24 すみだトリフォニーホール)

     

     

     

     

    <<曲目>>

    ・モニューシュコ:歌劇『パリア』序曲
    ・ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 op.11
    ・シマノフスキ:交響曲第2番 変ロ長調 op.19

     

    ---

     

     客席で演奏を聴いている間は、「全面勝訴」と書いた紙を持って走り回りたいくらいの気持ちでした。指揮をしているアントニ・ヴィットは、世評以上に優れた名指揮者なのだ、という私のかねてからの訴えが、間違いなく認められたと思ったからです。そう思うくらいに、私は、ヴィットが指揮する新日本フィルの演奏を楽しんだのです。

     

     ところが、すべての曲目の演奏が終わった後の私の気分は、むしろ「不当判決」という紙を掲げたいくらいでした。あんなに素晴らしい演奏が聴けたのに、ブラボーなし、拍手もあたたかいけれど、儀礼的という範囲を出ない。私は一般参賀までやる気満々だったのだけれど、あっという間にお開きになってしまった。その反応は冷たすぎやしませんか?もっと拍手しないのですか?と思わずにいられなかった。だから「不当判決」なのです。

     

     同時に、ヴィットが指揮したモニューシコやシマノフスキは、そんなにつまらない演奏だった?レベルが低かった?それとも、私がいろいろな欠点や欠陥に気づけていないだけ?と、疑問符が頭上を舞い、心配になりました。最近、私はどうも世間一般とは好みがずれているんじゃないかと思う機会が結構あり、やっぱりその仮説は正しいのかもしれないと思いました。

     でも、他の人がどうだろうと、どうだっていい。音楽を聴くときくらい、「自分ファースト」でいい。私は、この10年くらい傾倒しているアントニー・ヴィットの実演を、ようやく、本当にやっとのことで聴き、期待以上に素晴らしい演奏を聴けて、心から楽しんだ、それでいいじゃないかと思うことにしました。

     

     彼が指揮したのは、モニューシコのオペラ「パリア」序曲、クシシュトフ・ヤブウォンスキを独奏者に迎えてのショパンのピアノ協奏曲第1番、そしてシマノフスキの交響曲第2番という、彼の祖国の作曲家の作品を3つ。いずれの曲においても、私が数多くのディスクを通して抱いてきたヴィットという指揮者の美質を、まったくそのまま感じることができました。


     澄みきった清潔な響き。豊かな音色のパレット。殊に中間色のグラデーションの多彩さ。たしかな造型感覚と緩急の自由自在さと、語彙の多さ。全体には穏健なたたずまいを常に保ちつつ、音楽の劇性の高まりには十分に呼応するダイナミズム。そして、熱っぽくありながら決して節度を失わない蠱惑的なカンタービレ。

     

     それらは、歴史的大指揮者たちが聴かせてくれた超個性的な音楽に比べると、相当に地味なものとも言えますが、しかし、厳しい審美眼に裏打ちされた熟達の職人芸に、私は耳も心も奪われてしまいました。

     特に、メインのシマノフスキの交響曲第2番は、CDでも名演を聴かせてくれましたが、今日の演奏も素晴らしかった。
     この交響曲は、装いはワーグナー、R.シュトラウス、マーラーと連なる独墺系後期ロマン派音楽、でも、その内奥にあるものは、人間の深層心理に踏み込んだ表現主義的な志向、具体的なドラマを拒絶した抽象性という、ある種の「ねじれ」をもった不思議な音楽です。
     ヴィットと新日フィルは、官能的で豊麗な響きを、厚塗りの油彩にして全体を塗り潰してドロドロの音楽にしてしまうことなく、その構造や語法をより精緻に表現することに注力する。短い単位でテンポや曲想が変化していくところでは、巧みにアクセルとブレーキを踏み分けて敏速に対応し、大局観を損ねず音楽全体のかたちをきっちりと描き出す。局所局所では硬質なアクセントをつけて楔を打ち、音楽の流れの変化をはっきりと体感させてくれる。
     そんなヴィットの見事な手綱さばきによって、この曲だけが持つユニークな音楽のねじれ構造が見事に表現されていたように思えます。以前は亜流としか感じられなかった曲ですが、実はこんなにも魅力的な音楽なんだということを改めて実感させてもらった気がします。
     それだけでなく、ヴィットがふんだんに聴かせてくれる適度にウェットなカンタービレ、耳に優しい中間色がたくさん用意された音色のパレットという、CDでいつも楽しんでいた彼の持ち味も堪能しました。

     ああ、ヴィットと新日本フィルのシマノフスキ・チクルスをやってほしい。そう思わずにはいられませんでした。終演後の客席の穏やかさが不思議でなりません。

     

     オープニングのモニューシコも面白かった。ヴィットは舞台袖から登場し、指揮台に昇るや否や、拍手も鳴り終わらないうちに鮮やかなトゥッティを鳴らし始めたのですが、その最初の充実したオケの響きから、ガラリと空気が変わった。ヴェルディの影響を思わせる序曲で、牧歌的で親しみやすい音楽を楽しみました。構成的には単調さがあって弱い気がしないでもないですが、特に第2主題でのみずみずしい抒情的な歌は印象的で、弦の声を潜めた歌の独特の美しさが沁みました。ヴィットのモニューシコは最近もバレエ音楽集のCDがNaxosから出たばかり、もっと他の曲も聴いてみたいものです。

     

     ショパンのピアノ協奏曲は、ヤヴウォンスキのピアノが、確かに音色もきれいだし、指もよく回って楽器は鳴っているのだけれど、音と音のつながりをぜんぶ真っ平らに弾く人らしくて、音楽にひっかかりがなく、すーっと耳を通り過ぎていった感が強い。

     一方でヴィット指揮のオケは、さまざまな仕掛けを仕込んで、ザラリとした感覚や、ちょっとした違和感をもたせることによって、味わい深い伴奏をしていたので、このつるんと抵抗のないピアノは、私はあまり楽しめませんでした。

     客席はそれなりに湧き、アンコールで、ショパンの夜想曲第20番と、「革命」を聴かせてくれましたが、そちらも感想は変わらず。最近、立て続けにショパンの新しい名盤を聴いたばかりなので、ついついハードルを高くしてしまいます。

     

     久々のコンサートで高揚していたとか、贔屓の引き倒しという面はあるでしょうが、私は心ゆくまでオーケストラを聴く醍醐味を満喫しました。ずっとヴィットのファンをやってきて良かった、10年近く待った甲斐があったと思います。

     

     さて、今日と明日の新日本フィルとの共演で、次のヴィットの来演は決まるのでしょうか?あまりウケが良くなかったから、もう次はない、のでしょうか?やっぱり、私の好みは世間からずれてるんでしょうか?わかりませんけれど、でも、私はこれからもヴィットの大ファンでいたいと思います。そして、今度こそは、心おきなく「全面勝訴」を叫びたいものです。

     

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