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【演奏会 感想】ジャン・ロンドー チェンバロ・リサイタル(2017.04.10 東京文化会館小ホール)

・ジャン・ロンドー チェンバロ・リサイタル

 (2017.04.10 東京文化会館小ホール)

 

 

 

 

 

 

 

<<曲目>>

・J.S.バッハ/ゴルドベルク変奏曲BWV988

(アンコール)

・クープラン/神秘のバリケード

・ロワイエ/スキタイ人の行進

 

---

 桜が満開の上野は東京文化会館の小ホールで、初来日したジャン・ロンドーのチェンバロ・リサイタルを聴いてきました。曲目は、バッハのゴルドベルク変奏曲ただ1曲。
 ロンドーは、デビュー盤”Bach Imagine”のCDを聴いてとても気に入り、もっとも気になる演奏家の一人。音楽に限らず、服装や髪型からすべてがユニークな奇才というイメージで売り出されていますが、私がその演奏から受けるイメージは正統派の音楽家。そんな彼がバッハの名作をどんなふうに弾くのか、興味津々でした。

 

 定刻より幾分遅れて舞台に登場したロンドーは、長身でスマート。白いシャツと黒いスラックスというカジュアルないで立ちで、しかもシャツの袖はまくっている(ように見えた)。髪型は、CDジャケットほどにツンツンしておらず、髭もさっぱりと揃えられていて、柔らかい微笑みをたたえて、我々の前に現れたのは、まさに「好青年」でした。

 

 彼は拍手に軽く答礼し、椅子に腰かけたかと思うと、まるで指ならしをするかのように、ト長調のアルペジオを(たぶん即興で)弾き始めました。柳の木が風に吹かれて、軽やかにしなるような動きを見せて鎮まったあと、ゴルドベルク変奏曲のアリアが始まりました。
 ロンドーが奏でるバッハのゴルドベルク変奏曲は、彼のデビュー盤を聴いたときに書いた感想がそのまま当てはまるような、何の衒いもない「正統的」な演奏だと感じました。ロックのようなタテノリで、鍵盤をたたきつけるような場面は皆無で、どちらかというとヨコノリのグルーヴをみせながら、音楽の流れが柔らかくつながっていく、そのさまがひどく印象的だったのです。最後の方にきて早いテンポで無窮動的に鍵盤をかけめぐる場面はあったものの、基本的には、各変奏の間を十分にとり、楽譜を見ながら丁寧に弾いていくという謙虚な演奏スタイルを崩しておらず、その押しつけがましさのない、しなやかで、微笑みに溢れたバッハは、とても好感のもてる、気持ちの良いものでした。


 演奏会後、どこかから、「あんまり気持ちよくて、何か所か寝落ちしたよ」という声が聞こえてきましたが、私もそうで、まあ、ここのところ仕事の疲れがたまっていて、体調も万全でなかったということもあり、その耳をくすぐる優しい響きに浸っていると、つい意識が遠のくときが数回ありました。ああ、もっと体調のいい時に聴きたかったなと思いつつも、若葉のような柔らかい色調をもったチェンバロの音色を楽しみながらまどろむなんて、これ以上のリラクゼーションがあるだろうかとさえ感じました。

 

 すべての変奏が終わってアリアが回帰し、すべての音が鳴り響いたあと、ロンドーは鍵盤から指を離さず、身動き一つせずに静止していました。客席も、しんと静まり返って、その柔らかな変奏曲の余韻を楽しみました。ようやくロンドーが手を膝に下ろすと、あたたかい拍手が巻き起こり、何度かカーテンコールをしていくうち、ロンドーは「集中して聴いてくれてありがとう、感謝します。日本に来るのは初めてだけど、近いうちにまた来ます」と客席に語りかけ、アンコールを演奏しました。クープランの「神秘のバリケード」と、ロワイエの「スキタイ人の行進」という、フランスのチェンバロ音楽の名曲。

 こちらは、バッハでのあの慎ましやかな演奏とは打って変わって、これぞ新しい世代の新しい古楽だ!と叫びたくなるような鮮烈な演奏でした。とは言っても、バッハと同じく、激しく叩きつけるようなロック調のビートは皆無で、まるでフォーク・ミュージックで、アコースティック・ギターがアルペジオを奏でるような、豊かな響きをもったハーモニーと、歌うような流麗なレガートが泉から溢れ出る水のようにこぼれ落ちてくる、それが何とも言えず魅力的でした。撥音楽器のチェンバロで、よくこんなにふくらみのある響きが作れるなと感心すると同時に、常に自然な呼吸を失わない快適な音楽の流れにすっかり魅了されました。彼のバッハもいろいろ聴いてみたいと思いますが、今度彼が来日するときには、こうした革命前のフランスのチェンバロ音楽を特集したプログラムで聴きたいと心から思いました。

 

 爽やかな後味をいつまでも楽しんでいたい素敵なコンサートでした。


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  • 2017.08.16 Wednesday
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