Langsamer Satz

クラシック音楽のことなどをのんびり、ゆっくりとお話したいと思います
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【ディスク 感想】マンスリアン/レクイエム 〜 リープライヒ指揮ミュンヘン室内管、RIAS室内合唱団(ECM)
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    ・マンスリアン/レクイエム

     アレクサンダー・リープライヒ指揮ミュンヘン室内管

     RIAS室内合唱団 (ECM)

     →詳細はコチラ(Tower/HMV)

     

     

     

     最近、アルメニアの音楽をかなり頻繁に聴いています。なかなかブログを書けないでいるので、その感想も記録できずにいるのですが、数日前に購入して聴いたアルメニアの作曲家ティグラン・マンスリアンの「レクイエム」が非常に心に響いたので、ごくごく簡単に感じたことを書き留めておきます。

     

     このレクイエムは、2011年に作曲されたもので、1915-17年にオスマン帝国(現トルコ)であったとされるアルメニア人虐殺の犠牲者の追憶のために書かれました。
     アルメニア虐殺は、当時オスマン帝国内で巻き起こった猛烈な他民族排斥の流れの中で、ロシアと繋がりを持つことが懸念されたアルメニア人が、殺害され、凌辱され、街ごと焼かれたという陰惨なものでした。死者の数ははっきりしておらず、事件から100年経った今もなお、虐殺を認めないトルコ側と、被害者であるアルメニアの間で論争が続いていますが、アルメニアの発表では150万人にも及ぶとも言われています。つい昨年も、ドイツの議会がトルコによる虐殺であると認定したり、ローマ法王が虐殺について触れたりといった報道がなされたのは記憶に新しいところで、特にEUという視点で見ても、まだ解決の糸口の見つかっていない状況です。

     

     マンスリアンは、自国の悲しい歴史の犠牲となった人たちを弔うため、合唱と独唱(ソプラノとバリトン)、弦楽合奏のためのレクイエムを書いたわけですが、作曲にあたり、ラテン語のレクイエム典礼文をテキストにそのまま使いながら、アルメニアの古代聖歌の旋法から強い影響を受けた旋律を当てています。

     これは、虐殺されたアルメニア人のほとんどがキリスト教徒であったことに由来していますが、その旋律はなるほどエキゾチックなものが多い。しかし、「怒りの日」などで聴かれる激しい動きをもった音楽はショスタコーヴィチ的であったりもしますが、大半は、バーバーの「アニュス・デイ(弦楽のためのアダージョの合唱版)」やペルトの合唱曲を想起せずにはいられないような、透明で、静謐な美しさが耳を惹きつける、とても美しいものです。親しみやすささえも感じるほどに。

     社会告発、特に加害者を弾劾するために書かれたものであるにしては「怒り」よりも「悲しみ」の方よりが強く、亡くなった人たちの霊を慰めるにしては、「救い」よりも「絶望」を感じさせる場面の方が多く、虐殺の悲惨さを想起させるためのものにしては「グロテスクさ」よりも「美しさ」の方が前面に立っている。私は、そのあまりにも美しい響きに溢れた音楽に触れ、その響きのもたらす感覚的な悦びに身を浸していると、この美しい音の中に溺れてしまっていいのだろうかと考えてしまいます。ただ涙を流し祈るだけで、このような残酷で愚かな行為をなくすことなんてできるのだろうか。オスマン帝国内で殺された人たちだけでなく、シリアやイラクの砂漠まで連行され、命を落とした人たちの霊を慰めることは可能だろうかと。

     でも、過去の悲しい歴史を振り返り、何よりも犠牲者を思い、一人一人、ちゃんと名前をもち、価値のある人生を送るべきだった人たちのことを隣人として「思い出し」、理不尽な死を悼み、その人たちを心から愛する、そこから離れてしまっては何事も始まらない、と、常にうつむき加減の、穏やかなレクイエムを聴きながら思いました。激高し、議論に熱中することも時には必要でしょうが、まずは静かに犠牲者を思うということに徹せよ、と、マンスリアンの音楽は訴えかけている気がしてなりません。

     

     最近その名前や演奏を聴く機会の多くなったアレクサンダー・リープライヒは、ミュンヘン室内管弦楽団、そして、近年、とみに評価の高いRIAS室内合唱団の演奏は、素晴らしい。マンスリアンの書いた静謐な音楽を、誠実に、そしてただひたすら美しく奏でています。響きの純度はこれ以上望めないのではないかというほどのものですが、しかし、ここぞというところでは質感のあるずっしりとした音を聴かせているあたりも、とてもいい。

     

     マンスリアンの音楽は、やはりECMレーベルのCDでいくつか散発的には聴いて知っていた程度ですが、こうして、とびきり印象に残る曲を知ることができてとても嬉しく思います。これをきっかけに、もっと体系的に彼の作品を聴いていきたいと思いますし、日本でも彼の「レクイエム」がそのうち聴けますようにと願います。

     

     ところで、二国間の悲しい戦争の歴史の中で、死者の数に論争があって、「虐殺」だったかどうかという認定でもモメている例は、私たちの身近にもあります。それぞれの言い分はあるのでしょうが、その死者数はさておいても、とにかく命を落とした人たちを、静かに思い出すことから今一度始める必要があるんじゃないかと思います。私たちは議論に熱中している間は、死者のことを忘れすぎているような気がしてならないからですが、どうでしょうか。

     最近は特に古楽奏者の間で、西洋音楽が、イスラム世界の音楽と出会った頃の音楽を復元して、東西の同時代の音楽が融合した刺激的な音楽を演奏するケースが増えています。この「レクイエム」を書いたマンスリアンにも、それと少し共通するメンタリティがあるような気がします。このような音楽界の動きが、私たちの現実の世界の中に少しずつでも広まっていきますように。そうでなくとも、不穏な空気が蔓延しだした、私たちの世界で。

     

     

     

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