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【演奏会 感想】A.ギルバート指揮東京都響 第828回 定期演奏会Aシリーズ(2017.04.17 東京文化会館)
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    ・A.ギルバート指揮東京都響 第828回 定期演奏会Aシリーズ

     リーラ・ジョセフォウィッツ(Vn)

     (2017.04.17 東京文化会館)

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    <<曲目>>

    ・ラヴェル:バレエ音楽《マ・メール・ロワ》
    ・ジョン・アダムズ:シェヘラザード.2

              ─ヴァイオリンと管弦楽のための劇的交響曲(2014)(日本初演)

     

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     急に時間が空いて、アラン・ギルバート指揮東京都響の定期演奏会を聴くことができました。当日券が入手できたので幸運でした。
     

     曲目は、ラヴェルの「マ・メール・ロワ」と、ジョン・アダムズの「シェヘラザード.2 ─ヴァイオリンと管弦楽のための劇的交響曲(2014)」の日本初演。後者はニューヨーク・フィルでの世界初演でギルバートと共演したヴァイオリニスト、リーラ・ジョセフォウィッツが担当。
     今回の2曲の共通点は、「物語」であることは明らかです。前者は「マザー・グース」、後者は「アラビアン・ナイト」に由来する物語がベースになっているからです。アダムズの「シェヘラザード.2」は、男性から抑圧され搾取されながら賢く生きるアラブ女性としてのシェヘラザードが描かれているとのこと。つまり、ある種の政治性を孕んだ音楽なので、「マ・メール・ロワ」を前プロに持ってきたのには何かそんなメッセージがあるからなのかとも考えましたが、答えはよく分かりません。作曲家の出自(バスク出身フランス、アメリカ)と物語の舞台(アジア、中東)との間に、「植民地」とか、「敵対」のような言葉を当てはめることも可能でしょうが、あんまり関係なさそうな気がする。それよりは、今の私たちの社会における「物語」、あるいは「寓話」の意味は何だろうかという問いが隠されているというふうに考える方が自然でしょうか。

     前半のラヴェルは、都響はこんな音が出せるんだ!と呟きそうになるくらい、その音色の多彩さ、柔らかさに驚きました。いつも微笑みにあふれた優しい音色は、このメルヘンチックな曲にうってつけ。音色だけじゃなくて、リズムも同様に柔らかくて、ワルツなどで聴くことのできる、ふわふわと浮遊するような拍節感は、羽毛布団のような感触。いわゆる「フランスのエスプリ」を感じさせる音楽というよりは、もっと国際的でニュートラル、あるいは無国籍風のものですが、だからこそ、日本人の私がすんなりとその音楽の中に入れたのかもしれません。
     でも、彼らの「マ・メール・ロワ」が魅力的だったのは、聴いていて、ゴージャスな建物の中で高級な絨毯を踏むような場違いな感覚に襲われることは皆無で、私自身の内部にもあるものと直結しているように思えること、に尽きます。その音楽の柔らかさは、あくまで人間の内側から出てきたものであり、意識と無意識のはざま、つまり夢から生まれている。だから、音楽が、最近流行の言葉を使えば、「自分事」として響くのです。ギルバートがシェフを務めるNYフィルのお膝元、ウォール街で数年前に起きたデモに絡めて言えば「99%」に属する私にもちゃんと居場所のある音楽なのです。指揮者もオーケストラも、そして我々聴衆も、心身ともに十分にリラックスして、柔らかな時間を過ごすことのできた、とても幸福な演奏でした。

     後半のアダムズの「シェヘラザード.2」は、50分に及ぶ大曲。ヴァイオリンと、ツィンバロンが独奏、そして、バラエティに富んだ打楽器を含む大オーケストラが、「シェヘラザード」の新しい物語を雄弁に紡いでいきます。
     全体は4楽章構成で、各楽章は「若く聡明な女性の物語—狂信者たちに追われて」「はるかなる欲望(愛の場面)」「シェヘラザードと髭を蓄えた男たち」「脱出、飛翔、聖域(サンクチュアリ)」という標題がつけられています。例のアラビアン・ナイトの「千夜一夜物語」、つまり、毎晩処女と交わっては殺していたシャフリヤール王に対して、シェヘラザードが、毎晩面白い話を王に提供し、千一夜目に王女として迎えられるというあの話を、現代の視点から読み解き、「男性の抑圧のもとに置かれ、自由が保障されていない女性たちを解放したいという想い」をこめて作った作品なのだそうですが、会場で配布された解説によれば実際には具体的な標題性をもたせて書かれた音楽ではないようです。
     だからという訳ではないのですが、こうした情報なしに先入観なしで聴いたなら、私は、そんな背景を感じることは絶対になかっただろうと思います。ツィンバロンの響きから「ハンガリー」を連想するかもしれないし、それよりも音の動きの面白さに心を奪われただろうし、何かテーマがあるとしても、もっと抽象的なものが隠された音楽だと感じるだろうと思います。それで聴き方として良いのだろうかと思いながらも、そうした標題云々の話は抜きにして、アダムズの良い聴き手でない私でも、この「シェヘラザード.2」は十分に楽しめました。不協和音や変拍子もたくさんあるし、決して「わかりやすい」音楽ではなくて正真正銘の現代音楽と呼んで差し支えないのだけれど、とにかく理屈抜きに聴いていて面白いし、楽しい。

     

     この面白さは一体何なのだろうかと考えたのですが、ただ調性がはっきりしているからだけでなく、アダムズの音楽には独特の「1/fゆらぎ」があるのではないかと思いました。リズム、音の高さや強弱、調性など、さまざまなパラメータのパワースペクトルを解析してグラフにしてみれば、人間の生理にぴったり寄り添うような曲線が書けるんじゃないかと。だから、聴いていて自然に呼吸ができるし、その音楽の起伏にも完全に身を委ねることもできる。両端楽章で見られるような、各楽器の細かい動きが、激しく、そしてかなり複雑にぶつかり合うような場面から、ねっとりとした情緒を含んだ音楽が妖しく絡み合う場面まで、何の不条理も感じずに聴ける。

     また、常に透明で見通しの良い響きのおかげで、音がどこへ向かっていくのかというベクトルが明確に感じられるので、ミニマル的な場面が続いても、いつも自分の居場所が確認できる。難解な音楽を聴くときに往々にして感じる「まだ終わらないの?」という感想を漏らす必要もない。そんなことから、私は、日頃ほとんど聴くことのないアダムズの音楽を楽しむことができたように思います。

     特に印象に残ったところはどこかと問われれば、曲の最後近く、オケの弦楽器が奏でる分厚い和音とともに、ヴァイオリンが賛歌のような美しい旋律を歌うところでしょうか。曲のプロットからすると、抑圧された女性の解放を願う歌ということのようですが、それ以上に、私には、女性への、あるいは女性的なものへの賛美、賛歌であるように聴こえました。コープランドやアイヴズ、あるいはネッド・ローレムあたりの音楽から引き継がれたような、アメリカの音楽の良心のような「美」に触れ、アメリカという国の「文化」への敬意を改めて持ちました。それにひきかえ、アメリカの国家は・・・、などと考えてしまったことは内緒ですが。
      

     もちろん、演奏が素晴らしかったからこそ、私が音楽を楽しめたのだということは、まぎれもない事実です。

     

     ジョゼフォヴィッツのヴァイオリンは、デビュー当時のカワイ子ちゃん路線からは信じられないような、もっと硬質で、もっと敏捷で、もっとアグレシッヴな音楽への対峙を感じさせる演奏でした。彼女がヴァイオリンを弾く姿を見ていると、キックボクシングの選手のように、全身バネになって、音楽に瞬時につかみかかるさまが印象的でした。しかも、ただ厳しい一辺倒の演奏ばかりではなく、妖艶な魅力をたたえた音色も聴かせ、アダムズの音楽の起伏を克明になぞらせてもらえる。ただ、私自身の好みからすると、ああ、ここはイブラギモヴァで聴いてみたいなとか、コバチンスカヤだったらどう弾くだろうかとか、考えてしまうときもありましたが、いやいや、凄みのある演奏を聴かせてもらいました。
     ギルバートと都響の演奏も、細部まで明晰そのもので、この曲のもつ面白さをきめ細かく明らかにしつつ、ヴァイオリン独奏を優しくエスコートしていました。特に弦楽器パートの繊細かつダイナミックな扱いは見事としか言いようがなく、まずはこの曲を楽しむためには十分すぎるほどに優れた演奏を聴くことができたと思います。


     聴いていて、ギルバートは、きっと「コーチング」能力に長けた指揮者なのだろうと思いました。プロジェクトマネジメントの世界で言えば、マネジメントを円滑におこなうには、ティーチングとコーチングの両方が必要です。リーダーやマネージャーが自分の理想を実現するには、自分の思うやり方を、部下に積極的に押しつける(ティーチング)ことが良い結果を生むときもあるし、部下を管理しすぎることを戒め、その自発性、自律性に任せる(コーチング)方が良いときもある。
     その意味で、ギルバートの音楽、そして指揮ぶりには、オケに何か無理強いをした形跡が皆無で、好ましいコーチングの成果として生まれたような音楽なのです。だから、どんな場面でものびのびした呼吸が失われることはなく、オーケストラの内部から音楽が自然に湧き出ているかのように感じられるのです。
     もちろん、彼は相当に細かく指示を出しているに違いないのです。あれだけ多彩な音色を、明確なビジョンのもとに時々刻々と変化させて、オーケストラから引き出しているのですから。でも、ギルバートは指揮台の上から君臨しない。オーケストラが自ら歌い始めるのを辛抱強く待って、何かが生まれてきた瞬間を捉えたら、それをもっと湧き出るように「場」を作り始める。そんなさまを聴いた気がします。さすがに近年多くのファンを魅了した組み合わせだけあるなと感心しました。

     とても素敵な、いい演奏会でした。

    | nailsweet | クラシック音楽 コンサート | 03:45 | comments(0) | trackbacks(0) |
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