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【ディスク 感想】 音楽と私 〜 原田知世

・音楽と私 原田知世

 →詳細はコチラ(Tower/HMV)

 

 

 

 

 


 

<< 曲目>>

01. 時をかける少女 (1983年)     
02. ロマンス (1997年)     
03. 地下鉄のザジ (Zazie dans le metro) (1983年)     
04. ダンデライオン〜遅咲きのたんぽぽ (1983年)     
05. 天国にいちばん近い島 (1984年)     
06. ときめきのアクシデント (1982年)     
07. 愛のロケット (1997年)     
08. 空と糸 -talking on air- (2002年)     
09. うたかたの恋 (2014年)     
10. くちなしの丘 (2007年)     
11. 雨のプラネタリウム (1986年) [ボーナス・トラック]

 

---

 

 原田知世のデビュー35周年を記念してリリースしたカバーアルバムの第3弾、彼女自身のヒット曲のセルフカバーを11曲集めた「音楽と私」を聴きました。

「ときめきのアクシデント」「時をかける少女」「天国にいちばん近い島」といった初期の曲から、「雨のプラネタリウム」「愛のロケット」「ロマンス」「くちなしの丘」などを経て、最近の「うたかたの恋」まで、彼女の歌手としての活動を俯瞰するようなラインナップ。プロデュースとアレンジは、最近ずっと彼女の音楽活動を支えてきた伊藤ゴロー。

 

 どれも「懐かしい」という感慨を抱かずにはいられない曲ばかり。聴いていると、ふと、それらの曲をリアルタイムで聴いていた頃のことが脳裏をよぎったりもしました。そう、私が原田知世というアイドル女優に夢中だった頃のこと。
 でも、伊藤ゴローのアレンジが新しい感覚に満ち溢れていて、曲にまったく別の生命を吹き込んでいるからでしょうか、聴いているうちにその懐かしさはどこかへ行ってしまう。そして、どれも若い女性の恋心を歌ったラブソングばかりで、昔は、可憐な女優さんから自分に向けられた歌であるかのような、「絶対あり得へん」疑似恋愛的な感覚を抱きながら聴いていたものでしたが、そういう生々しさはまったく感じずに(この歳になっても感じてたら、それはそれでおかしいですが)、ただただ原田知世の透き通った声と、優れたソングライターが書いた素晴らしい音楽に浸りました。

 

 徹頭徹尾、「サウンド」を指向したアルバムなんだろうと思います。原田知世の歌は、そのサウンドの中心にあって主役であることには違いないのですが、彼女の歌のありようは、そこから切り取っても自立できる「うた」であろうとするより、その音の風景と完全に一体化して切り離せないものになろうとする意志をより強くもったものに思えました。

 ひとつひとつの言葉に感情をこめて、何か具体的な思いを聴き手に伝えるのではなく、「表現」は淡々とした素朴な身振りに抑え、そうした生々しいものを結晶化させて、メロディに乗って発せられた言葉が、心地良いサウンドの中でキラキラと乱反射するのを、聴き手と一緒になって愛でる、そんな歌を私は聴いたような気がします。ピアノの弾き語りで、遠いまなざしでしみじみと歌われる「天国にいちばん近い島」がその彼女のスタンスをよく体現したものだと思います。

 しかも、彼女を含めたかつてのアイドル歌手たちが往々にしてそうだったように、プロデューサーや制作サイドがお膳立てしたものにただ乗っかり、操り人形よろしく、作られたイメージを演じているというような窮屈さはまったくない。そこがとても素晴らしい。彼女自身、歌い手でありながら、聴き手としての視点を失わないで音楽を心から楽しんでいるのが伝わってきて、こちらまで聴いていて楽しくなる。彼女自身がギターの弾き語りをしている「くちなしの丘」などが好例。

 

 そうした彼女のサウンド志向の歌は、伊藤ゴローのアレンジによるバックの音の中で花咲き、幸せなサウンドを生み出していきます。考えてみれば、これまで彼女が組んできた鈴木慶一、トーレ・ヨハンソン、伊藤ゴローというプロデューサーたちも、それぞれがユニークな「サウンド」を作る名人なわけで、ずっと前から彼女の音楽的な志向は明らかだった。でも、今回のアルバムで、その彼女の「こうありたい」という思いが、豊かな実りとなったという強い感慨をもつのは、やはり彼女自身がデビュー当時から大事に歌ってきた音楽だからでしょうか。

 

 前述の「天国にいちばん近い島」は、心にひたひたと迫る歌でした。歌い方だけをとってみれば、映画の主題歌で聴かせてくれた歌にかなり近づけている印象がありますが、でも、スター女優としてスポットライトを浴びる中で、いささかかしこまって歌っていたあの頃とは、雰囲気から何からまったく異なる。安易に大人の歌などとは言いたくないけれど、やっぱり年齢を重ねなければ歌えない情趣はあると思います。サビで唐突に英語が挿入される照れ臭ささえも吹き飛ばす力のある情趣が。正直、この曲ってこんなにいい曲だったっけ?と思ったほどに、新鮮な驚きを感じました。
 彼女の初のミニアルバムに収録された大貫妙子の「地下鉄のザジ」も、あの頃よりもむしろ今の方が可愛いんじゃないかというくらいのコケティッシュな歌も良かったし、テレビ版「ねらわれた学園」の主題曲「ときめきのアクシデント」がまさかこんなにアダルトな雰囲気の音楽になるなんてびっくりしました。「ダンデライオン」も同様で、「少女の歌」であることを完全に忘れさせてくれる。
 既にシングルカットされた「ロマンス」のおもちゃ箱をひっくり返したような楽しいサウンドもいいし、「空と糸」「くちなしの丘」のジャム・セッションをそのまま録音しましたというようないい意味でのラフな音楽も素敵。意外なリズム割りが面白い「雨のプラネタリウム」も、一所懸命に声を張って歌っていた頃の彼女とは別人みたいな落ち着いた歌がいい。「うたかたの恋」のアシッド・ジャズっぽい雰囲気は、オリジナルよりも翳りが濃くて、胸に沁みる。

 そして、「時をかける少女」。やっぱりこの曲は特別だなと思います。どんなに時間が経っても、誰のどんなアレンジでも、松任谷由実の曲が、彼女の独特の存在感を、たしかに引き出している気がするからです。勿論、それは私の中の映画の記憶、その当時の私自身の記憶が絡んできて、強い感慨を呼び覚ますからという理由もあるでしょうけれども、やっぱりこの曲を歌う彼女は今も眩しい。いい歌だなと素朴に思います(正直、歌詞にはあまり共感はしませんが)。そういえば、ユーミンという人も、確かにメロディメーカーとしてもすぐれていますが、やはりサウンドを大切にする人だったなと思います。

 

 ジャケット写真で、白いノースリーブを着て、にこやかな横顔を見せている原田知世を見ながら、いいアルバムを聴かせてくれてありがとうと思わずつぶやいてしまいました。これで、鬱陶しい雨空をやりすごし、気の重い仕事も何とかこなせそうだと、勘違いかもしれませんが、そう思うことにしました。

 

 これからも彼女の「サウンド」、ずっと楽しんでいけたらと思います。いや、付録のDVD(「時をかける少女」「ロマンス」)での、私と同い年とは思えない彼女の凛とした美しい姿を見ていると、やっぱり女優さんとしての活動も期待せずにはいられません。

 

 

 

 

 


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  • 2017.08.16 Wednesday
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