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【演奏会 感想】田部京子 ピアノ・リサイタル −シューベルト・プラス第2回−(2017.07.14 浜離宮朝日ホール)

・田部京子 ピアノ・リサイタル

 −シューベルト・プラス第2回−

 (2017.07.14 浜離宮朝日ホール)

 

 

 

 

 

 

<<曲目>>

・ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 Op.110
・シューベルト/4つの即興曲 D. 899
・シューベルト/ピアノ・ソナタ 第19番 ハ短調 D. 958
(アンコール)
・ベートーヴェン/バガテルOp.126 - 3
・シューベルト/即興曲 D.942 - 2

 

---

 

 演奏会が終わってロビーに出ると、会場限定で先行販売された、次回のチケットを買い求める人たちの、長い行列ができていました。私と同じように、このピアニストの音楽の中毒患者がたくさんいるのだと知りました。私が聴いた演奏も、多くの人に「次も」と思わせるだけの魅力的なものだったということなのでしょう。

 

 私が聴いたのは、昨年の12月から始まった田部京子の「シューベルト・プラス」の第2回。会場はいつもの浜離宮朝日ホールで、曲目は、最近、彼女が頻繁に取り上げるベートーヴェンのソナタ第31番と、彼女の十八番、シューベルトの即興曲D.899とソナタ第19番の3曲。新味のないプログラミングという見方も可能かもしれませんが、私は、定期的に彼女のシューベルトを聴かないと生きていけない身体になっている(要するに中毒)ので、聴きにいかない訳にはいかない。しかも、ベートーヴェンの31番まで聴けるのですから。

 とは言うものの、実は、この演奏会は当日券で聴きました。確実に聴きに行ける確証がなかったのでチケットを取れなかったのです。でも、昼過ぎになって、時間が融通できる見通しが立ち、当日券もあると分かった瞬間、迷わず聴きに行くことにしました。

 

 彼女のシューベルトは、以前にも増して、音楽に内在する「明暗」を大切に表現したものだと感じました。特に暗い翳りをもった暗い響きに重心が置かれている。

 例えば、映像の品質は、「黒」の色調の豊かさがポイントになります。黒の階調が潰れてしまえば安っぽい映像になり、黒の表現力を上げることで映像の鮮やかさや奥行きが向上する。最近は、液晶のバックライトもドット毎にON/OFFして黒の色調の表現力をアップしているので、そうした機能を搭載したディスプレイで見る8K(4kじゃなくて)の画像は、現実のものよりも美しく深みのあるものに見えたりします。

 まさにそれと同じように、彼女が聴かせてくれたニュアンスに富んだ「暗」の音色の多彩さは、そのまま音楽の品位の高さとなって表れていた気がします。音楽として、素朴に質の良いものを聴くことができたというのは間違いのないところだと思います。

 

 でも、それ以上に、彼女の弾くシューベルトの音楽の「翳り」は、心の襞に沁みてくるものでした。その「翳り」を聴いていると、この音楽は、闇に深く沈み、自己の内部の奥深くに沈み、行き場のない完全なる孤独の中で、絶望と直面したことのある人間にしか書けないものだとしみじみと実感できるのです。そして、そういう音楽が存在してくれていることは、少しでもそういう体験をしたことのある人間にとって、どれほどの救いとなり、慰めとなってくれることか分かりません。
 その音楽には、ただ漆黒の闇が表現されているだけでなく、時に、一条の光が射し込みます。どこへも進んでいかない音楽ではあっても、その眼差しは光のある方へ向けられ、光の向こう側にあるものへの憧れがあり、希望がある。あの深い「翳り」があるからこそ、微かな光の美しさが映えるし、大きな明かりとなって心を照らし、恵みの雨となるのです。即興曲の第1、3番や、ソナタ第19番の第2楽章などは、その最も顕著な例でしょうか。
 勿論、即興曲の第2番でのコロコロと転がる宝石のような音の粒立ちも、胸ときめく思いでしたし、第19番のベートーヴェンを意識したドラマティックな音楽でも、十分な質感と量感をもった演奏を聴くことができましたが、常に「明暗」を意識してニュアンス豊かに奏でられる音楽は、沁みました。
 ああ、この音楽を聴くことができるから、私は生きていけるのだと思いました。ありがたい、ただその一言です。

 

 ベートーヴェンの31番は、実演で聴くのはたぶん3回目くらいじゃないかと思うのですが、決して弾き飛ばすことなく、丁寧に音の綾が明らかにされているのはいつも通りながら、彼女が聴かせてくれる「明暗」は、これまで聴いた演奏以上に美しかった。特に、第3楽章の嘆きの歌の深々とした情趣と、フーガでひたすら高みに向かって飛翔するさまは、神々しくさえありました。きっと彼女は、さらなる高みを目指し、この曲をこれからもずっと取り上げ続けることだろうと思いますが、私もずっとそれを追いかけて聴き続けたいと思いました。

 

 そう、やっぱり私も、演奏会終了後に行列していた人たち同様に、「次」を聴きたいと思っています。会場で配られたチラシによれば、シューベルト・プラスの第3回では、いよいよ第20番が取り上げられるとのこと。これはまた聴きに行きたいと思います。日曜日なので多分今度は大丈夫。シューベルトの命日に、また沁みる音楽を聴きたいです。

 

 そうそう、アンコールはベートーヴェンのバガテルOp.126-3と、シューベルトの即興曲D.942-2の2曲。どちらも、彼女にぴったりの気品あふれる優しい音楽。特に偏愛するシューベルトの即興曲第2番は、それこそ「生命の水」のような音楽を聴いて、たっぷりの栄養を与えてもらった気がします。ただ、それと引き換えに、私の目から随分と水分が逃げて行った気がしますが、でも、いいでしょう。これからも、彼女と一緒に歳を重ね、彼女の「次」への期待を糧にして生きていきたいです。


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  • 2017.07.24 Monday
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