Langsamer Satz

クラシック音楽のことなどをのんびり、ゆっくりとお話したいと思います
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ディーリアス・プロジェクトに思う
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    ・ディーリアス・プロジェクト

     →詳細はこちら(Motion Gallary)

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     この7月28日、クラシック専門のネットラジオOttavaのプレゼンターなどでおなじみの音楽ジャーナリストの林田直樹さんが、「ディーリアス・プロジェクト」を立ち上げました。

     

     

     

     

     これは、イギリスの作曲家フレデリック・ディーリアス(1862-1934)の助手エリック・フェンビーが、晩年の作曲家と過ごした日々について書いた著書”Delius as I knew him”の日本語訳本の刊行(アルテス・パブリッシング)と、小町碧さんが11/1に王子ホールで開くヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会を支援するクラウド・ファインディング。

     

     ディーリアスのオーケストラ作品のタイトルで、ケン・ラッセル制作の伝記映画のタイトルにもなった「ソング・オブ・サマー」という邦題で刊行されるフェンビーの本は、小町さんが翻訳を担当し、イギリス音楽研究の第一人者である向井大策さんが監修。私たちファンにとってはイギリス音楽の愉しさを教えて頂いた恩人、オヤマダアツシさんが解説を書かれるそうです。さらに、ヴァイオリニストの小町は、ずっと前からディーリアスの作品を積極的に取り上げ、英国でも高い評価を得ているという期待の若手。


     そんなこれ以上ないというくらいに相応しい人たちが関わるファンディング、今日現在でコレクター(支援者)は70人で、565,700円が集まっているとのこと。目標は200万円とのことなので、まだ達成には時間がかかりそうですが、集まった金額に関わらず、本の刊行と、コンサート開催は予定通り実施するという宣言がなされています。

     

     私は、ディーリアスの音楽をこよなく愛しています。小学生の頃から愛読していたレコード芸術では、三浦淳史氏や、出谷啓氏という「ディーリアン」による熱烈な文章がよく掲載されていました。そして、1982年、東芝EMIから、ディーリアスのLPが廉価盤で一挙発売されたのを機に聴き始めたのですが、ビーチャム指揮の歴史的名盤でいっぺんに持っていかれてしまい、すっかりディーリアンとなりました。以来、35年間、いつもディーリアスの音楽は私の傍らにあります。

     今回出版予定のフェンビーの著書も、かつて三浦淳史氏の紹介で存在を知り、読みたいと願ってきたものの、まだ読んだことがなかった。また、ディーリアスのヴァイオリン・ソナタを一挙に全曲聴ける貴重な機会を逃したくない。ですから、私も僅かですが出資しました。

     

     私がこのプロジェクトを応援したいと思うのは、もっとディーリアスの音楽を聴きたい、関連する書籍を読みたいという、まったく利己的な理由によります。

     

     でも、ちょっと上段に構えたことを言ってしまうと、今、ディーリアスの音楽が聴かれるべきときなんじゃないかという気がするのです。

     

     今でも微かに記憶しているのですが、70年代後半、前述の二大ディーリアン評論家の功績もあり、ちょっとしたディーリアス・ブームが巻き起こりました。

     その際は、確か、「自然回帰」「自然に帰れ」というような文脈で、彼の音楽がもてはやされたように思います。当時は、オイル・ショックの時のトイレットペーパー買い占めなどに記憶も新しく(私は微かに覚えている程度ですが)、また、空気や水の汚染などの公害が社会問題となっていました。今思えば、無邪気な大量消費への反省が巻き起こり、贅沢な都会生活を戒め、「自然に帰ろう」というメッセージがあちこちで叫ばれていたのです。

     そんなときに、自然に寄り添い、自然の懐に抱かれながら、静かに物思いに耽り、自然と対話をする音楽は、自然への「憧れ」を駆り立てるものとして受け容れられていたように思います。

     

     あれからかなりの月日が経ちましたが、当然、ディーリアスの音楽は何も変わらっていません。いつも、優しく、静かに「自然」を歌い、その中で生きる一人のはかない人間の「生命」を歌い続けています。

     

     その代わり、私たちの方が変わった。自然への憧れは持ち続けているにせよ、普段は穏やかな自然が、時として牙をむいて猛威をふるうことを何度も経験してきた。自然は、人間が克服し、征服するものではない、畏怖の念を抱き、その中で何とか共存していくものなのだということを、身をもって知らされてきた。

     

     そんなときに、人間という存在が、大きな自然の中でいかにちっぽけで儚いものなのかを、音で教えてくれるディーリアスの音楽は、私たちに大きな恵みを与えてくれるように思えるのです。殊に、彼の音楽の中にある「敗者の視点」が、今の我々の社会の中で、大切になっているのではないかと。

     

     ディーリアスの音楽に「敗者」を見るという考えは、私のオリジナルではありません。それこそ、70年代に、レコード芸術誌で、出谷啓が「落ちこぼれの音楽」というような言い回しでずっと言い続けていたことだし、三浦淳史氏の文章にもそんな論調はあったように記憶します。

     

     弁証法的・論理的な音楽の構築、苦悩から勝利へというような分かりやすい物語とも一切無縁、はかないもの、小さいものへのノスタルジーと愛情を歌った音楽に親しみ、人間という存在があらかじめ抱えている「敗北」の地点に立ってみる。そこから、森羅万象を捉え直し、今の社会で積み重なってしまった歪みを見直す。そんなふうに音楽と関わることは、何がしか、これからの時代を生きていくヒントを与えてくれるのではないか、そんな気がします。

     

     これは日本に限った話ではないかもしれない。こんなことを言うと笑われるに違いないのですが、例えば、北緯38度線の国境、イムジン川ほとりの非武装地帯で、「夏の夜 水の上にて歌える」を流す。イスラム教徒とキリスト教徒が一緒に暮らす街で、「アレルヤ!」と「アラー!」が同時に歌われる「レクイエム」を演奏する。その音楽を聴いた人たちが、「敗者」の意識を持って戦意を喪失し、いがみ合った人たちの間の空気がほんのちょっと変わる。そんなことになればいいのに、と妄想したりもする。

     

     勿論、そんなことは現実にはあり得ないし、そもそも音楽が社会を変える力なんてないのでしょうけれども、そう思わずにはいられないくらいに、ディーリアスの音楽は、今の時代が失くしてしまったもの、手に入れるべきものをたくさん持ったアクティブなものなんじゃないかと思うのです。だから、ただ私の好きな音楽だからというだけでなく、ディーリアスの音楽を普及したいという活動には、どうしても支援したくなります。

     

     そして、林田さんもFBやOttavaで仰っていますが、ディーリアスに限らず、あまり人気があるとは言えないマイナーな音楽の価値を見直して幅広く取りあげ、聴き手もそれを愉しむことは大事なことだと思っています。

     ベストワンの名曲名盤を追求したり、歴史的名演の現場を目撃することに熱中したり、というのとはまた違う楽しみ方、付き合い方もある訳で、以前に比べればそういう流れは活発化している気はしますが、もっと広がっても良い気がしています。そんな中で、ディーリアスを初めとする英国音楽なり、中東の音楽なり、あるいは、現役バリバリの作曲家たちの出来立てほやほやの作品なりに、もうちょっとあたたかい目が注がれ、演奏家たちもそうした領域にチャレンジしやすくなるのではという気もします。いや、それ以上に、我々聴き手の人生も豊かになる。

     ですから、今回のディーリアス・プロジェクトをきっかけとして、「ディーリアスに限らずさまざまな魅力的な音楽をさらに多くの人に届けていく方法を模索していきたい」と仰る林田さんたちの活動を、心の底から応援したいと思っています。

     

     ということで、最近、私の中で、ディーリアス熱が再燃しています。少し前にリマスター盤が発売された聖典ともいえるビーチャムのBOXセット、英ユニコーン=カンチャナに録音されたフェンビーやデル・マーらの名演を集めたBOXセットなどから引っ張ってきたり、Chandosから出たA.デイヴィスの録音(協奏曲集、アパラチアなど)や、Naxosのいくつか(弦楽四重奏やパート・ソング、人生のミサなど)といったもの。

     

    ・ディーリアス/管弦楽作品集、歌劇「村のロミオとジュリエット」

     サー・トーマス・ビーチャム指揮ロイヤル・フィル (Warner)

     →詳細はコチラ(Tower/HMV)

     

     

     

     

     

     

     

    ・ディーリアス・コレクション(生誕150年エディション)

     エリック・フェンビー指揮ロイヤル・フィルほか (Heritage)

     →詳細はコチラ(Tower/HMV)

     

     

     

     

     


     このうち、やはりこんな素敵なプロジェクトが立ち上がるのですから、Hertageレーベルの、エリック・フェンビーが自ら指揮した素晴らしい演奏の数々収めた「ディーリアス・コレクション」が、もっと知られるといいなと思います。

     

     「高い丘の歌」「日没の歌」「告別の歌」といったオケと声楽の大規模な歌も美しいのですが、「イルメリン」前奏曲や「フェニモアとゲルダ」間奏曲、ラ・カリンダ、2つの水彩画といった小品での奥ゆかしい表現も素晴らしい。

     そして、フェリシティ・ロットとトーマス・アレンという名歌手を迎えたディーリアス最後の作品「田園詩曲」は、涙なしには聴けない味わい深い演奏。フェンビー自身、失明し下半身不随となった作曲家から口述筆記して完成させた作品だけに、その演奏にかける熱い思いは、穏やかで、淡々とした音の運びの中からもひしひしと伝わってきます。

     また、ロット、ウォーカー、ロルフ=ジョンソン、アレンを迎えた歌曲集の素晴らしさはどう言葉にしてよいか分かりません。特に、フェンビーがピアノ伴奏した一枚は、ディーリアスの美しい歌と、名歌手たちの美声にいつまでも浸っていたいと願わずにはいられない。そのうちのいくつかの作品を、オケ伴奏で歌ったものも美しい。特に「黄昏の幻想」は、定期的に無性に聴きたくなる、極私的名曲の一つ。バーンスタインがベルリンの「第9」で起用したメゾ歌手のサラ・ウォーカーの絶唱が聴けます。
     他にも、早世したラルフ・ホームズのヴァイオリンによる名演奏や、若き日のジュリアン・ロイド=ウェッバーのチェロも楽しめる。
     このディスクが収められたBOXは、時折、都内のCDショップでも見かけますし、ネット販売もあるので入手可能なはず。巷で話題になることはほとんどありませんが、ビーチャムやマッケラスのセットと並ぶ歴史的名盤の部類に入るんじゃないでしょうか。

     

     ディーリアス・プロジェクトについて語っていたつもりが、愛聴盤について熱く語ってしまいました。いずれにせよ、このディーリアス・プロジェクトの成功と、今後の大いなる発展を心から祈っていますし、私も一ファンとして応援したいと思います。

     

     ちなみに、私は自分の意志でこのプロジェクトに出資しただけの一ファンであり、このブログ記事はファンディングの宣伝でもないし、他の方に投資を呼びかけるものでもありません。ましてや、文章を書くことを依頼されたのでもありません。ただただ、偏愛するディーリアスの音楽に関わるプロジェクトができたことが嬉しくて嬉しくて、子供のようにはしゃいだ状態で文章を書いているに過ぎないことを、念のために申し添えておきます。

     

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    ・ディーリアス/ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会

     小町碧(Vn) 米津真浩(P)

     (2017.11.01 王子ホール)

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     


     

     

     

     

     

     

     

     

     

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    ■"Song of Summer”(ケン・ラッセル監督、1968 BBC)

     

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