Langsamer Satz

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【ディスク 感想】ドビュッシー/歌曲集 〜 エメーケ・バラート(S) エメシェ・ヴィラーグ(P)
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    ・ドビュッシー/歌曲集

     エメーケ・バラート(S) エメシェ・ヴィラーグ(P)

     (Hungaroton)

     →詳細はコチラ(Tower/HMV)

     

     

     

     

     

    <<曲目>>

    (1)星の夜(3'01")
    (2)麦の花(2'01")
    (3)パントマイム(2'25")
    (4)秘めやかに(3'24")
    (5)マンドリン(1'34")
    (6)月の光(2'54")
    (7)操り人形(1'40")
    (8)艶なる宴(2'02")
    (9)美しき夕暮れ(2'21")
    (10)鐘(2'03")
    (11)感傷的な風景(2'59")
    (12)春が来た(2'30")
    (13)まぼろし(3'45")
    (14)ロンドー(2'32")
    (15)音楽(1'52")
    (16)ロマンス(2'39")
    (17)アリエルのロマンス(4'35")
    (18)虚ろな心(1'52")
    (19)庭の色彩(2'51")
    (20)アンジェラスの鐘(2'01")
    (21)ビリティスの3つの歌(9'46")

     

    ---

     

     最近、ハンガリーのフンガロトン・レーベルが元気。毎月のように、興味深いディスクを続々とリリースしています。その中で、ハンガリー出身の若手ソプラノ歌手エメーケ・バラートの歌うドビュッシーの歌曲集を聴きました。

     

     バラートは、最近、カウンターテナーのフィリップ・ジャルスキーと共演した「オルフェオ」が出たところですし、古楽のオペラで既に映像作品がいくつか出ている人気急上昇のソプラノ。しかし、どうやら、ソロは名義のアルバムとしては、今回のドビュッシーが初めてのものとなるようです。伴奏しているのは、フンガロトンで多くのリート伴奏のディスクをリリースしているエメシェ・ヴィラーグ。

     

     バラートの美しい声を存分に堪能しました。とにかく声がどこまでも透き通っていて、濁りが。東欧系ソプラノ歌手にありがちな独特の声や表現の癖もない。ブラインドテストされたら、彼女がどこの国の出身者かを当てるのは至難の業に違いない(フランス語の発音の巧拙は私には分かりません)。

     

     彼女は、硬軟織り交ぜて声の音色や歌い口を自在に変化させつつ、ドビュッシーの書いた歌の輪郭を明晰にたどる。彼女が古楽を中心に活躍している人だからか、ヴィブラートは終始控えめ。なおのこと旋律線がクリアに聴こえます。

     ですから、全体に、彼女の歌は、茫洋としたアトモスフェアとか、香り立つようなエスプリなどというような「おフランス」的歌唱とは距離があります。硬質な感触と、少しひんやりした温度を感じさせる音楽、と言えば良いでしょうか。

     

     でも、それが心地良い。ドビュッシーの歌曲かくあるべしというものがあるとして、その基準に照らしてみて、バラートの歌がそれを満たしているのかは分かりません。もしかすると、すべてがクリアにすぎて、陰翳に乏しいのかもしれない。グローバル化しすぎなのかもしれない。いろいろと足りないところ、軌道修正が必要なところもあるのかもしれません。

     

     それでも、私が彼女の歌に惹かれるのは、その「クリアさ」に共感するからです。どういうことかと言うと、このところ、ドビュッシーの音楽を「クリア」なものとして聴くことに快感を覚えているから。

     

     昔は、ぼんやりしていて、とらえどころがないと忌み嫌っていたドビュッシーの音楽。でも、それは私の浅薄な誤解に過ぎず、ドビュッシーの音楽は、緻密に設計され、はっきりとした実体をもったものだと感じ、最近は理屈抜きに楽しむことができるようになった。フランス人の音楽家の「フランス的」な演奏からでさえも、そうした音楽のもつ「かたち」が感じられるようになってから俄然面白く聴けるようになった。
    彼女の歌は、私のそんなドビュッシーの音楽への親しみを後押ししてくれました。さらに含蓄のある表現があって、音楽に奥行きが出れば、もっと良くなるのにという場面がないとは言えないのですが、でも、この凛と背筋の伸びた清潔なリリシズムには私は猛烈に惹かれる。特に、最後に収められた「ビリティスの歌」のフレッシュな歌、ヴェルレーヌの詩による「艶やかな宴」(「月の光」を含む5曲)の清楚なエロスが印象的。「美しい夕暮れ」も、爽やかに一陣の風が吹き抜けるような風情が快い。ヴィラーグのピアノも、彼女の音楽にぴったりと寄り添って、はっきりくっきりのドビュッシーを聴かせてくれる。

     

     考えてみると、もしかすると、彼女たちの音楽の「クリアさ」は何より、私たちが生きる「いま」の時代の空気感から生まれたものであって、とても自然なものとして聴こえるということなのかもしれない。ブラウン管ではなく、4K/8Kの高解像度の液晶ディスプレイの時代の音楽。堀口大學の古い口語訳ではなく、古典新訳文庫か何かで、「いま」の息遣いをもった言葉で訳されたヴェルレーヌの詩をそのまま音楽にしたような歌。そんなオープンでくだけた雰囲気が、「世界でいちばん入りにくい居酒屋」的な空気を感じて近寄りがたかったドビュッシーの音楽に対して、私が何の気兼ねもなく入れるエントランスを用意してくれているように思います。

     

     ドビュッシーの歌曲集というと、サンドリーヌ・ピオーと、ヨス・ファン・インマゼールの共演による、あまりにも美しい音盤が私の中で絶対的な位置を占めているのですが、あれもどちらかというと「明晰さ」を追い求めた「新しい」ドビュッシーでした。しかし、そこから、今やこんなふうにハンガリー出身のソプラノの演奏からまた、より新しいものへと進化しつつあるということなのかなと思ったりします。

     

     とても新鮮な聴体験でした。バラートは、この秋、カンブルランと読響が演奏するメシアンのオペラ「アッシジの聖フランチェスコ」に出演するために来日するとのこと。私はチケット発売日をすっかり忘れていて、気がついたら完売してしまっていたので聴きに行けませんが、そのうち、再来日してリサイタルを開いてくれることを切望します。

     

     

     

     

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