Langsamer Satz

クラシック音楽のことなどをのんびり、ゆっくりとお話したいと思います
<< 【演奏会 感想】クリストフ・エッシェンバッハ指揮NHK響  第1868回 定期公演(C)  (2017.10.20 NHKホール) | main | 【ディスク 感想】アリーナ・イブラギモヴァの初録音? 〜 Thwarted Voices - Music suppressed by the Third Reich - ユーディ・メニューイン・スクール・オーケストラ >>
【演奏会 感想】小泉和裕指揮東京都響 第841回 定期演奏会Bシリーズ アリーナ・イブラギモヴァ(Vn)
0

    ・小泉和裕指揮東京都響 、アリーナ・イブラギモヴァ(Vn)

     第841回 定期演奏会Bシリーズ

     (2017.10.24 サントリーホール)

     

     

     

     

     

     

     

     アリーナ・イブラギモヴァの今年の来日公演は、三鷹と銀座でティベルギアンとのデュオを聴いてきましたが、締めとして、東京都響の定期演奏会でのバルトークのヴァイオリン協奏曲第2番を聴きました。指揮は小泉和裕。会場はサントリーホールで、私は遅ればせながら改修後初めて足を踏み入れました。

     

     意外なことにイブラギモヴァが在京オケの東京での定期に出演するのは初めて(少し前に東響と共演した時は川崎での公演)で、サントリーホールにも初登場。やっとここまできたかと感慨に浸ると同時に、なぜこんなに時間がかかったのか、とも思います。彼女自身が東京で大曲を弾くことに慎重だったのか、在京オケ側で何か問題があったのか理由は分かりませんが、彼女がコンチェルトを弾くのを聴けるのは何よりも嬉しい。

     

     イブラギモヴァが弾くバルトークは、ありきたりの言葉で言えば、グローバルな時代の音楽でした。ハンガリーの作曲家が書いた作品を、ソ連出身イギリス在住のヴァイオリニストが日本の指揮者とオケと一緒に演奏しているという事実を度外視したとしても、聴こえてくる音楽は国籍とか時代などを超越して、高い抽象性を獲得したものでした。ユニバーサルデザインという言葉に象徴されるように、万国共通で直観的に理解できる汎用性を身にまとった音楽とでも言うべきでしょうか。だから、恐らくはハンガリーのフォルクロアに由来する旋律も、ローカルに閉じたものとしてではなく、誰もが自分のものとして感じとれそうなほどにオープンで親しみやすさをもって奏でられていました。そこに、ポストという言葉を10回くらい繋げたいくらいにモダンなかっこよさがあった。

     

     しかも、彼女は、だからと言って、この曲はもはや古典であるなどというような澄ました表現に閉じ込めるようなこともしない。
    激しいタテノリのビートを叩きつけ、前のめりになって音楽の核心へと斬り込んでいくあたりの感覚の新鮮さには、ロックというよりヒップホップやラップが席巻する時代の息吹を感じずにはいられない。欧米のみならず、アフロやアジアの音楽の要素も取り込んだような複雑な味わいのリズムの弾力と、強烈な疾走感も、やはり世界が狭くなって、多様な文化が混じり合う今の時代の空気が反映されているように思える。中年になって体の動きがどんどん鈍っている私でさえ、聴いていて体が動かしたくなる、この躍動感はどうでしょうか!

     

     それだけではありません。イブラギモヴァが奏でる抒情的なパッセージでの、どこまでも透明な音色と、凛としたカンタービレには痺れてしまう。言い知れぬ不安や孤独の影がいつもどこかに忍び込んでいて、時に「死」をイメージせずにはいられないほどに深く沈潜する。その不気味な静けさをたたえたタナトスは、エロスと表裏一体となり、危険なほどに官能的な響きを帯びる。もうどうにでもしてくれと言いたくなるような妖しさに身悶えしながら彼女が紡ぎだす音に酔いしれました。

     

     イブラギモヴァは、そうした様々な要素を孕んだ音楽を、尋常ならざる集中力をもって、一瞬も緊張を途絶えさせることなく紡ぎ続ける。聴き手は、一瞬たりとも注意をそらすことなく、その音楽にのめりこむようにして聴き続ける。グローバルにして「なう」な音楽に心の底から共感し、「これは私(たち)の音楽だ!」と心の中で大声で叫びながら。

     

     あっという間に過ぎ去った40分間でした。これだけテンションの保たれた緊張度の高い音楽を弾ききった後では、もはやアンコールの必要もない(正直言うと、バッハを聴きたかったという気もしないのではないのですが)。万雷の拍手ににこやかに答えるイブラギモヴァに、私も精一杯の拍手を贈りました。

     

     小泉指揮都響の伴奏は、ソリストと丁々発止のやりとりをしてさらにヒートアップするようなことはせず、イブラギモヴァの音楽にピタリと寄り添い、実に堅実に音楽の枠組みを作っていました。そのしなやかさがとても良かったし、同時にそのジェントルさがちょっと物足りないところでもあります。しかし、私がこよなく愛するイブラギモヴァというヴァイオリニストの音楽を、心ゆくまで存分に楽しませてもらえたこと、それが何よりも嬉しいところでした。

     

     今回の演奏では、エンディングは、一般的に使用される改訂稿ではなく、ヴァイオリン・ソロが全部弾き終わった後も、オーケストラがひとしきり演奏する初稿が使われていました。こちらのバージョンの方が良いとは積極的には思わないのですが、これはこれで一定の完結感はあり、オケの音に耳を傾けるイブラギモヴァの姿をうっとりと眺めつつ楽しませてもらいました。

     

     休憩を挟んで演奏されたのは、フランクの交響曲。こちらは弦楽器をかなり増員して、力むことなく分厚く柔らかい響きを生み出していたのが何より印象的でした。

     

     これは今年の春に聴いたアラン・ギルバートとのラヴェルの「マ・メール・ロワ」でも感じたことですが、このふわっとしたふくらみのある音は、最近の都響が獲得した新しいパレットではないでしょうか。しかも、その新しい音には、実は80年代によく聴いた若杉時代の音色と、フルネが振った時の音色が倍音のように響いているようにも思えて、30年間、都響を聴いてきた者としては感慨深いものがありました。

     

     特に、充実しきったトゥッティの響き、弱音部分での弦のみずみずしい歌、特に木管セクションの澄み切ったアンサンブル(オーボエと、第2楽章のコールアングレは特に印象的でした)はすこぶる魅力的だったと思います。また、金管楽器が、余力を残しながらいぶし銀のような上質のサウンドを生んでいたのもまた素晴らしい。

     

     この演奏の美質はその響きだけにとどまらず、この循環形式にもとづいて書かれた音楽のがっちりとした構造美を、説明的な鬱陶しさを感じさせることなく、自然に体感させてくれることにあります。特に変わったことは何もしていないのだけれども、各楽章の最初に提示された主題が、新しく提示された主題と絡み合いながら大きなうねりを生み出すさまがはっきり可視化されていました。だから、聴いているこちらとしては、音楽の前方への予測と、後方の記憶をしっかりと交差させながら、フランクが注意を払った有機的な音楽の展開を苦労することなく楽しめたのです。

     

     指揮者もオケも、熱くなりすぎず冷静さを保って、しかし、無味乾燥にならずに味わい深い音楽を生み出していく。これぞ、まさに熟練の技と言うべきなのだろうと思います。私もアマオケをやっていた身ですが、いったいどうやったらこんな音楽ができるのかと感服せずにはいられませんでした。

     

     正直なところ、もうちょっと「閾値を超える」ような特別な瞬間を体験したいという気がした部分はあります。オーケストラ側でも、この美しい響きを保ちつつ、もう一段深いところを抉り出す迫力があればもっと良かったかもと思います。でも、これだけ充実した演奏で楽しませてもらったのだから、私は十分に満足しています。これはもしかすると演奏会で聴く以上に、ディスクで聴けばもっと味わいが出てくる「レコジェニック」な演奏なのかもしれません。

     

     イブラギモヴァの清冽な演奏を楽しみ、小泉と都響の幸福な結びつきから生まれた豊かな音楽を味わい、いつまでもその余韻に浸っていたいと思うような素敵な演奏会でした。

     

    ■これまで聴いたアリーナ・イブラギモヴァ来日公演の感想
    【演奏会 感想】アリーナ・イブラギモヴァ(Vn) 〜 J.S.バッハ/無伴奏ヴァイオリン・リサイタル(2011.11.13 所沢市民文化センター)
    【演奏会 感想】アリーナ・イブラギモヴァ(Vn) 〜 J.S.バッハ/無伴奏ヴァイオリン・リサイタル (2011.11.15 ハクジュホール)
    【演奏会 感想】アリーナ・イブラギモヴァ&セドリック・ティベルギアン 〜 ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会第一夜 (2013.09.18 王子ホール)
    【演奏会 感想】アリーナ・イブラギモヴァ&セドリック・ティベルギアン 〜 ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会第二夜 (2013.09.19 王子ホール)
    【演奏会 感想】アリーナ・イブラギモヴァ&セドリック・ティベルギアン 〜 ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会第三夜 (2013.09.20 王子ホール)
    【演奏会 感想】アリーナ・イブラギモヴァ(Vn) イザイ/無伴奏ヴァイオリン全曲演奏会(6曲) (2014.04.30 トッパン・ホール)
    【演奏会 感想】バッハ/無伴奏ソナタ&パルティータ全曲演奏会 〜 アリーナ・イブラギモヴァ(Vn) (2014.12.21 王子ホール)
    【演奏会 感想】東京交響楽団 名曲全集 第110回 ピッツァラ指揮 イブラギモヴァ(Vn) (2015.09.27 ミューザ川崎シンフォニーホール)
    【演奏会 感想】モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会 Vol.1 〜 アリーナ・イブラギモヴァ(Vn)&セドリック・ティベルギアン(P) (2015.10.01 王子ホール)
    【演奏会 感想】モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会 Vol.2 〜 アリーナ・イブラギモヴァ(Vn)&セドリック・ティベルギアン(P) (2015.10.02 王子ホール)
    【演奏会 感想】モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会 Vol.3 〜 アリーナ・イブラギモヴァ(Vn)&セドリック・ティベルギアン(P)(2015.10.03 王子ホール)
    【演奏会 感想】アリーナ・イブラギモヴァ2016年来日公演(2016.03.25,27,30 東京、埼玉)

    【演奏会 感想】キアロスクーロ・カルテット演奏会 (2016.04.06 王子ホール)
    【演奏会 感想】イブラギモヴァ(Vn)& ティベルギアン(P)デュオ・リサイタル (2017.10.08 三鷹市芸術文化センター 風のホール)
    【演奏会 感想】アリーナ・イブラギモヴァ&セドリック・ティベルギアン  〜シューベルトの夕べ〜 (2017.10.17 王子ホール)

     

    ■その他記事
    ・気になる演奏家 その3 〜 アリーナ・イブラギモヴァ(Vn)
    ・カテゴリー「アリーナ・イブラギモヴァ」記事リンク

     

     

    | nailsweet | アリーナ・イブラギモヴァ | 04:30 | comments(1) | trackbacks(0) |
    スポンサーサイト
    0
      | スポンサードリンク | - | 04:30 | - | - |
      バッハ
      日本センチュリーとのブラームスのアンコール(二日目)でやりましたよ
      因みに一日目はイザイだったそうです
      | バッハ | 2017/10/26 3:53 PM |









      http://nailsweet.jugem.jp/trackback/1390
         1234
      567891011
      12131415161718
      19202122232425
      2627282930  
      << November 2017 >>
      + PR
      + SELECTED ENTRIES
      + RECENT COMMENTS
      • 珠玉の小品 その21 〜 ゴダール/ジョスランの子守歌
        まこ (11/23)
      • 【演奏会 感想】小泉和裕指揮東京都響 第841回 定期演奏会Bシリーズ アリーナ・イブラギモヴァ(Vn)
        バッハ (10/26)
      • デ・ラ・パーラ指揮のオール中南米プロの演奏会が聴きたい
        gijyou (07/24)
      • レコード芸術 創刊800号に思う
        “スケルツォ倶楽部”発起人 (05/07)
      • レコード芸術 創刊800号に思う
        木曽のあばら屋 (05/06)
      • マーラー/交響曲第9番 〜 バーンスタイン/IPO(1985.9.3) 
        ストロハイム (02/08)
      • アザラシヴィリ/無言歌(グルジアの歌)
        moemoet. (01/28)
      • アザラシヴィリの「無言歌」について 〜 原曲は "Dgeebi Midian"
        moemoet (01/28)
      • 【演奏会 感想】ウィリアム・クリスティ&レザール・フロリサン <イタリアの庭で〜愛のアカデミア> (2016.10.13 サントリーホール)
        siegfried (11/21)
      • 【演奏会 感想】ヴァレリー・アファナシエフ ピアノ・リサイタル(2016.10.29 浜離宮朝日ホール)
        ねこ (11/20)
      + RECENT TRACKBACK
      + CATEGORIES
      + ARCHIVES
      + Twitter
      + Access Counter
      + Ranking
      にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
      にほんブログ村 にほんブログ村 クラシックブログへ 人気blogランキングへ
      ブログランキングに参加しています。
      + Twitterです
      ほんの出来心
      + Mail
      + MOBILE
      qrcode
      + LINKS
      + PROFILE