【ライヴ 感想】薬師丸ひろ子 コンサート2018 東京公演 (2018.2.15,16 渋谷オーチャードホール)

2018.02.18 Sunday

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    ・薬師丸ひろ子 コンサート2018 東京公演

     (2018.2.15,16 渋谷オーチャードホール)

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     15日と16日の二日間、オーチャードホールで薬師丸ひろ子のライヴを聴いてきました。

     

     この二年、彼女のライヴのチケット争奪戦には立て続けで敗れ、ラジオの公開録音の抽選にも漏れ、とても悔しい思いをしてきました。でも、今回はハコが大きいこともあってか、幸運にも両日ともプレオーダーでチケットを入手することができました。

     

     2015年10月以来、二年ちょっとぶりに聴く彼女のナマ歌。心の底から、満喫しました。

     

     彼女が今回歌ったのは、「セーラー服と機関銃」からの主演映画のテーマ曲、80年代のアルバムに収録されたヒット曲、そして最近リリースしたアルバムの曲など20曲ほど。いつも通りと言えばいつも通りのラインナップですが、今回は、中田喜直の「寒椿咲いた」や、坂本龍一の「Destiny」といった比較的マイナーな歌を歌ってくれたのも嬉しかった。

     

     こうやって彼女の代表曲を並べて聴くと、J-POPではなく、「日本の歌謡曲」のアンソロジーと言うべき名曲ぞろいだとつくづく痛感します。いや、それ以上に、その曲たちのほとんどは私のこれまでの人生と何らかの関わりがあり、いつも私の傍らにあったものです。聴いていて強い感慨とともに過去の記憶が蘇る瞬間も多々ありました。どうして冷静になど聴いていられましょうか。何度聴いても決壊してしまうフレーズ、メロディは、あちこちにあります。

     

     薬師丸ひろ子の歌のコンディションは、二日目の方が断然良かったように思います。これまで聴いたライヴではベストなんじゃないかというくらいに。何より声がよく出ていて、とてもきれいだったし、音程もピタッとはまっていた。そして、のびのびとやりたいことを存分にやり切っている感があって、安心感、安定感があった。それまでの公演を経て、声も、気持ちもいい具合にほぐれたのかもしれない。カメラが入っていた(パッケージとして発売されるのでしょうか)ことで、むしろ彼女はいつも通りの「薬師丸ひろ子」を演じきれたのかもしれない。

     

     それに比べると、初日は緊張して気合が入りすぎたのか、時々音程が上ずってしまったり、少し力んだようなところがあったように思います。トークでもほんの僅かに声がハスキーになっている瞬間があって、彼女はちょっとだけナーバスになっていたのかもしれません。でも、それは些細な瑕にすぎない。例えば、「コール」のサビの部分で聴かせてくれた一歩踏み込んだ表現には胸が震えました。また、トークも、初日の方が、ネタが若干多く(映画「わさお」の記者会見でのわさおの真似とか)とても楽しかった。だから、初日だけを聴いたとしても、完全に満足することができたはず。

     

     ただ、大阪公演、東京での初日の公演からのフィードバックで、いろいろなものが細かに修正・調整され、それが16日の見事な舞台へと結実したということなのかもしれません。

     

     いずれにせよ、今回の二日間の東京公演は、歌手薬師丸ひろ子の一番いいところが、ギュッと凝縮されたような素晴らしいライヴになっていた気がします。

     

     彼女の歌の「いいところ」とは何か。あの明るくて透き通った独特の声が美しい、音程のとり方が気持ちいい(特に半音のとり方)、言葉がとても聴き取りやすい、リズム感がいい(これはあんまり指摘する人がいないですが)、感情移入が過不足なく的を射ている、といった点を挙げられると思います。

     

     しかも、彼女の持ち前の明るくて透き通った声は、ほんのりと陰翳をたたえて深みが増した。一つ一つの言葉の意味や響きを丁寧に掬いとり、それをクライマックスに向けて盛り上げていく道筋には凄みさえ加わった(「Wの悲劇」「コール」は特に)。彼女は今もまだ進歩を続けているのだなあと感嘆するしかありません。

     

     一方で、彼女が10代の頃に歌っていた曲も、相変わらずキーは変えず、オリジナルのアレンジを尊重して、原曲のイメージをまったく損なわずに保ち続けて歌っているところは、同年代のアイドルたちの現在の歌を思うと驚異的。

     

     でも、今回のライヴで、彼女の歌はいいなあ、彼女のファンでいられて良かったなあと思えることの一番は、もうちょっと違うところにありました。

     

    「人生はあなたが思うほど悪くない」

     

     竹内まりや作詞作曲の「元気を出して」の、この一節にこめられたものが、彼女の歌全部から感じとれる、ということです。

     

     この詞は、失恋した友人を慰める少女の言葉(それにしては「人生」なんて言葉は重い)ですが、恋愛などというストーリーを除外して、ただ彼女の歌声と立ち姿に触れているだけで、自分のこのちっぽけで平凡極まりない人生でも、そんなに悪いものでもないかなと思えてくるのです。彼女がMCで言っていたように、一日一日を大切に生きていれば何かいいこともある、というふうに思える。

     

     今の自分を多少なりとも肯定的に捉えるためには、過去の自分にも何か肯定的なものを見いだす必要があります。全否定から何かを生むのは非常に困難で、あまり生産的ではないからです。彼女が、往年のヒット曲をなるべくそのままの形で歌うようにしているのは、私たち聴き手、そしてそれ以上に彼女自身の過去を大切にし、どんなに小さいものでも何か良いことを見つけようとする姿勢の表れなのでしょうか。

     

     そんなふうに、歌を通して私にいろいろなことを気づかせてくれ、たくさんの幸せを与えてくれるアーティストに出会えたことは、私の人生の宝物だなと思います。

     

     同時に、これは彼女の熱狂的なファンとしての、甚だ一般性を欠いた考えなのですが、薬師丸ひろ子のような存在は、もはや何らかの団体や機関で、何がしかの「認定」をして保護しないといけないんじゃないかと思ったりもします。

     

     彼女は、女優、歌手として優れているというだけでなく、人間の良心みたいなものを全身にまとって、それでそのままでライヴ会場や、スクリーン、テレビ画面に登場してもまったく違和感のない人。ただそこにいるだけで、我々大衆を魅了し、ギスギスして憎悪に満ちた空気を一瞬にして浄化してくれる。そして、私たちが忘れそうになっていた大事なもの、例えば良心とか、安らぎとか、そんなものを思い出させてくれる。そんな役割を担えるタレント、アーティストには、ごくごく一握りの人たちだけです。でも、私たちの社会があたたかくて安らぎのある場所であるためには、そんな存在はどうしても必要なのです。

     

     だから、彼女のような位置にいられる人の存在は、とっても大事なんじゃないかと思うし、薬師丸ひろ子という人はそういう存在へとなりつつあるのではないかと、今回のライヴで痛感した次第です。

     

     ところで、既にメディアなどで発表されていますが、この5月9日には彼女のニューアルバムがリリースされるそうです。それも全曲オリジナル楽曲を収録したアルバムが出るのは、「恋文」から20年ぶりのこと。

     

     今回のライヴでも、その中から「ここからの夜明け」という歌をいち早く聴かせてもらいました。明るい希望に満ちたきれいな曲でした。のっけから結構キーが高く、歌う方はきっと大変でしょうが、ファンとしては彼女のハイトーンを満喫できるのが嬉しい。

     現在はまだ録音中とのことですが、素晴らしいアルバムが出来上がるのではないかと期待が高まります。

     

     彼女がMCでこのアルバムに関して言っていたことが、心に残りました。

     

     ここ数年、カバーやライヴ盤は出してきたけれど、オリジナルアルバムを出すのは悲願・念願だった。ただ実際に作るのは本当に大変なこと。これで結果を出せないと、次のライヴコンサート、そして既に構想もあたためている次のアルバムへはつながらない、だから「手助けしてください」と。要するに「買ってくださいね」という宣伝なのですが、そうなのか、彼女ほどの人にとっても、今はCDを出すこと自体がそんなに大変なのかとしみじみしてしまいました。ファンとしては、とても胸の痛くなるような話ですが、それが偽らざる現実なのだろうと思います。

     

     だからという訳ではありませんが、会場でそのニューアルバムを購入予約しました。会場での予約特典として、今回のライヴCDがおまけでつくからです。私と同じようにおまけを目当てに予約する人たちが、受付の前で長蛇の列を作っていました。彼女のファンの一人として、まったく微力ではあっても、何らかのかたちで彼女の音楽活動を支えていけたらいいなと心から思います。

     

     あと、コンサートの備忘的なメモを。

     

     バックバンドは、ヴァイオリニスト弦一徹率いるストリングスアンサンブルを中心とした、一昨年の春日大社でのライヴと同じメンバーによるもの。折り紙付きの腕っこきのミュージシャンによる演奏は素晴らしかった。アレンジも弦一徹が担当。ライヴ開始時、彼自身のソロでバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番のラルゴで幕を開け、そのままバッハのメロディーを使った「ラバーズ・コンチェルト」になだれこむあたり、ニヤリとしてしまいました。

     

     それから、今回のライヴでは、彼女自身の初の試みとして、途中15分の休憩が入っていました。これはお互いにとって良い措置だったと思います。彼女のコンディションを整えるだけなく、こちらもとても落ち着いて聴くことができましたし。

     

     客席には、夫婦で聴きに来ていた人たちもたくさんおられました。もしかすると、互いの顔を見合わせ、「自分たちの人生、これで良かったのかもね」なんて言い合いながら帰途に着いたのかもしれません。私は幸か不幸か一人で聴きましたが、少なくとも家族に対しては、彼女の歌のように「人生は悪いものじゃない」と言ってあげられる存在になりたいものだと思いました。とても難しいことですけれど。

     

     ああ、書ききれない。まだまだ書きたいこと、書き残しておきたいことはいっぱいあるのに。でも、キリがないので、このへんでやめておきます。

     

     とにかく、次のライヴもまた聴きに行けますように!

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    2024.02.28 Wednesday

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      コメント
      コンサートの感想を読ませていただきました。
      私も2月15日(木)のコンサートに行きました。

      東京近郊の駅まで車で移動し、そこからJRと山手線を乗り継いで渋谷に
      着きました。相変わらず人が多い渋谷交差点を抜けてオーチャード
      ホールに向かいました。早めに到着しましたので地下にあるおしゃれな
      レストランで早めの夕食をとり、となりにある本屋さんで立ち読みして
      時間調整しました。

      私も開演時間まえに5月に発売されるオリジナルアルバムの予約をしました。
      並ぶ方が多かったのですが、受付係の方の要領がいいため、短時間で完了
      できました。郵送されるのが楽しみです。

      コンサートは2部構成でアンコールまで含めると22曲を楽しむことができ
      ました。前回同じオーチャードホール聴いたコンサート2015年10月15日の時
      より聴きやすく「ノリの良い」コンサートだったと思います。歌の合間の「お話し」も
      楽しいものでした。話し方から前回よりコンサート慣れして精神的に成長された
      「強くなった」ように感じました。曲目は以下だったと思います。

      第1部
      ラバーズコンチェルト
      あなたをもっと知りたくて
      元気を出して
      風に乗って
      探偵物語
      コール
      めぐり合い
      夕暮れを止めて
      紳士同盟

      <休憩15分>

      第2部
      DESTINY
      寒椿咲いた
      ステキな恋の忘れ方
      メインテーマ
      すこしだけやさしく
      戦士の休息
      時代
      セーラー服と機関銃
      Woman Wの悲劇より

      ★アンコール
      ここからの夜明け
      僕の宝物
      夢で逢えたら

      今回のコンサートで印象的だったのはアンコールの際歌った
      「ここからの夜明け」でした。5月に発売されるCDにも
      収録されるのでしょうか。楽しみです。

      また、衣装ですが、第1部と第2部ではロングドレスを着用されました
      が良く似合っていて舞台映えしていました。
      アンコールではベレー帽とひざ丈の洋服に着替えてきて歌っておられ
      ましたが、私はこちら方が薬師丸さんらしくて良いと思いました。

      アンコールでの歌唱も終了して舞台から去る際に、なごり惜しそうに
      何回も客席に手を振っていてその姿が可愛いらしかったです。

      曲目の合間にバックミュージシャンの紹介がありましたが、NHKで
      放送されたSONGSで出演されたメンバーとも重複していて、薬師丸さん
      が歌い易い固定メンバーが選出されているように思います。

      ■バックミュージシャン(紹介順)
      ピアノ、ギター:松ヶ下宏之さん
      ギター:狩野良昭さん
      ドラムス:鎌田清さん
      ベース:竹下欣伸さん
      チェロ:村中俊之さん
      ビオラ:カメルーン真希さん
      セカンドバイオリン:森琢哉さん
      ファーストバイオリン:弦一徹さん
      音響調整?:田淵章宏さん

      ホールは天井が高く、直接音、反射音なども適度で歌唱、演奏ともに聴き
      やすかったです。ただ照明効果を出すためにミラーボールと回転するスポット
      ライトを多用して客席を照らしたのですが、強い光が周期的に目に入って不快
      でした。私の周囲の方々も手で目を覆って避けていました。
      次回のコンサートでは改善して頂ければ幸いです。
      • by nakata
      • 2018/02/26 1:26 AM
      薬師丸さんに書かれていることに、ほぼ同意します。
      「わさお」のまねって一体、何でしょう?
      私は、今年はNHK紅白に選ばれないかと思います。
      何回かNHKに連絡します。まだ出場1回ですから。
      今、薬師丸さんに匹敵する歌手はいません。
      又ダンス、グループばかりになってつまらない。
      ここは、NHKも考えるべきです。


      • by Haruki
      • 2018/09/16 3:43 PM
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