【演奏会 感想】横浜シンフォニエッタ 室内楽シリーズVol.9 〜 ヴァージャ・アザラシヴィリ作品特集 (2018.2.16 横浜フィリア・ホール)

2018.02.18 Sunday

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    ・横浜シンフォニエッタ 室内楽シリーズVol.9

      ヴァージャ・アザラシヴィリ作品特集

     (2018.2.16 横浜フィリア・ホール)

     

     

     

    <<曲目>>

    ・無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(抜粋)

    ・無言歌(ピアノ・ソロ版)

    ・メモリー

    ・ラフマニノフの思い出

    ・5つのプレリュードから第1,2番

    ・4つのダンス曲

    ・カンカン

    ・ノスタルジア

    ・ノクターン

     

    山田和樹(ナビゲーター、ピアノ)

    碓井俊樹(ピアノ)

    加藤えりな、長岡聡季(ヴァイオリン)

     ジョージア(グルジア)の作曲家ヴァージャ・アザラシヴィリの作品だけを集めたコンサートが開かれるというので、都合をつけて聴きに行きました。

     

     演奏会は、アザラシヴィリの「無言歌」を一躍有名にした山田和樹率いる横浜シンフォニエッタが、フィリアホールで定期的に開催している「室内楽コンサート」の一環として開かれたもの。山田がナビゲーターとして進行役を務め、ピアニストにして当オケのゼネラルマネージャーである碓井俊樹と、ヴァイオリン奏者の加藤えりなと長岡聡季が出演。

     

     よく知られた話ですが、山田和樹は、サンクト・ペテルブルグ・チェロ・アンサンブルが演奏するアザラシヴィリの「無言歌」を聴いて感動し、指揮者を志しました。夢が叶って指揮者としてデビューした後も、「無言歌」をオーケストラに編曲して演奏すべく、作曲家とコンタクトをとろうと必死で情報を集めました。しかし、遠いグルジアの地の作曲家についての情報は何も得られず、まだ生きているらしいということ以外はまったく分からなかった。仕方なく、友人にCD耳コピで編曲してもらって演奏をしていた。

     

     あるとき、横浜シンフォニエッタのゼネラルマネージャーであるピアニストの碓井俊樹がジョージアに行くというので、山田は彼に情報探しを依頼した。そこで奇跡的といって良い幸運な出会いがあり、碓井はアザラシヴィリと直接会う機会を得た。しかも、両者はすぐに意気投合し、強い信頼関係が生まれた。

     

     結果、アザラシヴィリの楽譜の、ジョージア以外全世界での版権を全音楽譜出版社が管理するまでになりました。そのプロジェクトの第一弾として、少し前に「無言歌」のピアノ・ソロ譜が発売されたばかり。今回の演奏会も、それと連動した企画と言えます。

     

     アザラシヴィリは、「無言歌」のほかは、「ノクターン」、チェロ協奏曲が知られるくらいで、その全貌はまったく知られていません。83歳ながら今もなお矍鑠として活躍しているとのことですが、グルジア語とロシア語以外は話せず、国外にもほとんど出たことがないとのこと。いわば「幻の作曲家」とも言って良い存在。

     

     しかし、彼は、学生時代にはショスタコーヴィチからも教えを受けた(彼が試験官の時に一番をもらったのが自慢らしい)とのことで、確かな技術をもった作曲家です。シリアスな作品を発表する一方で、大衆向けの流行歌のような作品まで手掛け、ジョージア国内で多くの聴衆に愛されている。You Tubeでも彼がテレビ番組やイベントで喋っている姿を確認することができますが、タレント的な活動を通しても、ジョージアの人から知らぬ人がいないほどに親しまれているらしい。

     

     そんな彼の作品のうち、ヴァイオリンとピアノのための曲を集めて、今回の演奏会は開かれました。山田も、ほとんどの曲を今回初めて知ったし、音で聴くのもこの本番が初めてとのこと。彼に次ぐアザラシヴィリ・ファンのナンバー2を自認する(ウソですけど)私も同じ。

     

     演奏されたのは、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(抜粋)、無言歌(ピアノ・ソロ版)、メモリー、ラフマニノフの思い出、5つのプレリュードから第1,2番、4つのダンス曲、カンカン、ノスタルジア、ノクターン。「ノスタルジア」以外は、ヴァイオリンとピアノによる演奏(ノクターンはVn2本)。「無言歌」と「ノクターン」のほかは、いずれも恐らく日本初演となるものだろうと思われます。

     

     卓越した作曲技術を駆使したシリアスな作品(無伴奏ヴァイオリン・ソナタ、プレリュード)は、グルジアがソ連の統治下にあった(スターリンの出身地でもある)ことを反映してか、ショスタコーヴィチを思わせる音の動きも随所にあるし、彼の地の民族音楽的なエキゾシズムもほんのりと感じられて、どちらもとても面白い。

     

     特に無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(抜粋)が印象に残りました。全篇にわたって執拗に鳴らされるDの音と、その周辺にまとわりつく半音階の響きが不気味でもあり、美しくもあり、心地よくもあった。解決を求めながら、どうやってもたどり着けずにすべてが保留されながら漂流する音楽の歩みに身を任せていると、何となくアンゲロプロス監督の映画(とエレニ・カラインドルーの音楽)のシーンが思い浮かんだりもして、脳内で美しいランドスケープが展開されていく。とても気に入りました。

     

     プレリュードは、第1番がヴァイオリンとピアノが互いに役割分担を交錯させながら、鏡のように上向音型と下降音型を対立させていくあたりがショスタコーヴィチかシュニトケっぽい作風ですが、完全な無調にはなりきらずに仄かな彩りを失わないあたりに、彼ならではの語り口があって、面白かった。

     

     その他の曲は、センチメンタルな曲あり、ジャズっぽいノリの曲あり、沈思黙考するような瞑想的な曲あり、理屈抜きに楽しめる曲ばかりでした。特に、「ラフマニノフの思い出」は、ラフマニノフの交響曲第2番第3楽章のメロディを下敷きにした、メランコリックで甘美な旋律に溢れた佳品。演奏会のアンコールピースとしては最適で、今後取り上げる人が出てくるのではないでしょうか。

     

    「ダンス」や「カンカン」も、あれこれ言わずに、その生命力あふれるリズムと、東欧風ジャズといった趣の音遣いを楽しむべき作品。ホールでかしこまって聴くよりも、酒場でグラスを傾けながら、ワイワイ言いつつ聴くのが一番ふさわしい音楽かもしれません。

     

     碓井がピアノ・ソロで聴かせてくれた「ノスタルジア」も、すべてが手の内に入った演奏が素晴らしかったこともあるでしょうが、題名の通りにノスタルジック、センチメンタル、メランコリックという言葉を全部掛け合わせたような音楽で、実に魅力的。でも、決してイージーリスニング的な安逸さに流れない気品が漂っているのも素晴らしい。

     これは、できることなら、作曲家と同郷のピアニスト、カティア・ブニアティシヴィリや、最近私がとても気に入っているマリアム・バタシヴィリが弾くのを聴いてみたい。彼女らの演奏の根底にあるメランコリーは、まさにこの曲にこそピッタリとくると思うからです。

     特に、ブニアティシヴィリ。彼女が時折コンサートのアンコールで弾くジョージアのトラディショナル「Vagiorko mai」なんてまさにアザラシヴィリの世界そのまんまの曲で、涙をいっぱいにためて切々と訴えるように弾く彼女の演奏にいつも落涙してしまう私としては、彼女の弾く「ノスタルジア」を是非聴きたい(実演でもディスクでもどちらでも)。

     

     

     

     

     

     最後に取り上げられた「ノクターン」も、YouTubeに結構あるヴァイオリン二本とピアノ伴奏によるバージョンで演奏されていましたが、こちらの甘い旋律の応酬、私には猫にマタタビです。以前からチェロ版で親しんできましたが、今回の演奏を聴いて、これはヴァイオリン向きの曲かなと思いました。その旋律が、チェロの太い音よりも、繊細で、どこか軽みのある音を求めているような気がするからです。この翌日の横浜シンフォニエッタの定期では、この弦楽合奏版がアンコールとして取り上げられたとのこと。今後、演奏機会が増えるのではないでしょうか。

     

     とは言え、アザラシヴィリと言えば、やっぱり「無言歌」。この曲をサンクトペテルブルグ・チェロ・アンサンブルのCDで初めて知ってから25年(CD初発売は93年7月、私は発売日に購入)。山田和樹がオケで取り上げていることは知っていましたが、今回ようやくこの曲を初めてナマで聴くことができました。その大切な機会に、当の山田が弾くピアノ・ソロで聴けたというのは望外の喜びです。

    「私はピアニストじゃないので」と前置き(言い訳)して弾き始めた山田の演奏は、やはり専業のピアニストと比べる訳にはいかない部分もありましたが、それでも、この曲への限りない愛情にあふれた演奏を、私は全身で喜びを感じながらただひたすら聴き入っていました。旋律の美しさ、単純だけれどとても効果的な転調をはさんで、歌を大きく羽ばたかせる構成、いずれもが私の心を震えさせずにはおかない。

     私がジョージアという国について知っていることなんてほとんどないのですが、そこに生きる人たちと、日本人である私との間には、この音楽を通してしっかりと結びつけられる何かが、遺伝子レベルで存在しているのではないか、そう思わずにはいられません。

     ああ、今日ここでこの人の演奏で聴けて良かったと、幸運に感謝しました。

     

     山田自身が言っていましたが、アザラシヴィリの曲を集めたCDをリリースすべく、この「無言歌」だけは既に録音済みなのだそうです。この曲のピアノ版の初録音は絶対に自分がやりたいという決意を述べていましたが、先を越されないようにするためにも、他の曲の録音も早くかき集めて、CDが発売できるようにしなければとも。

     私は、もし宝くじに当たって大金持ちになり、CDレーベルを持てるようなことがあったら、いの一番にアザラシヴィリの作品集を出したいと思っていたほどでしたが、その見果てぬ夢は山田や碓井らに任せて、いずれ聴くことができるであろうCDを聴けるのを楽しみにしたいと思います。

     

     今回、アザラシヴィリの珍しい曲を演奏してくれた二人のヴァイオリニストは、静の加藤、動の長岡というふうにタイプは全然異なりますが、両者ともに高い技術と、しっかりした音楽の把握力をもった音楽家だと思いました。若い世代の音楽家の中に、こんなにも力をもった人が出てきているというのは、まことに心強いことです。特に、加藤のヴァイオリンは、若干音が細くて、音量もさほど大きくはないのですが、艶消ししたような抑えた音色の中で、しっとりと、折り目正しく気品高く歌うリリシズムが印象的でした。彼女のソロ、これからも是非聴いていきたいと思います。

     

     トークは、どう見ても行き当たりばったりの、実にゆるいものでしたが、それゆえに、肩の抜けた楽しさがあって良かった。アザラシヴィリについていろいろな話が聞けたのも本当に嬉しかった。

     

     山田和樹は、まだ自分はアザラシヴィリには会えていないんだと、ちょっと寂しそうな表情を浮かべて言い、でも、今年は彼に会いに行く!と力強く宣言していました。彼がジョージアに行くのか、あるいは、アザラシヴィリを日本に招くのか、実際にどんな形で実現できるのかは分かりませんが、その夢が実現することを、私も願っています。

     

     山田が、彼自身が指揮者を志すきっかけとなった曲を書いた作曲家と逢う。そこで「無言歌」について、音楽について語る。とてもいい「絵」が撮れるのではないでしょうか。
     以前、このブログにも書いたことがありますし、山田自身も言っていましたが、その様子は是非テレビ・ドキュメンタリーとして映像化してほしいし、する価値があると思います。

     

     番組のネタになりそうな話題はいくらでもあります。

     

     この曲の歌版を歌った歌手たちにも取材し、歌っているところを映像に収める。ジョージアの例えばトビリシの街を歩く人に、アザラシヴィリの「無言歌」の恐らく原曲である "Dgeebi Midian" を知っているかインタビューする。勿論、アザラシヴィリのインタビューと、彼の日頃の活動の様子をカメラに収める。

     

     サンクトペテルブルグへと飛び、当地のチェロ・アンサンブルのメンバーに取材。92年にこの曲をCD録音したいきさつ、創始者の故アナトール・ニキティンとアザラシヴィリとの関係を明らかにする。ソロでもこの曲を録音したニキティンを辿れば、何か面白いエピソードが出てくるかもしらない。件のCDを制作し、最近になっていくつかのCDを制作したキングレコードのプロデューサー氏にインタビューするのも良いかもしれない。

     

     大阪で活躍し、彼の地でアザラシヴィリの音楽を紹介したチェロ奏者、故ギア・ケオシヴィリ氏のご遺族に取材し、「無言歌」や「ノクターン」を取り上げた演奏会の思い出を語ってもらう。氏のアザラシヴィリとの友情、氏を偲ぶ演奏会で「無言歌」が熱烈に歓迎され、客席からも歌声が聞こえてきたというエピソードなどを紹介する。

     

     そして、山田和樹。彼が「無言歌」を聴いて指揮者を志したという思い出から、「無言歌」の音楽の魅力を解説し、思いを熱く語る。ジョージアでアザラシヴィリと会った山田は、ワイングラスを傾け、ピアノを弾き、作曲者の歌う "Dgeebi Midian" の伴奏をする。

     

     「無言歌」は、2年前、NHK-FMで山田和樹が出演したFM番組でオンエアされて以来、爆発的に有名な曲になったという経緯があります。だから、ここはNHKが番組を制作するのが良い、というかそうする「義務」があるんじゃないかとさえ思います。是非、「山田和樹、アザラシヴィリと会う(仮題)」というドキュメンタリーを作ってほしい。語りは「きらクラ」のふかわりょう、BGMはサンクトペテルブルグのCDと、遠藤真理のチェロによる「無言歌」。94年頃のサンクトペテルブルグ・チェロ・アンサンブルの来日公演の映像(BSで放送されたはず)から「無言歌」の映像を流してもいい。

     そして、番組のラストでは、ジョージアの景色を映しながら、山田指揮横浜シンフォニエッタが演奏する「無言歌」が流れ、山田和樹が旅を総括する。

     

     いかがでしょうかねえ。私はとっても見たいですけど・・・。

     

     

     

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    2018.11.10 Saturday

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