【雑記】マーキュリー・ジャパンに思う

2018.05.21 Monday

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    ・ベルチャSQ&アンデルシェフスキ

      〜 ショスタコーヴィチ アルバム(アルファ)

     

     

     

     

     

     

     最近、タワーレコード渋谷店のクラシックフロアにちょっとした異変が。

     

     新譜CDを集めた試聴コーナーのうち、レジ近くにあったものが一つなくなってしまったのです。それは、海外マイナーレーベルのディストリビューター(輸入販売元)、マーキュリージャパンのニューリリースコーナー。マーキュリー経由で発売されていたディスクは、「最終在庫」として特売用ワゴンに集められて売られています(割引は”なし")。

     

     どうやらマーキュリージャパンという会社自体が消滅したらしい。HPも、ツイッターアカウントもなくなっている。アリアCDの新譜インフォでも、「代理店消滅」と書かれていたし、Facebookでも業界のとある方がそれらしいことをチラッと述べておられました。そう言えば、発売が予告されていたアンデルシェフスキとベルチャSQのショスタコーヴィチとか、サンドリーヌ・ピオーの新盤、ヘッカーの弾くエルガーのチェロ協奏曲など、新譜のインフォメーションさえ出されていないのもそういう理由だったのですね。

     

     マーキュリーは、この10年くらいでしょうか、ヨーロッパのマイナーレーベルのディスクに日本語解説をつけ、国内流通仕様盤として販売していました。扱われていたのはアルファ、グラモーラ、パッサカイユ、リチェルカーレ、Ramee、Aeon、Zig-zag、Phiなど。特に古楽と現代音楽に秀逸なものが多いし、日本ではあまり知られていなくとも、実力のあるアーティスト、それも何年か後にブレイクする人の充実したアルバムがたくさんリリースされていました。

     

     日本語解説は、欧文ライナーノートの翻訳が基本ですが、白沢達生氏を始めとする優秀な翻訳家、音楽ライターの手による和訳(補訳、試訳などと記されること多し)は読みやすくて、馴染みのない珍しい音楽やアーティストへの理解を助けてくれるものばかりでした。オペラや声楽曲では歌詞対訳がつかないこともありましたが、それでも読みごたえある解説のために、喜んで高いアルバムを買っていました(1枚3000円程度なので、高いなんていうと叱られるかも)。

     

     それが、昨今の厳しいCD業界の状況を受けてのことでしょう。マーキュリージャパンは私たちの目の前から消え去ってしまったようなのです。

     

     残念。惜しい。いや、悔しい。

     

     勿論、マーキュリーが輸入していたCDはディストリビューターが代わっても輸入され、手に入れられることでしょう。実際、パッサカイユレーベルは、新しい代理店に代わったらしいし、そもそもCD自体はネットでも海外から買えるのですし。

     

     しかし、あの充実したライナーノートの翻訳はもう読めない。それが残念でならない。確かに、四つ折りにされた日本語解説シートは、ジャケットに入れにくいものもあって面倒くさかった。それに、解説は英訳さえあれば何とか読むことはできる。だから、「そんなもん要らんでしょ、それより安くなる方がいいよね」と言われてしまえば反論に窮してしまう。

     

     でも、解説は、専門家によって適切に翻訳されたものを読めた方が、いい。高度に専門的な内容を含む文章を、機械が、正確に、そして心に響く言葉で自動翻訳してくれるようになるには、まだ何年もかかる。いや不可能か。

     

     いや、それより何より、マーキュリーというディストリビューターが噛むことで、海外のマイナーレーベルによる、時代の最先端を突っ走る尖がったディスクが安定的に日本に供給されることもあったはず。そして、国内流通仕様になることで、新譜はレコード芸術の月評対象となっていたので、我々ファンも超マイナーなディスクを購入する時の参考情報を得ることもできた。ですから、十分に存在価値のある会社だったし、ファンとしても多くの恩恵を受けていたはずなのです。

     

     であればなおのこと、マーキュリーが、フェードアウトしてしまったらしいことに、落胆せずにはいられません。なぜ、私に何の断りもなくそんなことを・・・、というのは冗談ですが。いやいや、ナクソスジャパンや東京エムプラスがまだあるではないか、ネット配信、ストリーミング、サブスクリプションを使えばいいじゃないかと自分に言い聞かせてはいるのですが、喪失感はかなりのものがあります。ああ、これでレコ芸で得られる情報がまた減ってしまったという危機感もありますし。

     

     マーキュリー消滅が経営的な問題が理由なのだとしたら、勿論、CDが売れないご時世、それは仕方のないことと諦めるしかないのでしょう。ファンにも、人それぞれに聴かない、買わない理由があるはずなので、買わない人たちを非難することもできません。私のようにせっせとリアルショップに足を運び、もうすぐ消滅するという円盤なんぞにお金を落としている、時代遅れの音盤中毒患者は、さみしいため息をもらすことしかできりません。

     

     ここは、私に豊かな音楽体験を与えてくれたディストリビューターに感謝をこめて、さよならを言うしかないのでしょう。アリス・アデール、ラケル・アンドゥエサ、テディ・パパヴラミ、ドラ・デリイスカ、バンジャマン・アラール、ラルペッジャータ、テオドール・クルレンツィス、レミ・バローといった人たち、グスタフ・レオンハルト、フィリップ・ヘレヴェッヘ、ジョス・ファン・インマゼール、アレクセイ・リュビモフ、パトリシア・コパチンスカヤらの名盤と出会い、きちんとしたライナーを読んで音楽をより深く楽しむことができたのも、マーキュリーのおかげです。どうもありがとうございました。

     

     こうなれば、宝くじで10億円当て、それを原資に資金を集めて会社を興し、マーキュリーVer.2を立ち上げて立て直す。そして、ゆくゆくは自分たちのレーベルを起こす。そんな夢を実現するしかないでしょうか。

     

     まあ、そんな夢物語はともかく。

     

     こういうことがあると「ひとつの時代の終わり」なんてことが言われますが、「ひとつの時代の始まり」とポジティブに受け容れたいとは思います。これからそんなふうに思える材料を何か見つけたいです。どなたか、教えて下さい(一つだけ、白沢達生氏が音楽ライターとしての活動を本格化させるらしいというのは、氏のファンとしては朗報ですが)。

     

    ・サンドリーヌ・ピオーの新盤(補訳・試訳を楽しみにしてたんですが)

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     


     

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