エーノッホ・ツー・グッテンベルク(指揮者)を悼む

2018.06.17 Sunday

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    ・エーノッホ・ツー・グッテンベルク (1946.7.29 - 2018.6.15)

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     ブログに文章を書こうとPCを開けたら、指揮者のゲンナジー・ロジェストヴェンスキーの訃報が目に飛び込んできました。

     

     残念ながら、彼の実演は、読売日響とのショスタコーヴィチの交響曲第11、13番を演奏したのを聴いただけでした。どちらも重量級の演奏に圧倒されましたが、前半に演奏されたハイドン(どちらも40番台だった記憶があります)が素晴らしかったのをよく覚えています。指揮台を置かず、長い指揮棒で、時々クスクス笑いながら指揮していた姿がとても印象的でした。

     

     CDではそれなりの数のものを聴いて来ましたが、プロコフィエフとシベリウスの全集、そしてシャンドスへのショスタコーヴィチのバレエとミュージカル作品などが特に気に入っています。また、BBCの放送音源で、グリーグの「ホルベアの時代から」や、ディーリアスの「高い丘の歌」といった作品もいい。

     

     合掌。

     

     ・・・いや、ロジェヴェンのことを書こうとしている訳ではありませんでした。数日前に訃報が伝えられた、もう一人の指揮者について私は文章を書こうとしていたのです。

     

     亡くなったのは、ドイツの指揮者エーノッホ・ツー・グッテンベルク。いわゆるスター指揮者ではありませんが、ミュンヘン・バッハ・コレギウムや、クラングフェルヴァルトゥング・オーケストラ、コーアゲマインシャフト・ノイボイエルンなどの創設者、指揮者として、一部のファンには知られていた人です。

     

     

     私はこのブログを初めてすぐくらいに、「気になる演奏家」というカテゴリー記事の第1回めとして、彼についての文章を書きました。もう10年くらい前のことですが、それよりもずっと前から彼のことは気になっていました。

     

     彼の名を初めて知ったのは、80年代後半、突如としてオイロディスクから発売されたバッハの「マタイ受難曲」でした。マーシャル、ネス、アーンショー、プライら超豪華な歌唱陣と、少し大きめの編成のオケと合唱の迫力のある演奏が印象的でした。古楽ブームが本格化する中、リヒターの時代へと時計の針を戻すような、ほとんど喧嘩腰の演奏に私は痺れました(古楽の演奏も大好きなのですが)。これらは日本盤も発売されて、故礒山雅氏の詳細な解説がついていたことでも重宝された記憶があります(内容は氏の著書「マタイ受難曲」とかなり重なっています)。

     

     

     それからしばらくのブランクの後、2000年代に入ってから、Faraoレーベルから彼の指揮するアルバムがいくつか発売されました。特に、彼の音楽性を慕う音楽家によって結成されたクラングフェルヴァルトゥング・オーケストラとの録音のいくつかは、それなりに話題になりました。彼が過激なまでに古楽様式を実践する指揮者に変貌した「マタイ」の再録音は、衝撃的ともいえる演奏でしたが、それもまた冒頭から一瞬にして持っていかれてしまう強烈な魅力をたたえたものでした。

     

     グッテンベルクは、1946年、ミュンヘン生まれ。生家はドイツの名門で、本名はGeorg Enoch Robert Prosper Philipp Franz Karl Theodor Maria Heinrich Johannes Luitpold Hartmann Gundeloh Freiherr von und zu Guttenbergというのだそうです(寿限無か・・・)。このうち、Freiherrは男爵を意味し、貴族の血を引く人であることが窺い知れます。

     

     彼の息子のカール=テオドール・ツー・グッテンベルク(1971−)は、高名な政治家。メルケル内閣で、経済・科学技術相、国防相を歴任しました。メルケルの有力な後継者とまで言われた彼ですが、011年に、彼の博士論文に盗用疑惑が持ち上がり、本人もそれを認めて大臣を辞任。父エーノッホの活動もそれを機にぐっと減ってしまっていました。

     

     ところが最近、ぶらあぼの海外の演奏会予定で、少しずつ彼の名前を見かけるようになっていました。さらに、彼が以前録音を済ませていたシューベルトの「グレート」がリリース予定になっている。ああ、彼もやっと活動を再開したのかと嬉しく思っていたところでした。

     

     その矢先の突然の訃報です。ネットの報道(ノーマン・レブレヒトのブログでリンクされたもの)によれば、“brief, severe illness”とのことですから、突然の死だったということなのでしょうか。

     

     彼の指揮者としての「評価」がどういうものなのかは、私は知りません。それは専門家の方々が判断すれば良いこと。さほど高名な指揮者ではなかったのに、スター歌手たちが彼と共演していたこと、オーケストラをいくつか創設したことなどを考えれば、結局彼の指揮は、富裕層たる貴族の「趣味」の領域に属するものだったということになるのかもしれません。でも、それにしては随分とレベルの高い演奏だと思うのですが、誰か彼の追悼記事や、ジャーナリスティックな記事を書く酔狂な評論家は、どこかにおられないでしょうか。中には知らなければよかったというような裏事情みたいなものも出てくるのかもしれませんけれども。

     

     それはともかくとして、私は、彼の演奏が好きでした。彼の指揮したCDは、恐らくほぼすべて入手できたと思っています。ベートーヴェンの「エロイカ」や「ミサ・ソレムニス」、ハイドンの「天地創造」「四季」、モーツァルトの「レクイエム」、そして、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」や合唱曲集など、どれも鮮烈な記憶がありますし、いくつかはこのブログにも感想を書きました。そうそう、ブルックナーの交響曲第4番なんていうのもありました。

     

     彼の功績を偲び、音盤で楽しませてもらった感謝をあたためるために、さて、何を聴きましょうか。やはり、彼の名を初めて知ることになった、「マタイ」の旧盤でしょうか。いや、ベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」か、それとも素晴らしい「ドイツ・レクイエム」か。それとも、シューベルトのリリースまで待つか・・・。

     

     一度ナマで聴いてみたいとかねがね思っていた人でしたが、夢はついに叶いませんでした。来年には、ベートーヴェンの第9の演奏会も予定されていたようです(スザンヌ・ベルンハルト、ウェルナー・ギューラがソリストとして出演)。

     

     

     ですが、彼が遺してくれた印象深い音盤をたよりに、彼のことはいつまでも記憶にとどめておきたいと思います。遠い極東の地にも、彼のことを慕っているファンがいるということが、天国の彼に伝わればと願いつつ。

     

     合掌。

     

    ■訃報を伝えるニュース。カール・テオドールの父という紹介のされ方。

     

    ■今年4月のインタビュー動画。彼が主宰していたヘレンキームゼー音楽祭について。

     

     

    ■数年前、彼が率いる合唱団がアメリカで演奏した時の動画。少しだけ指揮姿が見られる

     

     

     

     

     

     

    ・シューベルト/交響曲第8番「グレート」

     エーノッホ・ツー・グッテンベルク指揮

     クラングフェルヴァルトゥング・オーケストラ(Farao)

     →詳細はコチラ(Tower/HMV)

     

     

     

     

     

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    2018.09.18 Tuesday

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