【ディスク 感想】エルガー/管弦楽小品集 〜 デイヴィッド・ロイド=ジョーンズ指揮BBCコンサート管

2018.06.27 Wednesday

0

    ・エルガー/管弦楽小品集

     デイヴィッド・ロイド=ジョーンズ指揮BBCコンサート管(Dutton)

     →詳細はコチラ(Tower/HMV/Amazon)

     

     

     

     

     

    <<曲目>>

    ・Air de Ballet
    ・Bavarian Dances (3)
    ・Canto Popolare (In Moonlight)
    ・Carissima
    ・Chanson de Matin, Op. 15 No. 2
    ・Chanson de Nuit, Op. 15 No. 1
    ・Gavotte
    ・May Song
    ・Mazurka, Op. 10 No. 1
    ・Mina
    ・Minuet, Op. 21
    ・Pleading, Op. 48 No. 1
    ・Rosemary
    ・Salut d'amour, Op. 12
    ・Sérénade lyrique
    ・Sérénade mauresque, Op. 10 No. 2
    ・Sevillana
    ・Two Interludes from Falstaff

     

     

     歳を重ねるごとに、演奏時間の短い小品への愛着が強まっています。根を詰めて大曲を聴く楽しみを忘れた訳ではありません。でも、体力・気力の衰えを痛感せずにはいられない今日この頃、世間一般には目立たない小品を世界の片隅で楽しみ、ひっそりと感想を勝手気ままに呟く方が、気が楽で健康的だし、何より私らしい気がします。なので、どんどん小品志向が強まっています。

     

     そんな私にお誂え向きのとびきりの小品集が、最近リリースされました。イギリスのDuttonレーベルから出た、デイヴィッド・ロイド=ジョーンズ指揮BBCコンサート管弦楽団によるエルガーの“Short Orchestral Woks”。そのまんま「管弦楽小品集」と訳して良いでしょうか。

     

     文字通り、エルガーが遺した演奏時間の短いオーケストラ作品(編曲ものもあり)を16曲(計22トラック)集めたもの。「愛の挨拶」「夜の歌」「朝の歌」のような有名な曲から、世界初録音となる2曲を含め、普段あまり聴くことのできないものまで、作曲順に網羅されています。2017年9月、ワトフォード・コロッセウムで録音されたSACDハイブリッド盤。

     

     マニアックに過ぎず、さりとて、世界初録音のバージョンが収録されているなど気の利いた選曲が嬉しい。有名かどうかに関わらず、私がこれまで聴いたことのない作品、普段ほとんど触れることのできない曲がたくさん入っているからです。

     

     どの曲も耳に馴染みやすい佳作ぞろいです。シンプルながらも、心の琴線に触れる機微をふんだんに孕んだ旋律を、絶妙のタイミングでパートを引き継がせ、多彩な響きを生んでいく。エルガーという大作曲家の熟練の技からしか生まれ得ない、宝石のような音楽ばかり。

     

     しかし、原則的に作曲順に並べられた収録曲を追って聴いていると、エルガーは最初からエルガーだった訳ではなかったのだということが分かります。初期の作品では、明らかにウィンナ・ワルツを意識したものがいくつかあるのです。また、「メヌエットOp.21」などシューベルトの音楽だと言われたら素直に信じてしまいそうな佇まいがある。

     

    あの「愛の挨拶」は、そうしたエルガーの大陸の音楽への憧憬に満ちた作品の中で生まれた曲だと知ると、聴き慣れた名曲への視点がちょっと変わってきます。私は、「愛の挨拶」は、半ば脊髄反射的に、英国音楽の代表的存在として捉えていました。でも、「英国作曲家エルガーの誕生」的な時期に書かれた音楽なのかもしれない、という気がするのです。この曲が初めて世に出たときには、イギリス人は「これこそ自分たちの音楽だ!」と狂喜乱舞したのだろうかと、想像、妄想してしまいます。

     

     そして、20世紀に入る頃に書かれた有名な「夜の歌」「朝の歌」あたりから、ノビルメンテの作曲家エルガーの面目躍如たる珠玉の小品が続きます。ただ愉しいというだけでなく、心に染みるメランコリーを孕んだ音楽たち。

     

     ただ、面白いことに、弦楽合奏のために書かれた作品に聴くことのできるような、深い哀しみをたたえた曲はほとんどありません。全体的にはあたたかい微笑みに満ちた晴れなのだけれど、時々、郷愁が胸を僅かにかすめる曇りがある、そんな趣の音楽たちです。

     

     こういう曲は、難しいことを言わずにただその響きに身を浸しているだけで幸せなものです。時折、空を覆う淡い翳りに、甘美な痛みを感じながらも、80分にわたって、エルガーの佳品を存分に楽しみました。

     

     アルバム全体に立ち返れば、ここに収められた曲たちには、形而上学的な問いかけ、激しい自己主張、深刻な問題意識の表明といったようなものは、まったくありません。でも、音のちょっとした動きや、音色の重なりが生む響きからは、人生をよく知った人からしか生まれ得ないような滋味深さ、優しさがそこはかとなく滲んでくる。直接言葉が発せられている訳ではないけれど、ついつい、「ああ、そう、分かる」と共感しながら深く頷きたくなるような何かが、そこにある。

     

     それは、例えば、常に「ここではないどこか」を見つめた漂泊の詩人ディーリアスの音楽にあるものとは明らかに違う。もっと肉体性があり、地上的。具象の音楽と言って良い質感があり、人懐っこい表情がある。色彩は少し油絵的で、味わいも濃い。しっかりと地に足を着け、置かれたところで咲き誇る人の音楽、と言えるのかもしません。

     

     同時に、どの曲でも、音の運びには節度が保たれていて、紳士的と言って良い格調の高さがあります。憂愁や悲しみを押し隠すことにこそダンディズムがある、とでも言いたげな矜持も感じられる。明るい音楽であっても、決して「振り切れる」ということはなくて、いつも「ここまで」という限界線は明確に引かれている。

     

     それを「男のロマン」と呼ぶのは、雑に過ぎるでしょうか。でも、自分の心の内を外に吐き出すのは苦手、シャイで、しんどさも我慢して生きてしまう男がものした音楽という像は、男である私の強い共感を生んでいる。そんなステレオタイプな聴き方もどうよと思うのですが、そうやって聴くのが一番しっくりくる。

     

     日常の雑事や、ままならぬことに心身を擦り減らした夜に、そんな不器用な男が書いた、小さくて優しい音楽たちに耳を傾け、その美しさに完全に身を預けていると、ほんのささやかな幸せを感じます。その分、寝不足にはなってしまうのですが・・・。

     

     私が敬愛する名匠ロイド=ジョーンズの熟達の指揮は、素晴らしい、の一言。BBCコンサート管から、力まず、巧まずに、まぎれもないエルガーの歌と響きを、引き出す手腕の確かさと、それ以上にこれらの音楽から宝石の如く輝きに満ちた瞬間を見つけ出す感性の瑞々しさには、ため息が漏れます。

     

     どれもこれも本当に愛おしいばかりの美演なのですが、ヴァイオリン曲としても名高い「カント・ポポラレ」「弁解(Pleading)Op.48(作曲者編曲によるヴァイオリンとオーケストラ用編曲では世界初録音)」「ローズマリー」、そして最晩年の「ミーナ(編曲は別人)」は、歌い口の柔らかさが印象的で、何度聴いても、耳と心に残ります。前述のシューベルトの空似みたいな「メヌエット」も、気品があっていい。SACD層のボーナストラックとして収められた「ファルスタッフ」も愉しい。

     

     有名な曲では、「夜の歌」「朝の歌」の、のびやかな歌はとびきり心地良いもの。また、「愛の挨拶」のとろけるようなカンタービレは、私が愛聴するグローヴズ盤を彷彿とさせるものがあります。

     

     脱線しますが、「愛の挨拶」と言えば、人気ドラマ「相棒」で使われていたのだそうですが、流されていたのはノーマン・デル・マー指揮のシャンドス盤だったとのこと。しかも、ご丁寧にも、ドラマ中で、水谷豊演じる片山右京に「デル・マー盤が一番のお気に入り」と言わせているのだとか。確かに、デル・マー盤もいいのですが、ドラマ作家の方がこの演奏を聴いたら、音盤の選択、劇中のセリフともに、「ロイド=ジョーンズ盤」に変更するのではないかと思ったりします。私の贔屓が過ぎるでしょうか。

     

     ナクソスやDuttonなどで聴いてきたジョーンズの数々の演奏の中でも、特に印象深いアルバムを聴けたことを嬉しく思います。是非ナマで聴いてみたい指揮者だし、できることなら、このエルガー作品を初めとする小品ばかりで組まれたプログラムを聴いてみたい気がします。そして、ヴァーノン・ハンドリーやリチャード・ヒコックス亡き後、アンドリュー・デイヴィスと並び、英国音楽の守護神とも言うべき存在として、これからも素晴らしい演奏を聴かせてほしいと切望せずにはいられません。

     

     それにしても、このアルバム、CDショップのリアル店舗ではまだ並んでいないようです。オンラインショップでは在庫ありになっていて、店頭で買おうと手ぐすね引いて待っていたのですが、いつまで経っても入荷せず。仕方がないのでオンラインで入手しました。これ、結構売れるんじゃないかと思うのですが、それは私の勝手な思い込みでしょうか。もったいない・・・。

    スポンサーサイト

    2018.07.19 Thursday

    0
      コメント
      コメントする
      トラックバック
      この記事のトラックバックURL