【演奏会 感想】ラケル・アンドゥエサ&アンサンブル・ラ・ガラニア 〜 モンテヴェルディ&フレンズ (2018.12.11 東京王子ホール)

2018.12.12 Wednesday

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    ・ラケル・アンドゥエサ&アンサンブル・ラ・ガラニア 

     〜 モンテヴェルディ&フレンズ 〜

     (2018.12.11 東京王子ホール)

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     前回の来日から約二年半、私の「女神さま」の一人ラケル・アンドゥエサとアンサンブル・ラ・ガラニアの来日公演を王子ホールで聴きました。「モンテヴェルディ&フレンズ」と題された「バロック・ライヴ劇場」の一環となるコンサートで、彼女が得意とするメールラやカヴァッリ、そしてモンテヴェルディらの歌を休憩なしで1時間半(アンコール2曲含む)。

     

     前回と同じくテオルボのヘスス・フェルナンデス・バエナと、バロック・ギターのピエール・ピツルに加え、今回はパーカッションのダヴィド・マヨラルと、バロック・ヴァイオリンのパブロ・プリエトの二人が参加し、計5人のアンサンブル構成でした。

     

     舞台下手からヴァイオリン、ギター、アンドゥエサを挟んで、テオルボとパーカッションが並ぶ。時折インストゥルメンタルの曲を挿みながら、彼女はマドリガーレやオペラ・アリアなどを歌う。時には芝居っ気たっぷりに身振り手振り顔振りを交えて歌の主人公の感情の起伏を露に歌い、時には乙女のような清楚さをまとい誰かに懇願するような真摯さをもって歌う。そうしたスタイルは基本的に前回の公演と同じ。

     

     ずっと楽しみにしてきた公演でしたが、アンドゥエサが歌い始めると何か様子がおかしい。彼女のあのチャーミングでコケティッシュな声がいつもと違う。特に高音が掠れているようにも聴こえるし、細くなって声量も少し小さめに聴こえる。

     

     そう言えば彼女は今年の初め、ムチ打ち症とかで喉頭が歪み手術をして暫く休養していたとFacebookで報告していたのを思い出しました。あまり考えたくないけれど、もしかしてその影響なのだろうかと心配になりました。

     

     でも、実際にはそうじゃなかった。彼女はどうやら風邪気味だったらしい。歌の途中や、インスト曲を椅子に座って聴いているときも、時折咳をしていたからです。歌っていないときには、さかんに水を飲んでもいました。彼女だけでなく、テオルボのバエナもどうやら風邪気味らしく、弾きながら何度か咳をしていました。見かねたアンドゥエサが、曲間で、大阪のおばちゃんよろしく「飴ちゃん」を彼に渡しながら、客席に向かって「ごめんなさいネ、今日はみんな風邪気味なの」と喋る始末。

     

     というように声の音色が変化したのは、手術じゃなくて、風邪のせいだったのでした。それが証拠に、コンサートが進むにつれて徐々に声の状態は改善され、完全とはいかないまでもいつものアンドゥエサの声に戻ってきました。ホッとしました。

     

     確かに彼女のコンディションは全然良くなかった。アンコールで、フラメンコの原型と説明して歌った作者不詳で17世紀に書かれたハカラスに続いて、本プログラムにあるカヴァッリの「おいでなさい、この胸へ」を再度歌ったのも、上手く歌えなかったのでリベンジを狙ったに違いない。

     

     でも、それでも彼女と同じ時間と空間を共有して、その歌を聴いているのは何と幸せなことでしょうか。彼女はただ歌を歌うためにだけ生まれてきたのではなく、音楽を通して聴衆に幸せを与えるために生まれてきた。そう思わずにはいられない歌でした。コンクールの審査的な減点法で聴いても十分に成り立つ音楽ですが、そんな聴き方では到底この音楽の楽しみや味わいは堪能できないはず。

     

     贔屓の引き倒しかもしれませんが、でも、会場を埋めたほぼ満員の聴衆(チケットは完売ではなかったようですが)のあたたかい拍手と歓声、そしてサイン会にできた長い列を見るにつけ、皆さん私と同じ気持ちで彼女の音楽を楽しんでおられたと思います。客席にはよくお見かけする音楽評論家の方々もおられたので、「彼女の本当の実力はこんなんじゃないですよ」と言いたいくらいなのですが、いったいどのような評価が下されるでしょうか。

     

     アンドゥエサの歌も魅力的でしたが、ラ・ガラニアのメンバーの演奏がこれまたゴキゲンでした。ギターとテオルボの二人の妙技は前回も楽しかったのですが、今回はさらに演奏が練れていて美しかった。特にカプスベルガーの曲は、そよ風がホールを吹き抜けていくような爽快感がたまらなく心地よく、まるでアサド兄弟の曲とか、イギリスかどこかのトラディショナルミュージックを聴いているように思えたことに驚きました。今回参加したヴァイオリンとパーカッションの二人も達人。音楽というのは本来的には人々の何気ない日常生活の中から生まれてくるものなのだということを、むしろ卓抜な技術をもって実感させてくれるところが尊いと思いました。

     

     特にマヨラルの打楽器が素晴らしい。彼の「プレイ」はときにジャム・セッション的な熱を帯びたものになりつつ、出過ぎないつつましさがあって非常に好感を持ちました。最近、渋谷などの街角で、若い人たちがシンプルなパーカッションを叩いているのをよく聴きますが、ジャンル問わずほとんどの人たちのリズムはどこかスクエアな逼迫感があって、みんなこのマヨラルの演奏を聴いてみればいいのにと思います。

     

     ともかく、バロックだとかクラシックといったジャンルを超え、越境音楽といった範疇も超え、コンテンポラリーで上質なポップス新作を聴いているような感覚さえ覚える彼女らの音楽、これこそ古楽の一つの最先端をいくものじゃないかと思いました。

     

     彼女の十八番であるメールラやモンテヴェルディといった古楽も良いですが、例えば、彼女の同郷で私が大好きなシンガーソングライター、シルビア・ペレス・クルスなんかの新しい歌も、アンドゥエサの歌で聴きたい。人生をあたたかく肯定するような力強さと気品を併せ持った彼女の歌の世界を、もっと広い範囲の音楽を通して楽しみたいという気がします。

     

     ともあれ、彼女らの再びの来日を強く希望します。

     

     蛇足ながら、今回は曲目が当初発表から大きく変わりました。パンフレットのおしながきを見ながら聴いていましたが、途中から数が合わなくなってしまい、曲目を追うのは諦めてしまいまいした。その分、舞台に集中できたともいえるのですが、邪魔にならない程度に、せめて曲目だけでの表示が何かあっても良い気はしました(例えば、お笑いの寄席のような立て看板があるとか)。

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    2019.06.03 Monday

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