【ディスク 感想】「フランスの作曲家による弦楽合奏曲集」 〜 ディック・ヴァン・ガステレン指揮チコニア・コンソート

2019.01.27 Sunday

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    ・フランスの作曲家による弦楽合奏曲集

     ディック・ヴァン・ガステレン指揮チコニア・コンソート(Brilliant Classics)

     →詳細はコチラ(Tower/HMV)

     

     

     

     


    <<曲目>>

    1. ケクラン:遙かな波 Op.130
    2. ルクー:アダージョ
    3. オネゲル:弦楽十重奏のための讃歌
    4. カステレード:交響曲第1番
    5. サン=サーンス:サラバンド ホ長調 Op.93
    6. オネゲル:交響曲第2番

     

    エミー・ストームズ(ヴァイオリン・ソロ:5)
    リアンネ・シューメイカー(トランペット・ソロ:6)

     

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     偏愛するギヨーム・ルクーの「弦楽のためのアダージョ」の新盤が出たので、早速入手して聴いてみました。

     

     それはブリリアント・レーベルからリリースされた「フランスの作曲家による弦楽合奏曲集」というタイトルのアルバム。ルクー以外の収録曲のラインナップはすこぶる魅力的です。

     

     ケクランの「遙かな波Op.130」、ルクー、オネゲルの「弦楽十重奏のための讃歌」、ジャック・カステレード(1926-2014)の交響曲第1番、サン=サーンスのサラバンドOp.93(Vnソロとピアノ用の同曲からの編曲)、そしてオネゲルの交響曲第2番。有名無名の曲が入り混じっていて、弦楽合奏好きの私は聴かない訳にはいかない。

     

     演奏はディック・ヴァン・ガステレン指揮チコニア・コンソート。まったく未知の団体ですが、2012年に創立されたオランダのハーグを拠点として活躍する当団体のデビュー盤だそうで、たぶん指揮のガステレンも初の音盤と思われます(いろいろ検索したが引っかからなかった)。

     

     このテのアルバムは結構失敗した経験もあるので、さして期待もせず、ただ選曲の良さだけに惹かれて買ったのですが、いや何の何の演奏の質はすこぶる高く、最近見つけた中でも屈指の掘り出しものでした。

     

     この団体、編成は22人(3+3+2+2+1プルト)と小さいのですが、響きは倍音が多くて豊かで、音色はどこまでも透み切っている。音程や縦の線などアンサンブルの精度、音色の柔らかさ、表現の練れ具合、どれをとっても非常に高水準だと思います。指揮者の解釈はオーソドックスで何の変哲もないものですが、細部まで丁寧に心を配ってアンサンブルを整えながら、曲の起伏を巧みに明らかにするあたりの手腕はまったく見事。

     

     お目当てのルクーの「アダージョ」は、清潔でみずみずしい抒情をたたえた演奏に猛烈に惹かれました。

     

     13分40秒をかけているのは、もしかすると史上最長ではないかと思うのですが、全体を通して深刻になりすぎず、曲と適度な距離感を保った演奏です。だからこそ聴き手がこの鬱々とした嘆きの歌に感情移入することができるとも言えます。特に、中間部、ヴァイオリンのソロから音楽が動き出し、のびやかな情感が膨らんで一瞬だけ希望の灯りが点るあたりの、光に満ちた表現が強く印象に残る。

     

     この曲のディスクには、後期ロマン派的な濃厚なロマンティシズムを味わわせてくれる演奏もあり(最近復刻された父ジョルダン盤や、定番バルトロメー盤など)、私はそれらを好んで聴いて来ましたが、この若いアンサンブルの演奏の繊細でしなやかな演奏も同様に、いやそれ以上に愛します。もっと言うと、まだ残念ながら「知る人ぞ知る隠れた名曲」の再々評価を促すものになり得るのではないかとも思います(今年のアルミング/リエージュ・フィルの来日公演で演奏されるのもポイント高いですが)。

     

     アルバム冒頭のケクランの「遥かな波」の静謐な哀しみや、初めて聴くカステレードの交響曲のどこかヴィラ=ロボスを想起させるラテン的な愉悦感も、とてもいい。サン=サーンスの「サラバンド」の弦楽合奏版も、ヴァイオリン独奏ともども、端正な佇まいがただひたすら美しい。

     

     でも、やはりこのアルバムのメインは二曲のオネゲルでしょうか。交響曲第2番はいくつかの歴史的名盤と比較してしまうのは酷かもしれませんが、それでも、この演奏の水準はかなり高いと思います。急速な部分で激しく踏み込んだ表現を聴かせるあたりもハートを掴まれますし、第2楽章の少し粘性を帯びた歌もいい。そして、誰がやっても感動的なフィナーレのトランペットが入ってくるあたりのキラキラと輝く響きは、このアンサンブルにしか出せない清廉さをたたえていて、聴後に心地良い余韻を残します。

     

     そして、弦楽十重奏のために書いた「讃歌」が魅力的でした。私は不明ながらこの曲を初めて聴きますが、冒頭から不吉な予感をたたえた音楽が狂気じみたグロテスクな叫びへと収斂していくあたりの、どこか表現主義的な音楽の趣に打たれました。演奏者たちがそうした音楽の内的変化のプロセスを完全に把握し、深い共感をもって音化していることが手にとるように分かる秀演だと思います。

     

     確かに当盤は、フランスという切り口以外は明確なコンセプトの見えない「ごった煮」的色彩の強いものです。しかし、曲の繋がりはスムーズでセンスの良い選曲だし、秘曲を中心にレベルの高い演奏で聴かせてくれる。その点で、音盤道を往く絶滅危惧種の人間にとって、まさに王道中の王道にある「名盤」と言えます。

     

     こういうのがあるから音盤はやめられません。私はタモリのように反・断捨離を標榜する勇気はありませんが、でも、このアルバムはいつまでも手に取るとときめいて捨てられないものとなることでしょう。

     

     

     

     

     

     

     

     

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    2019.04.21 Sunday

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