【ライヴ 感想】原田知世 Special Concert 2019 “L’Heure Bleue” (2019.1.28 NHKホール)
2019.01.30 Wednesday
・原田知世 Special Concert 2019 “L’Heure Bleue”
(2019.1.28 NHKホール)
※写真は原田知世のインスタグラムから
<<出演>>
原田知世(Vo)
伊藤ゴロー(Gt)佐藤浩一(Pf) 鳥越啓介(Bs)
みどりん(Dr)角銅真実(Per・Cho)
伊藤彩(Vn)沖増菜摘(Vn)三木章子(Vla)ロビンデュプイ(Vc)
<<曲目>>
・Hello
・風邪の薬
・名もなき青
・わたしの夢
・くちなしの丘
・Hi
・Giving Tree
・シンシア
・ロマンス
・うたかたの恋
・夢の途中
・2月の雲
・銀河絵日記
〜アンコール1〜
・ping-pong
・時をかける少女
〜アンコール2〜
・銀河絵日記 アコースティック
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NHKホールで原田知世のライヴを聴きました(1/28)。
昨年リリースした4年半ぶりのオリジナルアルバム“L'Heure Bleue (ルール・ブルー)”の楽曲を中心に、アルバムのプロデューサー、伊藤ゴロー率いるバック・バンドと約2時間のコンサート。たっぷりと楽しませてもらいました。
「ルール・ブルー」は、既定路線に乗った曲もありますが、今まで以上にサウンド指向の強いアルバムでした。伊藤ゴローの手による音づくりの面白さが際立っているのです。メロディライン自体はシンプルで耳に優しいもののはずなのに、バックではノイズ、アンビエント系のザラザラした音が彼女の歌に挑みかかる、そんなテイストの曲が多い。今回のライヴでも、照明や舞台奥のスクリーンに投影された映像など最先端の視覚的効果が駆使されたこともあって、そんな音楽のありようをもっとリアルに感じることができました。
でも、凝りに凝ったサウンドを乗り越えて私の印象に最も残ったのは、やはりというべきか、原田知世という歌手の不思議な存在感でした。透明な歌声で、ふわふわと浮遊するように歌っているのに、どんなにバックのサウンドが荒れ狂い、彼女の歌を激しく揺さぶっても、彼女のキラキラ輝く姿は揺るがない。ならばとばかりに音楽は彼女に覆いかぶさろうとするのだけれど、どこまでいっても原田知世はそのままの姿でそこにいる。
その微動だにしない彼女の存在の重さをひしひしと感じながら、原田知世は「時をかける少女」なんかじゃない、時が彼女の方に向かって進んでいるんじゃないかとポエムじみたことを思ったりしました。バックバンド、客席にいる我々聴衆の時間もまた、どんなにサウンドスケープが移り変わろうとも、原田知世という不動の存在の中心に向かって進んでいるのだと。そんなのは勘違いに過ぎないはずなのですけれど、そう思わずにいられなかった。
でも、あの声から彼女の体温や息遣いをリアルに感じながら、会場全体があの澄み切った彼女の内部へと集約していくのは、いわく言い難いほどに幸福な体験でした。アンコールで「時をかける少女」を歌う彼女を見ていて、よくぞ原田知世という人がいてくれたという感慨がこみ上げてきて、ついホロリと来てしまいました。きっと会場を埋めた広い世代の人たちも、同じように彼女に向かって時をかけていくことの幸福を楽しんでいたに違いありません。だからこそ、ライヴが終わっても熱っぽい拍手がいつまでも止まなかったのだと思います。
個々の曲について言えば、アンコールでのストリングス版含めて二回歌われた「銀河絵日記」は噛めば噛むほど味の出る佳曲だなと改めて思いました。また、「ping-pong」の弾ける音楽(途中で、松田聖子の「秘密の花園」のカバーと同じ音型が出てくるのが面白い)、ちょっとRadioHeadっぽい「Hi」は彼女の振り付けも含めて官能的で良かった。のびやかな「2月の雲」もいい。でも、やっぱり「くちなしの丘」「シンシア」「ロマンス」「時をかける少女」はエバーグリーンです。「うたかたの恋」も。
今回のライヴでもう一つ嬉しかったのは、ヴァイオリンの伊藤彩さんの音を聴けたことです。私は、伊藤ゴローの「アーキテクト・ジョビン」というアルバムで彼女のソロにとても惹かれたのです。時折聴こえてくるソロで、彼女の芯のあるタイトな音に痺れました。そのほかのバンドメンバーも皆さん一流の人たちで、とても良いチームワークで原田知世を盛り立てていたと思います。
そして、伊藤ゴローのギターも忘れられない。彼に対しては、昔は、お洒落なカフェでボサノバを弾くのがお似合いのギタリストというイメージを持ってましたが、本質的には、アグレッシヴなアーティストなのだと痛感しました。原田知世とのコラボももう大分長いと思うのですが、絶対にマンネリにならないのも、彼が常にチャレンジ精神を忘れないからなのでしょう。MCでいみじくも言っていたように、今回のアルバムは「やりすぎ」感がとってもあるのですが、こういう「やりすぎ」は大歓迎なんじゃないでしょうか。それこそ、鈴木慶一プロデュースのアルバムほどには突っ走ってないですし、何よりもきっと原田知世自身もそれを望んだはずですから。
ただ、一つ少しだけ残念だったのは、PA。打ち込みを使う曲では、音量のバランスがデジタルサウンドに偏りすぎて、原田知世の声も言葉も聴きとりにくくなってしまっていたのです。特にアンコールの「ping-pong」は原田知世自身も耳を押さえながら歌っていたように見えました(振付?)。線の細い声が、時折かき消されそうになっていて、あまり心地良いものではありませんでした。PAのせいじゃなくて、ミキシングのせいなのか詳しいことは分かりませんけれど、彼女の言葉をもっとはっきり聴きとりたかったという気はしました。
ともあれ、1年少し前の35周年のライヴはチケット争奪戦に早々に敗れて聴けず、今回、4年ぶりに彼女のライヴを聴きましたが、本当に聴けて良かった。私の青春時代の憧れの人がそのままでいてくれること、それ以上に、なおかつ「いま」を輝かしく生きてくれていることが嬉しかった。これから彼女は2クールの長いドラマに出演するということで、歌手活動は控えめになるのかもしれませんが、是非またライヴを聴きたいと思います。
でも正直言って、ここ最近の作品はあまり何度も効かない感じでした。アコースティック路線に飽き飽きして、「GARDEN」のような名作を期待してました。
今回の「ルール・ブルー」をレンタルしたら、そう、これ!打ち込みを多用したアンビエンツな世界観、宇宙観が好きで何度も聴いています。