【ディスク 感想】セレブリエール・コンダクツ・グラナドス

2019.03.22 Friday

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    ・セレブリエール・コンダクツ・グラナドス

     ホセ・セレブリエール指揮コンセルト・マラーガ

      (Somm Recordings)

     →詳細はコチラ(NaxosTower) 

     

     

     

     

     

    <<曲目>>

    グラナドス(1867-1916):
    1.スペイン舞曲集 Op.37-5「アンダルーサ」(F.ファラーゴによる弦楽オーケストラ編)/
    2.スペイン舞曲集 Op.37-2「オリエンタル」(K.アベリングによる弦楽オーケストラ編)/
    3.小さなロマンス H.67(弦楽オーケストラ編)/
    4.死の讃歌 H.67(弦楽オーケストラ編)/
    5.ゴイェスカス H.71-第1部 間奏曲(J.L.トゥリーナによる弦楽オーケストラ編)/
    6.タレガ(1852-1909):アルハンブラの思い出(K.クランツによる弦楽オーケストラ編)/
    7.タレガ:大ワルツ(V.イエラモによる弦楽オーケストラ編)/
    8.トルドラ(1895-1962):Vistas al Mar, Evocaciones Poeticas-夜想曲/
    9.マラツ(1872-1912):スペインの印象 - 第2曲 スペインのセレナータ(弦楽オーケストラ編)/
    10.チャピ(1851-1909):サルスエラ「憤る王様」-夜想曲/
    11.モレーラ(1865-1942):デソラシオ/
    12.モナステリオ(1836-1903):アンダンテ・レリジョーソ(弦楽オーケストラ編)/
    13.モナステリオ:アンダンティーノ・エスプレッシーヴォ(弦楽オーケストラ編)/
    14.アルベニス:スペイン Op.165-第2曲 タンゴ(S.L. ルードブッシュによる弦楽オーケストラ編)/
    15.アルベニス:マジョルカ島(舟歌) Op.202/
    16.グリニョン:レント・エスプレッシーヴォ

     

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     最近、イギリスのSomm RecordingsレーベルのCDをショップで見かけることが多くなりました。ナクソスがディストリビューターに代わって、新譜に併せて旧譜も入荷しているのでしょうか。Sommはマイナーな曲や演奏家を起用し、内容的にも興味深いディスクを多くリリースしているところなので、大変嬉しい。つい調子に乗って何枚か入手してしまいました。

     

     中でも特に気に入っているのが、ホセ・セレブリエール指揮コンセルト・マラーガによるスペインの弦楽合奏曲集。

     

     グラナドス、タレガ、トルドラ、マラツ、チャピ、モレラ、モナステリオ、アルベニス、グリニョンらの弦楽合奏曲や、弦楽編曲版を収録していますが、タイトルはなぜか「セレブリエール・コンダクツ・グラナドス」。2017年、グラナドスの生誕150年記念で制作されたものだそうで、彼が生きた頃のバルセロナと何らかの関わりのある作曲家の作品を集め、その時代と場所という文脈の中でグラナドスの音楽を味わってみようというのが趣旨らしい。

     

     確かに、今流行りの「音楽史」的切り口から聴いても興味深く示唆に富んだアルバムです。でも、そんなことを言わず、ただただボーッと聴いていて面白い。これだからアマチュアはねえとか、反知性主義的だなあと言われてしまうかもしれませんが、このアルバムで聴ける音楽には、寝そべって本を読みながら聴く、みたいな呑気な接し方をしても、怒られそうな雰囲気がまったくない。その大らかなラテン的寛容さが非常に気に入りました。

     

     三つの点で魅力的なアルバムです。

     

     まず、普段ほとんど聴く機会のない未知の曲がいくつか収録されていること。グラナドスとアルベニス、そしてトルドラとチャピはともかく、マラツ(1872-1942)、モレラ(1865-1942)、モナステリオ(1836-1903)、グリニョン(1899-1962)あたりは、「あんた、誰?」という状態。知らないのは私だけということも考えられますが、ネットで検索してもほとんどヒットするものがない。

     

     いずれも19世紀末から1920年代くらいまでに書かれた曲ですし、調性はあって旋律もきれいなものが結構あって、思わぬお宝があるかもしれない。そんな「嗅覚」が働いて、このディスクを聴いてみたいと思いました。

     

     そして、初めて聴く曲たちはどれも、予想通り平易で親しみやすいものばかりでした。何よりも旋律が美しくて惹きつけられる。ホモフォニックなハーモニーも耳に心地良い。1996年に創設されたという弦楽オーケストラ、コンセルト・マラーガの演奏も美しいものです(録音が電気的な残響がやや多いのが残念ですが)。

     

     特に気に入ったのは、モナステリオのアンダンテ・レリジオーソ、アンダンティーノ・エスプレッシーヴォの2曲。これらはオリジナルの弦楽合奏曲ですが、作曲家自身ヴァイオリニストだったということもあってか、弦楽オケがとにかくよく鳴る。甘く切ない旋律以上に、たっぷりとした響きを存分に楽しめる音楽です。FMなどの音楽番組のテーマ曲にも使えそうなくらいの親しみやすさを思うと、もっと有名になって然るべき曲じゃないかと思います。

     

     このアルバムの次の魅力は、誰もが知る名曲の珍しい編曲版が収められていること。グラナドスの「アンダルーサ」「オリエンタル」「ゴイェスカス間奏曲」、アルベニスの「タンゴ」などが普段あまり耳にすることのない編曲版によって聴くことができます。そして、その中でも一番の驚きは、タレガの「アルハンブラの思い出」の弦楽合奏版(クラス・クランツ編)です。あのギターのトレモロ奏法の代名詞的作品を敢えて弦楽オーケストラでやってしまう。その度胸にまず脱帽してしまいます。

     

     それらの編曲は必ずしもすべてがうまくいっている訳ではありません。その「アルハンブラ」などは、それなりに巧い編曲だとは思いますが、やっぱり原曲通りギターで聴きたいとは思います。あのトレモロの耳のひっかかりのない滑らかなテクスチャでは、この曲の旋律のもつ哀感のようなものまで薄まってしまう気がします。グラナドスも、スペイン舞曲集からの2曲は、原曲に比べて彩りがくすんでしまったような印象があるのがちょっと惜しい。

     

     しかし、これはとっておきの話の種にはなります。珍しいディスクの所有自慢をするにはもってこい。曲がメジャーすぎるので、誰かにマウンティングする材料にはならないかもしれませんが、「このアレンジ、イマイチなんだけどねえ」とか何とか言いながら談笑できる人とならば、このアルバムをサカナに盛り上がることができると思います。友達が少ないことでは誰にも負けない私が言っても何の説得力はないのですが・・・。

     

     でも、グラナドスの「小さなロマンス(原曲は弦楽四重奏)」「死の賛歌」、アルベニスの「タンゴ」「マジョルカ島」あたりは掛け値なしに美しい。トルドラとサルスエラ作曲家チャピの二曲のノクターンもいい。どれも原曲の良さが弦楽合奏によって十全に活かされている。

     

     そして、このアルバムの魅力の三つ目は、ホセ・セレブリエールが指揮していること。恐らくこの弦楽オーケストラをもっと別の人が指揮していたら、ここまで魅力的なものにはなっていなかったのではないかという気がするくらい。弦楽オーケストラの豊かで鮮やかな響きを大切にしながら、そのど真ん中で旋律をたっぷりと歌わせる手腕のたしかさと、神経質にならず大らかな包容力のある音楽を生む懐の深さは、まさしく巨匠のもの。

     

     セレブリエールというとレパートリーに幅があり、演奏にも独特の癖があってなかなかつかみどころのない、不思議な魅力を持った指揮者というイメージを持っていましたが、これでますます印象が発散してしまった気がします。

     

     でも、それが嬉しい。聴けば聴くほどに味わいが増す=謎が深まるといった図式を楽しめるからです。一回聴いて分かった気になってしまう指揮者よりも、面白い。

     

     ということで、魅力的なアルバムに出会えて良かったです。今後、統合と分断の間で揺れながら自問自答するEUとか、カタルーニャの独立を巡るスペインの顛末なんかをそこに重ねて聴いてみたり、20世紀初頭のスペインの状況を重ねてみたり、また別の視点からこのアルバムを味わってみたいと思います。

     

     もっとも、ここで聴けるのは、人間の日々の営み、暮らしの中から生まれ、多くの人たちのささやかでつましい生活を彩ってきた愛すべき音楽ばかり。難しいこと言わず、名匠が指揮する音楽を、頭を空っぽにしてただただ楽しむというのが一番「正しい」味わい方なのではとは思っていますけれども。

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    2019.08.15 Thursday

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