【ディスク 感想】デュポン/管弦楽曲全集 〜 ダヴァン指揮リエージュ・フィル

2019.04.19 Friday

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    ・ガブリエル・デュポン(1878-1914)/管弦楽曲全集

     パトリック・ダヴァン指揮王立リエージュ・フィル(Fuga Libera)

     →詳細はコチラ(Tower/HMV)

     

     

     

     

     

     

    <<曲目>>
    ・療養のとき(管弦楽版)
     - 碑銘/死神が呻き声をあげる
     - 子供たちが庭園で遊んでいる
     - 夕暮れが部屋を満たしてゆく
     - 白夜/白昼夢
    ・夏の日
     - 陽ざしいっぱいの朝
     - 木蔭
     - 夜想
    ・宿命づけられた女の歌

     

     

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     何年くらい前か、エミール・ナウモフの弾くガブリエル・デュポン(1878−1914)のピアノ曲集のCDが話題になったことがあり、私もそれを聴いて深い感銘を受けたことがあります。当ブログでも感想を書いた記憶があるので検索してみたら、もう10年近くも前のことでした。つい最近のことのように思っていたのですが、時の経つのは早いものです。

     

     そのデュポンの音楽を集めたCDは、その後はさほど多くリリースされていません。ケフェレックの小品集に数曲収められた以外は、最近、ジロー(タローではない)の弾く「砂丘の家」がMirareから出た(もともとは別レーベルのディスクの再発売)のと、MSRレーベルから2枚組からなるピアノ曲全集が出たくらいでしょうか。

     

     何しろデュポンは36歳の若さで肺結核で夭折したフランスの作曲家で、遺された作品もさほど多くないので仕方がないと言えば仕方がないのですが、ナウモフ盤でデュポンの音楽に魅せられた私としてはとても物足りない。私が知っている僅かなピアノ曲は魅力的なものばかりですから、もっと他のジャンル、例えば管弦楽曲があるなら是非聴きたいと思うのが人情というもの。

     

     そこに待望のアルバムがリリースされました。私の好きなレーベルの一つ、Fuga Liberaから出たデュポンの管弦楽曲全集がそれで、パトリック・ダヴァン指揮王立リエージュ・フィルによる演奏。全集とは言っても、3曲しか収録されていない1枚もの。

     

     収録されているのは、ピアノ曲「療養のとき(病めるとき)」の管弦楽版(全14曲中の4曲がセレクト)、「夏の日」(全3曲)、「宿命づけられた女の歌 」。

     

     前述のように私はデュポンの音楽はピアノ曲しか知りませんし、彼が書いたオーケストラ作品が演奏される機会もほぼ皆無ですから、きっとそれはそれなりの理由があるのだろうとほとんど期待せずに聴きました。でも、その安易な先入観は、ディスクの冒頭、「療養のとき」の音楽が流れ始めた瞬間に、完全に粉砕されてしまいました。

     

     素晴らしい!

     

     何が素晴らしいといって、どの曲でも、そのオーケストレーションがすこぶる魅力的なのです。後期ロマン派ど真ん中の、豊麗で柔らかく官能的な響きの絨毯に乗って、魅力的な旋律が埋もれることなく、くっきりと浮かび上がってくる。ドロドロ、ネトネトと濃厚で深刻な表現へ膨張したり、表現主義的な厳しい叫びへと切り詰められたりというようなことはなく、ドビュッシーを思わせる繊細な響きも随所に織り交ぜながら、他のどの作曲家の曲からも聴くことのできない、ユニークでセンスに満ちた美しい音楽が溢れ出てきます。

     

     特に最後の「宿命づけられた女の歌」など、私の好みからすると、どちらかというと苦手なR.シュトラウスの交響詩なんかよりも、こちらの方に魅力を感じてしまいます。ただ美しいというだけでなく、クライマックスで金管の咆哮や打楽器の活躍を伴う劇的な起伏は十分で、これをもしナマで聴いたらどんなにか胸弾むだろうかと想像してしまう。

     

    「療養の時」も、とてもいい。彼の熟達したオーケストレーションの力によって、ピアノの原曲以上に心を打たれると言って良いくらい。

     

     冒頭の「碑銘」で、弦の分厚い和音の上で、ホルンが歌い始めた暗い旋律がトランペットへと受け継がれ、木管がそれを確保しつつ音楽が盛り上がって、やがてヴァイオリンが哀愁に満ちた旋律を歌い始めると、もうデュポンの音楽の世界に完全に惹きこまれてしまう。

     

     そうかと思うと、「子供たちが庭園で遊んでいる」のチャーミングな音の戯れには、思わず微笑んでしまう。カスタネットやタンバリン、スネア、シンバルの大活躍も耳に嬉しい。これも原曲にはない魅力。

     

     続く「夕暮れが部屋を満たしていく」の、どこかに翳りを秘めながらも慰めに満ちた静かな調べ(弦楽器の独奏が美しい)、「白夜、白昼夢」の、低弦や金管が見せる不吉で不安げな音の動きと、甘美な弦の旋律のせめぎ合いも胸を打ちます。うねるような起伏豊かな音楽の展開には一瞬たりとも飽きることがない。

     

    「夏の日」も、オーケストラを聴く楽しみ、ここに極まれりと言っていいくらいに愉しい。録音のせいもあるのかもしれませんが、響きの色調が明るくて、彩りに満ちているのが気持ちいい。地中海のほとりで、晴れ渡った青空を見るような爽快感(と言って、地中海には行ったことはないのですが)がたまらない。ドビュッシーの「海」や「夜想曲」とも、ラヴェルの「ダフクロ」とも違うし、レスピーギの「ローマ三部作」とも違う、デュポン固有のラテン系の煌びやかな音の世界。特に第二曲の「木蔭」は、リムスキー=コルサコフの「シェラザード」の第3楽章にも通じるロマンがあって、もうこの曲にほおずりして添い寝したいくらいです。そこはかとない感傷と愁いに痺れます。

     

     デュポンはこんなにオーケストレーションの巧い人だったのかと調べてみると、それもそのはず、彼は生前、オペラ作品で高い人気を博していたのです。そりゃオーケストラの扱いは、彼にとってはお手のものだった訳です。そうなると彼の歌劇を聴いてみたいのですが、CDはまだない模様。上演もほとんどされていないのではないでしょうか。

     

     彼の音楽がなぜこれまで忘れられているのか、きっとそれなりの理由はあるのでしょう。何か深い形而上学的な示唆に富んでいるとか、音楽史上に何か大きな影響を与えるような新機軸があるとか、そういうことはないかもしれない。専門家の見地から減点法的に見れば、いろいろと欠点を上げることも可能かもしれない。でも、少なくともこのアルバムを聴く限りは、私にはその理由は見当たりません。同時代の偉大な作曲家たちの作品と並べて、「遜色がない」かどうかは素人の私には判断がつきかねますが、彼の音楽は私にはただただ魅力的に響きます。趣味で音楽を楽しむ分には、もうそれで十分です。

     

     しかし、これほどまでに私がデュポンの音楽に魅了されたのは、言うまでもなくダヴァン指揮リエージュ・フィルの演奏が上質のものだからに違いありません。他の演奏を聴いたことがないので比較の対象がありませんが、デュポンの音楽の良さを存分に引き出しているようで、これはもう望み得る最高の演奏なんじゃないかと思ってしまうほど。

     

     リエージュ・フィルというと、これまでも名盤を多く残してきたオーケストラで、私などはバルトロメー指揮のルクーの作品が強い印象に残っていますし、最近ではアルミンクがシェフに就任して活発に活動しています。一般的に知名度のあるオケとは思えませんが、独特の魅力をもった音色を備えた団体で、演奏能力もとても高いと思います。特にフレンチホルンの柔らかい音色は耳に残りますし、明るく澄んだ、しかし質感を常に保った上品な響きが魅力的です。このオケは、もうすぐ来日して、ルクーのアダージョや、タンドゥンのギター協奏曲(鈴木大介との共演)を演奏するようですが、このレヴェルの高い演奏を聴くと、やはり来日公演に足を運ぶべきかもと思います。

     

     指揮者のダヴァンは初めて聴くと思います(ブスマンズのオペラや、ラロ、ヴュータンの作品を指揮したCDが既に出ているらしいの)が、楽曲の把握能力に秀でたものを感じます。ちゃんと盛り上がるところは盛り上げ、繊細な響きの美しい場面では、それを存分に味わわせてくれる。この一枚で何が分かるのかという気もしますが、恐らく私の好みの指揮者だと思います。

     

     セールス的にみて、このディスクが売れるとは思えません。でも、「これいいから是非聴いてみて!」と押し付けたくなる友人・知人の顔は何人か思い浮かびます。例えば、リエージュ・フィルが、これらの曲のどれかをアンコールで演奏したら、SNSでは「あれ何の曲?CD聴きたい!」という人が続出するんじゃないかと思います。あるいは、在京のオケが演奏したら、受けるんじゃないでしょうか。私の好みでは、大野和士と都響あたりで聴いてみたいし、高関/東京シティ・フィルなんかもいいかもと妄想は膨らみます。

     

     毎度同じことばかり結論に書きますが、こういうのがあるから音盤集めはやめられません。前述のようにデュポンの歌劇も聴きたいし、こういう魅力的な音楽はまだまだ世界中にゴロゴロ転がっているはず。人生下り坂、そろそろ店じまいも視野には片隅に入れつつも、可能な限りは未知の音楽の探索は続けていきたいと思います。ああ、こんまり流片付けへの道はまだまだ遠く、険しい。残念・・・。

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    2019.05.08 Wednesday

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