【ディスク 感想】スーベニール〜思い出 アレクサンダー・ギルマン 、 LGTヤング・ソロイスツ(RCA Red Seal)

2019.10.23 Wednesday

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    ・スーベニール〜思い出

     アレクサンダー・ギルマン 、 LGTヤング・ソロイスツ(RCA Red Seal)

     →詳細はコチラ(Tower/HMV)

     

     

     

     

     

     

    <<曲目>>

    1. マルセル・グランジャニー:古典様式のアリア Op.19
    2. グリゴラシュ・ディニク:ホラ・スタッカート
    3. マックス・ブルッフ:ロマンス ヘ長調 Op.85
    4. アストル・ピアソラ:ル・グラン・タンゴ
    5. ジュール・マスネ:タイスの瞑想曲
    6. ジョヴァンニ・ボッテジーニ:タランテラ
    7. ジョヴァンニ・ソッリマ:チェロよ歌え!
    8. フリッツ・クライスラー:愛の悲しみ
    9. アルベルト・ヒナステラ:パンペアーナ 第1番 Op.16
    10. ダーヴィト・ポッパー:コンチェルト・ポロネーズ Op.14
    11. ミロスラフ・スコリク:メロディ

     

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     ソニークラシカルからRCA Red Seal レーベルの新譜として発売された、LGTヤングソロイスツの「スーベニール〜思い出」をCDショップの店頭で手にとってみて、思わずアッと声を上げそうになりました。

     

     なんと、アルバムの1曲目にグランジャニーの「古典的なスタイルによるアリア」、そして最後の11曲にはスコリクの「メロディ」が収録されているではないですか!どちらも、私がかねてから偏愛する極私的名曲なのです。前者はBISレーベル初期の名盤、ウエディン指揮の弦楽のための作品集に収録されていて愛聴していました。後者はアリアCDの店主である松本大輔さんが書籍かWebで激賞しているのを読んで興味を持ち、CDを聴いてみてたちまちハマッたのでした。

     

     それ以外の選曲はどういう基準で選ばれたのかはまったく謎の、実に不思議なもの。「ホラ・スタッカート」「タイスの瞑想曲」「愛の悲しみ」「ル・グランタンゴ」などの名曲に、ブルッフのロマンス、ボッテジーニのタランテラ、ソッリマの「歌え、チェロ!」、ヒナステラの「パンぺーナ第1番」、ポッパーの「コンサート用ポロネーズ」。それぞれ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスのソロと弦楽アンサンブルによる演奏です。アルバムタイトルは「スーベニール」なのですが、たとえどんなコンセプトがあろうとも「ごった煮」アルバムには違いない。

     

     しかし、グランジャニーとスコリクが入っているというだけでも、このアルバムは実にいい匂いがする。これはきっといいに違いないという予感がする。

     

     根拠がない訳ではありません。彼らの前作(これまで3枚のCDが発売)である北欧の作品集を聴き、大胆なまでにマイナーな曲も交えたセンスあふれる選曲と、質の高い演奏がとても気に入っていたのです。これは今回の新盤も聴かない訳にはいかない。

     

     このLGTヤングソロイスツは2013年創立と歴史は浅い団体ですが、ヴァイオリニストとアレクサンダー・ギルマンと、ピアニストのマリーナ・ゼルテンライヒが立ち上げた弦楽オーケストラ。15以上の国から若くて優秀な音楽家を20人程度集め、プライベートバンクグループのLGTリヒテンシュタイン銀行をスポンサーとしてストラディヴァリウスやグァルネリなどの名器を貸与して演奏活動を続けています。

     

     まず、グランジャニーのアリア。ヘンデルの「オンブラマイフ」をパクったような和声進行をもった曲ですが、ハープの優雅にして気品に満ちた音色が、弦楽器の華やかな音色の絨毯の上を、しずしずと厳かな足どりでゆったりと進んでいく、そのさまが美しい。

     

     前述のBISのウエディン盤はハープも弦も質素で飾らない響きと歌いくちが奥ゆかしく、何度聴いても飽きのこない美しいものでした。対して今回のLGTソロイスツ盤は、きりっと引き締まった硬質な音色と、より洗練され精度の高いアンサンブルが際立っています。ウエディン盤の魅力が褪せた訳ではないのですが、より今の感性に近いLGTソロイスツの方により共感を抱きます。当盤ではミロ・ハーパーというハーピストがソロを担当していますが、強烈な自己主張はないけれど、凛とした佇まいを持った演奏は、気品があって美しい。

     

     そして、スコリクのメロディ。クリスタ=マリア・スタンゴッラというドイツ出身の奏者がヴァイオリン・ソロを務め、このウクライナ出身の作曲家ミロスラフ・スコリクのどこかエキゾチックで哀愁味漂う濃厚な歌をたっぷりと情感豊かに聴かせてくれています。しかし、その歌いくちには常に節度があり、下世話な演歌調になっていないところが素晴らしい。バックの弦楽オケもこぼれんばかりの美音をふきつつも、透明で引き締まった響きを聴かせてくれているのがいい。これは既存のCD(ナクソス版など)よりも優れた演奏だと思います。スコリクの「メロディ」を聴きたくなったら、これからは恐らく当盤を聴くことでしょう。

     

     スタンゴッラのヴァイオリン・ソロはヒナステラのパンペアーナでも堪能することができます。こちらはアルゼンチンの音楽特有の熱っぽさとある種の猥雑さは注意深く取り除かれていて、全体的にグローバル化された演奏と言えますが、切れ味鋭いソロは刺激的で聴いていて愉しい。

     

     ヴィオラ独奏のブルッフのロマンスの、曲、演奏ともに実に素晴らしい。私はこの曲を寡聞にしてよく知らなかったのですが、穏やかで安らぎに満ちた旋律が美しい佳曲だと思います。長調を主体にした明るくて甘美な曲調が耳に心地良いのですが、時折短調に翳る瞬間の響きには得も言われない味わいがあって素晴らしい。演奏もアヌーシュカ・ペダーノの弾くヴィオラの深々とした音色がとてもいい。これはめっけものです。

     

     その他では、若々しく清楚な色気が印象的なルートヴィヒ・バルサーのヴァイオリンによる「マスネの瞑想曲」、マイザーとレイの丁々発止のやり取りが面白いソッリマの「チェロよ、歌え」がいい。ピアソラ、ボッテジーニ、クライスラー、ポッパーもそれぞれの奏者の高い技量が明確に刻まれた演奏。

     

     全体的に聴いてみて、選曲には確かに脈略のなさは感じつつも、じっくりと愛聴できそうなアルバムだと思います。ソロを務めた若者の中には将来ソリストとして独立して、素晴らしい演奏を聴かせてくれる人も出てくるのかもしれません。何年か経って聴き直してみて、「ああ、あれはこのディスクのソリストだったのか!すでにこの時、いい演奏聴かせてくれてたんだよな」と思い出せるような人がいれば嬉しい。

     

     そして、このアルバムをきっかけにグランジャニーとスコリクの曲への関心が高まるとなお良い。前者はハープ学習者には有名な曲ですが、世間一般の知名度は哀しいほど低い。でも、きっと曲名を伏せて、テレビドラマの一場面でかけたり、聴取率の高いラジオ番組で流したりしたら、「あれは何ていう曲?」と問い合わせが殺到するのではないかと思います。ともあれ、こんな曲を埋もれさせてしまうのはあまりにももったいないです。

     

    ■グランジャニー/古典的な様式によるアリア

     

    ■スコリク/メロディ この曲だけLGTソロイスツの動画がなかったので別演奏

     

     

     

     

     

     

     

     

     

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    2020.05.19 Tuesday

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