ベートーヴェン/ピアノ作品集(ピアノ・ソナタ第13番他) トゥルーデリーズ・レオンハルト(Fp)

2009.04.29 Wednesday

0
    ・ベートーヴェン/ピアノ作品集
     トゥルーデリーズ・レオンハルト(Fp) (Meridian)






    <<曲目>>
    ・自作主題による32の変奏曲WoO80
    ・ピアノ・ソナタ第13番変ホ長調Op.27-1
    ・バガテル ハ長調WoO53
    ・アレグレット ハ短調WoO53
    ・ロンド ト長調Op.51-2
    ・11の新しいバガテル Op.119


    ---

     トゥルーデリーズ・レオンハルトさんというと、ほとんどシューベルト専門の演奏家のように思っていましたが、先日取り上げたシューマンやメンデルスゾーンの他、実はベートーヴェンの作品を結構録音しています。現状確認できているものだけでも6枚のディスクが発売されていて、あと1枚が準備中ということです。

     今回聴いたMeridianレーベルから1992年の発売されたベートーヴェンの作品集は、ピアノ・ソナタ第13番をメインとして、バガテルを初めとする小品、そして32の変奏曲が収録されています。

     正直なところを言えば、このディスクを聴くまでは、あれだけシューベルトの音楽に情熱を傾け、そしてあれほど素晴らしい演奏を成し遂げる演奏家が、シューベルトとはかなり音楽の方向性の異なるベートーヴェンの曲を演奏して、果たして良い結果が出るのだろうかなどと考えてしまっていました。(その点、シューマンやメンデルスゾーンが良かったのはまだ理解できます。)

     しかし、一通り全部の演奏を聴き終って、私の危惧などはまったく杞憂にすぎず、筆舌に尽くし難いほどに味わい深い素晴らしい演奏を聴くことができ、嬉しさと共に大きな驚きを感じています。私がレオンハルトさんの演奏から聴いたのは、まぎれもないベートーヴェンの音楽だったからです。

     例えば、冒頭の32の変奏曲。昨日、シューベルトの第19番のソナタを高橋アキのライヴで聴いたばかりですから、一瞬はシューベルトの音楽を聴いているような気分になりそうになりましたが、ベートーヴェンお得意のハ短調による変奏の妙技を、実に細やかな音色の変化を駆使して時折激しいテンペラメントを表出しながら、じっくりと味わわせてくれます。

     「幻想ソナタ」と名付けられた第13番も、型にはまった形式の呪縛からはみ出てあふれ出たファンタジーが、美しく含蓄のある言葉によって語られていて素晴らしいです。レオンハルトさんが、ベートーヴェンの中期ソナタの様式のうち、人間の思考が時間軸を行きつ戻りつしながらひとつの「答え」へと収斂していく過程をとても大切にして表現してくれているので、こちらは演奏に完全に身を委ねて「思索すること」の楽しみを満喫することができます。それにしても、最終楽章で、第3楽章の旋律が戻ってくるあたりの、優しさにみちた豊かな歌は何と素敵なのでしょうか。彼女のザイドナー製の愛器の音色の何と美しいこと。この曲は、ついこの間、プルーデルマッハーの素晴らしい演奏を楽しんだところでしたが、それとはまったく違うアプローチの、これまた素晴らしい演奏に巡り合えました。

     そして、ベートーヴェンの「筆のすさび」ともいうべきバガテルやロンドといった小品集は、理屈抜きで音楽の中にある「あそび」を楽しめるチャーミングな演奏です。拍節が明確で生き生きとしたリズムが私の心を湧き立たせてくれます。レオンハルトさんが、フォルテピアノを弾きながら「ほら、この曲聴いてて、踊りたくならない?」と微笑んでいるようです。シューベルトの舞曲で見事な「踊り」を見せてくれた彼女の面目躍如たる演奏です。
     
     このディスクに収められたロンドやOp.119のバガテルは、昔ピアノでよく練習した懐かしい曲でした。当時は、レコードも余り出ていなくて「名曲」とは呼ばれていない曲、もしかしたら譜面づらが簡単なだけで価値のまったくない曲を、楽しんで弾いている自分は、感性が安っぽいのだろうかと実は心配になっていました。でも、レオンハルトさんの濃やかな愛情の感じられる演奏を聴いていると、ああ、やっぱりいい曲じゃないか!と思えてとても嬉しくなりました。

     まさにムジツィーレン、音楽の喜びに満ち溢れたディスクを聴けて、とても満足です。レオンハルトさんのベートーヴェン、他のディスクも楽しみに聴きたいと思います。

    スポンサーサイト

    2024.02.28 Wednesday

    0
      コメント
      コメントする
      トラックバック
      この記事のトラックバックURL