Langsamer Satz

クラシック音楽のことなどをのんびり、ゆっくりとお話したいと思います
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花はどこへ行った
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    ・ピート・シーガー/花はどこへ行った







     BS放送開始20周年記念の番組、「世紀を刻む歌 『花はどこへ行った』〜静かなる祈りの反戦歌」を見ました。2000年12月5日に放送され、大反響をもって迎えられた番組の再放送。

     「花はどこへ行った" Where have all flowers gone"」は、1955年にフォーク歌手ピート・シーガーが作詞・作曲し、1960年代に入ってキングストン・トリオやブラザース・フォア、ピーター・ポール&マリーらが相次いでカバーしてヒットした曲。もともとは特に意識してメッセージ性をこめて作られた歌ではなかったけれども、1968年ベトナム戦争の「テト攻勢」あたりから、ベトナムへ赴いた米兵たちの間でも歌われ、当時アメリカで巻き起こった反戦運動を象徴する「反戦歌」として支持されるようになった歌です。

     とにかく英語を習い始めた中学生でも理解できるくらいのとてもシンプルな歌詞で、音楽的にも無防備と言ってよいほどに実に素朴な歌。だからこそ、ありとあらゆる具体的なイメージを包摂してしまえるような「普遍性」があり、多くの人がそれぞれの思いを込めて、歌わずにはいられなくなる歌となり得ているのだろうと思う曲です。

     私は、そもそも、この曲はてっきりピーター・ポール&マリーの歌だと信じ込んでいたので、実はピート・シーガーの作による曲だと知ってびっくりしましたが、この番組で紹介されたエピソードはどれも心に響くものばかりでした。ピート・シーガーへのインタビュー、彼が曲作りのヒントとしたショーロホフの小説「静かなるドン」の紹介、オリジナルの4,5番の歌詞を付け加えて完成させた人のエピソード。どれもとても興味深いものばかりでしたが、とりわけ私が心を動かされたのは、この曲と縁の深い2人のドイツ人女性の話題でした。

     一人目は、20世紀を代表する女優一人、マレーネ・ディートリッヒ。ナチス台頭前に渡米し、一貫してナチス・ドイツに対して批判的な態度を貫いた彼女は、戦後、歌手として久々に故郷の地を訪れてコンサートをおこなったのですが、同朋からは祖国を捨てて亡命した「裏切り者」と罵られ、しかも、彼女がコンサートで「花はどこへ行った」のドイツ語版を歌ったことでさらに顰蹙を買ったというエピソードが紹介されます。その後、結局、彼女は祖国の人たちから受け容れられることなくパリで亡くなりますが、最近になってようやくドイツでも彼女の再評価の気運が高まってきたのだといいます。それだけ、ドイツの人たちにとっては戦争の記憶はまだまだ生々しいものとして残っていて、「花はどこへ行った」は、彼ら彼女らにとって、ディートリッヒから「あなたたちはなぜ何もできなかったの?」と激しく糾弾を受けるような歌で、傷に塩を塗り込むようなものだったということなのでしょうか。

     番組では、ストックホルムで彼女が1963年に歌った「花はどこへ行った」のライヴ映像が紹介されました。白黒映像で音声も貧弱だし、彼女はただ棒立ちになって歌っているだけ。しかも彼女の歌は決して「うまい」というものでもないし、編曲(バート・バカラック!!)も1節ごとに転調する不気味なもので、純粋に音楽的に見れば「取るに足らない」ものと言うこともできるかもしれません。しかし、にも関わらず、私はこの映像を見て魂を揺さぶられました。それは、彼女が、もう一切の夾雑物もなく、ただただ素朴に、しかし彼女の信念を音楽を媒介して私たちに直接「語りかけて」くるからです。花は、少女たちは、男たちはどこへ?戦死した男たちの墓はどうなった?、そして、「わたしたちは一体何をしたの?何かできることは本当になかったの?」という厳しい問いかけが投げかけられるかのようです。そして、歌われてから40年以上経つ今でも、彼女の問いは私たちにとって切実なものであり、はっきりと胸を張って彼女に返せるだけの答えを私たちは見つけられていないことに愕然としてしまいます。音楽というものが一体何のためにあるのか、ということまでも考えてしまうような、強烈な印象を与えてくれる映像であり、歌でした。

    <<マレーネ・ディートリッヒ「花はどこへ行った」(ドイツ語版) LPバージョン>>


     
     そして、もう一人の「花はどこへ行った」と縁の深いドイツ人女性とは、旧東ドイツ出身のフィギュア・スケート選手カタリーナ・ビット。私などはカルガリー・オリンピックでの「カルメン」での妖艶な滑りにすっかり魅了された口ですが、彼女がプロ転向後、リレハンメル・オリンピックに統一ドイツ選手として出場し、当時起こっていたサラエヴォでの内戦への抗議もこめて「花はどこへ行った」をBGMとして滑ったことは知りませんでした。彼女自身、統一ドイツの選手として再びオリンピックに出るにあたり、彼女が最初にオリンピックに出場したサラエヴォへの思いを明らかにしたかったのだそうです。番組でも彼女のリレハンメルでのスケートの映像が流れ、まさに彼女の祖国ドイツとサラエヴォへの熱い思いのこもった滑りに胸を打たれます。

     ところで、このビットのスケートのBGMとなった「花はどこへ行った」のアレンジと指揮は、何と、東ドイツの指揮者で、ドイツ統一の立役者の一人として大統領候補にも名前の挙がった、あのクルト・マズアだったそうです。これ以上ない人選とも言えるかもしれません。ただ、こちらは何と言っても、「伴奏」ですから音楽的にどうかという感慨を持つには至りませんでしたが、なかなかに感動的な場面であったことは間違いありません。



     ディートリッヒとビット、二人の生きた時代は違いますし、彼女らのドイツとの関わりもまったく異なりますけれども、共に、「花はどこへ行った」のはらむメッセージを自身のやり方で世界に問うたという点では共通するものがあります。そこに、この歌の持つ「普遍性」を強く感じることができます。

     一方、この曲のオリジナルのピート・シーガーの歌は、オリジナルのLPバージョンや、2000年当時の彼の歌などが番組で聴けるのですが、こちらはバンジョーの弾き語りで、本当にこれ以上ないというほどに素朴な歌になっています。PPMやブラザース・フォアのように決して耳に心地良い音楽ではないですが、ざらっとした麻の布地を触るようなゴツゴツした感触が「アメリカン・フォークの原点」を感じさせ、これが後のボブ・ディランやさらに後のブルース・スプリングスティーンといった人たちの音楽を生む下地になっているのだろうと思いました。

     とても良い番組を見ることができました。まさに「世紀を刻んだ歌」。この歌が歌い継がれているうちは、決して地球から戦争がなくなっていないということになるのかもしれませんが、PPMのマリー・トラヴァースが言うように、「皆が希望を持って歌い続けること」がとても大事なのだろうと思います。
    Where have all the flowers gone?
    Long time passing
    Where have all the flowers gone?
    Long time ago
    Where have all the flowers gone?
    Girls have picked them every one
    When will they ever learn?
    When will they ever learn?

    Where have all the young girls gone?
    Long time passing
    Where have all the young girls gone?
    Long time ago
    Where have all the young girls gone?
    Taken husbands every one
    When will they ever learn?
    When will they ever learn?

    Where have all the young men gone?
    Long time passing
    Where have all the young men gone?
    Long time ago
    Where have all the young men gone?
    Gone for soldiers every one
    When will they ever learn?
    When will they ever learn?

    Where have all the soldiers gone?
    Long time passing
    Where have all the soldiers gone?
    Long time ago
    Where have all the soldiers gone?
    Gone to graveyards every one
    When will they ever learn?
    When will they ever learn?

    Where have all the graveyards gone?
    Long time passing
    Where have all the graveyards gone?
    Long time ago
    Where have all the graveyards gone?
    Covered with flowers every one
    When will we ever learn?
    When will we ever learn?
    Lyrics by Pete Seeger
    | nailsweet | 音楽一般 | 00:11 | comments(0) | trackbacks(0) |
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