珠玉の小品 その28 〜 シュレーカー/弦楽のための間奏曲Op.8

2009.12.05 Saturday

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    ・シュレーカー/弦楽のための間奏曲Op.8







     フランツ・シュレーカー(1878〜1934)という作曲家は、最近になってようやく再評価が進み、特に「烙印を押された人々」を始めとするオペラが欧米ではしばしば上演されるようになってきました。日本でも、故若杉弘氏がマーラー・チクルスの際にシュレーカーの曲を取り上げたり、アマチュア・オケで「あるドラマへの前奏曲」が演奏されるなど、一時期評価が高まりつつあった時期もありました。しかし、どうした訳かその後が続かず、先輩のツェムリンスキーやフランツ・シュミットに比べると、まだまだマイナーな作曲家という位置から脱しきれていない感があります。

     そんな不遇のシュレーカーですが、彼が最初に世に認められることとなった「弦楽のための間奏曲」は、演奏される機会さえあれば多くのファンを魅了するに違いない「珠玉の小品」だと私は思っています。

     枯葉がひらひらと舞い落ちるような儚げでもの哀しい高弦の旋律からして、豊かなロマン的感情の広がる馥郁たる香りを持った音楽が展開されていて、胸に沁み入ってきます。まさにマーラーやクリムトがウィーンで活躍していた時代(1901年)の爛熟した空気がふんだんに盛り込まれた甘美な響きに覆われた音楽。ブラームスの音楽の古風な趣と、マーラーの音楽のエモーション、ワーグナーとR.シュトラウスの音楽の官能がないまぜになっていながらも、どこかシェーンベルクの初期の「グレ」や「浄夜」を予告するモダンな雰囲気もあり(「グレ」はシュレーカーの指揮で初演)、その狭間からシュレーカーの音楽独自の繊細な空気感・透明感が聴こえてきて耳を奪います。決して陰鬱にならず、重くのしかかってもこず、聴く者の心のそばに寄り添いながら、穏やかな口調で語りかけてくるような音楽です。

     中間部では、雰囲気が一転してちょっとイギリス音楽的なテイストを持った明るく軽やかな音楽になりますが、「トリスタン」のコーンウォール城を暗示するライトモティーフにもすこし近似した雰囲気があります。少し晴れ間が見えたかと思うと、また冒頭の哀しげな旋律がそっと戻って来て、再び音楽は嘆きの中に沈み込んでいき、だんだんに力を失って、安らぎに満ちた静寂の中に消えていきます。

     この曲が有名でないのは、もしかしたら音楽的に欠点があるのか、あるいは、多くの人にアピールする魅力に欠けるのか、きっと明確な理由があるのでしょう。しかし、私にはその理由が何なのかはまったく分かりません。単純に「運が悪い」だけではないかと思わずにいられません。それほどに本当に分かりやすくて美しい曲です。

     私の手元には2種類のCDがあります。一つは私がこの曲を知るきっかけとなったFrieder Obstfeld指揮ウェストファリア室内フィルのEDA盤。

    ・シュレーカー/間奏曲
     (+ハース、クラーサ、マルテイヌーの作品) 
     Frieder Obstfeld指揮ウェストファリア室内フィル(EDA)
     →詳細はコチラ(hbdirect


     これは選曲も良く、パヴェル・ハース、ハンス・クラーサ、マルティヌーといった、何らかの形でナチスに虐げられた悲劇の作曲家の音楽が集められていて、どれも非常に素晴らしい音楽です。演奏もなかなかに美しいです。ただ、編成が小さいこともあって、私自身はこのシュレーカーの作品に関しては、もっと編成の大きいジェームズ・コンロン指揮の演奏を好んで聴きます。

    ・シュレーカー/管弦楽曲集
     ジェームズ・コンロン指揮ケルン・ギュルツニッヒ管(EMI)
     →詳細はコチラ(Amazon)




     とても充実した響きを堪能させてくれる良い演奏だと思います。何よりしなやかで気品のあるカンタービレが美しいですし、この曲に不可欠な響きの透明感もなかなかのものです。また、併録の「あるドラマへの前奏曲」「ロマンティック組曲」は、さすがにオペラを得意とするひとだけあって、豊かなドラマを作り上げていて非常に好感を持てます。ギーレンやシナイスキーの演奏と並んで独自の存在意義を主張するに足る演奏だろうと思います。コンロンは、私は以前、ショスタコの「ムツェンスク郡のマクベス夫人」のあの衝撃的な日本初演での素晴らしい演奏でとても感動しました(その時のオケがここでも共演しているギュルツニッヒ管)が、私自身は彼はとてもいい指揮者だと思っています。

     ところで、YouTubeを探してみたら、演奏のみの静止画ではありますが、ちゃんとこのシュレーカーの間奏曲がUpされていました。どうでしょうか、やっぱり人気の上がらないのもなるほどという曲でしょうか、それとも、埋もれさせるにはもったいない曲でしょうか。私には客観的に考えられません。

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