ドビュッシー・トランスクリプションズ 〜 エッセール、プルーデルマッハー(P)

2010.07.02 Friday

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    ・ドビュッシー・トランスクリプションズ
     エッセール、プルーデルマッハー(P)(apex)
     →詳細はコチラ(HMV/Tower)





    CD1
    ・ドビュッシー/カプレ編:交響詩『海』
    ・ドビュッシー:ラヴェル編:『夜想曲』より『雲』、『祭り』
    ・ドビュッシー/カプレ編:『映像』より『イベリア』
    ・ドビュッシー/カプレ編:『映像』より『春のロンド』
    CD2
    ・ドビュッシー/ドビュッシー編:牧神の午後への前奏曲
    ・シューマン/ドビュッシー編:ペダル・ピアノのための練習曲op.56
    ・サン=サーンス/ドビュッシー編:序奏とロンド・カプリチオーソop.28
    ・サン=サーンス/ドビュッシー編:グルックの『アルチェステ』のエール・ド・バレエによるカプリス
    ・チャイコフスキー/ドビュッシー編:『白鳥の湖』からの3つの踊り
    ・ワーグナー/ドビュッシー編:歌劇『さまよえるオランダ人』序曲 


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     今、ネットの検索ワードのランキングで、クラシック作曲家の第1位と言えば、きっとドビュッシーなのに違いありません。それは言うまでもなく、サッカーの日本代表のGK川島選手が、寝る前にはドビュッシーを聴くと言っていたからです。何の曲を?ということ以上に、誰の演奏を聴いているのかを知りたがるのはクラシック・ファンの悲しい性かもしれませんが、一時的にではあれ、きっとドビュッシーのCDの売り上げもUpしたのではないでしょうか。

     だからという訳ではまったくないのですが、今日はドビュッシーにまつわるCDを聴きました。今、CDショップで大安売りしているワーナーのapexシリーズの中の一つ、ドビュッシー・トラスクリプションという2枚組アルバム。一枚目はカプレとラヴェルが編曲したドビュッシーの管弦楽作品(「海」、ノクチュルヌ、映像)、そして2枚目はドビュッシー自身が編曲した様々な作曲家の管弦楽作品。演奏は、ジャン・フランソワ・エッセールとジョルジュ・プルーデルマッハーの2人、1990年代初頭に今はなきエラートが制作したアルバムです。私の大好きなプルーデルマッハーが弾いているということで購入しました。

     冒頭の自作の「牧神の午後への前奏曲」の2台のピアノ版は、その感触がとても面白かった。「牧神」というと、私はオケで聴いていると、ふわふわと柔らかい羽毛布団に包まれているような感覚を覚えるのですが、ところが、こうやってピアノの連弾で聴いていると、鍵盤打楽器で演奏しているからでしょうか、羽毛布団のずぶずぶと身を沈めるではなくて、突起のたくさんついたマッサージチェアに座ってツボを刺激されているような気持ちになります。この曲からこんなフィーリングを与えられるというのは、予想もしていなかったのでとても驚きました。が、これはこれでなかなかに面白い。このテの編曲版にありがちなカラー写真を敢えてモノクロで見るような趣ではなくて、確かにピアノでしか表現できない独特の味わいを感じます。ただ、正直言うと、やっぱりマッサージチェアよりも羽毛布団にくるまれて、ムズムズと官能的な妄想に耽る方が私は好きですが。

     次は、シューマンのペダル・ピアノのための6つの練習曲Op.56。今年はシューマンのアニバーサリーイヤーということで、このマイナーな曲もディスクが続々と発売され、ドビュッシーの2台のピアノ版はつい最近エッシェンバッハとバルトの新盤が出たばかり。でも、もう20年近くも前に既に録音があったなんて私は全然知りませんでした。この曲は、バッハの音楽からの影響を強く感じる曲ですが、時折シューマン独特の詠嘆調のモノローグが始まったかと思うと、ふと我に返ってまたバッハに戻ってみたりという「行ったり来たり」がとても面白い曲ですが、ドビュッシーはそうした原曲の持ち味を損なわないままに、とても見通しの良い透明なハーモニー感を保ったとてもセンスの良い編曲をおこなっています。その手つきの優しさに触れていると、ドビュッシーはシューマンの音楽が好きだったのでは?と思わずにいられないほどです(実際のところは知りませんが)。その結果、バッハの顔とシューマンの顔をモーフィングしていたら、時折ドビュッシーの顔がサブリミナル効果のように見える、みたいな感じでしょうか。とてもいい曲、いい編曲だなあと思います。

     サン・サーンスとチャイコフスキーは、なるほどやはり編曲者の卓抜なセンスを感じさせますが、最後のワーグナーの「さまよえるオランダ人」序曲はとても面白い。あのオペラの舞台となる不吉で不気味な海ではなくて、太陽の光を受けてキラキラと輝く青い地中海を思わせます。なんていうのは先入観かもしれませんが、でも、本当にあの救いようのない悲劇の幕開けの音楽とは思えないくらいに、カラッとした透明感があります。いろいろな声部の動きが透けて見えて、まさにスケルトン状態。水夫の合唱が出てくるあたりなど、ああ、ワーグナーってマイアベーアと同時代の作曲家なんだよなあとしみじみ思ったりするほどに、軽くて柔らかい。これが例えば、ドイツの後期ロマン派の作曲家が編曲したらこうはならなかっただろうなあと思います。とても面白い編曲だと思います。

     さて、フランスの名手エッサールとプルーデルマッハーのコンビの演奏は、今まで述べてきたドビュッシーの編曲の妙を、実に見事に、実にクールに聴かせてくれます。2人の息もなかなか自然に合っていて、いい塩梅のコンビネーションが素敵です。詳細は不明ですが、表記の通りに、第1ピアノをエッセール、第2ピアノをプルーデルマッハーが弾いているのだとすると、彼らの演奏がとても軽くて透明なものに感じたのは、プルーデルマッハーが
    決して豪壮な音を鳴らす剛腕ピアニストではなく、どちらかというと軽めの響きでとても明快な音楽を聴かせる人だからなのかもしれません。でも、その特質が、このドビュッシーの編曲集にはとても良い結果をもたらしているように私は思います。

     こんな良質な演奏が2枚組で1190円で入手できるなんて何だか申し訳ないような気がします。1枚目の方も楽しみにして聴きたいと思います。まあ、川島選手が聴きたいと思うかどうかは知りませんが、特にシューマンの素晴らしい演奏ゆえに私はこのアルバムを愛聴するだろうと思います。

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    2019.05.08 Wednesday

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