Langsamer Satz

クラシック音楽のことなどをのんびり、ゆっくりとお話したいと思います
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【ディスク 感想】「ドッピオ・ボルガート」によるペダルピアノのための音楽 ミルコ・ブルゾン(P)
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    ・「ドッピオ・ボルガート」によるペダルピアノのための音楽 
     ミルコ・ブルゾン(P)(Borgato)
      →詳細はコチラ(
    Tower)





    <<曲目>>
    ・ベートーヴェン:音楽時計のための5つの小品 WoO 33 から アダージョ
    ・シューマン:
     - ペダルピアノのための6つの練習曲 Op.56
     - ペダルピアノのための4つのスケッチ Op.58
    ・フランク:前奏曲、フーガと変奏曲 Op.18
    ・J.S.バッハ:
     - 私はあなたを呼ぶ、主イエス・キリストよ BWV639
     - 今こそ来たれ、異教徒の救い主よ BWV659
     - パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582

    ---
     HMVの渋谷店が閉店したのは昨年の夏だったと思います(2010.8.22)。かつては「聖地」とさえ呼ばれた店舗を閉めざるを得なくなったのは、いろいろな原因が複合的に絡んでいるのだと思いますが、本部からの締め付けがきつくなってどの店舗も画一化されてしまったことも大きな要因だと聞いています。確かに、文化の発信地としての矜持を感じさせた店が、どこへ行っても同じような店構えになった頃から、私自身もバーゲンでもない限り、HMVに行くことはなくなりました。

     一方、タワレコは、HMVの教訓を生かしてか、例えば、私が行く3店舗、渋谷、新宿、横浜では、勿論各点共通のプッシュ商品の展示もありますが、品揃え、ディスプレイに関しては、ショップの店員さんの裁量に委ねられたところがあって、それぞれの店の個性があります。手書きのPOPが付けられるディスクにも各店で差がありますし、各店限定の再プレス、バーゲンなどの企画があって面白いです。

     が、やはり何と言っても渋谷では、かなりマイナーなものが大々的にプッシュされていて、思わず「買わされて」しまうことがよくあります。経済的には結構バカにならないので喜んでばかりもいられませんが、まあやはりこれまで自分の知らなかった音楽を知るきっかけができて、いいディスクに巡り合えたときはとても嬉しい。

     今、渋谷タワレコで大々的に売られているものの一つが、イタリアのピアノ製作者、ルイージ・ポルガートが制作した「ドッピオ・ボルガート」と呼ばれる「ペダル鍵盤付きピアノ」によるアルバム。いつもチェックしているHP(HMV,Tower,Presto,Arkiv,MDTなど)では新譜情報として認識できていなかったので、恐らく、タワーの目利きのバイヤーさんが、国内のディストリビューターを通さず直接海外から買い付けたのでは?と思いますが、とにかくこれが今大々的に売られている。

     このペダル鍵盤付きピアノというのは、文字通り、普通のグランドピアノに、オルガンと同じように足で弾くペダル鍵盤がついたものです。19世紀にはこの形態のピアノは存在していて、シューマンが「ペダル・ピアノのための6つの練習曲Op.56」などを書いたこともよく知られていますが、その後は急速に廃れてしまいました。このポルガートの作った楽器は、それらと少し構造が違っているようで、通常のグランドピアノの下に、もう一台グランドピアノがあり、ペダル鍵盤と直結したハンマーがそちらのピアノの弦を叩きます。(シューマンのペダル・ピアノ用の曲を集めたシュメディング盤(Ars Production)は、グランドピアノのフレームは一つだけなのでそもそもの構造が違うようです)




      収録された曲は、シューマンがペダルピアノのために書いたOp.56とOp.58をメインとして、ベートーヴェンの「笛時計のための5つの小品」、フランクの「前奏曲、フーガと変奏曲Op.18」、バッハの3つのオルガン曲(BWV639,659,582)。

     恐らく、現在では使われない貴重な楽器をフィーチャーしたアルバムの物珍しさが、恐らく渋谷タワレコの店員さんの目に留まったのでしょう。私も、文字は小さいけれど、熱のこもった推薦文が書かれたPOP広告を見たり、実際にCDを試聴機で聴いてみたりして、これは是非購入してじっくり聴きたいと思い、渋谷タワレコの悪魔の囁きに屈することにしました。意志が弱いです。

     このアルバムは、きっと、ポルガート製作の楽器を広く知ってもらうためのデモンストレーション用に作られたものだと思います。実際、このCDを聴いてみると、確かに左チャンネルに通常のピアノからの音、中央からやや右の位置にペダル鍵盤で弾く低音が収録されていて、このユニークな楽器の「かたち」が耳からも確認することができます。

     そして、聴く前は、この楽器の特性を生かした、華麗で多彩な演奏が聴けるのだろうと期待しました。しかし、実際のところは、「このペダル鍵盤の音を聴け!」とばかりに好き放題一方的に主張したりせず、まったく地味で、奥ゆかしさを感じさせるような控えめな表現に支配された演奏でした。

     だから、ベートーヴェンもシューマンも、フランクも、バッハも、何の変哲もない普通の演奏に聴こえます。もし言われなければ、そんな特殊なピアノを弾いてるなんて想像もつかないのでは?と思えるくらい。それは、ここで楽器を演奏しているミルコ・ブルゾンの個性や技量の問題なのか、あるいはこの楽器自体の特性なのか切り分けはできませんが、とにかくユルくてあったかい音楽ばかり。ベートーヴェンは、本当にこれがあの「楽聖」の曲?と思うほどに優しさに満ち溢れた曲だし、シューマンはほのぼの、しみじみとしたこじんまりとしたサロン風音楽になっています。また、フランクも感傷的で甘美な雰囲気に溢れた穏やかな音楽だし、そしてバッハもオルガンが原曲であることを忘れてしまうくらいに身近で親密な音楽。

     特に、シューマンのOp.56は、最近ディスクと実演を聴いて強い印象を受けたアンデルシェフスキの陰翳の濃い演奏と、同じ曲なのかというくらいに淡々とした演奏です。彫りは浅く、細部の詰めも甘い。もしこれをコンサートホールで聴いたら、何だかよく分からないうちに終わってしまうでしょう。もっと言ってしまうと、アンデルシェフスキのバージョンさえあれば、別にオリジナルのペダル・ピアノで弾かなくても全然問題ないのに、とさえ思います。

     でも、何だかこのユルユルの雰囲気がクセになるのです。競争の激しい社会であくせく働いてボロボロになるより、そこそこのところで脱力しながらゆっくり歩いていく方が幸せかなと思えるような長閑さがいいのです。このブルゾンという人、もしかしたらドラえもんに出てくる、のび太みたいな人なんじゃないだろうかと思えたりもします。のび太にはのび太の存在理由があり、存在価値があるように、このディスク、この演奏者、この楽器にも存在理由と存在価値がある。聴き手の心の武装をすべて解除させてしまうようなのんびりした雰囲気こそが、この演奏の最大の「武器」なのかもしれません。私は、このディスク、とても気に入りました。疲れた時に、ぼんやりと聴くには最適のような気がしています。

     こういうディスクを見つけ出して、私たち購買者の目を引くようにプッシュしてくれた渋谷タワレコのスタッフの方々に私はとても感謝しています。渋谷だけでなく、新宿も横浜も、渋谷とはまた違ったセレクションで、私の購買欲をそそってほしいと思います。こういう「出会い」は、ネットショッピングでは味わえない喜びですし。


    | nailsweet | クラシック音楽 ディスク | 01:29 | comments(0) | trackbacks(0) |
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