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【ディスク 感想】東へ。〜チェロとアコーディオン、伝統音楽の調べと響き〜 フランソワ・サルク(Vc)、ヴァンサン・ペラニ(Accord)

・東へ。〜チェロとアコーディオン、伝統音楽の調べと響き〜
 フランソワ・サルク(Vc)、ヴァンサン・ペラニ(Accord)(ZigZag)
 →詳細はコチラ(HMV/Tower)





1. ミレナ・ドリノヴァ/クリストフ・マラトカ:チャルダーシュ
2. ジョスラン・ミアニエル:バイカル
3. ルーマニアの調べでメドレーを〜ステファン・グラッペリの即興から
4. マチュー・ネヴェオル:夢
5. ダヴィド・ポッパー:ハンガリー狂詩曲 作品68
6. クリスティアン・ショット:チャルダーシュ
7. サムエル・シュトルーク:イディッシュ
8. バルトーク:ルーマニア民俗舞曲

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 最近気になっているレーベルの一つにZig Zag Territoiresがあります。インマゼールやリュビモフといった押しも押されぬ名演奏家のディスクだけでなく、いろいろと刺激的なアルバムを出しているからです。クラシック、ジャズ、ワールドミュージックと、一体どの売り場で売るべきか、ショップの店員さんが困ってしまいそうなジャンル不明、国籍不明なアルバム。

 そのZigZagから、「これを聴かずして、私は私ではない!」と思わずにいられないようなディスクが出たので聴いてみました。

 フランスのチェリスト、フランソワ・サルクが、このところユニットを結成して一緒に活動しているヴァンサン・ペラニのアコーディオンと共演した「東へ。〜チェロとアコーディオン、伝統音楽の調べと響き〜」がそれです。ポッパー、バルトークの曲と、現代作曲家たちがサルクのために書いた曲が8曲集められています。それらの曲はいずれも、タイトルにもある通り、東欧の伝統音楽、特にロマの音楽(ジプシーの音楽)のテイストをもった「民族色豊かな」ものばかりです。2010年7月にパリ近郊のモントルイユでセッション録音されたもの。

 このアルバムを聴いて、私は何と言うのでしょうか、「たましい」が揺さぶられる思いがしました。以前のエントリーで書いた通り、私は自分のことを「前世はユダヤ人」だと思わずにいられないほど、ユダヤ系の音楽への共感度が高いので、いきおい、ロマの音楽を聴いていると、それこそ私の体内のミトコンドリアだとか、リボソームとか、ゴルジ体とか、そんなレベルの、あるんだかないんだか分からないような、日頃意識したこともないような小さな物質が興奮してモゾモゾと動き出しているような、何とも居ても立ってもいられないような心持ちがします。

 そんな風に、音楽を通して、私の脳の旧皮質にある前世の記憶がゾンビのように甦るような体験をしている時に、チェロの技術がどうだとか、アコーディオンの音がどうだとか、もうそんな細かいことは言っていられません。「今、ここ」で、私の存在の根源が、自分の居場所を見つけて狂喜乱舞し、踊り狂っている、もうそれがこのアルバムを聴いている時の私の「すべて」です。

 ライナーノートのサルクのインタビューを読むと、サルク自身はこんなことを述べています。
 伝統音楽はもともと不確かな、出所さえ微妙なものなのに、長い歴史を通じて踏み固められて「ほんとうの持ち味」というレッテルを貼られた、そんな確たる道がある、って思いこんでいる。だけどぼく個人としてはむしろ、ぼくたちが演奏している音楽はたえず変化しつづけていて、だからこそより広い世界の人々に訴えかける、豊かな文化なんだ・・・って考えの方が、しっくりきますね。
アルバムのライナーノートより(白沢達生訳)
 先程、カッコつきで「民族色豊かな」音楽が収められたアルバムと書きましたが、もしそれが本当にそうなら、どうしてこのアルバムを聴いて私のミトコンドリアが狂喜するのか説明がつきません。どうして、ゴルジ体がモゾモゾ動き出すのでしょうか。日本人の私が「東欧」のロマの伝統音楽を聴いたって、住む場所も、民族も、時代も何もかも違っていて、その音楽の「ほんとうの持ち味」なんて何一つ分かっちゃいないのに!

 でも、その疑問への答えが、サルクの言葉にある気がします。即ち、「音楽はたえず変化しつづけて」いて、本当は歴史のなかで踏み固められた「確たる道」なんて、もう何なのか分からないし、追い求めても意味なんてない。ただただ、私たちの目の前にある「今、ここ」で鳴り響く音楽のもつ「生の真実」、それこそが私たちの心を動かすものであって、そこに国境や民族なんて関係ない、と。

 勿論、私が日頃音楽に接する中で、そんな楽天的な主張に疑問を投げかけざるを得ないような体験も多くしているのも事実ですが、でも、その思考に余りによりかかりすぎると、音楽を聴いて楽しむ心がニヒルな自己否定にからめとられてしまって、生きる糧として音楽を聴く自分が成り立たなくなります。ですから、ここは、自らの内にある「動物のカン」を最大限に働かせて、「たましい」の乱舞を楽しみたいと思います。

 実に愉しいアルバムを聴けて私はとても嬉しいです。このサルクとペラニ、実は昨秋、来日して東京で演奏会を開いていると知りました。このアルバムが録音される前のことなので仕方がないのですが、今、彼らが来日したら、万難を排して聴きに行くことと思います。是非、このアルバムの曲目を中心とした演奏会で再来日してほしいです。また、このZigZagレーベルの次の新譜も楽しみです。

 技術云々は書かないとは言いましたが、このサルク、めちゃくちゃにチェロ、巧いです。私のようなヘタレ下流アマチュア・チェロ弾きが聴いても、その技巧の鮮やかさには舌を巻きます。練習曲としてしか聴かなかったポッパーがこんなに「愉しい」曲だとは知りませんでしたし、即興で弾いているとしか思えないようなスリリングな展開、これは相当に腕(特にボウイング)が良くないとできない演奏だと思います。この人、ル・サージュのシューマン全集にも参加している由、クラシックのレパートリーもさぞかし良いだろうと思います。

 あと、もう一つ。日本のクラシック演奏家の方々も、たくさんのクロスオーバーアルバムを作っておられて、中にはとても素晴らしいものもいっぱいありますが、私自身の印象だとどうしても売れ筋を狙ったものが多い気がしています。勿論、それは欧米とて事情は同じでしょうが、でも、こういうドマイナーなレーベルからとても刺激的なものが出ている点、日本はちょっと淋しいなあという気がします。是非、こういうコンセプトの刺激的なアルバムを作ってほしいと思います。あ、最後のはオフレコです。

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  • 2017.08.16 Wednesday
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